取り壊し反対!偉そうだけど本当は優しい魔法の家が住人を離さないために奮闘するお話

蒼井星空

文字の大きさ
46 / 46
いざ安住の地へ

<家> フィンの結婚式

しおりを挟む
 とても晴れたある日。
 美しい花々が咲き誇る、眺めの良い王城の庭園に多くの人が集まっていた。

 国王陛下、フィンの母である第4妃、そして正妃、第3妃、王女たち、さらに貴族たちだ。騎士や職人もいるようだ。
 皆、花を踏まないように気を付けて場所どりをしている。
 当然ながら第2妃はいない。そして残念ながら王子もいない……、いや、今1人入ってきた。
 その横には美しい透き通るような銀髪を背中に流した美しい女性。

 昨年結婚したミカエル王子とエルメリア・ハザウェイ王子妃……元公爵令嬢だ。
 もともと婚約していた2人だったが、ミカエル王子が魔力病により長らく病床に臥せっていたため婚約は解消されたかに思われていた。
 しかしエルメリア王子妃は待っていた。
 司書として王城の図書室に勤めながら、ミカエル王子の回復を信じて。
 知識の海の中に何か手掛かりがないかと研究の整理などを手伝っていたらしい。

 なんて健気な女性なんだ。
 だからこそ珍しく図書室を訪ねたフィンに何かを感じ、声をかけ、手伝いを申し出た。
 この2人の物語は演劇化されて王都をはじめ国内各地で演じられている。
 大人気のようだ。
 フィン王子の先の戦争での活躍を描いた演劇と人気を二分しているらしい。

 どちらにも登場する家こと私をどう描くかで散々演出家のインタビューを受けたから興味はあるが、まだ観たことがない。
 なにせ劇場に私が入れない。

 そんな中始まる儀式。

 緊張しながら出てきたのはフィンだ。
 真っ白なタキシードに身を包んでいるが、借りてきました感満載でウケる。
 あいつ王子様なのになんであんなに似合ってないんだろう。

 ゆっくりと歩いて出てきたのに何もないところでこけそうになっているのがまた可愛い。
 大丈夫だろうか?

 そんなフィンがみんなのところまで歩いてくると、中央にいる白と青の綺麗な衣装を着たお爺さんの前で立ち止まる。
 そしてみんながまた庭園の入り口の方を向く。

 次に現れたのは小太りの壮年の男性と、美しい金のドレスに身を包んだ艶やかな黒髪の女性……ローザだ。
 この2人の婚約は私を喜ばせた。
 ローザがフィンを好いているのなんて、初めて見たときからお見通しだ。
 しかし、どこか抜けた感じのあるフィンに、しっかりもののローザは合う。

 フィンのあれやこれやを聞いてハートマークを目に浮かべるローザを見るのは楽しかった。
 だが、眠りながら魔道具を抱きしめてるフィン、なんていうエピソードがそんなに素敵な話なのだろうか?

 まぁいい。
 この2人はミカエル王子とエルメリアの結婚の少し後に婚約した。
 どちらもはにかみながら両親とともに会食している姿はばっちり記憶にとどめてある。
 なんなら絵も描ける。

 いつかこの2人の子供に教えてやろう。

 そんな2人は今日結婚する。
 良かったな、フィン。
 お前がミカエル王子を治し、国王に就けたことで成立したこの結婚だ。
 もしフィンが国王になるのだったら身分差がありすぎて不可能だった。

 こんなことも動いてよかったと思える出来事の1つだ。
 皆幸せになった。

 改めてよくやったな、フィン。
 
 なにを怖がったのかわからなかったが、おずおずと私に相談した時のフィンの顔もよく覚えている。
 人に頼れなかったフィンが相談し、協力し、助け合った結果が今だ。
 動いてよかっただろう?
 やれることをやってよかっただろう?

 これからどんなことが起こるかなんてわからないけど、助け合えばきっとなんとかなるさ。
 そうやって未来が紡がれていく。

 そんな想いをめぐらしていると、2人がキスをしている。
 観客たちは大賑わいだ。
 あれも人柄かな。

 ド真面目で固いフィンだが、仲良くなると結構陽気だし、ハメも外す。
 酒には弱い。
 魔道具研究所でもいろいろやらかしていて、だからこそ人気がある。
 親しみやすいんだろう。

 王子なのに寝癖がついた顔でコーヒー片手に遅刻するってなんなんだろうか。

 
 国王陛下も第4妃もミカエル王子もエルメリア王子妃もみんな嬉しそうだ。
 そうこうしていると花火が上がる。

 とても派手で明るい花火だ。昼間でもよく見える。
 これはなんと魔導騎士団と魔道具の共演だ。
 魔道具を操っているのはルード。フィンのお祖父さんだ。

 魔導騎士団の面々は多くが出席を希望したらしいが、残念ながら警備や庭園の広さの関係で入れなかった。
 ここに入れたのは魔導騎士団長やガウェル中隊長、あとは高位の貴族の子弟だけ。

 それでは収まりがつかなくて、明日魔導騎士団向けのお披露目が予定されている。
 とても仲が悪かったはずなのに戦争のおかげで今はこんなに仲良し。
 悲惨な戦争だったし、招き入れたアホどもにはしっかりとお仕置きをしたが、悪いことだけではなかった。
 
 魔道具研究所の成果を魔導騎士団がこぞって利用しているらしい。
 むしろ魔道具研究所に魔導騎士団長が入り浸っている。

 花火によって神聖な式の終わりが告げられ、ここからは披露宴だ。
 王城の大広間に会場を移してしまうことを心配していたが、この場にテーブルが並べられ、宴が始まる。

 天気が良ければ外で、なんて言ってるアストガ侯爵の発言を聞きつけ、持てる魔法のすべてを使って雨雲を追いやったのは内緒だ。

 いいだろう?
 私だって見ていたい。
 この幸せな光景を。そしてフィンの門出を。

 花火の後はなんかたくさんの板や台が運ばれてくる。
 そして入ってくる人々。
 瞬く間に舞台がセットされ、なんと演劇が始まった。さすが王城の披露宴。やることが派手だ。

 演じられるのは先の戦争を描いた物語。
 やった。見たかったうちの1つが見れる。
 演じられている商人が本人のように見えるが気のせいだよな?
 私が飛び立つところは、なんと魔道具の家(3分の1サイズ)が使われていた。
 どこに予算使ってるんだ?機能が飛び立つのと土砂を降らすだけというのがまた何とも言えない。
 
 その後は舞踏……ダンスだ。
 絢爛な大広間で催されるダンスも美しいのだろうが、美しい花々が揺れる開けた庭園で行うダンスもとても綺麗だった。
 音楽も素晴らしい。


 私はこの光景をしっかりと記憶に焼き付けていた。
 
 いつか昔話として誰かに話してやるときが来るかもしれない。今日のこの日を。この日につながる物語を。
 いや、いつかとは言わず、真っ先にあいつらの子供や孫にしてやろう。

 そのくらいの権利は私にはあるだろう。

 湖畔の家だったはずの私の中のどこに記憶する場所があるのかはわからないが、こうして満足を得ることができるというのはいいものだ。
 ラーハーグ神に感謝を述べてもいいかなと思う瞬間は、こういう幸せな光景を見れる時だ。

 エピローグっぽくなってしまったな。
 私は良い生を過ごしているぞ……2級神。

 
 幸せにな、フィン。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...