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二章
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しおりを挟むでもだからっていきなりは無理ーっ!!
いくらなんでも相手が大きすぎて、とてもじゃないがアニタには太刀打ちできない。なのでここはとにかく現在国内で乳製品と言えばウィッキンズの、と言われる彼女の家から色々と学びたい。品質の確保だとか、そこからどうやって市場を広げ、それを守っているのだとかを。
しかしながらいざそう話題を持って行こうとしてもなかなかに難しい。なんといっても不意打ちすぎた。せめて事前に彼女もいる事が分かっていれば、どうにか後日お屋敷へ話を聞きに行けないだろうかと頼みもできたのに。
意気込みこそあれアニタはまだ十七歳。商談はおろか、交渉だってろくにできたものではない。経験値が乏しいにも程があるのだ。けれどそれはアニタが一番よく分かっている。
「経験がないからっていつまでも踏みとどまっていたらなにも始まらないでしょ! 何事も始めの一歩があるのよ!!」
そう己を奮い立たせて今回王都に挑んだ。だからここが始めの一歩よ、とアニタは覚悟を決める。
「そういえば、ダルトン家の領地のコーウェズは鶏肉が有名なんですってね」
いざ、と口を開きかけたアニタより先に、まさかの言葉がケイトリンの口から飛び出た。ふぁーっ!! とアニタは思わず叫びそうになる。もしかしたら「ふぁっ」くらいは出ていたかもしれない。
「そうそう、コーウェズの食べ物はなんでも美味しいけれど、特に鶏肉はとても美味しかったわ。うちのチーズと一緒に焼いて作ったパイは特に絶品よ」
「それ美味しい、でしかないやつじゃないですか」
続くシンシアの言葉にアニタは即答してしまう。だって間違いなく、本当に美味しいが確定されている組み合わせではないか。
「私は流通の事とかはよく分からないのだけれど、せっかくこうして知り合えたのも何かの縁だと思うの。ダルトン家の鶏肉とウィッキンズのチーズを使って、共同で何かできたらいいわね」
「ぜ……ぜひ!! ぜひお願いします!!」
ガタン、と椅子を揺らす勢いでアニタは興奮する。ほんの一瞬だけ、おや? と思わなくもなかったが、それがなんであったか考えるより先に喜びが全身を支配する。
「アニタはまだ王都にしばらくいるのかしら? よければ今度我が家にも遊びにいらして? 今なら父が領地から戻って来ているから、色々と話ができると思うの」
「はい!」
これまた即答である。せっかく掴んだ機会だ、みすみす逃すわけにはいかない。たとえこの場限りの共同案であろうと、ウィッキンズの当主から話を聞く事ができるだけでも御の字だ。
はしゃぐアニタの姿に、シンシアは元よりケイトリンも微笑ましそうにクスクスと笑う。流石に恥ずかしくなりアニタは居住まいを正したが、それでもケイトリンは楽しそうだ。
「聞いたとおり、アニタは本当に自分の領地の事が大切なのね」
いえ、と返しかけた所でアニタはふと止まる。聞いたとおり、とは一体誰からなのか。
え、とついポカンとした顔でケイトリンを見れば、彼女はさらに笑みを深めてアニタに告げる。
「ヒューベルトがそう言っていたのよ」
まさかここでそう繋がるとは夢にも思わず。完全に油断しきっていたアニタは短く「ひえっ」と叫びを上げた。
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