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しおりを挟む「っ……あの、それ、本気なんです?」
「女性に結婚を申し込むのに嘘なんて言いませんよ」
「ええと――あなた、わたしのこと……好きなんですか?」
「はい。なので今全力で口説いてます」
えええええ、とセレスは困惑に頭を抱える。
「聖女サマそれは俺にいきなり口説かれて困ってるんです? それともいつから好きだったのこの人、ってなってる? あとはせっかく諦めて自己解決したのに蒸し返してくるんじゃねえよ、ってののどれですか?」
「とりあえず全部ですね!」
そう、シークの言う通り全ての事で頭が混乱している。だから、告白どころか求婚までされたと言うのに、素直に喜ぶ事が出来ないのだ。
「いきなり口説いてるのはあれですね、これまでの二年はあくまで任務として貴女の傍にいたので、その状態で口説いたりはできなかったからです。貴女を好きだなと自覚したのも同じくらいかな? わりと最初の内……二ヶ月くらいで落ちてましたよ」
「早くないです?」
「我ながらチョロイなと思います」
シークは愉快そうに肩を揺らす。
「好意を持ったのはアンネ様と同じです。貴女の裏表の無い、素直な所に惹かれて、気付いた時には沼でした」
「沼って」
「ズブズブですよズブズブ。真っ直ぐに感情を見せてくれるのが嬉しくて、ついからかう様な事をしてしまったらさらにズブッと。いやあ抜け出せなくなりましたね」
「だんだん褒められてる気がしなくなりますね?」
「褒めてはないです、口説いてるんです」
「それで!?」
「なにしろ女性を口説くのには慣れていないので」
「もてそうなのに?」
性格はともかくとして見た目は良い。さらには騎士であるのだから、職業としても人気のはずだ。
「ええ、これまでは自分から声を掛けずとも縁があったので」
「うわっなんだか腹の立つ言い方」
「だから必死なんですよこれでも。多少の粗はこれから挽回していくので、今は大目にみてください」
シークは自分で持ってきた焼き菓子に手を伸ばす。セレスもつられて手を動かしかけたが、まだ訊きたい、もとい突っ込みたい所があるので我慢した。
「他にまだ何かあります?」
「あります……そんな、わたしのことをす、きだとか、こうやってまた逢いに来るなら、どうしてあんな風に言ったんです?」
これで最後です縁が切れますよ、だなんて。なんだかんだでセレスにとってはあの言葉で地味に傷付いたのだ。それがたとえ自分が先に口にしていたものであったとしても。
なのにシークは事も無げに言う。
「ああ、あれは警邏隊の人間を装って聖女サマと逢うのは最後ですよって意味です」
「えええええ……」
「実際あの後はもう騎士勤めとしての俺しか見てないでしょう? それとも警邏隊の方が聖女サマはお好きですか? そっちがいいなら今すぐ辞職して警邏隊に再就職してか」
「しなくていいです!」
つい被せ気味に突っ込んでしまった。軽口の様でありながら目の奥が真剣すぎたのだから仕方が無い。
なんだかいつもより疲れる、とセレスは大きく息を吐く。シークはそんなセレスに軽そうに見えてとんでもなく威力のある言葉を投げつけた。
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