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二人の心
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「……ん? どうしたんだ? というか、さっきから黙ったままじゃないか。あれだぞ? 俺が相手だから良いが、俺以外の人にはちゃんとお礼を――」
「――エリック! 急にどうしたんですの!? 気が回りすぎて気持ち悪いですわ! もしかしてあれですの!? 自分の死期を悟って、限られた時間の中、わたくしたちに少しでも優しくしようとしているんですの!? いけませんわ! そんなのいけませんわよ!?」
「そ、そうです! エリック様は絶対に死にません! いえ、死なせませんから! だから、そんなことしないでください!」
二人は涙ながらにそんなことを言ってくる。
「いや、別にそういうわけではないぞ? ただまあ、ちょっと……なんというかお前たちをもっと大切にしたい気持ちになったというか……俺のために色々してくれているお前たちを見て労いたくなったというか……」
「……エリック……わたくしたちには気を使わなくても良いんですの。わたくしたちは、あなたの『本音』が聞きたいんですの。弱音みたいなことを吐いても良いんですのよ? そんなことでわたくしたちは幻滅したりしませんわ」
「そうです。私達はもう『夫婦』なのですよ? 夫婦って言いたいことを言い合える関係性ではないのですか?」
二人共、『さあ弱音をどうぞ!』みたいな雰囲気になっているが……俺としては本当にそんな理由ではないのだ。
俺はこの状況をどうしようかと考え……まずは状況を整理することにした。
シエナ達の言動、そして表情を察するに……どうやら俺に『死の呪い』がかかってしまったことで、彼女たちのメンタルがやられてしまっていたらしい。今までは努めて冷静に、そして俺に変な心配をさせないためになんでもない感じで振る舞っていたんだろう。
なんとも出来た嫁二人を貰ったものだ。
嬉しくなる俺だったが、このままでは二人の心が不安定なままだ。俺は彼女たちを安心させなければならない。でないと、色々と弊害が出てくるし……彼女たちがあまりにも可愛そうだ。
ということで、次に今ここで取るべき行動を俺は考える。
『実はそうだったんだ』と言って、いい感じに弱音を吐いて彼女たちに歩調を合わせるか? いや、それだと話がややこしくなりそうだ。止めたほうがいい。
となると、やはり『本当に深い意味はないんだ』と言うべきだろう。しかし、言葉だけだと信じてもらえないかもしれない。
……ふむ。となると、ここはアレしかないな。
考えをまとめた俺は、彼女たちに向き直り…………優しく二人の頭を撫でてあげる。
え? 思っていたのと違う? キスとか、まさかのまさか、ここでおっ始めると思った?
馬鹿野郎! その流れはおかしいだろうが! そういうのは夜になってから……いや、もう日は暮れているんだったか……あー、するとしてもご飯を食べて一息ついてからだろうが!
まあ、それに。今このときはそういうのじゃないと思っただけだ。
「え、エリック様……? どうして……」
「べ、別に私達は頭を撫でられるようなことは……」
二人共困惑した表情をする。
ただ……なんとなく俺の言わんとしていることは分かったようで、じわりじわりとまた目に涙を溜め始めた。
「……ごめんな。色々と俺が不甲斐ないせいで、お前たちにかなりの負担をかけてしまって。あと……ありがとう。俺の意識が無い間、かなり頑張ってくれたんだろ? ほら。俺の胸を貸すから、メリッサの言ったとおり『本音』とか『弱音』を吐き出せ。シエナの言ったとおり俺達は『夫婦』なんだから、我慢しなくても――」
「――うあぁあああああん! エリックのバカ! 間抜け! わたくしと夫婦関係になって一日で死にかけるとかどういうことですの!? 本当に心配したんですから! ……それに、一命をとりとめたと思ったら……死の呪いにかかっていると分かって……どれだけ……どれだけ……うわああああんですわぁあああああ! あと、新しい女を連れてくるの早すぎですわぁあああん! せめて、一週間は余韻をくださいましぃいいですわぁあああん!」
泣き方がすごい特徴的なメリッサがまず最初に俺の胸に飛び込んできた。
いや、心配を掛けたのは分かるんだが、もう少し背中に回している腕の力を緩めてほしいと言うか……ぐぅ……し、締まっているからぁ! お、折れる! 背骨が折れるって!
たっぷりと五分間、メリッサの強烈な抱きしめを味わった俺は、色々吐き出して泣き止んだ彼女に離れてもらい……まだ抱きついてきていないシエナに声を掛ける。
「シエナもこっちに来ていいんだぞ? なに、遠慮はするな」
腕を広げて『カモン!』というジェスチャーをする。
少し逡巡していた彼女だったが……すぐに俺の胸に飛び込んで顔を埋めてきた。
ただ、メリッサとは違って彼女は何も言わず、泣きもせずに抱きつくだけである。
「…………」
「…………」
お互い無言で、メリッサの鼻を啜る音だけが聞こえる。
しばらくその状態が続いていたのだが……シエナが顔をあげて俺の方を見てきた。
「……ん? どうした?」
「…………エリック様は……消えたりしませんか……?」
消えたりしないか……か。おそらくは『死なないか?』と言っているんだろう。
まあ、寿命が来たら死ぬだろうし、クエスト中に死ぬかもしれないが……今ではない。そう、今ではないのだ。
「大丈夫だ。お前たちを置いて先に死んだりはしない。だから、安心してくれ」
「本当……ですか……?」
「ああ、本当だ。嘘はつかない。いや、誰しも嘘の一つや二つはつくが……これは嘘じゃない」
「……もし嘘だったら……地獄の果まで追いかけますからね?」
「ああ、分かったよ。というか、中々に怖いな。『地獄の果まで追いかける』って……。まさか、俺が死んだらじさ――」
「――私もすぐに後を追って死にますよ? エリック様のいない世界なんて生きていても仕方がないですから。でも、夫婦ってそういうことですよね? 生きるときも死ぬときも一緒ってことですもんね?」
「…………え? あ、ああ……そ、そうだな……」
なんだかとんでもないことを言い出したシエナだったが……『違うぞ』とは言えなかった。
だって……俺を見る目がめちゃくちゃ怖かったからな!
ほら、メリッサを見てみろ。さっきまで泣き止んで鼻を啜っていただけだったのに、今はシエナに対する恐怖でまた泣き出しちまったよ。可愛そうに……。
「――エリック! 急にどうしたんですの!? 気が回りすぎて気持ち悪いですわ! もしかしてあれですの!? 自分の死期を悟って、限られた時間の中、わたくしたちに少しでも優しくしようとしているんですの!? いけませんわ! そんなのいけませんわよ!?」
「そ、そうです! エリック様は絶対に死にません! いえ、死なせませんから! だから、そんなことしないでください!」
二人は涙ながらにそんなことを言ってくる。
「いや、別にそういうわけではないぞ? ただまあ、ちょっと……なんというかお前たちをもっと大切にしたい気持ちになったというか……俺のために色々してくれているお前たちを見て労いたくなったというか……」
「……エリック……わたくしたちには気を使わなくても良いんですの。わたくしたちは、あなたの『本音』が聞きたいんですの。弱音みたいなことを吐いても良いんですのよ? そんなことでわたくしたちは幻滅したりしませんわ」
「そうです。私達はもう『夫婦』なのですよ? 夫婦って言いたいことを言い合える関係性ではないのですか?」
二人共、『さあ弱音をどうぞ!』みたいな雰囲気になっているが……俺としては本当にそんな理由ではないのだ。
俺はこの状況をどうしようかと考え……まずは状況を整理することにした。
シエナ達の言動、そして表情を察するに……どうやら俺に『死の呪い』がかかってしまったことで、彼女たちのメンタルがやられてしまっていたらしい。今までは努めて冷静に、そして俺に変な心配をさせないためになんでもない感じで振る舞っていたんだろう。
なんとも出来た嫁二人を貰ったものだ。
嬉しくなる俺だったが、このままでは二人の心が不安定なままだ。俺は彼女たちを安心させなければならない。でないと、色々と弊害が出てくるし……彼女たちがあまりにも可愛そうだ。
ということで、次に今ここで取るべき行動を俺は考える。
『実はそうだったんだ』と言って、いい感じに弱音を吐いて彼女たちに歩調を合わせるか? いや、それだと話がややこしくなりそうだ。止めたほうがいい。
となると、やはり『本当に深い意味はないんだ』と言うべきだろう。しかし、言葉だけだと信じてもらえないかもしれない。
……ふむ。となると、ここはアレしかないな。
考えをまとめた俺は、彼女たちに向き直り…………優しく二人の頭を撫でてあげる。
え? 思っていたのと違う? キスとか、まさかのまさか、ここでおっ始めると思った?
馬鹿野郎! その流れはおかしいだろうが! そういうのは夜になってから……いや、もう日は暮れているんだったか……あー、するとしてもご飯を食べて一息ついてからだろうが!
まあ、それに。今このときはそういうのじゃないと思っただけだ。
「え、エリック様……? どうして……」
「べ、別に私達は頭を撫でられるようなことは……」
二人共困惑した表情をする。
ただ……なんとなく俺の言わんとしていることは分かったようで、じわりじわりとまた目に涙を溜め始めた。
「……ごめんな。色々と俺が不甲斐ないせいで、お前たちにかなりの負担をかけてしまって。あと……ありがとう。俺の意識が無い間、かなり頑張ってくれたんだろ? ほら。俺の胸を貸すから、メリッサの言ったとおり『本音』とか『弱音』を吐き出せ。シエナの言ったとおり俺達は『夫婦』なんだから、我慢しなくても――」
「――うあぁあああああん! エリックのバカ! 間抜け! わたくしと夫婦関係になって一日で死にかけるとかどういうことですの!? 本当に心配したんですから! ……それに、一命をとりとめたと思ったら……死の呪いにかかっていると分かって……どれだけ……どれだけ……うわああああんですわぁあああああ! あと、新しい女を連れてくるの早すぎですわぁあああん! せめて、一週間は余韻をくださいましぃいいですわぁあああん!」
泣き方がすごい特徴的なメリッサがまず最初に俺の胸に飛び込んできた。
いや、心配を掛けたのは分かるんだが、もう少し背中に回している腕の力を緩めてほしいと言うか……ぐぅ……し、締まっているからぁ! お、折れる! 背骨が折れるって!
たっぷりと五分間、メリッサの強烈な抱きしめを味わった俺は、色々吐き出して泣き止んだ彼女に離れてもらい……まだ抱きついてきていないシエナに声を掛ける。
「シエナもこっちに来ていいんだぞ? なに、遠慮はするな」
腕を広げて『カモン!』というジェスチャーをする。
少し逡巡していた彼女だったが……すぐに俺の胸に飛び込んで顔を埋めてきた。
ただ、メリッサとは違って彼女は何も言わず、泣きもせずに抱きつくだけである。
「…………」
「…………」
お互い無言で、メリッサの鼻を啜る音だけが聞こえる。
しばらくその状態が続いていたのだが……シエナが顔をあげて俺の方を見てきた。
「……ん? どうした?」
「…………エリック様は……消えたりしませんか……?」
消えたりしないか……か。おそらくは『死なないか?』と言っているんだろう。
まあ、寿命が来たら死ぬだろうし、クエスト中に死ぬかもしれないが……今ではない。そう、今ではないのだ。
「大丈夫だ。お前たちを置いて先に死んだりはしない。だから、安心してくれ」
「本当……ですか……?」
「ああ、本当だ。嘘はつかない。いや、誰しも嘘の一つや二つはつくが……これは嘘じゃない」
「……もし嘘だったら……地獄の果まで追いかけますからね?」
「ああ、分かったよ。というか、中々に怖いな。『地獄の果まで追いかける』って……。まさか、俺が死んだらじさ――」
「――私もすぐに後を追って死にますよ? エリック様のいない世界なんて生きていても仕方がないですから。でも、夫婦ってそういうことですよね? 生きるときも死ぬときも一緒ってことですもんね?」
「…………え? あ、ああ……そ、そうだな……」
なんだかとんでもないことを言い出したシエナだったが……『違うぞ』とは言えなかった。
だって……俺を見る目がめちゃくちゃ怖かったからな!
ほら、メリッサを見てみろ。さっきまで泣き止んで鼻を啜っていただけだったのに、今はシエナに対する恐怖でまた泣き出しちまったよ。可愛そうに……。
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