え?聖女って、女性がなるものだよね? ~期間限定異世界救済プロジェクト~

月夜野レオン

文字の大きさ
61 / 68
第二部  復興編

41.ヤバイい現状

しおりを挟む
町に入る前から、立ち枯れた木がポツンポツンとあって、暗い雰囲気になっている。 

横を流れていたであろう川は完全に干上がって、川底がヒビ割れていた。 

「こりゃあ、離宮並みにひどいな」 

「タンパルは半年前から急激に悪化していると報告は上がっていたんだが、まさかここまでとは……」 

スザールも眉を顰めている。 

「ここの産業って、何なんだ?」 

「タンパルは果樹園をメインとして、野菜も作っている。どちらも水が重要だから、これでは壊滅的だな」 

ちょっと、住民の状態が心配になってきたわ。 

俺達は急いで町中に進んだ。 

途中で見る畑も果樹園も、葉はほとんど枯れていて実りなんて全く期待できない状態だった。 

心配したとおり、住民達の顔色は悪くて目に生気が無かった。 

畑や果樹園があの惨状じゃ、希望も何もないもんな。 

「これは、酷いですわ…」 

アデル姫も住民達を見て、青褪めている。 

「ここは王都から3日の距離なのに、何故こんなことに……これでは王都の住民が飢えてしまうわ」 

確かに、ここが王都の食の生産拠点ならば、王都に食べ物が行かずに大騒ぎになってる筈だよな。 

「……全員、一旦引き返すぞ」 

急にスザールが馬を方向転換させた。 

「えっ?戻るって……?」 

ポカンとしたが、兵士達はスザールの指示に即座に踵を返した。 

俺も慌てて向きを変えてスザールを追いかける。 

まだ町に入ったばかりの所だったので、すぐに外に出た。 

「どうしたんだ?スザール」 

横に並ぶと、スザールが険しい顔をしている。 

「王都で食料の供給が途絶えたという報告は聞いていない。不作で値段が高騰はしていたがな。こんな状態になっているなとど、宰相の所にも連絡は来ていない。何かある」 

え、それってどういうことだ? 

「ここの領主はまともな人物だが、物流に関しては関与していないんだ。王都への食物の流通を管理しているのはタンパル商会という所だ」 

「へえ~、じゃあ領地や住民の管理は領主がやって、産業は会社…商会が担っているってことか?」 

「そうだ」 

うん、分かりやすい。 

俺の世界と同じスタイルな訳か。 

「そのタンパル商会が怪しさ満点だな」 

「うむ、しかし……この現状で領主が動いていないというのはおかしい。おい、テイル」 

スザールがアデル姫の横で護衛をしているテイルを呼ぶ。 

「はい」 

素早い手綱捌きで、テイルが馬をスウっと寄せてきた。 

ほんと、この世界の人は人馬一体かってくらい手慣れている。 

「叔父上と連絡をとったのは何時が最後だ?」 

叔父上? 

ハテナマークを飛ばしている俺に、テイルはニコっと笑った。 

「ここの領主は俺の叔父なんですよ」 

は?そうなの? 

まさかお前も貴族のボンボンなの? 

俺の驚愕の表情に、テイルはブハっと噴き出しながら手を顔の前で振った。 

「いやいや、俺の母親は一般市民なんで、父は母と結婚する時に貴族籍から抜けています。なので俺は一般市民ですよ」 

「そうなのか~、親父さん貴族やめるなんて大恋愛だったんだな」 

「両親は未だに仲良いですね。まあ貴族と言っても下の方なんで、大して未練は無かったみたいですよ。叔父上は頭が良くて王宮勤めで出世したから領主になったんです。連絡はここ半年以上とっていなかったですね」 

ここがこんな状態になっているとは、とテイルも眉を顰めている。 

「ルカンダになにかあったのかもしれん。目立たないように、夜に接触を図ろう」 

くっそ、時間が無いって時にこれかい。 

「イヤな予感しかしないんだが…」 

「俺もだ」 

やっぱり? 

まさか、どこぞの領主みたいに監禁されているんじゃなかろうな? 

 

とりあえず町外れの農場に行って、スザールが農民と交渉して倉庫を借りて馬を隠した。 

ククルを王都の宰相に飛ばして、ガザルとライド王子一行の進み具合とタンパルの状況を連絡する。 

兵士の何人かを住民の恰好で町中に偵察に出し、俺とリネルも行商人に扮してタンパル商会を探りに行くことにした。 

リネルは髪色を変えてターバンみたいなものを頭に巻くと、商売人そのものになった。 

俺は付き人兼荷物持ちに扮した。 

売り物はもちろんスイカだ。 

離宮の方で新たに商売を始めたと言えば、こちらには名前が知られていなくても不思議じゃない。 

スイカが王都に流通しており、産地が離宮の地ということは既に広まっているだろうから、疑われることはないだろう。 

スザールがもっと護衛の人数を増やそうとしたが、一介の商売人が何人も護衛を付けているのは返って不自然だからと2人だけにしてもらった。 

ぶっちゃけ、俺が護衛役も兼任してるしな。 

午後になって町中の人が増えた頃を見計らって、急遽作ったスイカを荷車に乗せて商会を目指す。 

さて、鬼が出るか蛇が出るか。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...