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第二部 復興編
40.タンパルへ
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怪我をして一晩泊ったが幸い発熱も無く、早朝に元気に目覚めた。
「化膿止めの薬と、消毒草も持って行って下さいね」
出発に先立ち、ファルムが傷用の薬を持たせてくれた。
「おう、助かる。ありがとな」
「とんでもないです。こちらこそ、感謝してもしきれないですから」
恐縮するファルムの後ろで、トト爺さんがウンウンと頷いている。
「そうです、これでスーカを閉鎖しなくて済みます。本当にありがとうございます」
トト爺さんは、これからあの場所をみんなで改修して使いやすい形にすると意気込んでいる。
湧きだした水は、一晩でほぼ家を水没させて、すり鉢状の広場を8割方満たしていた。
井戸というよりも、湧き水で出来た池になっている。
汲みやすいし、使い勝手は良さそうだ。
ファルムは更に、絶品の弁当も持たせてくれた。
やった!あのスパイス癖になる美味さだから、地味に嬉しいわ~。
出発しようと馬の所に行くと、2頭の馬の間にロープで固定されたソリのようなものが用意されていた。
「え、これってソリ‥‥?」
「これはマンバと言って、サザレーに買い出しに行く時に使う滑車なんですよ。普通は1頭の馬に括りつけてゆっくり引くものですが、2頭の間に繋げば砂を被らずにスピードが出せます」
「へえ~」
見た目は雪国で使う犬ぞりに似ていた。
真ん中にはイスが取りつけられていて、クッションのようなものも付いてる。
「怪我をさせてしまったお詫びに、これを用意しました。傷が良くなるまでは、どうぞ移動時はこれを使って下さい」
「トト爺さん、済まないな。有り難く使わせてもらうよ」
スザールがトト爺さんの肩を叩いて感謝している。
「なんの。こんなもので返せる恩ではないが、先を急ぐのだろう?また寄ってくれたら、今度は酒に合う薬草のつまみを沢山用意しておくぞ」
「そりゃいいな」
そんな会話をしているスザールは、かなり飲めるらしい。
ザウスと同類か?コイツもバケモノなのか?こわっ!
俺達は陽が昇る前にスーカを出発した。
タンパルまでは通常で7日。
飛ばせば4日で行けるだろう。
もちろん、雲を出して陽射しカットの快適行軍だ。
タンパルまでのルートは、他の場所よりも砂漠の砂が細かくて滑らかだった。
最初はおっかなびっくりマンバに乗っていた俺も、まるで湖面を滑る水上スキーのような感覚にすぐにハマった。
「おお~、結構スピード出してるのに、こんなにスムーズなんだな」
マンバを引いてる馬の上で、スザールが笑う。
「これは多分スーカの中で一番いいマンバだな。普通のマンバはもっとガタガタするもんだ」
え、そうなのか?
「恩人だから、最上級のヤツをくれたんだろう。それくらい水は有り難いものなんだよ」
そうか、そうだな。
こんな広大な砂漠地帯だもんな。
「俺の世界じゃ、この砂漠の部分が逆に全部水なんだよなぁ」
元の世界と比較して呟くと、スザールがギョッとした顔で振り向いた。
「そんなに多いのか、水が」
「塩分濃度が高いから飲める訳じゃないけどな。7対3くらいで陸地が3だったかな?だから結構みんな泳げるんだよ。こっちの人達が普通に馬に乗れるのと同じでね」
「なるほどなぁ。環境が違えば、生活の形も違う訳だ」
ぜひ一度見てみたいものだと、スザールが楽しそうに笑っている。
うん、見せたいもんだな。
多分カルチャーショックを起こすだろうけど、使える技術なんかは沢山ある筈だ。
「逆召喚が出来ないか、リネルに調べてもらうか」
「おっ、それはいいな!」
まあ無理なんだろうけどな。
あっちの世界にゃ魔法は無いし。
逆異世界転移とか、もうラノベの世界だな。
順調に距離を稼いだ俺達は、タンパル到着の前日にアデル一行と合流できた。
落ち合う位置は、俺の癒しであるククルが活躍してくれた。
可愛くて、また餌を多めにあげてしまった。
そのつぶらな瞳がたまらん!
ちょうど打撲が治りかけで、すごい色の痣になっていた俺の足を見て、アデル姫やリネルは真っ青になった。
普段、空手やパルクールでコケるとよく痣を作っていたから特に気にしていなかった俺は、逆にふたりの驚きようにビックリした。
「これくらい普通だろ?」
「………そうなの?」
アデル姫が心配そうに回りに目を向けると、兵士達がウンウンと笑いながら頷く。
「折れてなけりゃ、全然問題ないさ」
「そうそう。腱も切れてないし、傷も化膿や壊死も無いし」
おいおい、姫さんの顔色がかえって悪くなってるじゃないか。
言葉を選べ、言葉を。
翌日、俺達は当初の予定通りの日程でタンパルに到着した。
「………あ~、これは………」
そこはかなり深刻な状況なのが一目でわかった。
「化膿止めの薬と、消毒草も持って行って下さいね」
出発に先立ち、ファルムが傷用の薬を持たせてくれた。
「おう、助かる。ありがとな」
「とんでもないです。こちらこそ、感謝してもしきれないですから」
恐縮するファルムの後ろで、トト爺さんがウンウンと頷いている。
「そうです、これでスーカを閉鎖しなくて済みます。本当にありがとうございます」
トト爺さんは、これからあの場所をみんなで改修して使いやすい形にすると意気込んでいる。
湧きだした水は、一晩でほぼ家を水没させて、すり鉢状の広場を8割方満たしていた。
井戸というよりも、湧き水で出来た池になっている。
汲みやすいし、使い勝手は良さそうだ。
ファルムは更に、絶品の弁当も持たせてくれた。
やった!あのスパイス癖になる美味さだから、地味に嬉しいわ~。
出発しようと馬の所に行くと、2頭の馬の間にロープで固定されたソリのようなものが用意されていた。
「え、これってソリ‥‥?」
「これはマンバと言って、サザレーに買い出しに行く時に使う滑車なんですよ。普通は1頭の馬に括りつけてゆっくり引くものですが、2頭の間に繋げば砂を被らずにスピードが出せます」
「へえ~」
見た目は雪国で使う犬ぞりに似ていた。
真ん中にはイスが取りつけられていて、クッションのようなものも付いてる。
「怪我をさせてしまったお詫びに、これを用意しました。傷が良くなるまでは、どうぞ移動時はこれを使って下さい」
「トト爺さん、済まないな。有り難く使わせてもらうよ」
スザールがトト爺さんの肩を叩いて感謝している。
「なんの。こんなもので返せる恩ではないが、先を急ぐのだろう?また寄ってくれたら、今度は酒に合う薬草のつまみを沢山用意しておくぞ」
「そりゃいいな」
そんな会話をしているスザールは、かなり飲めるらしい。
ザウスと同類か?コイツもバケモノなのか?こわっ!
俺達は陽が昇る前にスーカを出発した。
タンパルまでは通常で7日。
飛ばせば4日で行けるだろう。
もちろん、雲を出して陽射しカットの快適行軍だ。
タンパルまでのルートは、他の場所よりも砂漠の砂が細かくて滑らかだった。
最初はおっかなびっくりマンバに乗っていた俺も、まるで湖面を滑る水上スキーのような感覚にすぐにハマった。
「おお~、結構スピード出してるのに、こんなにスムーズなんだな」
マンバを引いてる馬の上で、スザールが笑う。
「これは多分スーカの中で一番いいマンバだな。普通のマンバはもっとガタガタするもんだ」
え、そうなのか?
「恩人だから、最上級のヤツをくれたんだろう。それくらい水は有り難いものなんだよ」
そうか、そうだな。
こんな広大な砂漠地帯だもんな。
「俺の世界じゃ、この砂漠の部分が逆に全部水なんだよなぁ」
元の世界と比較して呟くと、スザールがギョッとした顔で振り向いた。
「そんなに多いのか、水が」
「塩分濃度が高いから飲める訳じゃないけどな。7対3くらいで陸地が3だったかな?だから結構みんな泳げるんだよ。こっちの人達が普通に馬に乗れるのと同じでね」
「なるほどなぁ。環境が違えば、生活の形も違う訳だ」
ぜひ一度見てみたいものだと、スザールが楽しそうに笑っている。
うん、見せたいもんだな。
多分カルチャーショックを起こすだろうけど、使える技術なんかは沢山ある筈だ。
「逆召喚が出来ないか、リネルに調べてもらうか」
「おっ、それはいいな!」
まあ無理なんだろうけどな。
あっちの世界にゃ魔法は無いし。
逆異世界転移とか、もうラノベの世界だな。
順調に距離を稼いだ俺達は、タンパル到着の前日にアデル一行と合流できた。
落ち合う位置は、俺の癒しであるククルが活躍してくれた。
可愛くて、また餌を多めにあげてしまった。
そのつぶらな瞳がたまらん!
ちょうど打撲が治りかけで、すごい色の痣になっていた俺の足を見て、アデル姫やリネルは真っ青になった。
普段、空手やパルクールでコケるとよく痣を作っていたから特に気にしていなかった俺は、逆にふたりの驚きようにビックリした。
「これくらい普通だろ?」
「………そうなの?」
アデル姫が心配そうに回りに目を向けると、兵士達がウンウンと笑いながら頷く。
「折れてなけりゃ、全然問題ないさ」
「そうそう。腱も切れてないし、傷も化膿や壊死も無いし」
おいおい、姫さんの顔色がかえって悪くなってるじゃないか。
言葉を選べ、言葉を。
翌日、俺達は当初の予定通りの日程でタンパルに到着した。
「………あ~、これは………」
そこはかなり深刻な状況なのが一目でわかった。
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本当に、ありがとうございます。
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