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ヒカリの向こう
過去にある現在⑭~生と死の淵~
しおりを挟む「おい。大丈夫か。しっかりしろ。こんなところで死ぬタマじゃないだろう。それとも,ついていないのか?」
ジャンがバオウの頬を叩きながら声をかけている。腹部に突き刺さった牙は,思ったほど深くは刺さっていなかったことと,場所からして内臓を傷つけている心配はなさそうということから命に別状はないとベルは判断した。そのことを聞いたジャンは安どの表情を浮かべ,バオウに少々手荒に声をかけ続けている。命に別状はないといっても無理をしたのだろう。意識がもうろうとなりながら戦っていたに違いない。出血量が多すぎるためここで牙を抜くのは危険だ。一度村に戻って手当てを受ける必要があるが,村人を呼んできて運ぶよりは,バオウが起きて無理をしてでも自分の足で戻ったほうが圧倒的に速い。大丈夫そうならバオウに肩を貸してでも急いで村に戻ろうという結論になったのだ。
ジャンがバオウの股間をぺちぺちとたたき出した。「なんだよ。意外とちっさいじゃねえか」と嘲笑しながら遊んでいるとバオウが目を覚ました。
「何をしているんだ・・・・・・おい,あのくそ猫どこ行った? まさか,行かれたか!」
「騒ぐな。傷が開くぞ。足止めしてくれてたから,何とか間に合ったよ」
ジャンの説明を聞き,バオウはいてて,と腹をさすりながら岩に身を預けた。その手が牙に触れたとき,びくんと体を動かした。
「おい。どうなってんだこりゃ」
「抜くなよ。抜いたら死ぬぞ」
「どういうことだ」
「そいつがお前の体に栓をしてくれているんだよ。抜いたら出血多量で死ぬのは間違いないな」
バオウはぶるっと体を震わせ,青ざめた顔で黙り込んだ。その目がジャンの左腕を捉えたとき,瞳が大きく開かれた。「ジャン,どうしたんだ」と興奮して言いかけるバオウに向けて,ジャンは口元に人差し指を立てて制止した。
ベルが二人のもとに歩み寄る。ありがとね,とベルが呟いた。
「私の村がめちゃめちゃにされるところだった。みんな,本当にありがとう。もう,本当になんて言ったら・・・・・・」
ベルがジャンの手元に目をやって,顔を伏せた。ジャンの腕にはベルの服がまかれているが,肩の三分の一から下は無くなっている。そこから腕が生えてくることはない。その責任をベルは自分に押し付けているに違いない。バオウも時折その腕にちらりと視線を投げるが,何を言うでもなく黙っていた。
「いいってことよ。おれたちもけじめをつけることができた。さ,バオウのお化けみたいな顔に血色が戻ったら,村へ歩こうぜ」
グーっと伸びをしてジャンが仰向けになる。ベルもその横で仰向けになり,おなかにミュウを載せながらお礼を言ってその首元を撫でていた。
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