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第二部 復興編
42.偵察
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俺とリネルで、スゲー緊張と警戒をしながら商会に向かう。
離宮から王都を経由して来たことを示す為に、敢えて反対側に回り込んで王都側の門から入ることにことにした。
「なあ、この囲いは何だろう?」
王都から町に入る門は豪華に作られていて、そこから商会までの道の左右は高い塀が作られている。
「何でしょうね。こんなものがあるとは知りませんでした」
リネルも知らないらしく、首を捻っている。
塀の高さは人の3倍はあって、登れるような所が無くて内側が見えない。
怪しさ満点だな。
王都から来た商売人ですと面会を希望した結果、あっさりと商館に入れてもらえた。
あれ?簡単過ぎない?
俺達がキョトンとして応接室のソファーに座っていると、タンパル商会のトップが登場した。
ええぇ、真っ先にラスボス登場?
「やあ、お待たせしました。わたくし、商会長のトトメスと申します」
ニコニコしながら現れたのは、中肉中背の中年のおじさんだった。
顔もこれと言った特徴もなく、その辺に転がってそうなフツーのおじさんで、ガクっと拍子抜けした。
どんな悪党面の御仁が登場するのとかと身構えていたんだが。
「どうも初めまして。わたくし、去年から離宮の地で果樹の商売を手掛けておりますネルリと申します」
リネルが微妙にもじった偽名で愛想よく自己紹介をする。
「ネルリ殿、先ほど持ち込まれたスイカを拝見・試食させて頂きましたぞ!王都に出回っているスイカよりも甘みが強く、最高のものですな。いや、まったくもって素晴らしい」
トトメスが身を乗り出して絶賛してくる。
目がキラキラだよ。
すんなり入れてもらえたのは、スイカの威力だった。
実は商会長に面談してもらえるように、俺達は持ち込んだスイカを受付の係の人にどうぞ試食してみて下さいと渡しておいた。
タンパルの商会長ならば、王都で話題のスイカはもちろん知っているだろうし、食べているに違いない。
だから並のスイカなんぞ目じゃない大きさで完熟させたものを持ち込んだ。
こんな最高品質のスイカを扱っている人物ならば、商会としては是非とも顔繫ぎをしたいと思う筈だ。
案の定、食いついて来た。
「そう言って頂けると嬉しいですねぇ。私も王都より先に足を伸ばすのは初めてでして、王都への入荷量筆頭のタンパル商会さんと一度お会いしたかったんですよ」
リネルがお会いできて良かったとニコニコ笑うと、トトメスも満更でもなさそうに笑う。
「お互いに、いい機会が持てましたな。我々も離宮の地と是非とも商売がしたいと思っておりました」
スイカをこちらに流通して頂ければ、こちらの商品もお安く手配しますよと揉み手をするトトメスに、リネルがしれっと問いかける。
「最近、どこも水不足で食べ物の価格が高騰してきていますよねぇ。王都でも前より4割高になっているとか。タンパル商会さんも生産に苦慮なさっているのではないですか?」
「ええそれはもう、日々悩ましい事の連ですよ。でもうちは独自の井戸を確保しておりますので、何とか生産を続けている次第です」
タンパル商会は井戸を持っているのか。
でも確保?
占有してるの間違いじゃないのか?
町の状態を見るに、他には水を回していない。
「それは素晴らしい!それでしたら、どんな品があるのか見せて頂いても?」
単純に品数があることを喜んでいるように見せて、リネルは商品を見定めたいと申し出る。
「そうですね。これから色々と取引してもらいたいですから、特別にお見せしましょう」
上手いなリネル。
あの謎の塀の中が覗けそうだ。
俺達はトトメスの案内で館から内庭に続く扉に案内された。
窓も無く、両側には人が立っていて、厳重に警備されている。
「……これは…」
扉の外は、全くの別世界だった。
見渡す限り木が植わっていて、色とりどりの果実が実っている。
「いかがですか?我がタンパル商会の自慢の果樹園です。どれも最高品質を保っておりますぞ」
トトメスが近くの木から桃のような実をもいで渡してきた。
あ然としたまま受け取ったピンク色の果実は芳醇な香りを放っていて、しっかりと管理された高品質のものであると分かる。
「あのスイカには敵いませんが、これもかなりの高額で取引されるものですよ」
ペラペラと質の良さを自慢するトトメスの言葉が耳を素通りしていく。
あの干乾びた木や畑、生気を失った人々の表情と、このたわわに実る木々との落差に愕然とした。
遠くで、井戸から水を汲み上げて回りの木にザバザバと巻いている作業員の姿が見える。
こりゃあスザールが見たら激高するなと思ったところで、横のリネルの表情に気がついた。
口を引き結んだまま、果実を持つ手が震えている。
あ、ヤバいわ。
「いやあ~これは見事ですねネルリ様!是非私どもと取引をお願いしましょうよ!」
わざと感嘆したように大声でリネルに話しかけると、心優しい召喚士はハッと我に返った。
「そ、そうですね……いやぁ素晴らしい風景に茫然としてしまいました」
表情を取り繕ったリネルはにこやかに笑って、トトメスと取引の話をしはじめた。
いや、分かるよリネル。
俺だって今すぐこのおっさんをぶっ飛ばしたいもん。
でも、今は偵察中。
我慢だ我慢。
ストレス溜まるわ~。
離宮から王都を経由して来たことを示す為に、敢えて反対側に回り込んで王都側の門から入ることにことにした。
「なあ、この囲いは何だろう?」
王都から町に入る門は豪華に作られていて、そこから商会までの道の左右は高い塀が作られている。
「何でしょうね。こんなものがあるとは知りませんでした」
リネルも知らないらしく、首を捻っている。
塀の高さは人の3倍はあって、登れるような所が無くて内側が見えない。
怪しさ満点だな。
王都から来た商売人ですと面会を希望した結果、あっさりと商館に入れてもらえた。
あれ?簡単過ぎない?
俺達がキョトンとして応接室のソファーに座っていると、タンパル商会のトップが登場した。
ええぇ、真っ先にラスボス登場?
「やあ、お待たせしました。わたくし、商会長のトトメスと申します」
ニコニコしながら現れたのは、中肉中背の中年のおじさんだった。
顔もこれと言った特徴もなく、その辺に転がってそうなフツーのおじさんで、ガクっと拍子抜けした。
どんな悪党面の御仁が登場するのとかと身構えていたんだが。
「どうも初めまして。わたくし、去年から離宮の地で果樹の商売を手掛けておりますネルリと申します」
リネルが微妙にもじった偽名で愛想よく自己紹介をする。
「ネルリ殿、先ほど持ち込まれたスイカを拝見・試食させて頂きましたぞ!王都に出回っているスイカよりも甘みが強く、最高のものですな。いや、まったくもって素晴らしい」
トトメスが身を乗り出して絶賛してくる。
目がキラキラだよ。
すんなり入れてもらえたのは、スイカの威力だった。
実は商会長に面談してもらえるように、俺達は持ち込んだスイカを受付の係の人にどうぞ試食してみて下さいと渡しておいた。
タンパルの商会長ならば、王都で話題のスイカはもちろん知っているだろうし、食べているに違いない。
だから並のスイカなんぞ目じゃない大きさで完熟させたものを持ち込んだ。
こんな最高品質のスイカを扱っている人物ならば、商会としては是非とも顔繫ぎをしたいと思う筈だ。
案の定、食いついて来た。
「そう言って頂けると嬉しいですねぇ。私も王都より先に足を伸ばすのは初めてでして、王都への入荷量筆頭のタンパル商会さんと一度お会いしたかったんですよ」
リネルがお会いできて良かったとニコニコ笑うと、トトメスも満更でもなさそうに笑う。
「お互いに、いい機会が持てましたな。我々も離宮の地と是非とも商売がしたいと思っておりました」
スイカをこちらに流通して頂ければ、こちらの商品もお安く手配しますよと揉み手をするトトメスに、リネルがしれっと問いかける。
「最近、どこも水不足で食べ物の価格が高騰してきていますよねぇ。王都でも前より4割高になっているとか。タンパル商会さんも生産に苦慮なさっているのではないですか?」
「ええそれはもう、日々悩ましい事の連ですよ。でもうちは独自の井戸を確保しておりますので、何とか生産を続けている次第です」
タンパル商会は井戸を持っているのか。
でも確保?
占有してるの間違いじゃないのか?
町の状態を見るに、他には水を回していない。
「それは素晴らしい!それでしたら、どんな品があるのか見せて頂いても?」
単純に品数があることを喜んでいるように見せて、リネルは商品を見定めたいと申し出る。
「そうですね。これから色々と取引してもらいたいですから、特別にお見せしましょう」
上手いなリネル。
あの謎の塀の中が覗けそうだ。
俺達はトトメスの案内で館から内庭に続く扉に案内された。
窓も無く、両側には人が立っていて、厳重に警備されている。
「……これは…」
扉の外は、全くの別世界だった。
見渡す限り木が植わっていて、色とりどりの果実が実っている。
「いかがですか?我がタンパル商会の自慢の果樹園です。どれも最高品質を保っておりますぞ」
トトメスが近くの木から桃のような実をもいで渡してきた。
あ然としたまま受け取ったピンク色の果実は芳醇な香りを放っていて、しっかりと管理された高品質のものであると分かる。
「あのスイカには敵いませんが、これもかなりの高額で取引されるものですよ」
ペラペラと質の良さを自慢するトトメスの言葉が耳を素通りしていく。
あの干乾びた木や畑、生気を失った人々の表情と、このたわわに実る木々との落差に愕然とした。
遠くで、井戸から水を汲み上げて回りの木にザバザバと巻いている作業員の姿が見える。
こりゃあスザールが見たら激高するなと思ったところで、横のリネルの表情に気がついた。
口を引き結んだまま、果実を持つ手が震えている。
あ、ヤバいわ。
「いやあ~これは見事ですねネルリ様!是非私どもと取引をお願いしましょうよ!」
わざと感嘆したように大声でリネルに話しかけると、心優しい召喚士はハッと我に返った。
「そ、そうですね……いやぁ素晴らしい風景に茫然としてしまいました」
表情を取り繕ったリネルはにこやかに笑って、トトメスと取引の話をしはじめた。
いや、分かるよリネル。
俺だって今すぐこのおっさんをぶっ飛ばしたいもん。
でも、今は偵察中。
我慢だ我慢。
ストレス溜まるわ~。
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