兄様の親友と恋人期間0日で結婚した僕の物語

サトー

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★後編 初夜

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 わからないことの一つが、結婚して最初の夜のふれあいの続きだった。子供を作るためだとか、愛し合うために裸になって抱き合うことは知っている。でもその先は、頭の中でモヤがかかったようになっていて、どうすればいいのか全然わからない。

 ミオ兄様はゆっくり進んでいこうと言っていたけど、どのくらい経てば「そろそろいい頃だろう」と認めてもらえるんだろう? 夜は毎日一緒に寝ているけれど、おやすみと頬に口づけされて寄り添って眠るだけだ。

 いつだって優しく大切にされているのだから、悩み事なんて何もないはずなのに。どうしたらいいんだろう、少しでも前に進めているのかな? と僕は悶々としていた。


「じゃあ、いってくるよ。今日は昨日より早く帰れるから」
「あっ、待って! ミオ兄様……!」

 朝、仕事へ行く支度をしていたらミオ兄様が先に家を出ていく日があった。

「ん? 何か俺、忘れ物をしてる?」

 不思議そうにしているミオ兄様の頬に、自分から唇で触れた。
 朝、仕事へ行く時はいつもミオ兄様から僕の頬に口づけをすることになっていた。ミオ兄様が早く家を出ることを僕が忘れていたから、慌ただしいお見送りになってしまったけれど、でも、口づけはちゃんと思い出せた。よかった、とミオ兄様へ笑いかけた時だった。

「んっ……」

 なに、とビックリしてしまっていた僕が、唇へ口づけられているのだと気がついたのは、ミオ兄様の唇が離れていった後だった。

「慌てて追いかけてくるから何かと思ったら……。……いつだって君は俺の心を掴んでかき乱す」
「あ……」

 出掛ける直前だというのに、ミオ兄様は何度も口づけを繰り返した。初めて知るミオ兄様の唇の感触に僕はうっとりと目を閉じていた。こんな幸せなことを今までどうして知らずにいられたのだろうと不思議に思うくらい、気持ちがよくて、手を繋いだり抱き合っている時よりもずっとミオ兄様と溶け合って一つになっているような、そんな気分になる。

「……続きはまた帰ってから」
「ん……」

 最後に僕の首筋に音をたてて触れて、ミオ兄様の唇は離れていった。額を擦りあわせた後、視線を絡ませてくるミオ兄様の瞳が僕の知らない熱を孕んでいる。いつもの優しい眼差しとは違う。このまま食べられてしまうかもしれない、そして、そうなって欲しいと僕に願わせるような、目つきだった。

 一人になってからも、触れられたところから、じわじわと熱が広がり身体の中で燻っているようだった。ミオ兄様の言う「続き」はきっと僕が知りたいことだ。メイド達が持たせてくれたあの寝巻を今日も着ればいいんだろうか。肌が透けるような薄い生地で出来た寝巻。

 僕もミオ兄様の心を僕でいっぱいにして欲しいし、僕だけを見て欲しいと思う。愛し合うって、こういうこと? と答えがわかったようなわからないようなふわふわした気持ちのまま、僕の心臓はいつまでもドキドキとうるさく鳴っていた。

 帰ってきたミオ兄様は「ユリアーネスの、大事な初めての口づけを玄関で慌ただしく奪ってしまってごめん」とケーキを買ってきてくれた。「我慢出来なかったんだ」という言葉が嬉しかったのに、上手に言葉では伝えられずに下を向く僕をミオ兄様はぎゅっと抱き締めていた。

◇◆◇

 その日の夜、ミオ兄様からは「そろそろ呼び方を変えたらどうか」ということを言われた。

「えっ!」
「結婚したっていうのに、いつまでもミオ兄様って呼ばれているのはなーんかよそよそしいんだよなー」
「じゃあ、なんとお呼びすればいいのでしょう……?」
「そりゃあ、名前で呼ぶに決まってる」
「えええ……」

 子供の頃から「そんな丁寧な呼び方しなくていいのに」と言われていたけど、シリウス兄様の親友であるミオ兄様に気軽に呼び掛けるなんて出来るはずなかった。

「……ここはお城じゃない。俺とユリアーネス、二人の間のことだ」
「……うん」

 少し呼び方を変えるだけだ。それに王室を離れた二人だけの家族なら、きっとこちらの方がより自然なのだろう。

「そうだ。俺もユリアーネスのことをユリと呼ぶのはどうだろう? ユリアーネスの家族も誰も呼んでない、俺だけの特別な呼び方を……」
「本当? ……僕、ユリって、呼ばれてみたい」

 愛する人からの特別な呼び名。なんて素敵なんだろう、と僕の心は弾む。そして、はっとした。ミオ兄様も僕と同じ気持ちなのだ。

「み、ミオ……」

 兄様、を後ろから取っただけなのに、一気に距離が近づいたような。ミオ、ミオ……。まだ慣れないけれど、すごく大切な、聞いているだけで僕を幸福にする響き。

「んう……」

 今の言い方でよかったのかはわからない。だけど、何も言葉を交わさずに深く口づけられて、きっと間違いじゃなかったのだと安心出来た。

「舌、出して。べーって」
「ん……」

 舌を絡めあう口づけに僕の身体はくにゃりと力が抜けて柔らかくなっていくのに、一点だけは熱く硬くなっていく。身体中の熱が血液とともにそこへ集まっているようだった。
 ミオ兄様に。ミオに知られてしまう。それがとても悪いことのような気がして内腿を擦り合わせていると、逞しい腕が僕の腰を抱いて、離れることを許さない。どうするのが正解なのか、答えを知らないまま、だらしなく伸ばした僕の舌をミオは擽るようにしたり、ねっとりと味わうようにしたり、ゆっくりと優しく愛してくれる。

「ん、やっ……待って……」

 待たない、と低く囁かれて僕はそれだけで小さく声を漏らした。

「この家で迎えた初めての夜。ユリがこんな服を着て誘ってきた時は息が止まるかと思った」
「あっ……」
「わかってる。何も知らずに、無垢なまま俺の元へやってきたんだって」

 僕の身体を押し倒してから、ミオがうなじに顔を埋めてくる。僕の肌にちゅうと吸いついているミオにしがみつく。目を閉じて仰向けで寝ているのに、くらくらする。



「可愛い。ユリ、ユリアーネス、全部見たい……」
「あっ、だ、だめっ、待って……」

 誤魔化すことが出来ないほど、僕の性器は硬く立ち上がっている。恥ずかしいけど、もっと僕に触れて欲しい。そう感じているのに、見せてはいけない。大好きなミオに見られてはいけない、ダメ、と僕の心が僕を縛り付けようとする。

「なんで? 普通のことだ。自分でもしているだろう?」
「……しない。兄様が、シリウス兄様が、はしたないからって……」

 は、の形に口を開けたままミオは僕を見つめて黙り込んだ。

「……ダメだって?」
「……うん」
「そうか……」

 僕の声が掠れて低くなり始めた頃、シリウス兄様は部屋に僕を呼んで、大人になるために必要なことを教えた。

 その時に、身体を傷つけることがあってはいけないから、自分で触ることも誰かに触らせることも絶対にしてはいけない。未成熟な身体で快感を求めることはとても汚らわしいことなのだと言われた。
「隠そうとしても私にはすぐわかる。だから絶対に嘘をついてはいけないよ」と言い聞かせられて。僕は約束を守り続けるしかなかった。嘘をついていると知られたら何かすごく恐ろしい目に合わされるような気がしていたからだ。

「……はしたないことなんかじゃない。大事な、必要なことだ」
「……本当?」
「ああ。俺なんか数えきれないぐらいしてる」
「……ふふ」

 すごいだろ? と自慢気に言うのがおかしくて、僕が笑うとミオも少しだけ笑った。

「なあ、ユリアーネス。たぶん俺はまだ、ユリともシリウスとも、君達二人の間のことについて、その全部とは向き合えていない。でも……。誰が何を言ったとしても、いつだって俺はユリの味方でいると約束する。だから、どうか俺を信じて欲しい。心から君を愛してる」

 ここには俺達二人だけだとミオは言った。求め合うことはいけないことじゃない、僕とミオにとって自然なこと。僕とミオだけの大切なことなのだと。

「難しい? ゆっくりでいい、覚えて……」
「あ……、ああっ……」

 羽織っていただけの寝巻を剥ぎ取って、ミオは僕の全身を時間をかけて愛してくれた。胸や背中、内腿や膝の裏まで、僕の身体はミオの手と唇が触れると、甘い快楽と「汚らわしい」となじられた過去の間でゆらゆらと揺れていた。僕の心はミオとともにあるはずなのにどうしてと、気持ちがいいのに泣きたくなる。

 ミオは僕に聞く。今、僕を愛しているのが誰かわかるかと。ミオの唇が僕の耳の輪郭をなぞり、甘い声が鼓膜を震わせる。

「ミオに……、ミオに愛されて、僕は……」
「いい子だ。これからもずっと、俺の愛はユリだけのものだ」

 僕にとって身体に触れられることは、叱られて自由を奪われることと常に一緒になっていた。胸を指先で愛撫されながら「ここは、好き?」と聞かれて赤くなった僕をミオは可愛いよと笑う。何も知らなかった僕の身体と心はじわじわと書き換えられていく。愛し合うために僕はミオと触れあうのだと。


「ユリの反応は全て、俺だけのものだ。だから何も考えなくていい。俺だけを感じて……」
「あっ……、んんっ……」

 僕の平たい胸にミオが顔を埋める。赤ん坊のように吸い付かれながら、もう片方を指の腹で撫でられると背中がしなり、自分で胸を突き出すような格好になる。芯を持ち収縮したそこをペロペロと舐めながら、ミオが僕の下腹部に手を伸ばす。抑えきれない声や吐息を「可愛いよ、俺のユリアーネス」とミオは受け入れてくれた。

「うぅ……、んぅ」
「恥ずかしい?」
「……うん。あっ! だめ、だめえっ……」

 上り詰めていくような感覚に喘いでいると、汚らわしい、はしたないという言葉が頭の中で繰り返される。冷ややかな声と眼差し。ヤダ、イヤだ、とシーツをぎゅっと握りしめているとミオが僕の耳の側で繰り返した。違う、これは気持ちいいことなんだって。

「や、あっ、だめ、出ちゃう……! あああっ……」
「ユリ、言ってごらん。気持ちいいって」
「やだ、怖い……」

 僕の性器の先端には後から後から透明な雫が滲んでいた。ぬちぬちという卑猥な音に耳を塞ぎたくなるのに、「ゆっくりでいいから、気持ちがいいって感じて」とミオの甘い言葉が僕の身体をとろとろに溶かしてしまう。

「可愛い。……こんな姿誰にも見せたくない」
「ん、うぅ……。気持ちい、ミオ、好き……気持ちいいよお……」

 頭の中が真っ白になって、勝手にぽろぽろと涙が溢れてしまう。達した瞬間でさえも、僕はミオの腕の中で深く口づけられていた。しっとりと濡れた肌が僕を包んでいて、その心地よさに目を閉じる。
 僕はどうして、自分がミオともっと先に進みたいと感じていたのかようやくわかったような気がしていた。ああ、ミオが僕を大切にしてくれるように、僕もミオを大切に思えばいいのだと。それを知るための大事な行為なのだとミオが僕に教えてくれた。

「ミオ、ミオ……」
「大丈夫。俺は君を離さない」

 ミオの言う「離さない」は僕の胸をいっぱいにする。嬉しい時も悲しい時も僕の側に寄り添ってくれるのだと感じるような温かい言葉。
 啄むような口づけの後、ミオは僕の涙を拭ってくれた。いい子だって、閉じたままの目蓋に触れる唇に僕は小さく頷いた。きっと、お城にいた頃の僕だったらミオの言葉を信じられずに、罰を畏れて「怖い」と愛し合うことを拒絶してしまっていただろう。ミオとの結びつきが僕を変えてくれた。



「あの、ミオ、僕の脚にずっと当たってて……」
「……あっ。ああ! いいんだ、これは。俺は数えきれないくらい自分で処理してきた熟練者だから」
「……」
「……こういう時は笑っていいんだ」

 じーっと膨らみを見つめる僕の様子に気がついて諦めたのか、「面白い? 嫌じゃないならいいか……」とミオは隠すようなことはしなかった。ミオの着ている服越しに、さっきまでの僕と同じように硬く大きくなっているモノが当たっている。僕がモゾモゾと脚を動かすとミオの身体がぴくりと反応した。

「……僕もミオを愛してる。ねえ、ここを、触ったらそれがもっと伝わる? 僕はさっき、そうだったから……」
「ユリっ……」

 傷つけないように指の先でスリスリと先端を撫でると、ミオが目を閉じて小さく息を吐く。ダメだって言われたわけじゃないし、僕がミオに触れるのもきっと大事なことだ。
 ミオの手が僕の手のひらを掴む。心なしか小さく震えている。導かれるまま、僕はミオの性器に直接触れていた。

「ん、んんっ……」

 唇を押し当てるようにして、ミオが僕に口づける。柔らかい舌と手の中の熱。ミオの腕が僕を抱き寄せて、もう片方の手が僕の胸の先を摘まむ。ぞくぞくする感覚が緩やかに背中を走り、僕は小さく声を漏らした。

「ん、ふ、う……」

 まただ、と僕の頬が熱くなる。さっき達したばかりなのに、また僕の身体はあの時感じた絶頂を欲しがる。手の動きを止めることはせずに、じっとしていられずに腰を浮かせたり、脚を閉じたりしていると、全身がますます敏感になっていくようだった。

「……入れたい。ユリの全部を俺でいっぱいにしたい」

 僕に頬擦りしながらそう呟くミオはとても苦しそうだ。頼むよと懇願されているような響きは僕の胸を締め付ける。

「……僕も……、僕をミオでいっぱいにして欲しい」

 触れるという行為に関わる僕の記憶を全てミオで埋め尽くして欲しい。……シリウス兄様とのことを全部話せていない僕がそう望むのは間違っているのかもしれない。僕はズルイ。
 だけど、ミオが好きで、僕はミオと一緒に愛するための行為をもっと知りたいと願っている。それだけは嘘じゃない。そのために何もかもを差し出したいと思うくらいに。

 何も心配することはないのだとミオは優しく言った。深く繋がって、一つになるのだと。

「うっ……、んうっ……」
「目を閉じてて、こっちの手は繋いだまま……」

 脚を大きく開いて僕の中へ入ってくるミオの長い指を受け入れた。絶対に傷つけないからと、ミオは僕の脚の間にとろとろした薬をかけて、痛かったり怖かったりしたらすぐに言うように何度も念を押した。

「んっ、んうっ……、だめっ、そこ……変になる……」

 僕の身体の中に籠った熱をミオの指が優しく擦る。すごく恥ずかしいのに、大きく脚を開いたまま、僕の身体はミオの指を根本まできゅうきゅうと咥え込む。ああ、可愛いよと内腿に吸い付かれて、僕は自分の身体が溶けて、柔らかく解れていくように感じていた。

「好きだ、ユリアーネス。君の心が自由になれるのなら、俺はなんでもする……」
「あっ……」

 指よりも太い、熱い塊がゆっくりと入ってくる。僕の心と身体はミオで満たされていっぱいになっていく。それなのにあの、「永遠の愛をこめて」というメッセージとブローチの銀色の光がチクリと僕の胸を刺す。やめて、と僕はぎゅっと目をつぶった。

 顔の側に投げ出した両手はしっかりと繋がれている。全部が入っても、ミオはそのまま動かずに僕に何度も口づけた。僕の心の中は見えないはずだけど、吐息交じりの「ユリを愛しているのは俺だ」というミオの声が聞こえる。やがてゆったりとした動きが僕の中で繰り返され始めた。僕がミオにしがみつくことで、僕達は完全に一つの塊になった。

「……忘れろとは言わない。だけど、いつかは俺だけを見て欲しい、ユリ、ユリアーネス……」

 僕はそれに頷いてから、ミオ、と何度も呼んだ。好き、気持ちいい、もっとしてとはしたない声をあげた。嫌だとも怖いとも思わなかった。身体の奥底を突かれるたびに漏れる淫らな声は僕の気持ちを昂らせ、絶頂へと導いていく。

「あっ、あっ……」

 僕は誰のものでもない。僕の身体と心はミオに愛されることを望んでいる。ミオがもっと欲しい。ミオに僕の何もかもをあげたい。達する直前僕はそんなことを考えていて、そして頭が真っ白になった。

 薄く開いたままの唇へミオが吸い付いてくる。波のように押し寄せてくる快感で僕の頭はいっぱいになり、また涙が頬をつたう。少しでも快感を逃そうと、爪先はぎゅうっと丸まり、僕の口からは唾液が溢れている。
 次第に強く速くなり、ぱん、ぱん、と叩きつけられるようなミオの腰の動きに絶頂を迎えたばかりの僕は獣のように呻いた。繋がっている部分が熱くてぐちゃぐちゃで。ミオからは時々、すごくいやらしいことを聞かれた。僕は涙を流しながらそれに頷いて、自分が何を言っているのかよくわからないまま下品な言葉を口にしていた。「おちんちん、気持ちいい、もっとして」と。僕の心が「気持ちいい」だけでいっぱいになっているかを確かめるように、ミオは僕に愛し合う時のおねだりの仕方を教えた。

「愛してる、ユリアーネス……」

 僕の両方の脚の踵を持ち上げて、ミオは何度か激しい抜き挿しを繰り返した。それから、奥へと擦り付けるような動きが繰り返されて僕の上へ倒れこんでくる。

「ん、う……」
「……俺は自分が思っていたよりもずっと嫉妬深いみたいだ。何度したって足りないよ」

 中へと吐き出した熱を確かめるようにミオが僕のお腹を撫でる。足りないのなら何度だって愛して欲しい。まだ入ったままでいる、熱い塊をきゅうっと締め付けてから、僕はミオだけをもう一度求めた。

◇◆◇

 翌朝目を覚ました僕は、あの後自分がどうやって眠りについたのか思い出せずにいた。
 四つん這いになったり、ミオの上に乗ったりしたのは覚えてる。すぐに抜けてしまったり、あまり上手に動けなかったりもしたけど、いい子だってミオは僕の中へいっぱい注いでくれた。
 確か、仰向けで入っている時に、ミオが僕の身体を抱き起こして、その時に深々と入ってくる感覚にビックリしてつい「ミオ兄様」と呼んでしがみついたことまでは覚えてる。「可愛すぎるんだよ、あの頃から」とミオはすごく真剣な顔で言った後、僕の身体を激しく揺さぶって。それで、その時に、少しお漏らしをしてしまった、ような気がする。恥ずかしいって泣きながら、びくびくと痙攣する身体をそのまま攻め立てられて……。

「……思い出しただけで死んじゃいそう」

 まるで自分が自分じゃないみたいだった。途中ハッキリと思い出せない部分はそもそも現実なのか夢なのかもわからない。だけど、僕の身体のあちこちにはミオに愛された痕が残っているし、太ももや腰にはひきつるような痛みがある。

 本当に僕、ミオと愛し合ったんだ。

 まだ少しだけ恥ずかしいような気持ちで、隣ですうすう眠っているミオの寝顔を眺める。身体がサラサラしているということは、ミオは気を失うようにして眠ってしまった僕の肌を、拭いて綺麗にしてくれたんだと思う。

 幸せだった。これ以上くっつくことは出来ないと思うほど、身体の全部で触れあって、満たされた夜だった。投げ出されたミオの腕に自然と目がいく。

 どうしよう。くっつきたい。あの腕に抱き寄せられたい。

 でも、僕がモゾモゾと動いたら疲れて眠っているミオを起こしてしまう。それでも、触れていたいという思いが抑えきれなくて、指の先で肩にちょん、と触れると眠っていたはずのミオがクスクスと笑った。

「わ、え? 起きてたの……?」
「うーん……可愛くて起きるに起きられなかった」
「なにそれ……」

 身体、お漏らし、としどろもどろになって言う僕に「ああ。潮吹き? 身体は拭いといた。あとで一緒に風呂に入ろう」とミオはあっさりと頷く。
 朝のことも全部気がつかれていたということ合わさると、余計に恥ずかしくなってしまって、顔を背けるとミオはすぐに僕のことを捕まえて腕の中に閉じ込めた。

「……今日からはもっと甘える練習をした方がいいな」
「へ、え……!?」
「自分から気軽に触ったり、抱っこって言ったり。モジモジして上手に出来なかったらお仕置きで……、ユリが嫌って言うまで俺がベタベタに甘やかす」
「……もう」

 昨日の激しい交わりは幻だったのかと思うような穏やかな朝だった。でも、夕べ愛し合えたからこそ、もっと親密でお互いを信じ合るようになったのだと感じられる、そういうやりとりだ。

「じゃあ、練習は服を着てからでもいい……? 裸で甘えたら、またしたくなっちゃうから……」
「……。ダメ。俺がそうして欲しいから」
「えーっ……」

 ケラケラ二人で笑いながら、今日はお休みだから、もう一回してもいいのかなって、少しだけ思った。なんだか僕の心は晴れやかでスッキリしている。だから、そんなふうに思えたのかもしれない。
 こうやってミオの側で僕の心は少しずつ自由になっていくのだろう。ミオが好き。この気持ちを大切に持ち続けていたら僕はもっと前へ進んでいける。
 幸福は自由のすぐ側で、僕の勇気をずっと待ってくれていた。(完)


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