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第一章
7.また来よう③
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って事があった気がする。
「覚えてないかな? ヴァンはその……あまり昔の事覚えてないから、忘れちゃったかな?」
カイトは眉を下げて視線を落とす。忘れると言うより俺は、両親が生きていた頃を思い出したくないだけだ。俺はカイトの憂いを払う様に首を振る。
「なんとなく覚えてる」
「そう! 最近会えなくてちょっと約束したのとは違うけど、それでもちゃんとヴァンに初めに言ったからね」
呆気にとられカイトを凝視する。律儀な奴だなぁと感心すら覚える。正直こんなくだらない約束とも思ってしまうが、昔の約束を今もこうやって守ってるカイトにとってこの約束は大切なものなのだろう。
「あっ! それとキルにはまだ言えてないからこの事言わないでね。直接言いたいから」
「別に律儀にそこまで守らなくてもいいんじゃないか……まぁ言わないけど」
「だって約束だからね。僕も夜、散歩するかぁ」
キルが聞いたらどんな顔するかなぁ、と嬉しそうに笑っているカイトに俺は相手がどんな人か気になった。
「なぁ、相手って誰なの?」
「ヴァンは会ったことあるか分からないけど、もう一人の補佐の女の子なんだ。すごく優しくて、いい子なんだ」
カイトは愛でる様な瞳でふわりと笑う。その顔があまりにも幸せそうだった。
「幸せそうだな」
思った事を口に出した。カイトは少し驚いた様子だったが歯に噛む様にまた笑う。
「うん。彼女に出会えて本当に幸せだよ」
カイトの幸せに胸が暖かくなるのを感じた。大切な人の幸せとは自分もこんなにも嬉しくなるものなんだと初めて知った。
キルもきっと喜ぶだろうな。
ここにいたら良かったのに、っともう一つの空いた席を眺め僅かに口角を上げる。
「ねぇ、ヴァン」
「ん?」
呼ばれてカイトを見る。優しい緑色の瞳と目が合う。それは射抜く様に俺を見ていて、思わず息を飲んでしまう。
「ヴァンもさ好きな人できるといいね。きっと世界が変わるから」
一瞬ドキリとする。その言葉は妙に説得力があって、俺の心に何故だか響いた。いつもなら軽くあしらえるのに、この時は何も言葉が出なかった。何も出来ない俺は黙ったまま空いた椅子をまた見つめる。
「ヴァンはさ……どう?」
「別に」
「そう……ねぇ、ヴァン。ヴァンがさ躊躇うのはあの事のせいなのかもしれないけど」
言葉を選んで話すカイトの言いたい事はすぐ分かった。だから、それ以上先は聞きたくなかった。
「悪いけどそれ以上はやめてくれ」
「そうだね、ごめんね。ここで話す話じゃないよね」
カイトは悲しそうに顔を落とす。カイトは優しい。心配してくれるのは分かってる。だから本当はこんな顔をさせたくはないのに……傷つけてしまう自分が嫌になる。
「キルにも昨日そう言われたんだ」
「ふふ、そうなんだね」
「お前らは二人揃って余計な事ばっかり」
「でもヴァンがどうしても辛い時にね、誰かがそばにいて欲しいんだ」
「なんで?」
カイトははたっとして俺を見つめる。そして首を傾げカイトも視線を空いた席に向け口を開く。
「なんでだろ……ううん、いつもそう思ってる。僕自身もそうなれたらと思ってるよ」
いつもの様に優しい笑顔。俺は何度だってこの笑顔に救われてきた。昔も今も側には二人がいてくれる。俺にとってそれだけで十分なのだ。ふと、窓の外を見る。皆はちゃんと仕事をしたのかと気になり出す。カイトも同じ様に視線を外に向ける。
「もういい時間かな? そろそろ、行こうか」
「そうだな」
「楽しい時間ってあっという間に終わっちゃうね」
そう言ってカイトは皿に残っていた料理を急いで口に運び頬張る。その様子が子供の様で自然に口元が綻ぶ。
「そんなに一気に食べると詰まるぞ」
「だひじょふぶ!」
口を空にしご馳走様、っと席を立ちカウンターに向かう。カウンターではカミールが忙しそうに酒を注いでいた。
「カミールさん! ご馳走様でした。ご飯すっごく美味しかったです!」
「ふふ、ありがと」
「お代、本当にいいんですか?」
「いいのいいの! これは私のささやかな気持ちだから受け取っておくれ。またおいでよ」
「はい! また来ます」
「えぇ、待ってるわ」
俺とカイトは再び礼を言い、店を後にする。外に出ると人影は少なく、店の光もまばらになっている。昨日の月明かりよりも若干暗く感じる静かな夜道を、二人並んで歩き出す。
「明日はヴァンと初めて一緒の任務になるね」
「そう言われると、そうだな」
「訓練学校にいた頃話してたよね。一緒の任務につけたらいいよねって」
「そうだったな。それがこんな任務だなんてな」
「不安?」
「まぁ、少し」
カイトは足元に転がる小石を軽く蹴り上げる。カランカランと乾いた音が小さく聞こえた。
「確かに、無謀な行動かもしれない。でもセラート様も早く解決したいと必死なんだ……それに、僕も」
「カイトも?」
「ごめんね。零隊の隊長はヴァンしかいないと思うよ。でもね、僕はヴァンが心配なんだ……危ない事ばかりだから」
「……」
カイトの思いに胸が締め付けられる。心配をしてくれるカイトに俺は、隊の皆には答えなかった話をする。
「今日瘴気の発生を見た」
「そうなの? 何かわかった?」
「何も……ただ、なんとなく感じたんだ。起こる気配みたいなものを」
「それって」
「多分俺の血が反応した。だから、あの霧はやはり闇ビトが関係してるんだ」
「ヴァン」
そう、俺の半分の血。闇ビトの血が知らせたんだ。人間の敵。忌むべき存在……汚れた血。ぎゅぅっと拳を握り締める。
「僕はそれが心配だったんだ……なのに」
「カイト?」
カイトは小さく首を振る。険しかった表情がふっと柔らかくなる。
「忘れないで。僕は何があっても、ヴァンの友達だから」
目頭がじんわりと熱を帯びた。口を開けない。開いたら柄にもなく泣いてしまいそうであった。代わりに俺は小さく頷いた。そんな話をしているうちに、お互いの家路の別れ道につく。
「このまま帰るの?」
「いや、あいつらがまだやってないから心配だから様子を見に行く」
「……せっかくだしこのまま帰って、たまにはゆっくりしたら?」
「大丈夫」
何より確認しないと、ゆっくり休めそうもない。
「仕事熱心なのもいいけど、少しは自分の事も……考えてね」
「分かってるよ。倒れたら元も子もないからな」
俺がそう言うと、カイトはいや、まぁと言い淀み苦笑いをしている。
「今日は楽しかったな……また、来ようね」
「そうだな」
「明日は頑張ろうね!」
「あぁ」
「じゃあね」
手を振りカイトは笑顔で別れを言う。街灯に照らされ小さくなっていくカイトの後ろ姿を俺は、なんとなく見送る。角を曲がり姿が見えなくなった頃、俺も歩み始める。
「覚えてないかな? ヴァンはその……あまり昔の事覚えてないから、忘れちゃったかな?」
カイトは眉を下げて視線を落とす。忘れると言うより俺は、両親が生きていた頃を思い出したくないだけだ。俺はカイトの憂いを払う様に首を振る。
「なんとなく覚えてる」
「そう! 最近会えなくてちょっと約束したのとは違うけど、それでもちゃんとヴァンに初めに言ったからね」
呆気にとられカイトを凝視する。律儀な奴だなぁと感心すら覚える。正直こんなくだらない約束とも思ってしまうが、昔の約束を今もこうやって守ってるカイトにとってこの約束は大切なものなのだろう。
「あっ! それとキルにはまだ言えてないからこの事言わないでね。直接言いたいから」
「別に律儀にそこまで守らなくてもいいんじゃないか……まぁ言わないけど」
「だって約束だからね。僕も夜、散歩するかぁ」
キルが聞いたらどんな顔するかなぁ、と嬉しそうに笑っているカイトに俺は相手がどんな人か気になった。
「なぁ、相手って誰なの?」
「ヴァンは会ったことあるか分からないけど、もう一人の補佐の女の子なんだ。すごく優しくて、いい子なんだ」
カイトは愛でる様な瞳でふわりと笑う。その顔があまりにも幸せそうだった。
「幸せそうだな」
思った事を口に出した。カイトは少し驚いた様子だったが歯に噛む様にまた笑う。
「うん。彼女に出会えて本当に幸せだよ」
カイトの幸せに胸が暖かくなるのを感じた。大切な人の幸せとは自分もこんなにも嬉しくなるものなんだと初めて知った。
キルもきっと喜ぶだろうな。
ここにいたら良かったのに、っともう一つの空いた席を眺め僅かに口角を上げる。
「ねぇ、ヴァン」
「ん?」
呼ばれてカイトを見る。優しい緑色の瞳と目が合う。それは射抜く様に俺を見ていて、思わず息を飲んでしまう。
「ヴァンもさ好きな人できるといいね。きっと世界が変わるから」
一瞬ドキリとする。その言葉は妙に説得力があって、俺の心に何故だか響いた。いつもなら軽くあしらえるのに、この時は何も言葉が出なかった。何も出来ない俺は黙ったまま空いた椅子をまた見つめる。
「ヴァンはさ……どう?」
「別に」
「そう……ねぇ、ヴァン。ヴァンがさ躊躇うのはあの事のせいなのかもしれないけど」
言葉を選んで話すカイトの言いたい事はすぐ分かった。だから、それ以上先は聞きたくなかった。
「悪いけどそれ以上はやめてくれ」
「そうだね、ごめんね。ここで話す話じゃないよね」
カイトは悲しそうに顔を落とす。カイトは優しい。心配してくれるのは分かってる。だから本当はこんな顔をさせたくはないのに……傷つけてしまう自分が嫌になる。
「キルにも昨日そう言われたんだ」
「ふふ、そうなんだね」
「お前らは二人揃って余計な事ばっかり」
「でもヴァンがどうしても辛い時にね、誰かがそばにいて欲しいんだ」
「なんで?」
カイトははたっとして俺を見つめる。そして首を傾げカイトも視線を空いた席に向け口を開く。
「なんでだろ……ううん、いつもそう思ってる。僕自身もそうなれたらと思ってるよ」
いつもの様に優しい笑顔。俺は何度だってこの笑顔に救われてきた。昔も今も側には二人がいてくれる。俺にとってそれだけで十分なのだ。ふと、窓の外を見る。皆はちゃんと仕事をしたのかと気になり出す。カイトも同じ様に視線を外に向ける。
「もういい時間かな? そろそろ、行こうか」
「そうだな」
「楽しい時間ってあっという間に終わっちゃうね」
そう言ってカイトは皿に残っていた料理を急いで口に運び頬張る。その様子が子供の様で自然に口元が綻ぶ。
「そんなに一気に食べると詰まるぞ」
「だひじょふぶ!」
口を空にしご馳走様、っと席を立ちカウンターに向かう。カウンターではカミールが忙しそうに酒を注いでいた。
「カミールさん! ご馳走様でした。ご飯すっごく美味しかったです!」
「ふふ、ありがと」
「お代、本当にいいんですか?」
「いいのいいの! これは私のささやかな気持ちだから受け取っておくれ。またおいでよ」
「はい! また来ます」
「えぇ、待ってるわ」
俺とカイトは再び礼を言い、店を後にする。外に出ると人影は少なく、店の光もまばらになっている。昨日の月明かりよりも若干暗く感じる静かな夜道を、二人並んで歩き出す。
「明日はヴァンと初めて一緒の任務になるね」
「そう言われると、そうだな」
「訓練学校にいた頃話してたよね。一緒の任務につけたらいいよねって」
「そうだったな。それがこんな任務だなんてな」
「不安?」
「まぁ、少し」
カイトは足元に転がる小石を軽く蹴り上げる。カランカランと乾いた音が小さく聞こえた。
「確かに、無謀な行動かもしれない。でもセラート様も早く解決したいと必死なんだ……それに、僕も」
「カイトも?」
「ごめんね。零隊の隊長はヴァンしかいないと思うよ。でもね、僕はヴァンが心配なんだ……危ない事ばかりだから」
「……」
カイトの思いに胸が締め付けられる。心配をしてくれるカイトに俺は、隊の皆には答えなかった話をする。
「今日瘴気の発生を見た」
「そうなの? 何かわかった?」
「何も……ただ、なんとなく感じたんだ。起こる気配みたいなものを」
「それって」
「多分俺の血が反応した。だから、あの霧はやはり闇ビトが関係してるんだ」
「ヴァン」
そう、俺の半分の血。闇ビトの血が知らせたんだ。人間の敵。忌むべき存在……汚れた血。ぎゅぅっと拳を握り締める。
「僕はそれが心配だったんだ……なのに」
「カイト?」
カイトは小さく首を振る。険しかった表情がふっと柔らかくなる。
「忘れないで。僕は何があっても、ヴァンの友達だから」
目頭がじんわりと熱を帯びた。口を開けない。開いたら柄にもなく泣いてしまいそうであった。代わりに俺は小さく頷いた。そんな話をしているうちに、お互いの家路の別れ道につく。
「このまま帰るの?」
「いや、あいつらがまだやってないから心配だから様子を見に行く」
「……せっかくだしこのまま帰って、たまにはゆっくりしたら?」
「大丈夫」
何より確認しないと、ゆっくり休めそうもない。
「仕事熱心なのもいいけど、少しは自分の事も……考えてね」
「分かってるよ。倒れたら元も子もないからな」
俺がそう言うと、カイトはいや、まぁと言い淀み苦笑いをしている。
「今日は楽しかったな……また、来ようね」
「そうだな」
「明日は頑張ろうね!」
「あぁ」
「じゃあね」
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