ニンゲンミナライは成長中

サトー

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★不調

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喉が変だ、と思っていたのを放っておいたからなのか、ある日の朝、急に具合が悪くなってしまった。

熱があるわけでもないし、お腹が痛いわけでもない。
ただ、なんだか起きるのが辛くて体がダルい。
それに、膝がすごく痛い。昨日ぶつけたり、転んだりしたわけでもないのにどうしてだろう?と不思議に思いながら、ずきずきと痛む膝を触って確かめる。
やっぱり、腫れているわけでもないようだった。

布団から出られずにいると、先に起きていたホタルが俺を起こしに来た。

「アオイ、昨日は早く寝ただろ?どうしていつまでも起きてこない?」
「……ごめんなさい」

身体の調子が悪くて、今日は起きられそうにないことを伝えた後に、手伝いが出来なくてごめんなさい、と謝ると、ホタルは顔面蒼白になって慌て出した。

「いつからだ?待ってろ、すぐに医者を呼んできてやるからな……」
「いいよ……。寝ていればきっとよくなるはずだから」
「そんなわけがあるかっ!」

寝ている俺の首元ギリギリまで布団をかけた後、一度家を飛び出したホタルは、「朝御飯を食べさせてないっ!」とすぐにまた戻ってきた。
昨日のチョコレートを食べて待ってるから平気、と言ったら、ホタルは口をガバッと開けた後、慌てて口を閉じてから「ぐう」と唸った。
……たぶん、「平気なわけがあるかっ!」とか、そういうふうに怒鳴りたかったのかもしれない。
でも、俺の具合が悪いから必死で我慢をしたに違いなかった。

結局ホタルは、いつも山へ散策へ行く時に使っている弁当箱に、いなり寿司とゆで卵を詰めたのと、お茶がたっぷり入っている水筒を俺の枕元に置いて家から出て行った。

すぐ戻るから、ちゃんと寝て待ってろ、と何度も言うホタルに一応「はい」と返事はしたけれど、また子供扱いされてる、とほんの少しだけ寂しくなる。




「はあ……」

ホタルがいない家は静かで、自分のため息が嫌に響いた。

……ホタルに初めておまじないをかけて貰って結ばれた日からずいぶん経つ。
それなのに、あの日以来、ホタルは俺とそういうことを一切しなくなった。

身体が成熟していないうちは興奮すると狐の姿に戻ってしまう、という理由で、ホタルとは毎日ちょっとずつお互いの身体に触れ合ってきた。
完全な大人の体を手に入れたホタルは、どんなに興奮しても勝手に狐の姿に変わってしまうことは無いはずなのに、毎日同じ布団で眠っていても、「早く寝な」と俺のことを優しく抱き締めるばかりで、もう前みたいに俺に触ってくれなくなった。

ニンゲンギツネは大人になると性欲が無くなるのかな……?
でも、子沢山のニンゲンギツネはたくさんいるけどな……とホタルに「どうして?」と聞くことも出来ずに、毎日をモヤモヤと過ごしている。



それに……ニンゲンギツネはどうかわからないけれど、人間の俺はホタルと暮らし初めてから、困ったことにだんだん性欲が強くなっている気がする。

お母さんと暮らしていた時は、毎日お腹が空いていたうえに、ぼんやりとしていたから、そんなことはなかった。
だけど、「ここにいてもいい」と言ってくれたホタルに、初めて肌の温もりを教えて貰って以来、俺の身体はそういうことが「キモチイイ」ことだってすっかり覚えてしまった。

それで……どうしても我慢が出来ない時は、お風呂に入っている時に一人でコッソリ処理をする。

外が暗くなってしまった時は、いつも、家の外にある風呂までホタルに連れていって貰う。
ホタルは俺と一緒にお風呂には入ってくれない。俺が風呂に入っている間は、外でじっと待っていてくれる。

だから、耳がいいホタルにバレないよう、声を殺して、ずっと前にホタルにして貰ったことを思い出しながら、自分の性器を扱く。
匂いでバレちゃう、と射精した瞬間にすぐに精液を何度もお湯で洗い流していると、すごく寂しい気持ちになる。

勇気を出して自分からホタルを誘ってみればいいのかもしれない。

だけど、もしかしたら、ホタルはもう、俺のことを、そういう対象としては見ていなくて、弟とか、子供とか、そんなふうに感じていたら?と思うと怖くて聞けなかった。

そんなことを聞くのは、狐の里へ連れていって欲しい、とホタルに頼んだ時よりもずっと、俺にとっては勇気のいることだった。
あの時よりも、今の方が何倍もホタルのことを好きになってしまっているからだ。




「んっ……」

毎日一緒に寝ている布団に横になっていると、嫌でもホタルのことを思い出す。
裸を見られた時も、「可愛い」と何度も言われながら身体に触られた時も、すごく恥ずかしくてビックリしたけど、嫌だと感じたことは無かった。
また、したい……と思ってしまうと、調子が悪いのに身体が勝手に反応してしまう。

熱い、と布団をはね除けても収まりそうになかった。
それで俺は……ホタルのことを考えながら、またコソコソと自分の身体を慰めることになった。

「んっ、んんっ……」

下半身に身に付けていたものは全部脱いで、仰向けで寝たまま、自分の身体に触った。

俺が具合が悪いって言ったから、ホタルは医者を呼びに飛び出して行ったのに何をやっているんだろう、という罪悪感と、自分の手で触るだけじゃ全然足りない、という思いで、心が磨り潰されそうだった。

「あっ……、ほたるぅ……」

膝を立てた状態で足を開いて、性器を手で握って上下に擦っても、なかなか満たされなかった。
乳首を強く触るのは怖くて避けてしまう。それで、どうしても物足りなくって、自分の人差し指を夢中でしゃぶった。

「んっ……!んんっ!」

初めてホタルと結ばれた夜のことを俺はほとんど覚えていない。おまじないの効果が強すぎたからだ、とホタルは言っていた。

真っ暗な部屋で、抱き合ったことは覚えている。
俺の身体はホタルを受け入れて、気持ちよすぎて苦しかったこと。
それから、「子供が欲しい」と言われたことは覚えているけど、ほとんどの出来事はぼんやりとしていて、全然思い出せない。

「んんっ……!ん、ぐ……!」

……けれど、俺の身体はあの晩のことを覚えている。
自分では触ったこともないのに、お尻の穴がひくひくと動いて、いないホタルを誘うように腰が浮く。
ホタルを受け入れた場所が疼いて、切ない。

自分ではどうすることも出来ないまま、口に含んだ指を舐め回しながら、ホタルの手で触って貰ったことを思い出して、ようやく熱を吐き出すことが出来た。




「あっ!大変だ、匂い……」

ホタルはきっと鼻がいいから、このままだと、一人で何をしていたかバレてしまう。
具合が悪いというのは嘘だったのか、と軽蔑されるかもしれない。



足の痛みに堪えながら、部屋の空気を入れ替えるのに一生懸命になっていたせいで、ホタルの用意してくれた朝御飯を食べることは出来なかった。
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