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第18話 誘い
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「美しいな」
「ありがとうございます」
私は一昨日に訪れた城を再び訪問した。
頭の中はなぜ私が?という思いでいっぱいだが、訪問している国のトップの誘いでかつ、上司である第二王子が受けろというものを私の一存で断れるはずがない。
しかも一昨日はわざわざ軍服で参加したというのに今日は黒と青を基調としたドレス姿だ。なぜか私の部下たちは私のドレスを持ってきてくれていたのよ。
まぁ、第二王子が貸してくれようとしたピンクの可愛らしいドレスを断れたから持っていこうと発案して準備してくれていたエレノアには感謝しているわ。
そんな私の目の前に座って隠すことなく胸と顔を交互に見つめながら喋っている男がこの国の皇帝だ。
ある意味、自信満々なんだろう。
ここはわずか10年前まで戦乱地帯で小国が乱立していた場所。それを今の皇帝が力で侵略し、征服し、統合してできたのが帝国だ。
皇帝自身も類まれなる武勇を誇り、かつ部隊指揮、戦略立案などから暗部を使った強襲など、様々な手を駆使して成り上がってきた。
当然ながらそんな男を安易に怒らせたりするのは得策ではないので、私は大人しく席に着き、無粋な視線を無視して彼の話を聞いていた。
すると節々で容姿を褒めてくるので、もう適当にお礼だけを言っている状況になってしまった。
魔力の動きに裏はなさそうだけど、視線が不躾すぎるし、仮にも女である私に語る内容としてとある蛮族の男を皆殺しにして女を好きにしたというのはどうなんだろうか。
怖がってほしいの?
「昔は余裕もなく、かつこちらの寝首をかかれないようにと必死だった」
「はい」
そして私は頷くことしかできなくなった。
お酒も入って気持ちよさそうに昔話をする男の発言なんて、適当に流す以外にどうしろと言うのよ。
「そんな俺から見ると、そちらの国はどうにも緩い。どうやって広大な領地を維持しているのか。多数の貴族を従えているのか。興味を持っていたのだ」
「私にはなんとも。歴史と法制度によって統治されているとは思います」
つい、そんな風に答えてしまった。
後になって思うと、ここは第二王子に聞いてみてはいかがかとお話しするべきだったと思うが後の祭りだった。
「ふむ……」
そう言って彼は黙ってしまった。
「本日のメインは、子牛のステーキでございます。ソースは赤ワインを煮詰め、バター、ハーブ、そして南方にあるエゼルディア商業国から取り寄せたスパイスを加えて仕上げたものです」
そんな中でシェフによる料理の説明がなされる。
ステーキをナイフで切り取り、口に運ぶと柔らかな肉とともに濃厚で味わい深い中でも少しだけ荒々しさを主張するソースの味がとても美味しかった。
ふと視線をあげると皇帝陛下も同じように料理を口にしていたが、彼の口元に運ばれるフォークに刺さった肉は、まるで血に濡れているような錯覚を起こし、私は背筋に差し込む冷たい空気に思わずハッとなった。
リラックスして料理を頂いている場合ではない。ここは帝国の城だ。
「口に合わぬか?」
「いえ、とても美味しかったのです」
「そうか……」
そう言うとまた彼は口を閉じる。
私は特に無言の時間を苦にしたりはしないが、きっと可愛い気はないわね。
恐らく普通の女なら……特に独身の女で皇帝に求められて城で食事を共にすることになったら、舞い上がって笑顔を浮かべながら皇帝に侍ることでしょう。
そろそろ終盤……魔力に動きが見られないのが不思議だけど、何を仕掛けてくるのやら。
そう思いながら私は肉を咀嚼する皇帝を眺めていた。
「余の女にならないかと問おうと思ったが……」
「大変申し訳ございませんが、私は王国の貴族です」
「しかし王宮の犬と蔑まれているのであろう」
ワインを片手に語る彼の顔に笑顔はない。
やはり私の境遇はご存じのようね。さしずめこれは離反の誘い。第二王子はどこまでわかっているのでしょうか?
「たとえそうであっても、既に覚悟をしたことです」
「もしお前が靡くなら一族ごと受け入れるが?」
乱世を生き抜いた方だけあって、飾り事もなく言い放った。
なるほど。それで私を帝都を散策させたのね。
様々な種族が圧迫されることなく活動している帝都を。
確かに魅力的な提案だけど、その対価が問題よね……。
どうせ……
「それをされる帝国の利点がわかりません」
「それは自己評価が低いというものだろう。常人よりはるかに多い魔力量を誇り、汚れ仕事を厭わない一族。普通欲しがると思うがな。むしろ残念な理由で蔑む王国の王家や貴族のことが理解できん」
王国よりも真っ当に評価してくれているわね。
まぁ、自分で言うのもなんだけど、うちの者たちは優秀よ。
忠誠心にも厚い。
「条件は何でしょうか?」
「話が早くて助かるな。小賢しい女は好かんからな」
「……」
「ただ、もう少し可愛げがあった方が好みではあるが。まぁいい。第二王子を殺すこと。それが受け入れる条件だ」
皇帝陛下はどこまでも真っすぐに皇帝陛下だったわね……。
アッシュがいたらきっと……。
「ありがとうございます」
私は一昨日に訪れた城を再び訪問した。
頭の中はなぜ私が?という思いでいっぱいだが、訪問している国のトップの誘いでかつ、上司である第二王子が受けろというものを私の一存で断れるはずがない。
しかも一昨日はわざわざ軍服で参加したというのに今日は黒と青を基調としたドレス姿だ。なぜか私の部下たちは私のドレスを持ってきてくれていたのよ。
まぁ、第二王子が貸してくれようとしたピンクの可愛らしいドレスを断れたから持っていこうと発案して準備してくれていたエレノアには感謝しているわ。
そんな私の目の前に座って隠すことなく胸と顔を交互に見つめながら喋っている男がこの国の皇帝だ。
ある意味、自信満々なんだろう。
ここはわずか10年前まで戦乱地帯で小国が乱立していた場所。それを今の皇帝が力で侵略し、征服し、統合してできたのが帝国だ。
皇帝自身も類まれなる武勇を誇り、かつ部隊指揮、戦略立案などから暗部を使った強襲など、様々な手を駆使して成り上がってきた。
当然ながらそんな男を安易に怒らせたりするのは得策ではないので、私は大人しく席に着き、無粋な視線を無視して彼の話を聞いていた。
すると節々で容姿を褒めてくるので、もう適当にお礼だけを言っている状況になってしまった。
魔力の動きに裏はなさそうだけど、視線が不躾すぎるし、仮にも女である私に語る内容としてとある蛮族の男を皆殺しにして女を好きにしたというのはどうなんだろうか。
怖がってほしいの?
「昔は余裕もなく、かつこちらの寝首をかかれないようにと必死だった」
「はい」
そして私は頷くことしかできなくなった。
お酒も入って気持ちよさそうに昔話をする男の発言なんて、適当に流す以外にどうしろと言うのよ。
「そんな俺から見ると、そちらの国はどうにも緩い。どうやって広大な領地を維持しているのか。多数の貴族を従えているのか。興味を持っていたのだ」
「私にはなんとも。歴史と法制度によって統治されているとは思います」
つい、そんな風に答えてしまった。
後になって思うと、ここは第二王子に聞いてみてはいかがかとお話しするべきだったと思うが後の祭りだった。
「ふむ……」
そう言って彼は黙ってしまった。
「本日のメインは、子牛のステーキでございます。ソースは赤ワインを煮詰め、バター、ハーブ、そして南方にあるエゼルディア商業国から取り寄せたスパイスを加えて仕上げたものです」
そんな中でシェフによる料理の説明がなされる。
ステーキをナイフで切り取り、口に運ぶと柔らかな肉とともに濃厚で味わい深い中でも少しだけ荒々しさを主張するソースの味がとても美味しかった。
ふと視線をあげると皇帝陛下も同じように料理を口にしていたが、彼の口元に運ばれるフォークに刺さった肉は、まるで血に濡れているような錯覚を起こし、私は背筋に差し込む冷たい空気に思わずハッとなった。
リラックスして料理を頂いている場合ではない。ここは帝国の城だ。
「口に合わぬか?」
「いえ、とても美味しかったのです」
「そうか……」
そう言うとまた彼は口を閉じる。
私は特に無言の時間を苦にしたりはしないが、きっと可愛い気はないわね。
恐らく普通の女なら……特に独身の女で皇帝に求められて城で食事を共にすることになったら、舞い上がって笑顔を浮かべながら皇帝に侍ることでしょう。
そろそろ終盤……魔力に動きが見られないのが不思議だけど、何を仕掛けてくるのやら。
そう思いながら私は肉を咀嚼する皇帝を眺めていた。
「余の女にならないかと問おうと思ったが……」
「大変申し訳ございませんが、私は王国の貴族です」
「しかし王宮の犬と蔑まれているのであろう」
ワインを片手に語る彼の顔に笑顔はない。
やはり私の境遇はご存じのようね。さしずめこれは離反の誘い。第二王子はどこまでわかっているのでしょうか?
「たとえそうであっても、既に覚悟をしたことです」
「もしお前が靡くなら一族ごと受け入れるが?」
乱世を生き抜いた方だけあって、飾り事もなく言い放った。
なるほど。それで私を帝都を散策させたのね。
様々な種族が圧迫されることなく活動している帝都を。
確かに魅力的な提案だけど、その対価が問題よね……。
どうせ……
「それをされる帝国の利点がわかりません」
「それは自己評価が低いというものだろう。常人よりはるかに多い魔力量を誇り、汚れ仕事を厭わない一族。普通欲しがると思うがな。むしろ残念な理由で蔑む王国の王家や貴族のことが理解できん」
王国よりも真っ当に評価してくれているわね。
まぁ、自分で言うのもなんだけど、うちの者たちは優秀よ。
忠誠心にも厚い。
「条件は何でしょうか?」
「話が早くて助かるな。小賢しい女は好かんからな」
「……」
「ただ、もう少し可愛げがあった方が好みではあるが。まぁいい。第二王子を殺すこと。それが受け入れる条件だ」
皇帝陛下はどこまでも真っすぐに皇帝陛下だったわね……。
アッシュがいたらきっと……。
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