人魚の祈りが届くまで

サトー

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12.★初夜(2)

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◇◆◇

 人魚の末裔といっても、身体つきは他の人達と変わらない。僕達の身体、主に性器がどんな形をしているのかということについて、すごく興味を持つ人もいるけれど、裸を見ただけならきっと「なんだ普通じゃないか」としか感じないだろう。エリアスはどのくらい調べているんだろう? 知っていないのなら僕から前もって、人魚の末裔と他の人とで何が違うのかを伝えておくべきなのだろうか。

「わ、っ……」

 一番上までしっかりと留めた寝間着のボタンを、エリアスの指が一つ一つ外していく。小さな子供がしてもらうように、脱ぐのを手伝ってもらい、僕は下着だけの姿になった。

「家で着ていた寝間着をそのまま持ってきたから、今日みたいな日にはふさわしくなかったかもしれません……」

 エリアスにじっと見られているのがわかる。恥ずかしくなってしまって、胸を腕で隠しながらボソボソと言い訳をした。そうしていないと、きっとシーツにくるまって完全に隠れてしまっていたから。
 エリアスは僕から脱がせたばかりの寝間着をしげしげと見つめてから言った。「いや、この方がいい」と。

「そう……?」
「それに、寝間着を脱いでも、綺麗だ」
「ん……」

 ちゃんと僕の身体のことについて言わなきゃと思っていたのに。少しだけ、と思っているうちに僕はエリアスとの口づけに夢中になってしまっていた。寄宿学校の頃の幼く可愛らしいものとも、馬車の中での強引で激しいものとも違う。ずっと離れていた時間を埋めようと、穏やかにお互いを求める、そういう口づけだった。

「あ……」

 エリアスの唇が僕の首筋に触れて、ゆっくりと胸の方まで下りてくる。怖くなんかなかった。不思議と、ああ、とうとうこんなふうにエリアスと愛しあう日が来たのだという気持ちが僕の胸をいっぱいにしていた。
 今まで馬車の中で触れあっていた時とは別人のように、エリアスは丁寧に僕を扱った。僕にとって、人から裸の胸を触られるのは、子供の頃に乱暴された時以来だ。そんな僕を気遣うように、エリアスは時々頬擦りをしながら僕の胸に唇を当てるだけだった。


「うう……」

 いきなり強く吸われたり、先を摘ままれたりするのは怖い。そんな僕の気持ちがわかるのか、エリアスは僕と両手を絡めたまま唇で優しく胸に触れる。焦らすようなもどかしい唇の動きに、僕はシーツの上で何度も身動ぎした。
 大切な存在として僕を認めてくれているのがわかっていたから、僕はエリアスに全てを委ねた。安心させるような優しさに包まれながら、甘い快感がちりちりと僕の身も心も溶かしてしまう。

「あの、僕、もう……」

 触れられてもいないのに痛いくらいに性器が勃ち上がっている。すごくはしたないことだってわかっていて、泣きたい気持ちでいるのに僕の身体は心を簡単に裏切る。エリアスに知られたら。そんなことを心配して必死で足を交差させたり、内腿を擦りあわせたりしていると、エリアスが身体を密着させてくる。太股に硬いモノが触れて、僕は自分に向けられているエリアスの気持ちをはっきりと理解した。

「エリアスも?」

 言葉は発せずに無言で一度だけ頷いた後、エリアスは僕に深く口づけた。何度も勃起した性器を擦り付けられて。余裕をなくしたエリアスを受け止めていると、いつの間にか僕自身も快感を得ることに集中していた。

 小さく声を漏らしながらエリアスの身体にしがみつくと、胸への愛撫は少しずつ激しくなっていく。音をたてて何度も口付けられた後、熱い舌が掬い上げるようにして僕の胸を舐める。

「ん、あっ……、ああっ……」

 六年間離れていたからだろうか。僕は、自分よりもずっと大人びた先輩だったエリアスが突然大人の男性になって戻ってきたことに今も戸惑うことがある。こんなふうに僕へ触れるの、と思うだけで、だらしなく開いた脚の間へ熱が集まっていく。

「綺麗だノエル。君の身体、すごく」
「ん、んぅ……」

 耳の側で囁きながらエリアスの手が這うようにして僕の身体を撫でる。エリアスが触れるたびに、僕の胸や腰はじりじりと疼き、その先が欲しくて堪らなくなる。

 今までずっと特定の恋人も作らず、時々自分を慰めるくらいで済んでいたから、僕は自分がそういった欲求に対して淡白な方なのだと思っていた。むしろ、自分を慰めていると「いったい何をやっているんだろう」とふっと虚しい気持ちになることの方が多かった。
 それなのに、エリアスに触れられるのは全然違う。もっと触って欲しい、恥ずかしい場所も全部に触れて欲しい、僕の何もかもを暴いて欲しい、そういう気持ちが後から後から溢れてくる。

 うつ伏せにされた僕はエリアスに促されるまま、四つん這いになった。動物と同じ格好、と思うと頬が熱くなる。だけど、エリアスの指先がつーっと背中をなぞると、僕は高く上げた尻をゆらゆらと揺らして喘いだ。
 このまま僕の身体の全部をエリアスのものにして欲しい、と感じる心は、エリアスへの愛がそうさせているのか、もっと別の……生き物としての本能に近いものなのだろうか。誘うような、はしたない格好の僕にエリアスは「いい子だ」と言い聞かせ、すりすりと指先で胸の先を撫でる。どうしてこんなに気持ちがいいのだろう、こんなの知らなかったと泣きたい気持ちでいるのに、僕の身体の奥底はじわじわと熱で溶けていく。



「鱗の跡は?」

 僕の背中に口づけながら、エリアスがそう呟いた。鱗、その言葉で快感だけを追っていた僕の頭は一気に現実へ引き戻される。

「だ、ダメ……、ダメです、そこは……」

 お尻だけを高く上げた格好のまま、シーツに押し付けていた頭を僕は小さく横に振った。やっぱりエリアスは知っていたんだ、と思うと急に恥ずかしさがこみ上げてくる。

「どうして? 君の身体の大事な場所だ」
「ちがっ……、だめ、や、だめです……あっ……!」

 音をたててエリアスが僕の腰に口づける。その瞬間、背中をぞくぞくとした快感がせり上がり、僕の性器が痛いくらいに勃ちあがる。この暗い部屋の中で、エリアスは僕の身体に残る鱗の跡をすでに見つけてしまっている。その事実に腕には鳥肌がたった。

 僕の身体には人魚の力を持つ末裔だけに残る鱗のような痣がある。身体の左側、腰から脚の付け根までを覆う、赤紫色の鱗のような跡だ。質感は他の部分の肌と変わらないから、暗い部屋の中では手触りだけではわからない。ただ、僕が性的に興奮すると熱を持ち、触れられると他の皮膚の何倍も強い快感を得てしまう。
 面白がって触られていい場所ではない、と本には書いてあったから僕は自分の口から痣のことについて誰かに話したことがなかった。

「だめっ、そこ、だめっ、ああっ……」

 エリアスは自分の方へ引き寄せるようにして僕の腰を優しく抱いてから、痣へ何度も口づけ、手のひらでざわざわと撫でた。四つん這いでいることさえも辛いと感じる程の快感に、僕の脚がぶるぶると震える。

「あ、ああっ……」

 泣いているような声で、どうして、と聞く僕にエリアスは「愛しているから」とさらっと答えてしまう。

「愛……?」
「仮にこの身体に鱗の跡がなかったとしても、私はこうして、君を愛していたと思う」
「ひ、うぅ……」

 信じられないことにエリアスは鱗の跡で覆われた、お尻や鼠径部といった場所にまで舌を這わせていた。いいのかなと感じる理性が、気持ちいいという感覚に飲み込まれていく。やだあ、と泣いているような声をあげながら、僕は目を閉じてエリアスの舌が僕の肌に触れるのを拒めずにいた。


「僕、濡れてしまっていて……」

 躊躇いながら、僕の身体のもう一つの秘密を打ち明けた時もエリアスは「ああ」と落ち着いていて、やっぱり何もかもを知っているみたいだった。

「あっ……」

 仰向けに寝かされた後、僕の身体の中へエリアスの指が入ってくる。そこは、エリアスを受け入れることを望んでいるかのように、とろとろと濡れていた。

「恥ずかしい……、こんなに、びしょびしょに濡れるのは初めてで……」

 僕の言葉に一瞬エリアスの手の動きが止まる。受け入れるための場所が収縮して、エリアスの指をより深く咥え込もうとしていた。いくら事前に調べていたとしても、結婚した相手がこんな身体をしているなんて、きっとビックリしたのだろう。

「ごめんなさい……、僕の身体、変で……」
「変じゃない。違うんだ、ノエル、ただ私は……」

 本当に君は海からやって来たのだと、思っていただけなんだ。

 そう言ってからエリアスは濡れている僕の目蓋へ口づけした。

「けれど、ますます愛おしい、私にとって大切な存在なのだとも感じていた」
「ん……」
「だから、どんなことがあったとしても、どうか海には還らないで欲しい。そんなことを考えていたんだ」

 人間として生きている僕は、今さら海になんて還れない。たとえ、人魚の本能がそうさせようとしても、海で生きることは出来ずすぐに死んでしまうだろう。ただ、僕にはエリアスが「側にいて欲しい」と言っているように聞こえたから。

「うん、エリアスの側にいるっ……、僕にはエリアスだけ……」

 それから僕は、横向きに寝た状態でエリアスのことを受け入れた。添い寝するようにエリアスは僕のことを後ろから抱き締めて、ゆったりと愛してくれた。身体を引き裂かれるような痛みは感じず、むしろ、ピッタリと欠けていた部分が合わさり、こうして抱き合うことが相応しいと感じられるような気持ちでいられた。

「あっ、あっ、待ってえ……」

 エリアスはほとんど動かない代わりに、僕の性器と胸への愛撫をやめなかった。指では届かないような場所までずっぷりとエリアスを受け入れているのに、僕は繋がっている部分へぐりぐりと自分の身体を押し付けた。頭のどこかが焼き切れそうな程の快感が怖いのにその先を知りたい。
 やがて僕はエリアスの腕の中で、ぎゅうっと両方の足の爪先を丸めながら深い絶頂に達していた。肩で息をする僕を振り向かせた後、エリアスが深く口づけてくる。

「エリアスも……、ん、う……」

 お互いの汗で濡れた身体を密着させながら、エリアスがゆっくりと腰を打ち付けてくる。こんな時もエリアスは優しくて、僕の身体を乱暴に揺さぶったりはしない。突かれる度に甘えたような声を漏らす僕のことを、ノエル、と何度も呼びながら愛し、そして。僕の中で果てて、僕をエリアスでいっぱいにしてくれた。
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