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第二章ドラゴニア帝国編
クラーケン討伐の後で(side???)
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「寝た?」
「寝たな」
「この子は本当に子供か?実は凄く長く生きてる賢者とかじゃないのか?」
甲板の上で意識を無くしたニアを取り囲み、船員がそんな話をしている。
船員達が驚くのも無理はない。魔法を多重展開し、公使するなど幼子に出来るわけがない。それは魔法に卓越した大人であっても無理だ。だが、目の前で繰り広げられた奇跡の所業は本物で今も割れていた海がうねり元に戻ろうとしている。
幼児が魔法の多重発動など聞いた事がない。海を割るなど聞いた事もない。常に動く海流を押し止める為には同じく常に魔力を注ぎ続けなければならない。
それには緻密な魔力操作とまたそれを出来るだけの圧倒的な魔力を持っていなければならない。
緻密な魔力操作をする事は多少魔力の扱いに慣れた大人ならば可能だろう。だが、膨大な魔力を普通の竜人が有しているわけはない。
「この子は御使い様だろか?」
「リュシエル様のか?」
「確か、伝承では御使い様はリュシエル様の神気と魔力を凝縮した人を超越した存在だと記されてるから。この子が御使い様だった場合、あの膨大な魔力も頷ける」
「成る程」
「何が成る程なのだ?」
「旦那」
船員達の話に介入したのはアイゼンハワー一族当主ミゲランヘルだった。
「この子が御使い様じゃないかって話してたんだよ」
「この方は御使い様ではない。次期竜帝だ」
「ほぉ、御使い様で次期竜帝だなんてドラゴニア帝国も安泰だな」
「だな」
「うんうん」
「いや、だから…」
勘違いが加速しているが、ミゲランヘルは止める事が出来なかった。船員達は何故か思い込みが激しいという致命的な欠陥があった。
「まあ、良いか」
そして、ミゲランヘルは説明が面倒だと感じ、放置した。
冷たく固い甲板から小さなニアを抱き上げ、救護室へと運ぶ事にした。
ミゲランヘルの腕の中でぐったりしているニアに先程までの近寄りがたい雰囲気もまして神々しさもない。ただの小さな幼い子供だ。そんな幼い子供に前線を任せてしまった事にミゲランヘルは激しく後悔していた。
確かに物怖じしない子供で今代竜帝であるジュールの魔力量を遥かに上回る魔力を持っていても幼い子供なのだ。
そんな子供に今回は縋ってしまった。それが武を司るミゲランヘルにはいたく後悔の念に駆られていた。
そして、ハッとすると冷たい外気に晒したままである事に気付き、そそくさと船室へと消える。
そんな立ち去ったミゲランヘルの背後ではまだ船員がニアの話をしていた。
「流石、御使い様だよな」
「と、言うと?」
「翼が生えてた」
「翼!!」
「天使か」
「天使だな」
「御使い竜帝か」
「長いな」
「もう、天使だけでいいべさ」
「そうだな」
「確かに綺麗な子だったしな」
「御使い様はとても綺麗な人だと決まってるべ」
ここにニアがいたならば、それ偏見じゃない?と言うだろうが、ここには居ないので誰も何も言わない。どころか便乗するようにうんうんと頷いている船員が多数。
ニアの知らない所でニアの精神をガリガリ削る話がどんどん大きくなっていった。
「寝たな」
「この子は本当に子供か?実は凄く長く生きてる賢者とかじゃないのか?」
甲板の上で意識を無くしたニアを取り囲み、船員がそんな話をしている。
船員達が驚くのも無理はない。魔法を多重展開し、公使するなど幼子に出来るわけがない。それは魔法に卓越した大人であっても無理だ。だが、目の前で繰り広げられた奇跡の所業は本物で今も割れていた海がうねり元に戻ろうとしている。
幼児が魔法の多重発動など聞いた事がない。海を割るなど聞いた事もない。常に動く海流を押し止める為には同じく常に魔力を注ぎ続けなければならない。
それには緻密な魔力操作とまたそれを出来るだけの圧倒的な魔力を持っていなければならない。
緻密な魔力操作をする事は多少魔力の扱いに慣れた大人ならば可能だろう。だが、膨大な魔力を普通の竜人が有しているわけはない。
「この子は御使い様だろか?」
「リュシエル様のか?」
「確か、伝承では御使い様はリュシエル様の神気と魔力を凝縮した人を超越した存在だと記されてるから。この子が御使い様だった場合、あの膨大な魔力も頷ける」
「成る程」
「何が成る程なのだ?」
「旦那」
船員達の話に介入したのはアイゼンハワー一族当主ミゲランヘルだった。
「この子が御使い様じゃないかって話してたんだよ」
「この方は御使い様ではない。次期竜帝だ」
「ほぉ、御使い様で次期竜帝だなんてドラゴニア帝国も安泰だな」
「だな」
「うんうん」
「いや、だから…」
勘違いが加速しているが、ミゲランヘルは止める事が出来なかった。船員達は何故か思い込みが激しいという致命的な欠陥があった。
「まあ、良いか」
そして、ミゲランヘルは説明が面倒だと感じ、放置した。
冷たく固い甲板から小さなニアを抱き上げ、救護室へと運ぶ事にした。
ミゲランヘルの腕の中でぐったりしているニアに先程までの近寄りがたい雰囲気もまして神々しさもない。ただの小さな幼い子供だ。そんな幼い子供に前線を任せてしまった事にミゲランヘルは激しく後悔していた。
確かに物怖じしない子供で今代竜帝であるジュールの魔力量を遥かに上回る魔力を持っていても幼い子供なのだ。
そんな子供に今回は縋ってしまった。それが武を司るミゲランヘルにはいたく後悔の念に駆られていた。
そして、ハッとすると冷たい外気に晒したままである事に気付き、そそくさと船室へと消える。
そんな立ち去ったミゲランヘルの背後ではまだ船員がニアの話をしていた。
「流石、御使い様だよな」
「と、言うと?」
「翼が生えてた」
「翼!!」
「天使か」
「天使だな」
「御使い竜帝か」
「長いな」
「もう、天使だけでいいべさ」
「そうだな」
「確かに綺麗な子だったしな」
「御使い様はとても綺麗な人だと決まってるべ」
ここにニアがいたならば、それ偏見じゃない?と言うだろうが、ここには居ないので誰も何も言わない。どころか便乗するようにうんうんと頷いている船員が多数。
ニアの知らない所でニアの精神をガリガリ削る話がどんどん大きくなっていった。
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