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第二章

やっぱりパンが食べたい~ 1 

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ただ今、ベリオンは建設ラッシュ真っ最中。
子供を育てる保育施設や学校を拡張したり新規に作ったり、それとゆくゆく全員が半ルルゥ化したら空気のある広場や施設なんかも増やしていこうと、あっちこっちでワーワーと寄ってたかってトンカンやってるわけ。
すっごく楽しいけど、とにかく毎日が忙しい。
そんな中、俺のパン食べたい欲求はどんどん溜まってきて、もういてもたってもいられなくなってきた。
ううう、パン~。
リリィの世界の食べ物はとっても美味しかった。
バリエーションも豊富だし、見た目も工夫されてて盛りつけも鮮やか。
全然不満なんかないんだよ?
でもね、パン~。
あれだけは別格なんだよ~。
リリィの世界は水の中だから、当たり前だけど火を使わない。
だから香ばしい焼き物関係は全滅なんだよね。
ルルゥとリリィにも食べさせてあげたいし、皆に先駆けて半ルルゥ化してる統括メンバーにもぜひご賞味頂きたいわけよ。
絶対に唸らせる自信あるもん。
と、いうわけで、そろそろ計画を発動させようと思います~。
まずは、水の中に入れても中の物が濡れない防水パックの開発だ。
簡単に言えばジップロックみたいなヤツね。
新商品、いや新部材開発会議を開こう。
俺の元の世界に詳しいカナンさんと、原料の材料が豊富なエカンデを統括しているラシードさんに声をかけてみた。
カナンさんの知識に対する欲望はハンパじゃないから、即食いついてきたよ。
ラシードさんも面白いことが好きなタチだから、すぐに時間を調整してくれた。わ~い。

統括のメンバーは全員半ルルゥ化してるから、ラウンジはもう空気がある地上と同じ環境になってる。
ソファで足を組んで背凭れに寄りかかってリラックス姿勢のカナンさん、マジでモデルだわ。
寝不足みたいで、伏目のまま気だるげにオレンジの髪を掻き上げてるところなんか、色気駄々洩れ。
エロいわ~。こりゃモテるわな。
でも誰かさん以外は眼中にないんだよな。一途ですなぁ。
ラシードさんはスポーツマン系だから、対照的。
青い短髪のクセ毛にブルーアイ、ガテン系の筋肉の持ち主。
はっきり物を言うけど、嫌みがなくてさっぱりしてる。
江戸っ子っぽい感じかな。
男っぽくていいよな、羨まし~。
「そんな便利なものがあれば、色々と他にも転用出来そうだな」
説明を聞いたラシードさんが、ううむと感心している。
「だね~、やっぱりナオ様の元の世界は情報の宝庫だな」
カナンさんはメモを取るのに余念がない。
「どうかな?作れそう?」
ドキドキしながら2人に聞いたら、即答。
「やれんじゃねぇか?」
「だな。作れるよ~」
ウッソ!マジか~。
「やたっ」
俺は飛び上がって手を叩いた。
元々、腰に巻いてる布は防水布だから、後は口をピタリと密着させられてまた開けられればいいんだと。
建設現場で材料を繋ぐ際に使っているジェルタイプの接着剤があって、それを型に入れて半固形にする添加物を混ぜる時に布の端を入れれば出来上がり。
材料はチンプンカンプンだけど、工程と仕上がりのイメージは掴めたぞ。
俺の想像だとガマ口の財布くらいしか浮かばないけどね。
「じゃあ布を成型する時に丸とか四角にしてみて、あとは色々なサイズでやってみよう」
どちらにしても今後も使えるものだから、優先順位を上げて作ってくれるって。
ラシードさん、話が早いわ~。
デキる男は違うね。
配合の調整や工程の監修はカナンさんがしてくれる。
一週間もあれば作れると聞いて、もうワクワク。
よし、計画の第2段階に移ろう。
ライジャに島に行く許可をとらなくちゃだ。
実は今後、俺が生活してたあの島を整備する計画がある。
リリィの民が子供を作るには、半ルルゥ化してからルルゥの島で、あのその…セ、セックスするんだって。
リリィの世界でも妊娠出来なくはないらしいんだけど、妊娠する確率というか、回数?が必要で難しいんだと。
だからベリオンの施設が整ってきたら、島の方もリゾート化?しようってことになってるんだ。
ハネムーンでハワイに行く感じだな。
ルルゥ・リゾートアイランドってか。ふはっ、良い感じ。
でもでも、それまで待てないよぅ。
なので、ベリオンでの進捗に影響しない程度に、ひとりかふたりで島に行って速攻でパンを焼いて持ち帰ろう計画。

夜、部屋に戻ってからソファに座ったライジャの向かいの床にペタンと座って見上げてみた。
「どうした、ナオ。床に座らないで、ほらここにおいで」
ちょっと驚いて俺を膝の上に抱き上げようとするのを制して、俺は首を傾げながらライジャの膝に頭を乗せてみた。
「お願いがあるんだ、ライジャ」
「お願い?」
不思議そうに見下ろしてくるライジャに、俺は出来る限り可愛くおねだりしてみた。
「俺、ちょっとお暇をもらえるかな?」
「お暇……休みということか?疲れが溜まってしまったか?」
「ううん、そうじゃないよ。俺、ルルゥの島に行き……へ?」
その瞬間のライジャの顔の変化にビックリしてしまって、そこで言葉が止まった。
驚きと焦りと少しの悲しみ?
「なん……だと。何故だナオ、何かあったのか?誰かが何か、いや、私が何かしたか?」
ほえっ?
ビックリしたけど、何か分からないけどライジャが誤解してることだけは分かった。
「ライジャ、違うよ?」
慌てて膝の上に跨いで乗っかって、ライジャの顔を両手で挟む。
「俺は日帰りでルルゥの島に行きたいだけだよ?用事があって。夜にはすぐ帰ってくるよ?」
早口で言った俺の言葉に、ライジャの体から徐々に力が抜けていく。
「……ああ、そういうことか……はは、済まない。勘違いしてしまった」
はあっ、と溜め息をついたライジャはいつもの優しい笑顔に戻った。
「カナンから、その……お暇をもらうというのは家を出ていくことだと教わったのでな。島に…実家に帰る程のことがあったのかと驚いてしまった」
んなっ!?
カナンさんめ~、何でそんな言葉を教えるかなっ?
実家に帰らせて頂きますとか、昼メロかーい。
俺も力が抜けて、ぐったりとライジャの肩になついてしまったよ。
「なんちゅう言葉を習ってるのさ、カナンさんに~」
「特殊な言葉なのか?これは」
うう~ん、そうだよな。
ライジャはどういうニュアンスで使う言葉かなんて分からないよなぁ。
今度カナンさんと、俺の元世界のことをちゃんと話さないとダメだなこりゃ。
「俺もごめん。姑息な手を使わずに、もっと単刀直入に言えばよかったね」
ちゃんとライジャの目を真っ直ぐに見て、俺は思いのたけを訴えることにした。
「俺はね、俺はただ………うぅ……パ、パンが食べたいんだよぉ~」
ライジャはしばらく目を点にした後に、爆笑しました。はい。
でーすーよーねー。
うぐぐ、でも負けないぞっ。
だってだって、パンは特別なんだ。
いやもうこの世界に存在しないものだったら諦めもついたけどさ。
あるんだもんさー。
すっげー香ばしくて美味しいヤツがさー。
我慢できないよね?しょうがないよね?
そのへんを切々と訴えてたら、ようやく笑いの発作から復活してきた王様がウンウンと同意してくれた。
「くくっ……そうだな、あれは美味いからな。我慢出来ないな」
「そうそうっ。もちろん忙しいのは分かってるからさ、俺と他に2人くらいでササっと行って作って帰ってくるからっ」
ライジャが、おいおいと笑いながら髪を撫でてくる。
「何故私を置いていくのだ?島に行くなら私も一緒に行くぞ」
「えっ?そりゃあ一緒に行ってほしいけど、ライジャ忙しいし……いきなり言い出したことだし、迷惑かけられないよ」
「恋人の可愛い我儘くらい、いつでも聞ける甲斐性はあるぞ?」
ふおっ、突然のデレ発言~。
ニヤっと笑って額にチュっとキスを落とされた。
ひえ~、このイケメンオーラには未だに免疫を獲得できてませ~ん。
「それに、こんなのは我儘の内にも入らないぞ?島の家の設営下見を兼ねればいいだけではないか」
「え、いいの?まだ早いんじゃ」
それはチラっと考えたけど、まだ早いかと思ったんだよね。
「心配しなくていい。警護の者は今後島へ渡る者の付き添いで往復することが増えるから慣らしておいた方がいいし、どの辺りに家を建てるか検討もしておきたい。カナンも島の植生とかを調査したいと言っていたしな。そろそろ行こうと思っていたのだ」
「そうなんだ。良かった~」
どうせなら他にも色々と一気にやってしまおうと、すぐに計画を立てることになった。わーい。
「それで、さっきの下に座る行動には何の意味があったのだ?」
あ、忘れててくれなかったんですね。
「え~と、その……お願いごとがある時は、下から見上げると成功する確率が上がるという調査結果がありましてですね…」
「ああ、確かにナオのこの美しい大きな黒目をキラキラさせながら見上げられたら、ドキドキするな。でもどんな角度から見られても私の胸はいつも高鳴るよ」
ナオはどこから見ても美しくて可愛いからなと頬を撫でながらウットリ言わんで下さ~い。
デレテロリストがいます~。
エロテロリスト、舐めテロリストに続き3個目のテロが発生です~。
ヤメテ~、直撃されて恥ずか死ぬからっ。
この後、当然のように他の2つのテロも発生しました。撃沈。
翌日の大量のエキス玉にメルサさんとカナンさんがホクホク顔でした。
はぁ、自分で蒔いた地雷を踏み抜いたわ。
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