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「…え~~ん」

千代は泣き出してしまった。

「きもいね。きもい」

「うん」

周りの女の子や男の子は千代を奇異の目で見る。俺はいてもたってもいられなかった。

「やめろい!弱い者いじめはやめろい!」

俺はいじめっ子たちと千代の間に入って大声で叫んだ。いじめは許せなかった。そもそも何が楽しいのかわからない。いろいろな人がいるから楽しいのに、出る杭を打っては本末転倒だ。

「…え…」

千代は泣き止んだ。

「あ、あいつやばいやつだ」

「なんか先生に投げられたチョークキャッチしたりしてたよね。眠ったまま」

「家のある場所がわからないらしいよ。田舎に住んでるのか都会に住んでいるのかもわからないらしい」

「あいつ、仲のいい友達一人もいないよね。体育の授業はいつも独り相撲してるし、柔道の授業の時は壁と格闘してた」

皆が口々に噂話をしている。は~、とため息をつきたくなる。もう中学生にも飽き飽きしているころであった。何度も繰り返すと、疲れもたまる。これで1万と78483929回目ループしていた。何万年生きてきてから1万と78483929回ループしているが、ループしているときは年を経ていないので年齢にカウントしていない。そういえば、と思って俺は気づいた。この千代という女、今までのループで見たことがない。いや、いたかもしれないが気づかなかった。影の薄い女というよりは、むしろ濃すぎるタイプだと思うのだけれど。
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