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しおりを挟む「お、暴力反対」
「鍛錬です!」
「俺の身体を使ってんだなんていやらしいー」
「なにがですか!?」
「あー悪い悪かった聖女サマったらさすが聖女サマ通じねえかあ」
「馬鹿にされてるのだけは通じてますね」
「それは誤解だな。馬鹿にはしてない、からかってるだけ」
「同じことでは!?」
ああ言えばこう言う。祈りの場であるという事も忘れてセレスは声を荒げる。すると、その声に併せた様に教会の扉が大きな音を立てて開かれた。
「聖女さまーっっっ!!」
今し方セレスが加護を授けたばかりの少女が猛烈な勢いで駆けてくる。ギリギリの所で止まるのかと思いきや、そのまま勢いにのって飛び付いてくるものだから、セレスは「ひあっ」という間の抜けた悲鳴を上げるしかない。
「おっと」
ぶつかられた衝撃のままに後ろに引っ繰り返りそうになるが、青年が全身で受け止めてくれたおかげでセレスは少女を抱き留める事に専念する。
「あの」
どうしました、とセレスが問いかけるより速く、少女がきらっきらと瞳を輝かせて歓喜の声を上げた。
「すごいです聖女様のおかげです! 教会を出た途端、ロクデナシの婚約……元ですね、元婚約者がまんまと浮気相手と目の前にいたんですー!! どうやったって言い逃れできない現行犯! なので無事婚約破棄を突き付けることができました! ありがとうございます聖女様! これで心置きなく新しい恋に進むことが出来ます! 後日改めてお礼に伺いますね!!」
きゃあきゃあと少女はセレスに抱き付いたままそう叫ぶ。その背に「お嬢様」と入り口から気遣わしげな声がかかる。どうやら少女の家の従者の様だ。
「本当にありがとうございました聖女・セレス! 縁切り聖女様のご加護、家族はもちろん、友人知人にも広まるよう頑張ります!」
セレスが口を挟む暇すら無い。少女は去り際にもう一度セレスに抱き付き、何度も礼を口にしながら迎えの従者に引き摺られる様に去って行った。
ぽつんと取り残された形になったセレスの耳に、ややあって低くくぐもった音が届く。
恨めしげに振り返れば、そこにあるのは案の定、噛み殺しきれない笑いに苦しむ青年の姿がある。
「すっげ……ちょ、聖女サマ、記録更新……!」
長身を折り曲げて笑い続ける青年の耳は縁まで赤く染まっている。チラリとこちらを向けば、目元に涙まで浮かんでいるのが分かり、セレスは無言で頭に被っていた儀式用のベールを外した。
「縁切り最短記録更新おめでとう!!」
「縁切りじゃありません!!」
青年の手首にベールを巻き付け、そのまま肘の方、から少しずらした外側へと折り曲げる。青年の傾ぐ身体に合わせて片足が地面から浮く。残った方の足の膝裏を渾身の力で蹴り飛ばせば、体躯の良い相手だろうと転倒は免れない。
ドスン、と重く痛そうな音が教会の内部に響き渡った。
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