ニンゲンミナライは成長中

サトー

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冬の日(1)

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 お正月には狐の里にも少しだけ雪が降った。

 いつも勉強を教えてくれる先生が年末年始は旅行に行くと言うから、俺も勉強をお休みしてホタルと一緒におじいちゃんやおばあちゃん狐の家を回った。ヤクルトと赤いきつねをたくさん抱えてお年寄りの暮らす家一軒一軒訪ねるホタルはサンタクロースみたいだった。

 俺も、窓や床を掃除したり、おじいちゃんやおばあちゃんの体を温めた手拭いで拭いたりするホタルのお手伝いをした。

「フン、フン」
「えっと……、手拭いを交換しますか? それとも俺の拭き方が強すぎる……?」
「フン……!」
「どうしよう、おばあちゃん怒ってるのかな……!?」

 狐の里で暮らし初めてから一年以上が経つけど、人間の俺は狐の姿のニンゲンギツネとは話が出来ない。どうしてあげたらいいのかわからなくてオロオロしていると、ちっちゃな前足で体をてしてしと何度も叩かれる。
 窓拭きから戻ってきたホタルに聞いたら、「あれは怒っているんじゃない」と教えてくれた。

「じゃあお腹がすいてるのかな?」
「鼻をフンフン鳴らしている時は『なんでもいいから、何か話せ』とかそういうことを言ってるだけだから、適当にあしらって構わないさ」
「そっかあ……」

 おばあちゃんは俺と話がしたいって言ってくれていたんだ、と思うと嬉しくて、それで、あんまり上手じゃないかもしれないけど、俺やホタルのことを話した。

 人間とニンゲンギツネのご夫婦が暮らす家に勉強を習いに行っていること、ニンゲンギツネの子供達からは「お前人間だろ」「人間臭い」と嫌なことを言われるけど負けないように言い返していること、紺のきつねそばを西友に買いに行った帰りにはホタルがいつもチョコレートケーキを買ってくれること、ヒナタが彼女と行ったスキー旅行のお土産にみすず飴をくれたこと……。

 狐の里での毎日は誰かに話したくなるようなことがたくさん起こる。「ウキャキャキャ」「ケケ」という相づちはなんて言われているのかはわからないけれど、尻尾をパタパタ振ってくれていた。

 おじいちゃんもおばあちゃんも、ホタルのことを話すと「ウキャキャキャ!」とよく笑う。世話をしてくれるホタルのことを家族みたいに思っているのかもしれない。

「えっと、ホタルは赤いきつねだけじゃなくて、鶏汁を作るのも上手で名人なんです。お正月のお餅を入れたらおいしいかなあ」
「ウキャ、ウキャ。フン……!」
「えっ? もっと話せ……? えっと、最近ドンキで凧を買いました。今度、ホタルと一緒にやってみようと思います」
「フン、フン」
「わっ……! 痛い、おばあちゃん痛いです……!」

 強い力でてしてしと体を叩かれる。……言葉はさっぱりわからないけど、なんとなくホタルとデキているのかって聞かれている気がする。同じようにおじいちゃんやおばあちゃんがホタルの体を叩いていると、たいていホタルは「あ? だから! デキてるから、こうやって毎回連れてきてるんだろうが!」「どこが好きだって? ほっとけよ!」とぷりぷり怒る。

 ニンゲンギツネのお年寄りにとって俺とホタルがデキている、というのはよっぽど面白いことらしい。
 だから、よくわからないけれど、おじいちゃんやおばあちゃんの狐から「デキてんの?」と聞かれれば頷くことにした。

「はい。ホタルとデキてます」
「ウキャキャキャ!」
「喜んでる……? おばあちゃんもホタルが好き? 俺もホタルのことが大好きです。同じだね」
「ケケ、ケケ」

 千切れそうな勢いで尻尾を振っている様子を見ていたら俺まで嬉しくなって、それでホタルのことをいっぱい話した。

「……俺はもう子供じゃないのに、ホタルはいつも俺のことばかり心配するんです。夜にヒナタやキキョウ先生が来てホタルとお酒を飲む時も、子供は早く寝なきゃダメだって……。おばあちゃん、どうやったら早く一人前の大人になれるんでしょうか……?」
「クー……!」
「俺も遅くまで起きて、ホタルともっと一緒にいたいな」

 そこまで話したところで「ばあ様! アオイをからかって遊ぶんじゃない!」とホタルが部屋に入ってきた。

「違うよホタル。俺が、調子にのってつい喋りすぎてしまって……」
「はー……。じい様もばあ様も純粋な人間がオロオロしてるのを見て喜んでるだけだ。面倒なことはアオイも聞こえないふりをして、聞き流したらいい」
「はい……」

 一応返事はしてみたけど、あんなに可愛いふわふわもふもふした狐のおじいちゃんやおばあちゃんに見つめられたら、何でもしてあげたくなってしまって、それで、俺は行く先々でホタルとデキていることをからかわれ続けた。
 同じようにからかわれたホタルが「あ? ああ、アオイが好きだよ。何番かって……? 一番に決まってるだろうが! 俺はアオイが誰よりも好きだ!」とガミガミ言っているのを聞いて俺がこっそり頬を赤くしていたら、「ケケケ」とやっぱり笑われた。
 
 
 おじいちゃん、おばあちゃん達は一生懸命お世話をしているホタルにだけじゃなくて、お手伝いでくっついてきただけの俺にもお年玉をくれた。「ケケケ」と小さく折った千円を前足で差し出されてオロオロしてばかりの俺にホタルは「いいんだ。どうせ、まだまだ貯めこんでるだろうから貰っておけ」と言う。

 貰ったお金は荷物を運んできたカバンに大事にしまった。お年玉を何に使うかは決めていない。ヒナタからはお小遣帳をつけて計画的に管理することを勧められているけど、ホタルやキキョウ先生は「一度すっからかんになってみるのもそう悪くない」と言うから、どうするべきなのか迷っている。

 そうやって年末年始はあっという間に過ぎていった。

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