元天才子役の美少年だった俺が、元ヒーローのせいで開発されてしまいそう

サトー

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★ランジェリーのセット(2)

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 脱衣所で自分の胸元を見た瞬間、恥ずかしくて卒倒しそうになった。
 
 やっぱりタンクトップは短すぎて、肝心な部分は丸見えだった。繊細な黒のレースが、シャワーを済ませた後の火照った素肌と乳首をより強調させているような気がする。同じ素材で出来たパンツはすごく窮屈であちこちに食い込む。これじゃあ全裸の方がよっぽどマシだと思えた。
 この格好で圭太さんの待つ寝床へ向かうのは恥ずかしすぎる。だから、圭太さんから借りた薄手の白いTシャツを着た。
 女の人が着けるブラジャーみたいに、うっすらとタンクトップが透けているのも、露出している部分を少しでも減らそうとひょこひょこと歩くのも、すごくカッコ悪くて間抜けな格好だ。

「圭太さん……」

 真っ暗な部屋で圭太さんはすぐに「ここだ」と応えてくれた。暗くて圭太さんを探すのに俺が苦労していると思っているのか俺の名前を何度も呼ぶ。
 そらー、そらー、とよく通る声で呼び掛けられると、自分のことなのに飼い主とはぐれた犬が捜索されているようだ。それに対して俺は……よく躾られた犬みたいに圭太さんの方へ迷わず向かっていった。

「圭太さん!」
「空! 大丈夫か」
「だ、大丈夫じゃないかも……」
「戻ってくるまでずいぶん時間がかかっていたから心配した」

 恥ずかしいよ、と抱きつくと圭太さんが背中を「よしよし」と撫でてくれる。これじゃあ本当に犬になってしまったみたいだ。

「……乱暴に着けると破れてしまいそうで、それで、時間がかかっちゃった」
「べつに破れたとしても気にしないのに……。空は優しいな」
「……俺には全然似合ってないから、きっとガッカリさせちゃうかも」


 そう言って保険をかけてから、俺の体にはずいぶんサイズの大きいTシャツを脱いだ。暗くてちゃんと見えているのかは怪しいけれど、圭太さんの反応は「おおっ」だった。テレビで甲子園の中継を眺めていて、ボールの芯をとらえたいい当たりを目にした時に言う「おおっ」と全く同じ言い方だ。

 貸して、と言う圭太さんへ素直に脱いだTシャツを渡したことをすぐに後悔した。ジロジロ見られてもいいような格好ではないのに、隠すものが何もない。自分の腕で胸を覆っていると圭太さんは「めちゃくちゃよく似合ってるよ」と俺のことを励まし始めた。

「そうかなー……」
「すごい。いい。可愛い、似合う」
「褒めすぎだよ……」
「本当だって……。あんなに小さかったのに、いつの間にかここまで大きくなるんだから、ビックリするよな……」
「そうかなあ……」

 可愛かった子供の頃のまま成長出来ていたら良かったのに。そうしたら、圭太さんにもう少しマシな姿を見せられたはずだ。
 美少年の面影はどこにもない俺が、繊細なレースで出来た高級な下着を身に着けても、なんだかちぐはぐで滑稽な気がして、すごく恥ずかしい。

 自信が無さそうにモジモジしている俺を見て何かを察したのか、圭太さんは俺のことを思いきり抱き締めた。さわさわと体を撫で回したりはしない、服を着ている時と同じようにぐっと力強く俺のことを包み込んでくれる。

 そのまま「今の空が好きだ。もう一度会えた時、俺がどんな気持ちだったか教えてやりたいよ」と照れずに真っ直ぐ告げられて、それだけで胸がきゅーっと苦しくなる。嬉しいのに苦しい。
 恥ずかしい格好をしている、という事実のせいじゃなくて、「この人が好き、早くこの人とエッチがしたい」という気持ちがこみ上げてそれで、ドキドキと胸の鼓動はどんどん早くなっていった。

「……圭太さん大好き。……ねえ、圭太さん。この下着を俺に着せるのを想像してワクワクした?」
「……夜、眠れなくなるくらいには」
「ほんと? そんなに楽しみにしてくれていたの……?」
「そうだよ」

 嬉しすぎて信じられない程だった。いつも俺だけが「圭太さん好き、かっこよすぎるよ……!」とオロオロしてばかりだと思っていたから、そんなことを言われると舞い上がってしまう。
 胸の先が丸出しになっているデザインのいやらしい下着を着けているのも忘れて、「嬉しい」「そんなことを言われたら、もっと圭太さんが好きになっちゃうよ」とついついはしゃいでしまった。



「恥ずかしかったけど、着けてよかったな……。あっ……」

 足を絡ませるようにして、圭太さんにくっつくと太ももに硬いモノが触れる。圭太さんが勃起してるんだ、ということに気が付いて、慌てて口をつぐんだ。

「……そういう格好で寄ってこられて、空に可愛いことを言われるとさ」
「……はい」

 こうなるよな、と呟いてから圭太さんは肩を竦めた。触れているだけで、圭太さんが興奮しているのが伝わってくる熱くて硬い性器。セクシーな下着が俺に似合っているとは全然思えないし、そもそもいったい自分のどこが魅力的なのかもわからない。
 それでも、圭太さんが楽しみで眠れなかったと言うのは本当だったんだ、ということだけはちゃんとわかる。

「……俺だけ、服を着ていないのは恥ずかしいな。圭太さんも脱いで……?」
「いいよ」

 圭太さんはためらわずに、下着姿になった。圭太さんのバキバキの腹筋とさらさらした肌は、部屋が暗いうえに俺は視力が悪いからあまりよく見えない。
 だけど、二人ともほとんど裸に近い格好になったことで、室内の空気が変わるのを肌で感じていた。お互い相手に触れたいと思っていて、ふとしたキッカケで夢中で求めあってしまうような、じっとりとした沈黙が流れた。


「……圭太さん、少しだけサービスする?」
「サービス?」
「うん……。下着、とっても楽しみにしてくれていたみたいだから……。圭太さんにもっと喜んで欲しい」

 すごく勇気を振り絞って、自分から提案した。こんなことを口にして圭太さんを誘うなんて。アルバイト先のスーパーで圭太さんと再会したばかりの頃の俺にはきっと絶対出来なかった。

 未だに大学でもバイト先でも友達はいないし、暗くて臆病で、人とコミュニケーションを取るのは苦手なのに、いつの間にか圭太さんとのエッチの時だけは少しずつ積極的になってしまっている。
 自分でも「俺って大丈夫なのかな……?」と心配になるけど、仕方がない。

 このまま何もしないで終わり、なんて事になったら悲しすぎる。

 圭太さんには「恥ずかしいから、うつ伏せで寝てて」とお願いした。着けただけでもサービスなのに? と困惑しているようだったけど、圭太さんは優しいから「わかった」とすぐに頷いてくれた。

「空……?」
「ごめんなさいごめんなさい。重かったらごめんなさい……!」

 一応何度も断りを入れてから、べったりと圭太さんの体に張り付いた。

「圭太さん、平気……? 重くない……?」
「……全然重くないよ。でも、空の姿が見えない」
「だって、見られたら恥ずかしいから……」

 ふ、と圭太さんが笑う。上から潰されるような格好なのに、「よしよし」と俺を宥める圭太さんはずいぶん余裕があるみたいだった。
 まだ、これだけじゃないのに……と言いたくなるのをぐっと堪える。あんまりそういうことを言うと、圭太さんは俺に気を遣って何をされたとしても「嬉しいよ」「可愛い」と言いそうだからだ。
 まだまだこれだけで満足なんかされたくない。圭太さんが大好きな……「生意気な空にたくさん挑発された後のお仕置きエッチ」で満足して欲しい。

 圭太さんに喜んでもらうため、圭太さんにいっぱい気持ちよくなってもらうため、と何度か心で念じてから目を閉じた。



「……元ヒーローがこんなスケベな下着をコソコソ買うんだ?」

 緊張していたけど、暗い部屋で集中しやすかったのもあって、気が強そうで生意気な口調を上手に作ることが出来た。
 少しずつ勘を取り戻してきたのか、最近は圭太さんとのエッチの時だけは昔のように演技力を発揮出来ている。

 スイッチの切り替えが上手くいったのにホッとしながら、ぎゅっとたくましい両肩を掴んで圭太さんの耳に唇を近付けた。

「……さっきも俺の乳首を見ただけで勃起してたよね? 昔、散々なじってきた子役に未だに欲情なんかして恥ずかしくないの? こんな下着まで買ってくるなんて……。……ほんとヘンタイなんだから」

 つっかえずに恥ずかしいことを言えたけど、触れあっている部分から圭太さんに伝わってしまうんじゃないかと思えるくらい、心臓はバクバクと激しく鳴っていた。

 こんなことを憧れの人へ言うなんて、本当に申し訳なくて心の中ではいつも「ああ~! ごめんなさいごめんなさい……!」とパニックになって圭太さんへ謝っている。
 だけど、圭太さんが「いい、めちゃくちゃ興奮する」と毎回喜んでくれるし、何より、その後は信じられないくらい気持ちいい言葉責めと激しいエッチが待っている。

 自分がすごくいやらしい人間になってしまったような気もするけど、大好きな圭太さんに気持ちいいエッチを教えられて抗えるわけがなかった。
 俺をこんな大人にしたのは圭太さんなんだからね……と思うことでなんとか自分を奮い立たせて、体重をかけながら圭太さんが喜びそうなことを口にした。

「……ほら、苦しいの好きでしょ。気持ちいいです、って言ってみてよ」
「……ぐ」
「あれ~? 可愛い鳴き声が全然聞こえないなあ~?」
「う、ううっ……」

 圭太さんの背中がビクビクと何度も上下する。子供だった俺が今よりもずっと小さかった足で何度も踏みつけた時も、こんなふうに震えていた。きっと、今も「クソッタレ」と言いたげな悔しそうな顔で、必死で堪えているに違いなかった。

 マットレスに額を擦り付けるようにして圭太さんは何度もモゾモゾと動く。その度に「感じてるの? このヘンタイ」となじっては、時々股間を膝でぐりぐりと刺激した。
 ……こんなこと絶対しちゃいけないはずなのに、圭太さんは感じているんだ、と思うと止められなくなってしまって、自分が怖い。怖いのに、圭太さんとのエッチにのめり込んでどんどん過激なことを覚えてしまう。

 好き好き、大好き、本当です、と圭太さんに伝わるよう、時々引き締まった背中に頬擦りした。
 汗で自分の体が濡れていて気持ち悪いし、圭太さんをいじめているうちにパンパンに勃起してしまった性器のせいでパンツが窮屈で苦しい。
 早く圭太さんからのご褒美が欲しい。剥き出しの乳首が圭太さんの背中に擦れて切ない。油断してしまえば「圭太さん、触って」と甘ったれた声が出てしまいそうだった。

 何度も唾を飲んでから、圭太さんの耳をちろちろと舌で舐める。シーツが擦れる音に紛れて、「あっ……」と小さな掠れた、圭太さんの声が聞こえた。

「こんなことで感じるなんて……。ほら、ヘンタイはヘンタイらしく、自分で擦り付けるんだよ」

 ぐ、と呻いた後、圭太さんは一度体から完全に力を抜いた。そのまま、何度か首を横に振った後、項垂れる。

「はあ……。ヘンタイのうえに、グズなんて、本っ当に戦う以外能がないんだね」
「う、あっ……」
「ふふっ……。感じてる時はいい声で鳴くんだね……」

 罵倒しながら何度も耳やこめかみに唇で触れると、圭太さんは腰をかくかくと揺らし始めた。シーツを握り締めながら、突っ伏したままの圭太さんは苦しそうなのに気持ちよさそうだった。
 この瞬間だけは自分に求められていることを忘れて、圭太さんの姿に見入ってしまう。見てはいけないものを見ているようで、見届けないといけない瞬間のような、不思議な光景だった。


「……圭太お兄ちゃんの、ヘンタイ」

 圭太お兄ちゃん呼びはちょっとやりすぎだったかも、と俺の頬がかっと熱くなったのと、圭太さんの体がびくんと大きく跳ねたのはほとんど同時だった。



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