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★ハタチになる日
しおりを挟むお付き合いを開始してからの俺は、時間が許す限り圭太さんの部屋に通った。
俳優をしていた頃の圭太さんは、俺を嫌っているということを差し引いたとしても、いつも静かでツンツンしている人だった。
だけど今、二人きりでいる時の圭太さんは俺が思っている以上にずっと素朴な人だった。テレビで「カップラーメンナンバーワン決定戦」を見た翌日は、一位にランクインしていたラーメンを買って食べるし、「限定」という言葉にもすごく弱い。
疲れた、と俺の膝を枕にして休む時もあるし、部屋の中にいるのに手を握ってくる時もある。こんなふうに甘えてくる人なんだ……! って、知らなかった一面に俺はますます夢中になった。
最近は、少しでも圭太さんから良く思われようと、垢抜けた見た目を目指してコンタクトレンズを付け始めた。
美少年と言われていた子供の頃には遠く及ばないけど、メガネを外した俺の顔を見た圭太さんは「かっこよくなった」とすごくビックリしていた。
「メガネも似合っていたのに? 大学にもそれで行ってる?」
「ううん……。定額制じゃないから、大事に使うようにしてて……。だから、圭太さんと会う時だけ」
誰も俺のことなんか気にしていないだろうけど、可愛くなくなってしまった今の顔を堂々と人前に晒すのは恥ずかしい。
それに、最近は大丈夫だけど、中学生の頃は勝手に写真を撮られたり、「空くん?」と知らない大人から声をかけられて嫌な思いをしたことがあるから、外を歩く時はなるべく顔を隠していたかった。
「空が見つかっちゃうな、ってすごく焦ったよ」
「見つかるって……」
「俺だけはメガネとコンタクト両方の空が見られるわけだ。得してる」
圭太さんといない時の俺は、暗くて臆病で、本当に目立たない。「空」と俺の名前を呼んで、優しくしてくれるのは、十年前とは顔も声も苗字も違っているのに、俺のことを見つけてくれた圭太さんだけだ。
嬉しかったから、側にいた圭太さんに抱き付いた。圭太さんは黙って俺の体を抱いて、それから頭を撫でてくれた。
なかなか恥ずかしくて、まだ圭太さんには自分から好きだって言えたことがない。圭太さんはズルイから、目が合ったとか、別れ際とか、そんな時に不意打ちで「好きだよ」と言ってくる。
「俺も圭太さんが大好き! かっこいい顔でそんなことを言われたら、ますます圭太さんのことを好きになっちゃうよ……。もっと圭太さんと一緒にいたい。圭太さん、俺って泊まっていったら迷惑……?」
頭の中ではそんなことを一生懸命考えているけど、言葉にするのは難しくて、いつもコクコクと頷いてから、ガバッと抱き付くようにしている。
十歳の頃に比べたら、俺はずいぶん背が伸びたから、圭太お兄ちゃん、と見上げるのが当たり前だった人と、もうそれほど身長は変わらない。圭太さんも「大きくなったなー……」としみじみ呟いては、俺の背中をポンポンと叩く。
初めてのキスも、圭太さんの部屋でいきなり、だった。
その日は、圭太さんとテレビを見ながら他愛もない話をしていた。圭太さんはドラマやバラエティーを見ている時、若手の俳優やアイドルが映ると「最近の子はみんな綺麗だな。なんだか品があるよ」と本当に感心した様子で、うんうんと頷く。
「圭太さんの方が、俺は……かっこいいと思う」
確かに、テレビに出ている人達は肌がピカピカでツルッとしていて綺麗だけど、俺は圭太さんの少し日焼けした肌が好きだ。もっと触ってみたいって、最近は会うたびにソワソワしてしまう。
俺は本当にそう思って言っているのに、圭太さんは肩を竦めた後、「俺なんかスカウトされてなかったら、今頃はチンピラだもんな」と呟いた。
圭太さんって、スカウトされてデビューしたんだ、すごーい……とうっとりしていたら、「空も、成長期にはエステや脱毛に行ってた?」と聞かれた。
「行ってない……。歯並びは、すごく手をかけてもらって綺麗にしたけど……。他の事は全然……」
成長期の頃は休業していたし、そもそも体毛もヒゲもほとんど生えてこないし、肌も丈夫だったから気にしたことが無かった。
休んでいる間にもっと見た目に気を配っていたら、上手に成長出来ていたんだろうか。今となっては確かめようがない事だった。
圭太さんは「俺は十代で全身を脱毛をしたからさ。ヒゲが生えないんだよなー……。事務所から言われて、わけもわかんないまま通ったけど……」とボヤいた。
「……そうなの?」
「そうだよ。銭湯もサウナも恥ずかしくて行けないもんな……。しかも、脱毛代はしっかり毎月給料から引かれててさ……。はー……」
「えっ!? ええ……」
圭太さんは自分の稼ぎから高い脱毛代を引かれていたことについて、何かまだ言っていたけど、俺は圭太さんが「銭湯もサウナも恥ずかしくて行けない」程度には、体毛が無いということが衝撃だった。
まだ圭太さんとは、キスもしていない。ハグと手を繋ぐ、そこまでの関係だ。それなのに、急に服の下を想像するような情報を得てしまった。大変なことを聞いちゃった……! と俺はパニックになった。
「あのっ、あの、あの……か、髪の毛! 髪の毛はもう伸ばさないの?」
言ってしまってから、圭太さんは仕事をしているから、あの頃みたいに髪を伸ばせないんだってことに気が付く。
俳優をしていた頃、長い髪を鬱陶しそうにしている仕草がかっこよかったから、という理由で考え無しに余計なことを言ってしまった。
「長いのは流行りじゃないからなー……。もうあの頃みたいに若くないしさ」
「流行り……」
今、韓流っぽいのが流行りなんでしょ? と圭太さんから聞かれて「大学にもたくさんいるよ」って一生懸命話を合わせた。長い髪も好きだけど、今の短髪もかっこいい……と見とれていたら、圭太さんは照れ臭そうに頭を掻いた。
「俺のここ、柴犬と同じ手触りだよ」
「柴犬……」
圭太さんが「ここ」という、襟足は確かにスッキリと短い。触ってもいいよ、という言葉に頷いてから、おそるおそる圭太さんの首の後ろへ手を伸ばした。
「本当だ……! 似てる……」
柴犬なんて、そう何度も触ったことは無いけれど、確かに毛足が短い種類の犬を撫でた時の手触りに似ていた。
こんなに気持ちいい手触りなら、短髪の圭太さんもやっぱり良いなー、と思いながら下から上に向かって首と頭の境目を逆撫でしていると、圭太さんはじっと俺の顔を見ていた。
「圭太さん」
今の圭太さんも好きです、というか子供の頃からずっと好きです、と伝える前に圭太さんの顔が近付いてきた。あ、とビックリしている間に唇に柔らかいものが触れてすぐに離れていった。
キスだ……! と呆然としていたら「……さっきからずっと可愛かったから」と圭太さんは俺の肩を抱いた。子供をあやすみたいに二の腕を擦られながら、「嫌だった?」と顔を覗き込まれる。
「ううん……」
嫌どころか、最高だった。だけど、「ずっと可愛かった」という言葉に、圭太さんの服の下を想像してオロオロしていたのもバレているような気がして、恥ずかしくなってしまった。
「空」
俺の顎に圭太さんの手が添えられる。指の先で唇を何度もなぞられて、くすぐったい。胸の音が急激に早く大きくなる。マトモに圭太さんの顔を見ることなんか、とてもじゃないけど出来なかった。
「……次の金曜は空の誕生日?」
圭太さんは俺の耳へ唇を寄せてから、そう尋ねてきた。教えていないのにどうして……とビックリしたけど、よくよく考えたら「天沢 空」でググれば一発でわかることだった。
それなのに、時々唇で耳に触れながら、大事なことを聞くみたいに囁かれると、ゾクゾクした後、じん、と体中が甘く痺れる。
変な声が出てしまう、聞かれたくない、嫌だ、と頑張って我慢しながら無言で頷いた。
「その日は二人で過ごせる?」
「ん……、うん、圭太さんと一緒にいたい……」
「じゃあさ」
その日は泊まってよ? と言われた後に、かぷ、と耳の縁を唇で挟まれて、飛び上がりそうになった。泊まるっていうことは、きっとそういうことだってする。そう思うと、ますます胸の鼓動は早くなって、このまま死んでしまいそうだった。
圭太さんは俺の答えを待たないで、俺の体を床に押し倒した。覆い被さってきた後、あっという間に俺の唇を捕まえて、さっきとは違う、長い深いキスをしてきた。
「ん、んぅ……」
オーケーです、誕生日は朝までここにいます、という返事を伝えようと、自分からも舌を伸ばして必死で圭太さんを求めた。
「んっ、んんっ……」
服の上から圭太さんの手が俺の胸を揉む。そんなに強い力じゃないのがもどかしい。まだ一度も言葉では好きだと伝えていないのに、体は圭太さんを求めて、もぞもぞと動いてしまう。
抱き締められるだけじゃ物足りなくて、圭太さんの背中に腕を回して体を密着させた。
服の下に圭太さんの手が入ってきて、胸やお腹を撫で回される。ゴツゴツした手に優しく触れられながらキスを繰り返していると、柔らかい唇の感触に蕩けてしまいそうだった。
ピチャ、ピチャといやらしい音を立てて、上顎や歯の裏を熱い舌で刺激される。
誕生日なんか待たずに、このまま圭太さんとエッチがしたい。言葉には出来なくても体は正直だ。固く芯を持った乳首を圭太さんの手に擦り付けるようにして、俺は何度もいやらしく身を捩った。
だけど、キスと体を少し触り合うだけで、その日はおしまいだって、言われてしまった。
「圭太さん……」
こんな所で終わりなんて物足りないと拗ねる俺に、圭太さんは「ハタチになってから」と言うばかりで続きはしてくれなかった。
その日から、誕生日……というか圭太さんとの初めてのエッチが待ち遠しくて、頭の中はそのことでいっぱいだった。
圭太さん、と小さな声を漏らしながら、何度も自分で自分を慰めた。
「ん、んうっ、けいたさん……、あ……」
こんな姿を見られたら幻滅されちゃうかも、と不安に感じながらも、自分で自分の胸を触って、性器を扱いた。空、好きだよ、という圭太さんの声を思い出すと、先走りで性器はすぐにヌルヌルになってしまう。
「あっ、あっ、あ……!」
抱きたい、と圭太さんからは言われている。お尻に入れられる感覚はわからないけれど、自分に圭太さんのぺニスが挿入されている所を想像してみた時、俺の体はちゃんと反応する。それどころか、今まで適当なおかずで処理をしていた頃より何倍も気持ちが良い。
射精の時は自分の手で口を押さえて、歯を食い縛らないといけなかった。
「う……」
終わった後に冷静になると、元々はすごく淡白だったのに、自分の性欲が急に強くなってしまったみたいで恥ずかしくなる。
俺の体は、圭太さんと過ごすうちにいつの間にか変わってしまったんだろうか。エッチまでしてしまったら、ますます圭太さんが好きになって、エッチばかりしたくなったらどうしよう……と、胸の中では期待と不安が半分ずつ混ざりあっていた。
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