え?聖女って、女性がなるものだよね? ~期間限定異世界救済プロジェクト~

月夜野レオン

文字の大きさ
68 / 68
第二部  復興編

48.イヤな予感

しおりを挟む
果樹園管理者の指示の元、農園作業員達が木の伐採や植え替えをしていく。 

さすが力持ちのメンバーだけあって、サクサクと作業が進む。 

準備が終わった園から、俺は加速をかけて木を成長させる。 

どの園の木をどこまで育てるかは、管理者達に判断してもらっている。 

全部を一気に実らせてしまっても収穫が追いつかないし、出荷の調整も必要だからだ。 

その辺りは管理者が一番分かっているからな。 

将来的にまた川の水量が落ちる危険も考慮して、今ある井戸だけでなく他の場所にも井戸を掘ることにした。 

もちろん、水源が違うものをチョイスする。 

他の土地もそういった保険で別の井戸とかを作っておきたかったが、何しろ時間が無い。 

まあ、ライド王子達の進捗状況は、宰相からの報告で大体の所は掴めているんだけどね。 

なんと驚いたことに、スザールが部下の一名をライド王子とザウスが連れていかれる一行に荷物持ちとして紛れ込ませることに成功していた。 

確かにサザレーを出発する前に、王子達が増えた分の荷物などを運ぶ者をルワブが何人か募っていた。 

王子殿下を連れていくのに、テントや食事など兵士達と同じ質素なものという訳にはいかないからだろう。 

ライド王子も、ここぞとばかりに王族のキラキラ感を強めに出していたからなぁ。 

機転が利く王子様だわ。 

その中に、いかにも力があって素朴な民に扮した兵士を入れた訳だ。 

やるなぁ、スザール。 

さすが宰相直轄の部下だけのことはあるわ。 

その兵士が宰相に報告を届けている為に、あちらの進捗状況が分かっている。 

思いの外、進みが悪くてまだ王都までは5日くらいかかるようだ。 

それというのも、途中でザウスを含む数名が原因不明の腹痛を起こして立ち往生したからだと。 

それって、やっぱりあれ? 

憶えているだろうか?以前ランドスでルワブ達を足止めする為に、新領主が食事に混ぜた腹痛を起こす薬。 

紛れ込ませた兵士から王子には、その時にもらっておいた薬がコッソリと渡されていた。 

それを王子が使ったってことだ。 

エグいな、王子。 

ザウスも腹痛に倒れたのは、疑われないようになんだろうけど。 

いや~、容赦ねえな。 

でもそれで何とか間に合うかもしれないのだから、ここはザウスに手を合わせておこう。 

すまん、お前の犠牲で時間が稼げたよ。 

それでも明後日には出発しないとヤバい。 

とにかく明日中に終わらせないとだ。 

この数日で農園をだいたい復興させたので、今日の午後から井戸の候補地を回って井戸作りだ。 

毎日限界まで体力を消耗して、気絶するように寝る日々。 

今日も兵士達の声が脳内で親方~に変換されていく。 

もう麻痺してきて、聖女でも親方でもどうでもよくなってきたわ。 

 

 

「アキラ、少しだけ時間を頂戴」 

「え……?いいけど…」 

告白…じゃないのはその顔色を見れば分かる。 

出発準備をしているところにアデル姫から声がかかり、俺達は兵士達から少し離れた所に移動した。 

タンパル復興中に何度かアデル姫から物言いたげな視線を感じたが、とにかく忙しくて話が出来なかった。 

これから俺達は王都まで強行軍で飛ばすので、アデル姫と護衛のテイル、他に8名の兵士は別行動となる。 

この先、話をする機会は暫く無いだろう。 

「これは私の憶測なので、根拠がある訳ではないの。だから確証を掴んで欲しいの」 

思いつめた表情で懇願してくる姫に、俺は黙って頷いた。 

「実は私、離宮に行く前にドメス王とお会いしているの。ご病気になってから何度もお見舞いに行ったのだけれど、いつも面会はさせてもらえなかったのよ。でもその日は寝室の護衛が以前私の護衛をしていた者で、短時間だけこっそりと入れてくれたの」 

その時の王の様子を、アデル姫は沈痛な面持ちで話してくれた。 

ドメス王は弟の子供であるアデルを可愛がっていた。 

父を亡くしたアデルと母を亡くしたライド王子、同じ境遇になったふたりを一緒に遊ばせて仲良くさせたのも王だった。 

「久し振りに会えた叔父様は、熱が高くて苦しそうなご様子だったわ。部屋はカーテンが引かれていて、更に天幕も半分かかっていて、暗くて表情はほとんど見えなかったの」 

そんな状態でも、民の様子とライド王子を心配していたと。 

「あまり時間が無かったのだけれど、汗をかかれていたから、布で額を拭いて差し上げて……後でその布を見たら、ルカンダの汗と同じく緑色だったの…」 

「!っ……まさか…」 

俺はアデル姫が言いたい事を知って、愕然とした。 

「ドメス王の肌の色は見ていないから、確証はないの。でも、今思うと肌の色を隠そうと部屋を暗くしていたのかもって考えて……」 

そりゃあ、あんなゴーヤ色の肌を見たら、ただの病じゃないってすぐにバレるもんな。 

「……でも、そうなると……医者を始めとしてドメス王の回りにいる人物は全部疑ってかからないといけないってことに…」 

マジか~。 

寄ってたかって毒殺しようとしている? 

宰相や味方になりそうな人間は遠ざけられているとなると、その線が濃厚か。 

賢王なのに、なんで? 

ガザル第一王子一派だけなら分かるけどさ。 

う~ん、どっちにしてもイヤな予感しかしないじゃん。 

それでも俺達は、最終目的地の王都に向かって出発した。 

 

 

第二部 完。 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...