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「アレク様と言いますと、あのアレク様です、か?」
「ヘンリエッタが言うアレク様がどのアレク様かは分からないが、俺が言うのは王太子のアレクサンデル様の事だな」
「あーッ!!」

 ヘンリエッタは叫んだ。これを叫ばずにいられようか。

「うちの両親と兄も喜んで迎える準備をしているよ」

 王太子に認知され、侯爵家にも話が通じている。己の与り知らぬ所で勝手に話が進んでいる、どころかこれはもうほぼ確定と同じではないか。

「いやでもしかしですね!」
「ホーヘンバント伯についてもその時に徹底的に調べた、というか、軽く叩いただけで埃まみれだったよ彼は。これまで何度も結婚しては離婚を繰り返し、その時の奥方にどういう接し方をしていたか、その後どういう処遇をしていたか……そういったのを全部含めて伯爵と話をして、納得の上で解消してもらった、というわけだ」
「な……なるほど……?」
「残るのは君のご家族と領地についてだが、そこはリートフェルト家が全面的に支援するから何も心配はいらない」

 これまで、公の面はともかく私生活ではのらりくらりと生きていた次男坊が、ようやく真っ当な道を歩もうとしている。その切っ掛けとなった相手は未来の嫁候補、となれば侯爵家は前傾姿勢ですでに援助を始めている。

「特に母が喜んでいたよ。なにしろうちは男しかいないから、娘ができると大はしゃぎだ」
「しかしながら! わたしは所詮しがない子爵家の娘です、あまりにも家格が」
「現当主と次期当主が認めているから余所に文句は言わせないなあ」
「それにほら、わたしはリートフェルト卿の顔に惹かれるだけの俗物ですし!」
「君が惹かれる顔を持った事を神に感謝しろ、と兄に言われたよ。ああ、あと母にも」
「侯爵家の皆様ご乱心にも程がありませんか!? 正気に戻って!!」

 クッ、とレオンが喉を詰まらせる。そのまま肩が小刻みに揺れるのは笑い声を必死に堪えているからだ。

「こ……これだけ必死に口説いて、家族ぐるみで歓迎だと言っているのに……なのにその返しって……!」

 息も絶え絶えの中、レオンは懸命に言葉を紡ぐ。そうして言われて改めて痛感する、ヘンリエッタの返しの酷さたるや。
 それでもレオンがこうして笑い転げているのだから、ヘンリエッタの気持ちなど元から筒抜けなのだろう。いたたまれなさが極まりすぎだ。

「……おそらくリートフェルト卿は、わたしの様な人間が物珍しくてそれで興味を持っているだけだと思います」
「否定はしない」
「潔い」
「でも君を愛おしいと思っているのも事実だよ。一端に独占欲だってある。だからこそ即行でホーヘンバント伯を潰したんだ」
「潰し……え? 潰した?」


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