筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫

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文永の役

179.第二次対馬防衛戦②

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「では斎藤様が治める地では、全ての者が陰陽師なのですか?」

「全ての者というのは言い過ぎだな。筑豊国ちくほうのくにの人口は数千人だが、精霊の力を借りられるのは里にいる者だけだ。あとは宗像にいる連中が多少ってところだな」

先行する次郎と梅が話しているのを聞きながら、急峻な山道を歩く。
対馬は対州層群たいしゅうそうぐんと呼ばれる堆積岩でできた地層で、全島の至る所で泥岩と砂岩が交互に折り重なり褶曲した地層が見られる。また部分的にマグマの影響を受けたらしく、大きな花崗岩や玄武岩、石英斑岩が露出している所もある。
対馬最高峰の矢立山は標高650mほどだが、矢立山に連なる幾つもの山々で山脈を形成している。

それにしても防人か。
太宰府防衛線の要である水城みずき大野城おおのじょう基肄城きいじょうはこの世界では築かれていない。だから大和朝廷時代の白水江の戦いは起きなかったか大敗しなかったのだと考えていたのだが、同時期に築かれた対馬の山城、金田城かなたのきは存在する。とすると、金田城はそれ以外の目的で設置されたと考えるべきか。
平安時代の刀伊の入寇は起きたようだし、それ以外にも入寇、つまり外国勢力による攻撃は何度もあった。
例を挙げれば次のようなものだ。

・貞観11年(西暦869年) 新羅の海賊が艦二艘に乗り筑前国那珂郡(博多)の荒津に上陸した貞観の入寇。
・寛平5年(西暦893年)から寛平7年(西暦895年)に掛けて相次いで起きた寛平の韓寇。この時は対馬などの離島だけでなく、島原半島と有明海を挟んだ肥後国飽田郡でも被害が記録されている。
・長徳3年(西暦997年) 高麗人ないしは奄美人が、対馬、肥前、壱岐、肥後、薩摩、大隅など九州全域を襲襲った長徳の入寇。

こうして考えると、北部九州は決して平和な地では無いことが分かる。思い返せば里も二度襲撃を受けているし、太宰府から博多までの狭い地域でも水利を巡る村々の争いがあった。その他の場所でも同様の小競り合いはあるのだろう。

「タケル!物資の搬入は終わったぞ。黒が門を開いてくれたおかげであっという間だった!」

山城へ食料を運び込む手伝いをしていた紅から連絡が入る。

「了解だ。そっちの様子はどうだ?攻め手として見た時に攻めやすい場所はないか?」

「どうだろうな。石塁はもう少し高い方がいいな。あとは門が崩れている。里から誰か呼ぶか?」

「タケル!それなら土の精霊を使いこなせる小夜と椿、それに杉と松を呼ぼう。山道の補修と石塁の積み直しが必要な場所を送るよ!」

「了解だ。小夜、椿、聞こえているか?」

「もちろんです。すぐに向かいます!」

「ほら杉!松を呼んどいで!さっさと行くよ!」

相変わらず杉の扱いが雑だが、当人がまんざらでもなさそうだから良いのだろう。

「タケルさんはどちらにおられるのですか?」

「国府から山を一つ越えて、佐須浦を見下ろしている。だいぶ遠浅の海岸だな」

この時代の佐須浦の地形は大きな入江になっている。俺が持っている地図帳のものとは海岸線の形が全く違うし、白の精霊が映す映像だけでは分からないことも多い。海岸は切り立った崖が迫っており、水面の直下は干潟が広がっている。今は潮が満ちているが、干潮時には膝下から踝ぐらいの水深の干潟が見渡す限りに広がりそうだ。
その光景を見ながら梅が呟く。

「まるで和白の海のようだな。こんな浅い岸辺から多数の軍が上陸できるのか?」

「漁に使う平底舟であれば問題なく岸に乗り上げられるのですが……」

「ああ。おそらく大型船は矢の射程ギリギリで投錨して、小型船で上陸するだろうな。梅、お前ならどう迎え討つ?」

「そうだな。矢戦は悪手だ。私なら好きに上陸させる。上陸地点は入江の奥のみ。そこから何処に向かうにしても狭い山道だ。そこで狩る」

「狩る……」

狩るという言葉に違和感があるのだろう。次郎が繰り返す。

「ああ。猪狩りと同じだ。獣道や餌場を見つけてそこで狩る」

「それは余りにも武士としての誉れがない戦い方に思えます。武士たる者、正々堂々と名乗りを上げて戦うべきであって、狩るなど……」

梅に睨み付けられた次郎の言葉が尻窄みになる。

「それは武家の者同士の試合の話だろう。私は武家出身ではないし、そもそも言葉が通じない相手に名乗ってどうするんだ?」

「次郎殿。貴殿は高麗軍ないしは他国の軍と相対したことはお有りか?」

「いいえ斎藤殿。使者に伴われた者を見たことはありますが……」

「私達は実際に戦った。敵は徒歩が中心だ。お前達は騎馬武者を中心に足軽や槍持ちが周りにいるだけだろう。戦い方が全く違うんだ。呑気に名乗りなんて上げてたら、次の瞬間に囲まれて突き殺されるぞ」

具体的な描写に怖気付いたか、次郎が下を向く。

「まあそう怖がらせるな。同数の敵が相手なら問題ないだろう。危ないのは一対多数になった時だ。だからこそ、まずは敵の好きにさせない事、そしてこちらの好きに出来る状況に持ち込むことだ。梅、お前が宗家を率いるとすればどう戦う?里の連中のようにはいかないぞ」

「そうだな。まずは乱杭を打って進路を誘導する。その両側、少し高い所に壕を掘って隠れ、通り掛かる敵を射殺す。そんな所だ」

「敵は徹底的に遠距離から矢を射てくるぞ」

「だったら戸板でも掲げて防ぐさ。白姉の結界があれば恐るるに足りないが、そういう戦いばかりじゃないだろうしな」

そうだな。戸板はいいアイデアかもしれない。

「黒、聞こえるか?」

「聞こえてる。どうしたの?」

「奴等の弓勢は判明しているか?距離300の直射で貫通しない厚さの板が欲しい」

「ああ、そういう用途なら板塀で使った残りを送る。金田城に集積する?」

「そうだな。いや、一部は佐須浦に置いておく。邪魔にはならんだろう」

「わかった。受け取って」

そういうなり上空に門が開きバラバラと板が落ちてくる。その光景に次郎が目を丸くする。おそらく同じ光景が山上の金田城でも起きていることだろう。

とりあえず戦場になる予定の場所は下見できた。
実際にこの場所に上陸してくるか否かは、その時になってみないとわからない。だが上空からの映像を見た感じでは佐須浦か鰐浦ぐらいしか浦、つまり入江状になっている場所は西岸には無いし、砂浜も無い。回り込んで国府を直接襲う可能性もあるが、そうそう小回りが効かない奴等の船では難しいだろう。白と青の見立てでは風と潮流に乗って流されていくような航海しかできないのではないかという事だし、元の世界の鷹島沖で見つかった元軍の沈没船からも同じように考証されていたはずだ。

島民達の避難も順調に進んでいる。生まれ育った地を離れることを嫌がるのは当然だが、迫り来る襲来への恐怖が上回ったようだ。

蒙古軍が殺到してくるまで、残りの猶予は二日。
それまでに出来ることをやらねば。
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感想 23

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みんなの感想(23件)

のらねこ♂
2020.03.06 のらねこ♂

全部一気読み出来て楽しかったけど・・・ 最近更新がなくて寂しい タケルは現代人の感覚からか子供たちへの戦闘術の教育を躊躇っているのが 平和な日本で暮らしている一読者としては気持ちが分かり悩ましい所だけど15歳で元服って習ったのだから 自分たちの里を守りたいって子供達の気持ちを汲んで少しづつ訓練してる辺りが妥協点なんだろうなぁ・・・ 名越一族も引き込めたしタケルが自分に言って聞かせてる「俺は甘すぎるんだ・・・」に苦悩してる様子がよく分かる けど周りの式神たちは十分分かってくれて まかせろ! って皆見た目と違って男前すぎ 人間(信用できる)の仲間も増えたので 黒ちゃんの複製で捕鯨船を3セキ作って漁村の漁師さんに操作訓練し、捕鯨砲は里の年長組が出来れば海上戦も出来なくはない 平和的に漁船のままでいれたら一番いいのだけどね 長々と感想書いちゃったけど それだけ期待してます。  体に気を付けて執筆頑張って下さい。

2021.05.02 九尾の猫

ご感想ありがとうございます。
他の作品の登場人物達が少々暴走気味でして、こちらの話を入力する時間がなかなか……
気長にお待ちいただけると幸いです。

解除
ino1972jp
2019.09.23 ino1972jp

80話まで一気に読んで
地元の地名が出てきてテンションが上がり面白いですね!

2019.09.23 九尾の猫

読んでくださりありがとうございます。
中世北部九州をモチーフにした架空の話ではありますが、地形や地名などは古地図を参考にしている所も多くあります。
引き続きお読みいただけると幸いです。

解除
紫苑01
2019.09.02 紫苑01

84話の後半 元親もとちか…ふり仮名のつけそこない?…( ̄▽ ̄;)

2019.09.05 九尾の猫

つけ損ないです。
修正しました。

解除

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