え?聖女って、女性がなるものだよね? ~期間限定異世界救済プロジェクト~

月夜野レオン

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第二部  復興編

44.侵入

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各自が位置についたところで、スザールが兵士をひとりタンパル商会の方へ走らせる。 

暫くすると、タンパル商会の果樹園の方で悲鳴が上がった。 

スタートだな。 

俺達がとった作戦は、タンパル商会の方で騒ぎを起こし、領主の館にいるタンパルの人員もそちらに引きつけ、その隙に侵入するというものだ。 

領主の館とタンパル商会はかなり近い位置にあるので、人の叫び声も届く。 

騒ぎが起きれば、当然商会の者はそちらに駆け付ける筈だ。 

昼の間に俺はスザールに火炎瓶の作り方を教えておいた。 

ガソリンとかは無いけど、燃える油はあるのでそれをビンに入れて口に布を詰め込む。 

布に火をつけて投げ込めばビンが割れて火が燃え広がる。 

戦争物や冒険物の映画でよく見たから、真似してみたら簡単に作れた。 

スザールには、お前の世界は物騒だなとドン引かれたが。 

まあ、未だに戦争している国もあるからね、平和とは言えないかな。 

タンパル商会の果樹園を燃やすことには躊躇いは無かった。 

私腹を肥やすだけに作っているものだからね。 

明日、町の畑は水を通して木を復活させて復興させるし! 

「おお、良く燃えてるな~」 

高い壁の上から炎が見えるくらいに燃えている。 

「あそこは全部燃えていいです!」 

リネルがきっぱりと宣言する。 

うん、あの光景を忘れる為にも盛大にやっちまっていいな。 

商会の果樹園には兵士を15人ほど当てて、離れた位置で放火をさせているので、鎮火には時間も人手もかかる筈だ。 

騒ぎと明かりを見て、館の警備についていた者達が慌てて走り出てくる。 

よしよし、計画通りだ。 

暫く待って、ほぼ人気が無くなった頃を見計らって数カ所から侵入を開始する。 

使用人に遭遇したら、怪我をさせないように拘束して一ヶ所にまとめて隔離するよう徹底してあるので大丈夫だろう。 

警備員ならともかく、一般人が兵士に敵うはずもない。 

館内の間取りを把握しているテイルを先導に中に入ると、二手に分かれて俺達はすぐに2階へ向かう。 

「一番奥が叔父上の執務室と寝室です」 

極力静かに進んでいるが、不思議なことに廊下や通り過ぎる部屋からも人の気配は感じない。 

「おい、こんなに使用人がいないって、おかしくないか?」 

まるでゴーストハウスみたいだ。 

スザールも異常な様子に眉を顰めている。 

「これじゃ警備員以外は無人ってことになるな」 

「何故こんなことになっているんだ。使用人達はどうしたんだ」 

テイルが困惑と焦りで足を速める。 

広い廊下の端近くまで来た時、初めて横の扉が開いた。 

「誰かいるの?…きゃっ!」 

出てきたのは中年の女性。 

俺達大勢の兵士達を見てギョッとして、悲鳴を上げる。 

先頭のテイルが素早く口を塞いだので大きな声にはならなかった。 

「アイリン!俺だ、テイルだよ」 

「……!…坊ちゃま?ああテイル坊ちゃま」 

「良かった、お前はいてくれたんだな。みんな、この人は俺の乳母をやっていたアイリンです。信用できます」 

テイルが乳母に俺達は王子の護衛をしているメンバーだと説明してくれた。 

「アイリン、これはどういう事態なんだ?何故誰もいないんだ。叔父上は?」 

「大変なんです。とにかく旦那様にお会いになって下さい」 

アイリンは横の部屋の扉を指して、声を潜めた。 

「中にタンパル商会の護衛が2名います。倒して下さいまし」 

「任せろ」 

スザールがニッと笑うと、アイリンはスザールとも面識があったようで、ほっとしたように笑顔を見せた。 

アイリンが護衛を油断させる為に、領主の寝室のドアをノックして声を掛ける。 

「アイリンでございます。お薬をお持ちしました」 

少しして、中から鍵を開ける音がしてドアが開いた。 

「よし、入れ……うわっ」 

スザールが素早く飛び込み、ドアを開けた護衛を殴り倒した。 

俺は横から室内に滑り込んで、ベッドの脇に立つ護衛に肉薄する。 

慌てて剣を抜こうとする右手と腹に、まとめて飛び蹴りを叩き込む。 

今回は手加減は一切しなかったので、バキっという音と共に壁まで吹き飛んで激突した。 

うん、手首は折れたな。 

泡拭いて気絶したけど、後は脳震盪くらいだろう。 

次々と侵入した兵士達によって、二人はすぐに縛り上げられた。 

「うわぁ、思い出して手が痛いわ」 

テイルが同じように蹴られたことを思い出したようで、右手首をプラプラさせている。 

「あの時は手加減してたって分かったろ?」 

俺がニヤニヤと笑うと、テイルは嫌そうに顔を顰めた。 

「それでも十分痛かったけどな」 

「その蹴り、ちょっと受けてみたいな」 

ズサールが楽しそうに目を光らせた。 

おっと、ここに格闘マニアがいたんだった。 

「それより、あっちの護衛は顎の骨折れただろ。尋問出来ないじゃん」 

もう一人の護衛もぐったりのびている。 

縛る意味なくない? 

「説明は私が致しますので。旦那様、テイル様がいらして下さいましたよ」 

アイリンがベッドの中の男性に声を掛ける。 

「………テイ……ル……?」 

苦しそうな呼吸と共に絞り出された声に、テイルが心配そうに屈みこんだ。 

「ルカンダ叔父上、テイルです。お会いするのが遅くなって申し訳ありません」 

俺達はテイルと一緒に領主の顔を見て、驚いた。 

「!…………っ、これって……」 
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