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いざ安住の地へ
閑話 国王の悩み
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「報告を聞こう」
王城の中央にある玉座がある大部屋の隣。
国王である私が普段執務を行う部屋で、入ってきた部下に声をかけた。
彼は王城警備隊の隊長だ。
今日はフィンの様子について報告を命じている。
フィンは第2王子だが、長子であるミカエルが病に臥せっているため、その重要性は高い。
護衛は常に3名はつけている。
そんなフィンが突然平民街に行き、なんと家を買ったらしい。
頭はいいが大人しく従順な子だと思っていたのにその唐突さに驚いた。
何かの介入を受けたのかと思い、報告を命じたのだ。
「はっ。それではフィン様の動向についてご報告いたします」
「うむ」
私は畏まって敬礼した部下の方に視線を向かわせる。
「フィン様は市場の西側に家を購入されております。扱った商人は平民向けだけではなく貴族とも商売をしているものです。特に怪しい点はなく、3代続けて土地建物の販売を行っております」
「そうか」
どうやってフィンと知り合ったのかは不明だが、特に怪しい点はないということか……。
「その家の内見を行っているところで襲撃を受けたようですがあっさりと撃退した模様です」
「あっさり?」
「はっ、特にケガをされることもなく……」
食事会には普通に出席していた。
しかし、フィンの剣技は普通だ。
頭はいいし、雷魔法を持っているのは少し珍しいが、決して強いわけではない。
なのに襲撃をあっさりと……?
商人以外にも誰かいたのか?商人の護衛かもしれぬな。
「そして購入されたようです。内見だけのはずが購入を即決した理由はわかりませんが、よほど気に入られたのでしょうか」
「ふむ、わかった。ご苦労だった。引き続き見守ってくれ」
「はっ」
敬礼して退出する部下。
報告者が去った後、部屋は静かな沈黙に包まれた。壁に映るろうそくの明かりが微かに揺らめき、その光がぼんやりと部屋を照らす。
私は静かに考えに浸る。
「なかなか悩ましい状況、お察しします」
警備隊長と入れ替わりで侍従長が入ってくる。
「お茶はいかがでしょうか?」
「貰おう……それと」
「かしこまりました」
侍従長は私にみなまで言わせず、紅茶を注いだティーカップに少しだけブランデーをたらす。
「もう少し多くても構わんのだがな」
「ご自愛くださいませ。それでなくとも問題は深いのですから」
長年の付き合いだからよくわかっている。
「王である前に夫であり父であると思っていたころもあった」
「今は違いますかな?」
「今は……王をやっている」
私は紅茶で苦々しさを流し込む。
「イザベラがダリアンを次の王にしたいのはわかる。
フィンでは頼りないのも事実だ。
だが、ミカエルはまだ生きている。
なんとしても治してやりたい。
あいつがいれば、文にフィン、武にダリアンをつけて、国はよく回るだろう。
フィンもダリアンもミカエルには従う」
「そうでしょうな。ミカエル様には多くの方々が期待しておりました」
侍従長も呼応してくれる。
「なにか手立てはないものか。
大きな騒ぎになってしまっては敵国の介入もありうるのだ。
平和が長かったせいであまり意識されていないが、異なる国が並んでいるのだ。
虎視眈々と狙われていると考えるべきだ。
そんな中を生き抜いていくためにはミカエルが必要だ」
「そう思います。そう思ってしまいます。
ですが、魔法でも、神殿の力でも治せなかった。
治療院でもダメでした」
ほかならぬ侍従長が駆け回ったのだ。
高名な魔導士、神殿、治療院を。
しかし治す方法は見つからなかった。
「こうなったら貴族の反対を押し切って魔道具に頼るか……。
そんな魔道具があるのかどうかわからないが、同盟国に頼めば研究成果を渡してもらえるかもしれない。
対価は必要だが、今内乱を起こすくらいなら……。
敵国の介入を招くくらいなら……」
「魔道具の印象は悪いですな。魔導騎士団があれほど嫌うのはなぜでしょうか……」
「わからぬ。わからぬが、乗り越えねばならぬ。フィンに頼るしかない……情けない父親だ」
侍従長は黙って紅茶のカップを回収する。
目の前の男が……国王である男が、酷く心配性で、細やかな心を持っていることを知っている彼は、ただもう一度カップを満たし、それを渡す。
「ミカエルが治ること、フィンが公爵たちの手を逃れること。
失敗したら……覚えていろよ?絶対に逃がしはしない」
国王が誰に対して言っているのか、侍従長はわかっているので、彼は答えない。
私は情けなく悩む。
子供たちですら道具として使わねばならぬ状況に。
それでも民たちのために。
少し時が経ち、ラザクリフが攻めてきた。
外務部の怠惰に怒りを抑えきれそうにない……。
選定会議の準備中は手薄になる。
だからこそ周辺国と関係を構築し、この時期に攻められることのないように準備しておかねばならぬというのに。
これは私の失態だ。
そして、そのツケはフィンに向かう。
すまない。
王城の中央にある玉座がある大部屋の隣。
国王である私が普段執務を行う部屋で、入ってきた部下に声をかけた。
彼は王城警備隊の隊長だ。
今日はフィンの様子について報告を命じている。
フィンは第2王子だが、長子であるミカエルが病に臥せっているため、その重要性は高い。
護衛は常に3名はつけている。
そんなフィンが突然平民街に行き、なんと家を買ったらしい。
頭はいいが大人しく従順な子だと思っていたのにその唐突さに驚いた。
何かの介入を受けたのかと思い、報告を命じたのだ。
「はっ。それではフィン様の動向についてご報告いたします」
「うむ」
私は畏まって敬礼した部下の方に視線を向かわせる。
「フィン様は市場の西側に家を購入されております。扱った商人は平民向けだけではなく貴族とも商売をしているものです。特に怪しい点はなく、3代続けて土地建物の販売を行っております」
「そうか」
どうやってフィンと知り合ったのかは不明だが、特に怪しい点はないということか……。
「その家の内見を行っているところで襲撃を受けたようですがあっさりと撃退した模様です」
「あっさり?」
「はっ、特にケガをされることもなく……」
食事会には普通に出席していた。
しかし、フィンの剣技は普通だ。
頭はいいし、雷魔法を持っているのは少し珍しいが、決して強いわけではない。
なのに襲撃をあっさりと……?
商人以外にも誰かいたのか?商人の護衛かもしれぬな。
「そして購入されたようです。内見だけのはずが購入を即決した理由はわかりませんが、よほど気に入られたのでしょうか」
「ふむ、わかった。ご苦労だった。引き続き見守ってくれ」
「はっ」
敬礼して退出する部下。
報告者が去った後、部屋は静かな沈黙に包まれた。壁に映るろうそくの明かりが微かに揺らめき、その光がぼんやりと部屋を照らす。
私は静かに考えに浸る。
「なかなか悩ましい状況、お察しします」
警備隊長と入れ替わりで侍従長が入ってくる。
「お茶はいかがでしょうか?」
「貰おう……それと」
「かしこまりました」
侍従長は私にみなまで言わせず、紅茶を注いだティーカップに少しだけブランデーをたらす。
「もう少し多くても構わんのだがな」
「ご自愛くださいませ。それでなくとも問題は深いのですから」
長年の付き合いだからよくわかっている。
「王である前に夫であり父であると思っていたころもあった」
「今は違いますかな?」
「今は……王をやっている」
私は紅茶で苦々しさを流し込む。
「イザベラがダリアンを次の王にしたいのはわかる。
フィンでは頼りないのも事実だ。
だが、ミカエルはまだ生きている。
なんとしても治してやりたい。
あいつがいれば、文にフィン、武にダリアンをつけて、国はよく回るだろう。
フィンもダリアンもミカエルには従う」
「そうでしょうな。ミカエル様には多くの方々が期待しておりました」
侍従長も呼応してくれる。
「なにか手立てはないものか。
大きな騒ぎになってしまっては敵国の介入もありうるのだ。
平和が長かったせいであまり意識されていないが、異なる国が並んでいるのだ。
虎視眈々と狙われていると考えるべきだ。
そんな中を生き抜いていくためにはミカエルが必要だ」
「そう思います。そう思ってしまいます。
ですが、魔法でも、神殿の力でも治せなかった。
治療院でもダメでした」
ほかならぬ侍従長が駆け回ったのだ。
高名な魔導士、神殿、治療院を。
しかし治す方法は見つからなかった。
「こうなったら貴族の反対を押し切って魔道具に頼るか……。
そんな魔道具があるのかどうかわからないが、同盟国に頼めば研究成果を渡してもらえるかもしれない。
対価は必要だが、今内乱を起こすくらいなら……。
敵国の介入を招くくらいなら……」
「魔道具の印象は悪いですな。魔導騎士団があれほど嫌うのはなぜでしょうか……」
「わからぬ。わからぬが、乗り越えねばならぬ。フィンに頼るしかない……情けない父親だ」
侍従長は黙って紅茶のカップを回収する。
目の前の男が……国王である男が、酷く心配性で、細やかな心を持っていることを知っている彼は、ただもう一度カップを満たし、それを渡す。
「ミカエルが治ること、フィンが公爵たちの手を逃れること。
失敗したら……覚えていろよ?絶対に逃がしはしない」
国王が誰に対して言っているのか、侍従長はわかっているので、彼は答えない。
私は情けなく悩む。
子供たちですら道具として使わねばならぬ状況に。
それでも民たちのために。
少し時が経ち、ラザクリフが攻めてきた。
外務部の怠惰に怒りを抑えきれそうにない……。
選定会議の準備中は手薄になる。
だからこそ周辺国と関係を構築し、この時期に攻められることのないように準備しておかねばならぬというのに。
これは私の失態だ。
そして、そのツケはフィンに向かう。
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