41 / 47
理想の男(1)※生田さんとリンちゃん
しおりを挟む死んでも付き合いたくはないけど、奴隷にしておくならユウイチは今まで会った人間の中でも群を抜いて優秀だと思う。
「ドンキの天ぷらスナックってさあ、地味にオクラが一番うまいんだよなー」
バリバリと音を立てて俺が天ぷらスナックを噛み砕くのを一通り見守ってから「そうなんだね」とユウイチは無表情で呟いてから、遠慮がちに自分も一つ摘まむ。俺があまり手をつけていないために大量に余っている茄子をユウイチが選んだのを見て気分がよくなった。
ユウイチは基本的にお菓子を嫌っているから、食べたいから食べているわけではない。ティッシュに中身を全部広げた天ぷらスナックの、カボチャ、れんこん、オクラ、かき揚げ、茄子といったラインナップを見て、残っている具のバランスを整えるためだけに食べたのだと俺にはわかる。
思い出してみれば柿ピーを食べる時もそうだった。俺はピーナッツがそれ程好きじゃないからいつもユウイチに食べさせている。食べているものが数百円の食べ物だったとしても、「残したらもったいない」ということを気にせずにいられるのは贅沢なことだ。
「ドンキってマズイ食べ物が一個も売ってない。今度はソースカツと紅生姜せんも買ってきてくれない?」
「うん、いいよ。俺も、ドンキは商品作りが上手いなあっていつも思う」
冷房で肌寒いと感じるくらい冷やした部屋はコタツが出しっぱなしで、テーブルの上はユウイチが買ってきたもので埋まっている。
「部屋を片付けたら? 片付けようか?」「いい店に連れていってあげるから出かけよう」といった余計なことは一切言わずに黙ってコタツに入っているユウイチは、きっと俺がやれと言えば家中がピカピカになるまで掃除をするだろうし、寿司でも和牛でも、なんでも食べさせる。それを望まれていないと察しておとなしくしているのだから、奴隷の学校があればさぞかし優秀な成績を修めていただろう。
「キモイところだけ治療か何かで治せればなー……」
「ん? 何か言った?」
「べつに、何も」
催眠術か何かでなんとかならないだろうかと一瞬本気で考えたが、余りにも馬鹿馬鹿しい想像だと気づいてすぐにやめた。世の中、たいていの出来事がそうなっているから仕方がない。広くて新しい家は家賃がバカみたいに高いとか、賃金は高いけど肉体労働でキツイ仕事だとか、なんでもそういうバランスで成り立っている。
「お小遣いをあげるから、スナック菓子で汚れた指を舐めさせてくれない? 十万払うから」
「あ?」
「……冗談だよ」
睨みつけるとユウイチはすぐにおとなしくなった。こういう時は下手に騒ぐと逆効果になる。過剰に反応するとユウイチみたいな変態を喜ばせるだけだし、「こんなふうに気色がわるいことを言えばリンちゃんが反応してくれるんだ」と学習されてしまうからだ。
ルックスだけはちゃんとしていそうに見えるから誤魔化せているだけで、ユウイチのやっていることは、コートの下は裸で外をうろつく変質者と変わらない。
本当は、渡すべきものを渡したらさっさと帰って欲しいとユウイチについて俺は常々思っている。でも、「五分でも三分でもいいから」と玄関先でごねられるのも面倒だから今日も家に入れてしまった。テレビでもつけておけばおとなしくしているからギリギリ我慢出来る。
古いテレビではさっきからボクシングの中継が放送されている。チャンピオンとチャレンジャー、どちらが勝とうが俺にはどうでもいいことだ。というか、インタビューや今までの戦績の紹介ばかりで肝心な試合はなかなか始まらない。
「これ、面白いの?」
「ん? うん、面白いよ……」
すべての物事を「教養」と捉えているというユウイチは、スポーツならメジャーからマイナー競技まで知っているし、オタクが見ているようなアニメにも詳しい。何がユウイチをそこまで駆り立てるのかは不明だけど、どうにか時間を捻出してすごい量の本にも目を通していると前に聞いたような気がする。当然、ボクシングについてもよく知っているらしく真面目な顔でじっとテレビを見つめている。きっと、会社で誰かとの会話のネタにでもするんだろう。
「……うん?」
暇すぎてテレビではなくユウイチの様子を観察していた俺はあることに気がついてしまった。
「……ふーん。えらく真剣に見てると思ったら、この世界チャンピオンの方がたんに好みのタイプってだけじゃん。わかりやすすぎ」
「え!」
珍しくユウイチは狼狽えていた。顔色は一切変えず、肩がピクリと動いたくらいだけど、ほんの一瞬黒目がせわしなく動いたのを俺は見逃さない。
画面に映る世界チャンピオンだとかいう男はたぶんまだ二十歳そこそこだろう。この日のために極限まで仕上げてきたであろう身体はバキバキで、雰囲気はピリついている。目つきこそは鋭いものの鼻や口は小ぶりでどこか可愛らしい雰囲気だ。確かに人の目を惹くような容姿をしている。
こういう年下の男から「金! 早く出せよお!」と威勢よくせがまれたら、ユウイチみたいに金は持っていて性癖の歪んでいる人間は嬉しいんだろう。
「違う違う。全然、そういうのじゃないから」
「嘘をつくんじゃないよ。だってさ、他の男が映ってる時と態度が全っ然違うじゃん。前のめりになって見ちゃってさ……。ふーん、体格は小柄で生意気そうなのが好きってことか」
「いやいや違う違う。全然違うよ」
俺はリンちゃん一筋だよとかなんとかわけのわからない言い訳をしているけど、俺にとってはどうでもいいことだった。
それよりも、いつも気色の悪いことを言って俺を不快にさせるユウイチが珍しく人間らしい反応をしていることが新鮮だったし愉快でもあった。図星をつかれて微妙に嫌そうにしているところがいい。これは、いいオモチャを見つけてしまった。
15
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる