お隣さんがパンツを見せろと言うからプロ意識を持ってそれに応える

サトー

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理想の男(1)※生田さんとリンちゃん

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 死んでも付き合いたくはないけど、奴隷にしておくならユウイチは今まで会った人間の中でも群を抜いて優秀だと思う。

「ドンキの天ぷらスナックってさあ、地味にオクラが一番うまいんだよなー」

 バリバリと音を立てて俺が天ぷらスナックを噛み砕くのを一通り見守ってから「そうなんだね」とユウイチは無表情で呟いてから、遠慮がちに自分も一つ摘まむ。俺があまり手をつけていないために大量に余っている茄子をユウイチが選んだのを見て気分がよくなった。

 ユウイチは基本的にお菓子を嫌っているから、食べたいから食べているわけではない。ティッシュに中身を全部広げた天ぷらスナックの、カボチャ、れんこん、オクラ、かき揚げ、茄子といったラインナップを見て、残っている具のバランスを整えるためだけに食べたのだと俺にはわかる。

 思い出してみれば柿ピーを食べる時もそうだった。俺はピーナッツがそれ程好きじゃないからいつもユウイチに食べさせている。食べているものが数百円の食べ物だったとしても、「残したらもったいない」ということを気にせずにいられるのは贅沢なことだ。

「ドンキってマズイ食べ物が一個も売ってない。今度はソースカツと紅生姜せんも買ってきてくれない?」
「うん、いいよ。俺も、ドンキは商品作りが上手いなあっていつも思う」

 冷房で肌寒いと感じるくらい冷やした部屋はコタツが出しっぱなしで、テーブルの上はユウイチが買ってきたもので埋まっている。
「部屋を片付けたら? 片付けようか?」「いい店に連れていってあげるから出かけよう」といった余計なことは一切言わずに黙ってコタツに入っているユウイチは、きっと俺がやれと言えば家中がピカピカになるまで掃除をするだろうし、寿司でも和牛でも、なんでも食べさせる。それを望まれていないと察しておとなしくしているのだから、奴隷の学校があればさぞかし優秀な成績を修めていただろう。


「キモイところだけ治療か何かで治せればなー……」
「ん? 何か言った?」
「べつに、何も」

 催眠術か何かでなんとかならないだろうかと一瞬本気で考えたが、余りにも馬鹿馬鹿しい想像だと気づいてすぐにやめた。世の中、たいていの出来事がそうなっているから仕方がない。広くて新しい家は家賃がバカみたいに高いとか、賃金は高いけど肉体労働でキツイ仕事だとか、なんでもそういうバランスで成り立っている。

「お小遣いをあげるから、スナック菓子で汚れた指を舐めさせてくれない? 十万払うから」
「あ?」
「……冗談だよ」

 睨みつけるとユウイチはすぐにおとなしくなった。こういう時は下手に騒ぐと逆効果になる。過剰に反応するとユウイチみたいな変態を喜ばせるだけだし、「こんなふうに気色がわるいことを言えばリンちゃんが反応してくれるんだ」と学習されてしまうからだ。
 ルックスだけはちゃんとしていそうに見えるから誤魔化せているだけで、ユウイチのやっていることは、コートの下は裸で外をうろつく変質者と変わらない。

 本当は、渡すべきものを渡したらさっさと帰って欲しいとユウイチについて俺は常々思っている。でも、「五分でも三分でもいいから」と玄関先でごねられるのも面倒だから今日も家に入れてしまった。テレビでもつけておけばおとなしくしているからギリギリ我慢出来る。

 古いテレビではさっきからボクシングの中継が放送されている。チャンピオンとチャレンジャー、どちらが勝とうが俺にはどうでもいいことだ。というか、インタビューや今までの戦績の紹介ばかりで肝心な試合はなかなか始まらない。
 
「これ、面白いの?」
「ん? うん、面白いよ……」

 すべての物事を「教養」と捉えているというユウイチは、スポーツならメジャーからマイナー競技まで知っているし、オタクが見ているようなアニメにも詳しい。何がユウイチをそこまで駆り立てるのかは不明だけど、どうにか時間を捻出してすごい量の本にも目を通していると前に聞いたような気がする。当然、ボクシングについてもよく知っているらしく真面目な顔でじっとテレビを見つめている。きっと、会社で誰かとの会話のネタにでもするんだろう。



「……うん?」

 暇すぎてテレビではなくユウイチの様子を観察していた俺はあることに気がついてしまった。

「……ふーん。えらく真剣に見てると思ったら、この世界チャンピオンの方がたんに好みのタイプってだけじゃん。わかりやすすぎ」
「え!」

 珍しくユウイチは狼狽えていた。顔色は一切変えず、肩がピクリと動いたくらいだけど、ほんの一瞬黒目がせわしなく動いたのを俺は見逃さない。
 画面に映る世界チャンピオンだとかいう男はたぶんまだ二十歳そこそこだろう。この日のために極限まで仕上げてきたであろう身体はバキバキで、雰囲気はピリついている。目つきこそは鋭いものの鼻や口は小ぶりでどこか可愛らしい雰囲気だ。確かに人の目を惹くような容姿をしている。
 こういう年下の男から「金! 早く出せよお!」と威勢よくせがまれたら、ユウイチみたいに金は持っていて性癖の歪んでいる人間は嬉しいんだろう。

「違う違う。全然、そういうのじゃないから」
「嘘をつくんじゃないよ。だってさ、他の男が映ってる時と態度が全っ然違うじゃん。前のめりになって見ちゃってさ……。ふーん、体格は小柄で生意気そうなのが好きってことか」
「いやいや違う違う。全然違うよ」

 俺はリンちゃん一筋だよとかなんとかわけのわからない言い訳をしているけど、俺にとってはどうでもいいことだった。
 それよりも、いつも気色の悪いことを言って俺を不快にさせるユウイチが珍しく人間らしい反応をしていることが新鮮だったし愉快でもあった。図星をつかれて微妙に嫌そうにしているところがいい。これは、いいオモチャを見つけてしまった。
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