19 / 28
第19話 発覚
しおりを挟む
□王宮にて(ルドルフ王)
「以上が結論になります」
「……そうか……」
余とカイゼル公爵はアッシュの調査を行っていた諜報部長からの報告を受け、その結果に衝撃を受けた。
カイゼル公爵は眉間にしわを寄せたまま考え込んでいる。
かつて王宮で起こった事件。
将来有望とされたアッシュ・フォン・カイゼルが魔力暴走を引き起こし、臨席していた王宮魔術師長が大けがを負い、アッシュの母であるフィリス・カイゼルと婚約者の王女ラフィリアが死亡、さらに警備を行っていた騎士や魔術師にも多くのけが人を出した大事故だ。
あまりの惨劇にその事件の後、明らかに魔力をコントロールし始めていたアッシュを無罪放免とするわけにはいかず、軽い罪で終わらすわけにもいかず、声高に罪を主張する貴族たちの声を抑えるためにも泣く泣く大罪人に与える罰である"黒き魔の森"への幽閉を決定した。
彼ならば刑期を生きながらえてくれるのではないかという淡い期待を抱きながら。
それは達成された。
10年で開放すべきところを"黒き魔の森"自体の活発化によって近付くことさえ難しくなってしまい、もどかしい気持ちで王宮魔術師たちのふがいない報告を聞くばかりだったが、彼はしっかりと成長し、凄まじい魔術師になって森から出てきた。
正直、期待以上だった。
そこで彼の不名誉を解くために、残念ながら少し会話に難がある彼のことを第三者目線で徹底的に調査した。
調査の目的はあくまでも魔力暴走に関するもので、それが偶発的なものであり悪意があったものではないことを証明するためのものだった。
親として、亡くなってしまった娘には申し訳ないが、国の行く末を考えたとき、強力な魔術師は国に引きつけておきたい。
特に軍事力で拡大する帝国があと10年もすれば隣国となってしまう今の状況下では。
それにアッシュのことを好いていた娘ラフィリアであれば、納得もしてくれるだろう。
むしろアッシュが不遇な状況にあることをこそ望まないだろう。
さらにアッシュの母であり、カイゼル公爵妃であるフィリスにしても同様に思う。
しかし調査結果は残酷なものだった。
そのため諜報部長には引き続き調査を指示していた。
その結果は最悪なものだった。
しかも合わせて不愉快な計画も浮かび上がった。
なにをやっているのか、あの馬鹿どもは。
帝国の脅威を全く感じていない愚か者どもめが。
もはや世界は変わったのだ。
王国内で醜い争いをしている時代ではないのだ。
「アッシュ。以上が調査結果であり、君への報告だ」
「はい……」
アッシュは虚ろな目をして佇んでいる。
当然、ショックだっただろう。
彼とラフィリアの仲は間違いなく良かった。
「恥を承知で頼む。どうか……」
「10年間森に籠っていた俺にはたぶんあまり理解できていないです。でも、クリスのことは覚えています……」
アッシュは中空をぼんやりとみつめながら昔を思い出しているようだ。
本来、国王である余の前でのこの態度は咎めるべきなのかもしれないが、精神的に幼い彼に対して衝撃的すぎる内容であり、怒る気にはならなかった。
「カイゼル公爵も良いな」
「もちろんです。頼むアッシュ」
「はい」
アッシュの父である公爵にも確認をするが、私が最も頼りにしている忠臣である彼は私情を斬り捨てて了解の意を示してくれた。
「それにしても、かの皇帝と結んでクリスを狙い、さらに優秀なルイン伯爵をも狙うとは……その悪知恵をもっと王国の発展のために使えばよいものを、自らの権力欲に溺れるとは……」
「残念ながら、かなり以前から欲望によって突き動かされていたのでしょう」
カイゼル公爵の言う通りだろうな。
「この城には多くの記憶のオーブが配置されているはずです。それを探って証拠を集めましょう」
記憶のオーブというのは、起動すると周囲の光景を記録し、後から見れるようにしてくれる魔道具だ。
主に盗聴用の道具だが、仮にも王宮魔術師長が相手にいる状況で証拠を残しているだろうか?
「アッシュ……調査の中でお前が身につけたという様々な魔法についての記録を見た。長年放置し、お前に苦労をかけただろうが、どうか協力してくれないか?」
カイゼル伯爵は息子であるアッシュにあえて丁寧に頼んでいる。
彼は息子を救えず、息子は自力で生き延び出てきた。
彼なりのけじめなのだろう。
「エリーゼのためになるのであれば」
「それはお前の想い人なのか?」
「はい」
そしてアッシュはルイン伯爵にひかれているという。
ラフィリアの親としては複雑な心境ではあるが……それで納得してもらえるのであれば、余は王国の膿を出し切るためにはそれも利用させてもらうぞ。
「以上が結論になります」
「……そうか……」
余とカイゼル公爵はアッシュの調査を行っていた諜報部長からの報告を受け、その結果に衝撃を受けた。
カイゼル公爵は眉間にしわを寄せたまま考え込んでいる。
かつて王宮で起こった事件。
将来有望とされたアッシュ・フォン・カイゼルが魔力暴走を引き起こし、臨席していた王宮魔術師長が大けがを負い、アッシュの母であるフィリス・カイゼルと婚約者の王女ラフィリアが死亡、さらに警備を行っていた騎士や魔術師にも多くのけが人を出した大事故だ。
あまりの惨劇にその事件の後、明らかに魔力をコントロールし始めていたアッシュを無罪放免とするわけにはいかず、軽い罪で終わらすわけにもいかず、声高に罪を主張する貴族たちの声を抑えるためにも泣く泣く大罪人に与える罰である"黒き魔の森"への幽閉を決定した。
彼ならば刑期を生きながらえてくれるのではないかという淡い期待を抱きながら。
それは達成された。
10年で開放すべきところを"黒き魔の森"自体の活発化によって近付くことさえ難しくなってしまい、もどかしい気持ちで王宮魔術師たちのふがいない報告を聞くばかりだったが、彼はしっかりと成長し、凄まじい魔術師になって森から出てきた。
正直、期待以上だった。
そこで彼の不名誉を解くために、残念ながら少し会話に難がある彼のことを第三者目線で徹底的に調査した。
調査の目的はあくまでも魔力暴走に関するもので、それが偶発的なものであり悪意があったものではないことを証明するためのものだった。
親として、亡くなってしまった娘には申し訳ないが、国の行く末を考えたとき、強力な魔術師は国に引きつけておきたい。
特に軍事力で拡大する帝国があと10年もすれば隣国となってしまう今の状況下では。
それにアッシュのことを好いていた娘ラフィリアであれば、納得もしてくれるだろう。
むしろアッシュが不遇な状況にあることをこそ望まないだろう。
さらにアッシュの母であり、カイゼル公爵妃であるフィリスにしても同様に思う。
しかし調査結果は残酷なものだった。
そのため諜報部長には引き続き調査を指示していた。
その結果は最悪なものだった。
しかも合わせて不愉快な計画も浮かび上がった。
なにをやっているのか、あの馬鹿どもは。
帝国の脅威を全く感じていない愚か者どもめが。
もはや世界は変わったのだ。
王国内で醜い争いをしている時代ではないのだ。
「アッシュ。以上が調査結果であり、君への報告だ」
「はい……」
アッシュは虚ろな目をして佇んでいる。
当然、ショックだっただろう。
彼とラフィリアの仲は間違いなく良かった。
「恥を承知で頼む。どうか……」
「10年間森に籠っていた俺にはたぶんあまり理解できていないです。でも、クリスのことは覚えています……」
アッシュは中空をぼんやりとみつめながら昔を思い出しているようだ。
本来、国王である余の前でのこの態度は咎めるべきなのかもしれないが、精神的に幼い彼に対して衝撃的すぎる内容であり、怒る気にはならなかった。
「カイゼル公爵も良いな」
「もちろんです。頼むアッシュ」
「はい」
アッシュの父である公爵にも確認をするが、私が最も頼りにしている忠臣である彼は私情を斬り捨てて了解の意を示してくれた。
「それにしても、かの皇帝と結んでクリスを狙い、さらに優秀なルイン伯爵をも狙うとは……その悪知恵をもっと王国の発展のために使えばよいものを、自らの権力欲に溺れるとは……」
「残念ながら、かなり以前から欲望によって突き動かされていたのでしょう」
カイゼル公爵の言う通りだろうな。
「この城には多くの記憶のオーブが配置されているはずです。それを探って証拠を集めましょう」
記憶のオーブというのは、起動すると周囲の光景を記録し、後から見れるようにしてくれる魔道具だ。
主に盗聴用の道具だが、仮にも王宮魔術師長が相手にいる状況で証拠を残しているだろうか?
「アッシュ……調査の中でお前が身につけたという様々な魔法についての記録を見た。長年放置し、お前に苦労をかけただろうが、どうか協力してくれないか?」
カイゼル伯爵は息子であるアッシュにあえて丁寧に頼んでいる。
彼は息子を救えず、息子は自力で生き延び出てきた。
彼なりのけじめなのだろう。
「エリーゼのためになるのであれば」
「それはお前の想い人なのか?」
「はい」
そしてアッシュはルイン伯爵にひかれているという。
ラフィリアの親としては複雑な心境ではあるが……それで納得してもらえるのであれば、余は王国の膿を出し切るためにはそれも利用させてもらうぞ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。
継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。
しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。
彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。
2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる