ニンゲンギツネとまんじゅう泥棒

サトー

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★ちょっとずつ

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「心から一緒になりたい相手と交わった時、ニンゲンギツネの身体は爆発的な快感に襲われる」
「それを乗り越えて人間の姿でいられた時、身も心も一人前の大人になれる」


昔からの言い伝えを信じるならば、俺は全身を這い回るような、苦痛にも近い快感に耐えて、アオイと交じわれば、実も心も成熟したニンゲンギツネになれるのかもしれない。

自分が一人前の大人になりたい、ということよりも、ただ、ただ、普通にアオイと抱き合ってみたい、という一心で、どうすればキツネの身体に戻ることなく事をすませることが出来るのだろう、とあの夜を境に、俺は必死でその方法を探るようになった。

俺よりも後に産まれたニンゲンギツネでも、すでに成熟した身体でボコボコ子供を作っている奴は存在しているから、アオイとただダラダラと過ごしていれば、いつか時間が解決してくれる……というわけではなさそうだった。
一応、成熟した連中に尋ねてはみたものの、皆、余計なことはペラペラ喋るくせに、その話題になると「さあ……」「忘れた」「覚えてない」と照れたり、惚けたりするばかりで、なんの参考にもならなかった。

俺のじい様にいたっては、「……ところで、僕の昼御飯は?」とさっき食べた昼食のことを気にするばかりで、まるで話にならなかった。
……千年以上も生きている相手に、遥か大昔の事を聞いた俺が間違っていたのかもしれない。

ちなみに「なあ、知ってるか?」とアオイが昼寝をしている時に、家に来ていたヒナタにも、一応尋ねてみたら「お前……!なんて、は、ははは、ハレンチなことを……!頭がおかしいんじゃないのか?!」と怒り狂っていた。

「……悪かったよ。童貞で処女のお前に聞いた俺が間違いだった」
「は!?な、なんでお前がそんなこと……」

「お前は最低だ!お前みたいなデリカシーのないニンゲンギツネが俺は大嫌いだ!」とヒナタはギャーギャー怒って最終的には狐の姿に戻っていた。
この調子じゃあと百年経ってもコイツは成熟していないだろう……と哀れんでいたら、怒りで鼻をフンフン鳴らしているのが滑稽だった。

「……お前は、ウサギか」

試しに煽ってみたら、ヒナタは低い声で唸り、今にも飛びかかってきそうだった。
けれど、さっきまでのヒナタの騒がしい声で目を覚ましたアオイが「えっ!?ヒナタ?狐になったの……?」と寄ってきた途端、クーン……としょんぼりした声を出し始めた。

狐の姿に戻ったのをいいことに「わあ!柔らかくて、フワフワ!可愛いなあ」と構ってくるアオイの頬を、ヒナタがペロペロ舐めているのを、「何をやってんだ!」と引き剥がさないといけないのは本当に大変だった。

……ムシャクシャしていたから、その日の晩は、アオイのことをめちゃくちゃにしてやろうと思っていた。
確かにそう思っていたのに、ヒナタとの会話を聞いていたのか「ホタルは大人になりたいの?……俺に手伝えることある?」とアオイから言われて、それで堪らなくなって、そのまま狐化してしまった。



「あっ……、ごめんなさい」



今日はここまでね、とそのままアオイに抱き締められる。

アオイは狐の身体に戻ってしまった俺のことを「暖かくて、気持ちよくて、太陽に干した後の布団の匂いがする」から、好きだ、と言う。
全然色っぽい匂いに例えられていないのが不本意ではあるものの、「どんな姿の時も大好きだよ」とアオイが側にいてくれるのは嬉しかった。







アオイの言う「ちょっとずつ、くっつく」は思っていた以上に効果があった。



アオイの身体を毎日抱き寄せていると、少しずつ少しずつ、触れ合っていられる時間が長くなっていく。
お互いが眠りにつくまで布団の中で身体をくっつけたり、アオイの頬や額、唇に何度も口付けたり……。

何がきっかけになって、興奮しすぎて狐の身体に戻ってしまうかがわからないため、アオイには「アオイの方からは俺の身体に触ってはいけない、なるべく声も出さないで欲しい」とよく言い聞かせた。

我慢が出来なくて、ものすごく気を張っていたのに、柔らかい頬に唇を落としたり、手を握ったりしただけで、全身がムズムズして狐の姿に戻ってしまう日もある。

それでも、調子の良い時は、先に風呂に入ったアオイが敷いたぐちゃぐちゃの布団の上で、アオイのことを可愛がることが出来た。

疲れているとか、体力があり余っているとか、そういうことが関係しているのかは、まだ自分でもよくわからない。
ただ、なんとなく、油揚げを食べた日の晩は、自信がつくからなのか、長い時間人間の姿でいられるような気がする。

それから、昼間、墓の掃除をしたり、川で釣りをしたり、人間の世界で買い物をしたり、なるべくアオイと楽しく過ごすようにすると、ほんの少し「早く抱きたい、このまま犯してやりたい」という衝動がコントロール出来ている……ような気がする。

風呂に長くつかってみたり、アオイと一緒に昼寝する時間を長くしてみたり……他にもいろいろなことを試していると、数回に一回は、お互い服を脱いだ状態で、アオイの敷いた布団を二人でもっとぐちゃぐちゃにしながら、肌を合わせることが出来た。



こんなこともあった。


その日は二人で一緒に作ったいなり寿司をたくさん食べていたからなのか、だいぶ余裕があって、どれだけアオイの身体に触れても頭がほんの少しムズムズするくらいですんでいた。

長く楽しめるかどうかが見極められるようになっていた俺は「今日はイケる」と判断して、いつもよりねっとりと時間をかけてアオイのことを味わった。

初めて一緒に寝た日のように、抱き締めてアオイの首に舌を這わせたり、耳に息を吹き掛けたりして、アオイの反応を楽しむのは何度やってもやめられない。
アオイはモゾモゾと足を動かし、時々強く布団を握り締めていた。

本当はどんな暗闇の中でだってアオイの身体は見えるけれど、今日はわざと行灯をつけていたら、ぼんやりとした灯りにさらされて自分の姿が見えるのが恥ずかしかったのか、「消して」と掠れた声で訴えてくる。

「よしよし……いい子にしてたら、終わった後に消してやるから」
「ひ、ひどいよっ……」

行灯を消して貰うことを諦めたアオイは、ささやかな抵抗なのかギュッと目を閉じている。



服を脱がせて上体を露にすると、やっぱりまだアオイの肌はくすんだ色をしていた。
触ると張りがあって、スベスベしている。もともとはもっと健康的な色をしていたのかもしれない。

もっと外に連れて行って、それで、好物をたらふく食べさせてやらないと……、と感じながらアオイの胸に何度も口づけた。

女のように膨れているわけでもなければ、柔らかくもない。
けれど、唇で触れるだけで、胸をつき出すようにして身体を仰け反らせるアオイの姿には、ものすごくそそられる。

まだまだ完全な大人からは程遠い身体をしているくせに、アオイは、おまじないも、媚薬代わりの薬草もいらない、感じやすい身体をしている。
スケベな人間の手に渡ったら、きっとものすごく酷いことをされて、ボロボロになるまで犯されるだろう、と思えるほど、まっさらな身体に快感を教え込まれている時のアオイは、可愛い。

あの時、墓場で拾ったのは正解だった、大人になってしまってもずっと俺の手元に置いておくんだ、とアオイの身体に何度も痕をつけた。


「んっ……、ううっ……」

口を開けたら声が出てしまう、という理由でアオイは必死で口を閉じているのに、「もっと感じさせてやりたい」とアオイの乳首を吸った。



「……待って、ホタル、待って、あっ、ストップして……」

堪えられなくなったアオイが声をあげ始めた時に、急激に頭と尻がムズムズし始めた。
アオイに触れている部分がビリビリして、触って欲しくて堪らなくなる。調子に乗りすぎた、と自分自身に舌打ちしたいくらいだった。

「ああっ……!アオイ、俺、もう……」
「……ホタル?」

俺が悶え始めたことに気付いたアオイは、「ホタル、大丈夫?苦しいの……?」と、背中を擦り始めた。
……もちろん触れた瞬間に背中は熱く火照って、撫でられるたびに、自分の固くなった性器の先に、一滴、また一滴と先走るものが滲んだ。

「アオイっ……、あっ、ダメだって……!んんっ、く、うっ……」
「……今日はホタルも、出して」

俺の手で触ってみてもいい?俺もホタルに触ってみたい、とアオイにせがまれて、腕に力が入らなくなる。
覆い被さっていたアオイの身体に倒れ込むと、服越しだというのに勃起したお互いの性器が身体に触れてそれだけで達してしまいそうになる。

その瞬間、マズイ、もうあまり時間がないと、俺は確信した。


「アオイ、ちょ、ちょっと、本当にごめん……、あとは自分で、」
「えっ……?」

困惑しているアオイの身体から離れた途端、隠れる暇もなく俺の身体はキツネに戻ってしまった。

せめて、アオイだけでも先に射精させるべきだった。
固くなったアオイの性器を思い出すと、かわいそうで、後悔せずにはいられなかった。

バツの悪い思いでアオイの側にピタリとくっつくと、大丈夫、と呟くのが聞こえた。

「今日はいっぱい出来た方だよね?ちょっと恥ずかしかったけど……。それに、」

行灯の灯りのことを言っているのか、恥ずかしそうにしながらアオイは頬を赤く染めている。
そうか、それなら次はもっと明るい光の下でしてやろう……と思うと、途端に嬉しくなって、尻尾をパタパタと振ってしまう。
一方でアオイは、まだ気まずそうにしていた。

「それに、あの、じ、自分でって……。ホタル、俺、どうしよ……」

泣きそうな顔でアオイがこっちを見てくる。
……確かに俺は「あとは自分で」とは口走った。あの時は俺も余裕が無くて、それでとりあえず何か言わなくては、と特に何か考えがあって言ったわけではなかった。
ただ、中途半端にくすぶるであろう、アオイの気持ちと身体が気がかりだっただけだ。

それなのにアオイは、「……む、むこう、向いててね。絶対だよ」と寝巻きをほんの少しずり下げて下着の中に手を突っ込んで、ゴソゴソやり始めた。



「んんっ……」

「これは、自慰だ」と気がつくまでに、ほんの少し時間がかかった。
ニンゲンギツネはほとんど自慰をしないし、今まで人間がそうしているのを、この目で見たことも無かった。
俺の目は、自分で自分を慰めるアオイの姿に釘付けになる。

「あっ……、だめ、ホタル、見ないで……」

そう言ってアオイがフイッと顔を背ける。
手の動きは、どんどん速く激しくなっていく。
いつもおとなしくて、されるがままのアオイが、本当にこんなことをするのか、と俺は呆然としながら目の前の光景を見つめ続けた。

「ホタル……好き……。ホタル……んんっ……」


……普段声を出すなと言われている反動なのか、可愛い声をあげてアオイは達した。
心臓が壊れそうなほど、速く激しく音を立てていて、まるで、見てはいけないものを見てしまったかのようだった。



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