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第二部 復興編
43.下準備
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次に来た時に本契約をしましょうと仮契約を交わして、俺とリネルは商会を出た。
無言のまま荷馬車に乗って門を出て、砂漠をしばらく行ったところで降りる。
二人でタタタっと荷馬車から距離をとると、地面に向かって吠えた。
「あんの野郎!人畜無害な顔して、とんだ腹黒だなっ」
「ふざけるな~!自分の利益だけ追及しやがって、他の人達はどうでもいいってか!」
溜めに溜めていた暴言を、ふたりして心ゆくまで叫んだ。
これは溜め込んでおくと精神衛生上悪いからな。
息が切れるまで罵倒して、ようやく留飲を下げた俺達は馬車に戻った。
十分距離を取ったつもりだったが、ビビった馬にちょっと避けられてしまった。
いや、すまん。
お前には怒ってないからな。
「でも成果はバッチリだったな」
「そうですね。井戸の占領もですが、領主が病で寝込んでいるというのは有用な情報でした」
契約を進めながら聞きだしたのは、領主の状況。
俺達が何気なく帰りに町の方で買い物でもして帰ろうかと思っていると言った途端、トトメスは慌てて制止してきた。
町では危険な病が流行っているので行かない方が良いと言われた。
まあ、あの町の惨状を見られたらマズいと思ったんだろう。
ついでにルカンダ領主も病に罹っていて、今は寝たきりなんだと口を滑らせた。
ほうほう、病ねぇ。
急ぎスザール達が隠れている農家まで戻ると、町に偵察に出ていた兵士達も戻ってきていた。
持ち寄った情報をまとめると、こうだった。
半年前くらいから川の水量が減り出し、果樹園の樹々が実をつけなくなってきた。
タンパル商会が原因究明の調査を行っているが、成果は出ていない。
同じ時期に領主のルカンダが病に倒れる。
病床で執務を行っているらしいが、表には全然出てこない。
病気の感染を予防する為に、一般人は屋敷に入れない。
看病や執務の補助としてタンパル商会の人間だけが出入りしている。
町の人達は領主に現状の改善策と国からの援助を嘆願しているが、代理人は進めているの一点張りで動きはない。
「完全に黒だな」
「ああ、タンパル商会がガッチリと牛耳っているな」
トトメスめ、人畜無害な振りをしてとんだたぬきオヤジだ。
「領主がこんな状態の民を放っておく訳がありません。絶対にタンパルの人間が何かしているんです。すぐに屋敷に乗り込みましょう!」
鼻息も荒く意気込むリネルに、みんなはビックリして目を点にしている。
普段は理性的で優しい召喚士殿がここまで怒りを露わにしているのは、見たことがなかったんだろう。
俺もさっき、あれだけ悪態をつくリネルを初めて見たからな。
いや、優しいだけに、あの町の人々の姿とたわわに実った果樹の対比が許せなかったんだろう。
「もちろん乗り込むさ。だが、やるからには一気に片をつけないとな。時間も無いし」
スザールがみんなの顔を見回してから、ニヤリと笑う。
「潜入は夜。それまでに計画の詳細と準備を進めるぞ」
さすがスザール、もう計画を立ててあるらしい。
こんな時は知識と経験があるリーダーがいると頼もしいぜ。
「アキラ、お前には一番走り回ってもらうからな」
「うぐっ……もちろん」
そう来るか~、まあそうだよな。
夜、俺と兵士5人は決行時間ギリギリで領主の館の近くにある建物の陰で待つスザール達と合流した。
「おう、アキラ。守備はどうだった?」
「…………わ、悪い……5分、いや3分…だけ、休ませてくれ」
町の外れからずっと走りっぱなしだった俺は、さすがにしんどくて地面にへたり込んだ。
心臓と肺と足の筋肉が悲鳴を上げている。
「アキラ、これを飲んで」
アデル姫が水の入った袋を渡してくれた。
有り難い、ほんまもんの女神に見えるわ。
怪我からこっち、トレーニングを控えていたのが仇になったか?
と、後ろを見ると、同行していた5人もへばっていた。
おお、良かった。
鈍った訳じゃなくて、任務がハード過ぎたんだな。
俺は5人の兵士達と、川の源流の方まで枯れた原因を探りに行っていた。
領主や商会の件が片付いたとしても、水が無ければ根本解決にならないからな。
潜入予定の時刻までに戻る時間制限付きで馬を飛ばしたが、源流は思いの外遠かった。
しかも出処の水源はやっぱり枯れていて、サーチしても枯渇していた。
川を辿りながらウロウロと探っていると、途中で少し凹んだスジが横に逸れてある場所をみつけた。
過去に川が流れていたかもしれないと、今度はそのスジを辿ってサーチしていく。
そして、またしても現れたのは岩山。
「………なんかデジャヴー。またこれかい」
前にも遭遇したぞ、これ。
「……あ~、また岩壁破壊っすね」
「ランドス再び……」
兵士達も苦笑している。
そう、コイツらはランドスでも一緒に行動していたメンバーだから覚えているわな。
「……だなぁ。リル爆弾でチュドーンとやるしかないパターンだな」
幸いそんなに深くないし、一撃でいけそうだ。
「よし、目印にリルを1本生やしておこう」
どうせ使うしな。
地面に枝を刺して、ニョキっと生やした。
もう夕方になっているので、急いで引き返す。
ここまで来る間、川沿いをずっと辿っていたが、調査の跡どころか足跡すら無かった。
商会が調査をしているなんて、大嘘だな。
タンパルへ馬を走らせながら、兵士のひとりがぼやく。
「何か俺、リルの木がさくさく生えるの見慣れちまって、驚かなくなってきた」
「あ~、俺も。自分の感覚がどんどん非常識になっていくのを実感するわ」
他の兵士達もウンウンと同意している。
すまんなぁ、非常識の元凶で。
町外れの隠れ蓑にしている農家で馬を下りた時は既に夜だった。
そこから俺達は静かに、しかし全速力で待ち合わせポイントまで走った。
とにかく作戦のスタートに間に合って良かった。
息を整えて、配置につく。
さて、これから侵入作戦開始だ。
無言のまま荷馬車に乗って門を出て、砂漠をしばらく行ったところで降りる。
二人でタタタっと荷馬車から距離をとると、地面に向かって吠えた。
「あんの野郎!人畜無害な顔して、とんだ腹黒だなっ」
「ふざけるな~!自分の利益だけ追及しやがって、他の人達はどうでもいいってか!」
溜めに溜めていた暴言を、ふたりして心ゆくまで叫んだ。
これは溜め込んでおくと精神衛生上悪いからな。
息が切れるまで罵倒して、ようやく留飲を下げた俺達は馬車に戻った。
十分距離を取ったつもりだったが、ビビった馬にちょっと避けられてしまった。
いや、すまん。
お前には怒ってないからな。
「でも成果はバッチリだったな」
「そうですね。井戸の占領もですが、領主が病で寝込んでいるというのは有用な情報でした」
契約を進めながら聞きだしたのは、領主の状況。
俺達が何気なく帰りに町の方で買い物でもして帰ろうかと思っていると言った途端、トトメスは慌てて制止してきた。
町では危険な病が流行っているので行かない方が良いと言われた。
まあ、あの町の惨状を見られたらマズいと思ったんだろう。
ついでにルカンダ領主も病に罹っていて、今は寝たきりなんだと口を滑らせた。
ほうほう、病ねぇ。
急ぎスザール達が隠れている農家まで戻ると、町に偵察に出ていた兵士達も戻ってきていた。
持ち寄った情報をまとめると、こうだった。
半年前くらいから川の水量が減り出し、果樹園の樹々が実をつけなくなってきた。
タンパル商会が原因究明の調査を行っているが、成果は出ていない。
同じ時期に領主のルカンダが病に倒れる。
病床で執務を行っているらしいが、表には全然出てこない。
病気の感染を予防する為に、一般人は屋敷に入れない。
看病や執務の補助としてタンパル商会の人間だけが出入りしている。
町の人達は領主に現状の改善策と国からの援助を嘆願しているが、代理人は進めているの一点張りで動きはない。
「完全に黒だな」
「ああ、タンパル商会がガッチリと牛耳っているな」
トトメスめ、人畜無害な振りをしてとんだたぬきオヤジだ。
「領主がこんな状態の民を放っておく訳がありません。絶対にタンパルの人間が何かしているんです。すぐに屋敷に乗り込みましょう!」
鼻息も荒く意気込むリネルに、みんなはビックリして目を点にしている。
普段は理性的で優しい召喚士殿がここまで怒りを露わにしているのは、見たことがなかったんだろう。
俺もさっき、あれだけ悪態をつくリネルを初めて見たからな。
いや、優しいだけに、あの町の人々の姿とたわわに実った果樹の対比が許せなかったんだろう。
「もちろん乗り込むさ。だが、やるからには一気に片をつけないとな。時間も無いし」
スザールがみんなの顔を見回してから、ニヤリと笑う。
「潜入は夜。それまでに計画の詳細と準備を進めるぞ」
さすがスザール、もう計画を立ててあるらしい。
こんな時は知識と経験があるリーダーがいると頼もしいぜ。
「アキラ、お前には一番走り回ってもらうからな」
「うぐっ……もちろん」
そう来るか~、まあそうだよな。
夜、俺と兵士5人は決行時間ギリギリで領主の館の近くにある建物の陰で待つスザール達と合流した。
「おう、アキラ。守備はどうだった?」
「…………わ、悪い……5分、いや3分…だけ、休ませてくれ」
町の外れからずっと走りっぱなしだった俺は、さすがにしんどくて地面にへたり込んだ。
心臓と肺と足の筋肉が悲鳴を上げている。
「アキラ、これを飲んで」
アデル姫が水の入った袋を渡してくれた。
有り難い、ほんまもんの女神に見えるわ。
怪我からこっち、トレーニングを控えていたのが仇になったか?
と、後ろを見ると、同行していた5人もへばっていた。
おお、良かった。
鈍った訳じゃなくて、任務がハード過ぎたんだな。
俺は5人の兵士達と、川の源流の方まで枯れた原因を探りに行っていた。
領主や商会の件が片付いたとしても、水が無ければ根本解決にならないからな。
潜入予定の時刻までに戻る時間制限付きで馬を飛ばしたが、源流は思いの外遠かった。
しかも出処の水源はやっぱり枯れていて、サーチしても枯渇していた。
川を辿りながらウロウロと探っていると、途中で少し凹んだスジが横に逸れてある場所をみつけた。
過去に川が流れていたかもしれないと、今度はそのスジを辿ってサーチしていく。
そして、またしても現れたのは岩山。
「………なんかデジャヴー。またこれかい」
前にも遭遇したぞ、これ。
「……あ~、また岩壁破壊っすね」
「ランドス再び……」
兵士達も苦笑している。
そう、コイツらはランドスでも一緒に行動していたメンバーだから覚えているわな。
「……だなぁ。リル爆弾でチュドーンとやるしかないパターンだな」
幸いそんなに深くないし、一撃でいけそうだ。
「よし、目印にリルを1本生やしておこう」
どうせ使うしな。
地面に枝を刺して、ニョキっと生やした。
もう夕方になっているので、急いで引き返す。
ここまで来る間、川沿いをずっと辿っていたが、調査の跡どころか足跡すら無かった。
商会が調査をしているなんて、大嘘だな。
タンパルへ馬を走らせながら、兵士のひとりがぼやく。
「何か俺、リルの木がさくさく生えるの見慣れちまって、驚かなくなってきた」
「あ~、俺も。自分の感覚がどんどん非常識になっていくのを実感するわ」
他の兵士達もウンウンと同意している。
すまんなぁ、非常識の元凶で。
町外れの隠れ蓑にしている農家で馬を下りた時は既に夜だった。
そこから俺達は静かに、しかし全速力で待ち合わせポイントまで走った。
とにかく作戦のスタートに間に合って良かった。
息を整えて、配置につく。
さて、これから侵入作戦開始だ。
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