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いざ安住の地へ

<フィン> やりきった!

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 佳境に迫る選定会議。
 静かに厳かに進む中、意外にも応援されているのか?という照れくさい気持ち、弟ドンマイという気持ち(第2妃と侯爵ざまぁ)、それでも国王になりたくない気持ちを抱えながら、その進行を見守る僕。このまま終わったらやばいな……。

「では、最後にフレーディル公爵」
「「「!?!?」」」

 大広間に衝撃が走るとともに、皆息を飲む。
 フレーディル公爵は兄上の祖父だ……。
 間に合ったのか。

 そして歩み出る紳士然とした老年のフレーディル公爵。
「尊敬する国王陛下、そしてこの偉大なる玉座に仕える全ての人々へ。我々が今、この歴史的瞬間に立ち会っていることは、まさに天の導きに他なりません。
 我が国の将来を託すべき、次代の君主を選ぶこの神聖なる責務において、一人の候補者を心から推薦させていただきたく、ここに立ち上がりました。
 その候補者とは、他ならぬミカエル王子でございます」

 来た!
 息を飲み、期待感を抑えきれない僕と、唖然とするダリアン。そして驚く妹たち。

 傍聴している貴族たちもにわかに興奮し始める。

「静粛に。推薦の最中である。静粛に!」
 それを抑えるロドガルム公爵。

「驚きをもって迎えられるであろう。ミカエル王子は皆ご存じの通り魔力病を発症し病床に臥せっていた。
 しかし、10年近くもの時間を耐えた。普通、魔力病を患ったものは2, 3年で逝く。それを10年じゃ。その強き精神は尊敬に値する。本当ならこのまま推薦を続けるべきではあるが、私はまず1つ礼を述べたい。よろしいか、ロドガルム公爵殿」
 
 突然予定のない発言をされる。礼というのはまさか……。
 
「フレーディル公爵。推薦は神聖な場であり、そこに関係せぬ発言は差し控えるべきかと……」
「関係なら、ある。大いにな。これが私がミカエル王子を推薦する理由の一つでもあるのだから」
「そういうことであれば、結構。どうぞ続けてください」
「ありがとう。礼は、フィン王子にです」
 
 ここで?いや、それはまずくないか。
 ミカエル王子を推薦するが、それはフィン王子のおかげと言われては僕が選ばれてしまう可能性が……。

 しかし、そんな思いはまさか出すことはできず、僕は起立し、フレーディル公爵に向き合う。
 途中、目に映ったのは母上だ。
 優しい目だった。

「ありがとうございます、フィン王子。この老体の言を聞いてくだされ。私は諦めておったのだ。孫であるミカエル王子のことを。ありがとうございます。あなたのおかげでミカエル王子の魔力病が治ろうとは……」
「「「!?!?」」」

 フレーディル公爵は涙ながらに僕に言葉を放った。
 素直に受け取れない礼に小さくお辞儀を返した僕に対して、周りで聞いていた貴族たちは騒々しくなった。

「魔力病を治しただって?」
「どうやって?」
「フィン王子……いったい何をなされたのだろう」
「もしかして、うちの子供も……」
 
 衝撃的だよね。魔力病は不治の病だったんだから。現在進行形で苦しんでいるものもいるだろう。いつか全員治してあげたい。

 兄上のための魔道具を作ってくれた魔道具職人のルードお祖父さまとローレンスには感謝を伝えている。家さんも手伝ってくれたらしい。あの商人さんも。
 そして、兄上向けの魔道具を作った後、お祖父さまとローレンスは万人向けの魔力病を治す魔道具の開発に着手しているそうだ。不具合を生じた部位の特定とその部位の回復方法が場合によって違うため、試行錯誤しているらしい。
 
「フレーディル公爵。お顔を上げてください。私は魔道具職人の方々にお願いをしただけです。彼らが作ってくれたのです。礼は彼らに」
 悪あがきしてやる。僕はなにも凄くない。僕はなにも凄くない。僕は何も……。

「魔力病を治そう、ミカエル王子を治そうと考えておられる方はあなたを除いていらっしゃらなかった。そこをまず感謝しております。さらに方法を見つけ、指示をなされた。この胸にある敬意と感謝を伝える言葉が見つからないほどです。もちろん、ヴァリエール元子爵にも、ミカエル王子を治す魔道具の作成に携わってくださった方々にも感謝を表します」
 さらっと返された。あくまでも僕を立ててしまっている……。むしろ大きくなってないか?
 しかし兄上の状態は?推薦されるにもかかわらず、この場を欠席というのは可能なのだろうか?この場にいないもう一人である第1王女は既に嫁いで王位継承権を手放している。

「先ほどアストガ侯爵がお話されたようにフィン王子の功績は輝くばかりです。そんなフィン王子が慕い、治してくださったミカエル王子が国王となればその元できっとより輝かれるでしょう」
「「!?!?」」
 待っていた言葉に期待感が抑えられない僕と、いかに公爵といえど救国の英雄に対しての不遜な発言に一瞬にして凍り付く貴族たち……。

「不躾な表現で申し訳ないが、これが最も国を治める方策だと私は考えております。
 ミカエル王子のリーダーシップのもと、我が国は新たな繁栄の時代を迎えることでしょう。そこで、心よりの敬意を込めて、ミカエル王子を次代の国王として推薦します」
 
 そこに1人の青年が歩いて大広間に入場してくる。
 待ちに待った瞬間だった。

「兄上」

「フィン。大きくなった。立派になった」

 それは兄上だった。
 魔力病でやせ細った姿ではない。
 ちゃんと回復して元気になって、おそらく歩行訓練から初めてこんな風にゆるぎない足取りで歩けるまでになった、兄上がそこにいた。

「国王陛下。遅参をお許しいただき感謝しております。またフレーディル公爵。推薦をありがとうございます。さらに、フィン王子。私を癒やしてくれたこと感謝します。」

 間違いなく兄上だ。隣にいる弟の顔を眺めたいけど後でいいかな。
 こうなったら僕がやるべきことは1つだけだ。

「議長!」

「発言を許します、フィン王子」
 議長は笑顔だ。
 国王である父上も笑顔だ。

 あえて王妃様たちのテーブルは見ない。


「候補者が推薦人となることは可能だったと記憶しております。その場合、推薦人となる貴族の方の後に推薦を述べるとされていたかと」
 選定会議の規則は全て読み返した。
 なんとしてでも兄上に国王になってもらいたい。僕にはどう考えても向いていないから。
 そして残念なことに弟ダリアンにも向いていないから。

「おっしゃる通り、規則ではそのようになっておりますな」
 笑顔を少し正した議長が返答をくれる。

 ベオグラード侯爵の形相は鬼の域に達しているし、第2妃は気絶しそうだ。
 
 
「私、栄光あるクロード王国の第2王子たるフィン・クロードはこの神聖なる選定会議において次なる国王としてミカエル王子を推薦いたします。

 心よりの敬意を込めて」

 嬉しさをなんとか抑えながらなんとか略式で言い切った。
 これで不成立とか言われることはないよね?


 そうして、選定会議は興奮と感動に包まれる中、規則通り進行され、無事に兄上が選ばれて閉会した。

 やりきった!
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