【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【11】歳月不待~ぼくら運命の出会い

メーデー、メーデー、メーデー

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 そばにいた児玉が、勉強の手を止める。
 幾久は普に尋ねた。
「帰ってこないって、どういう事?」
 どの寮も大抵食事時間は同じだ。
『わかんない。大抵、食事の時間には皆そろってるんだけど、みほりんだけいないんだよ。靴もないし』
「いないって、いつから?急にいなくなったの?」
『桜柳会の会合があったんだよ。いま試験期間でしょ?授業終わって、昼食とりながらの会議だから、すぐ終わって二時過ぎに寮に帰ってきてたんだよ』
「うん」
『で、寮で自習室で勉強しててさ。晩御飯食べるかって集まったら、みほりんだけいないの。これまでそんなこと一度もないから驚いて、なにかあったのかなって』
「スマホは、」
『部屋におきっぱ』
「書置きとか」
『全然ないし、そもそも伝言もないし。だからひょっとして、いっくんとこ行ってるのかなとか、なにか知ってるかなって思って』
 御堀の性格から考えて、いきなりなにかするとは思えない、と三吉が言う。
 幾久も頷く。
「なにか思い当たることは」
『ないよ全然。そもそもみほりん、最近楽しそうでメッチャ機嫌良かったし』
 意味が判らないし、もしなにか事件に巻き込まれていたら、と皆心配しているのだという。
 幾久は慌てつつも、えーと、えーと、と頭を一生懸命働かせた。
「なにか誉と話とかした?なんでもいいから、なんかいつもと違う話とか!」
 幾久が怒鳴ると、普が『ちょっと待ってね、聞いてみる』と寮に居る一年に尋ねた。
『あのさ、みほりんとなんか話したとか、いつもと違う話とか、なんかあったか、知ってるかっていっくんが。みそら、なんか知ってる?』
『俺が知ってるのって、寮の代表しないかって誉が言われた事くらいだぞ』
 向こうから声が聞こえ、幾久は思わず声を出した。
「それホント?」
 幾久の声が聞こえたのか、山田が覗き込んできた。
『ああ、誉のヤツ優秀じゃん?このままうちの寮に居るなら、二年になったら副寮長みたいなのやらないかって、三年から。試験が終わったらでいいから考えといてくれ、みたいな事』
 それだ、と幾久は確信を持った。
(誉、あんなにもプレッシャー抱えてたのに)
 地球部のこと、桜柳祭のこと、勉強の事、家の事。
 それだけでもいっぱいいっぱいだったのに、その上寮のことまで押し付けられるなんて。
 御堀がどんなに頑張っていたのかなんて、桜柳寮の面々は知らない。
 幾久だけが、御堀の愚痴を聞き、優等生をやっている努力を知っているのだから。
『いっくん、なんか判る?』
「……かもしんない。いや、たぶん、絶対判る!」

 御堀はまず間違いなく、あの場所に居るだろう。
 幾久は確信した。

「あのさ普、もし違ったら、三十分後にこっちから連絡するけど、なかったら安心しといて」
 幾久のはっきりとした言葉に三吉は安心し、ほっと息を漏らした。
『わかった。みほりんはいっくんに任せる』
「任せといて」
『寮のみんなには、大丈夫そうって伝えていい?』
「三十分後までに、オレから連絡がなかったらね。でも多分間違いないから」
 そう告げると三吉はわかった、と頷いた。

 こうしてはいられない。
 いくら秋でも日が落ちれば寒くなる。
 幾久は御堀の身長を考えて、以前先輩に貰った黒のジャージをひっぱり出した。

 いつの間にか、居間に高杉と久坂が来ていた。
 児玉がなにかおかしいと悟って呼んできたのだ。
「どうした、幾久」
「御堀君が行方不明です。でも多分、オレ居場所わかるんで」
 久坂が尋ねた。
「確信は」
「あります」
 高杉が尋ねた。
「御堀がいない理由は」
「それも多分」
「そうか。判った」
 幾久は高杉に言った。
「三十分して、もし違ってたらオレからハル先輩に連絡入れます。オレの思い違いで、本当に事件に巻き込まれてたら大変なんで」
「わかった。それと幾久」
「はい」
「御堀がおったら、御門につれて帰って来い。一晩くらい預かれる」
 高杉の言葉に、幾久はおもいきり笑顔になって、頷き頭を下げた。
「ウッス!ありがとうございます!ハル先輩!」
「おったら、じゃぞ」
「ウス」
 頷き、幾久はばたばたと支度を始めた。
 上着を着て、御堀の為のジャージを持ち、おやつの袋を適当に掴んだ。
 玄関に座り、スニーカーを履き、紐を結んでいると高杉が言った。
「それとな。御堀と手を繋いで帰って来い」
 いきなり何を言うんだ、と思ったが、高杉の顔は真剣そのものだ。
「えぇ?嫌っすよ!なんで?!」
「命令じゃ。でねーと、お前は寮に入れん」
「えー」
 高杉の命令は絶対に絶対なので、幾久はしぶしぶ頷いた。
「わっかりましたよ。そうします」
 もう、なんでなんだよ、と言いつつも幾久はつま先を床について、とんとんと靴を整えた。
「じゃ、行ってきます」
「おう、気を付けて行って来い。もうかなり暗いけぇの」
 さて、出かけようと玄関を出ようとした時、幾久はふと気づいて足を止め、振り向いた。
「あの、ハル先輩」
「なんじゃ」
「ロミジュリのポスターみたいに、恋人つなぎじゃなくても、良いっすよね、別に」
 幾久の言葉に久坂がぷっと吹き出し、高杉は苦笑して、「好きにせえ」とだけ答えた。


 幾久が寮を出てすぐ、児玉が高杉に尋ねた。
「俺、行きましょうか」
 すでに日は落ちて暗くなっているし、幾久が歩いていくというのなら近所だろう。
 場所の想像はなんとなく理解できる。
 自分たちも同じだからだ。
「そうじゃの。なんかあったら地元民がおらんと」
 高杉の言葉に、児玉はすでに準備していたらしく、小さなカンテラを持ち、上着を羽織った。
「場所判ったら、合流せず近くで待機します」
「おう。頼む」
 言うと児玉はすぐに後を追いかけた。


「タマ後輩なら安心だね」
 久坂の言葉に高杉が「そうじゃの」と頷いた。
 武道の心得もあるし、ボクシングもやっているしいざというときの度胸もある。
 このあたりの子供にとって、どんな場所も遊び場だ。
 幾久や御堀よりよっぽど地理に詳しい人がいれば安心だ。
「それより桜柳寮に連絡せんと。御堀を一晩、預かるとな」
 御堀がオーバーワーク気味なのは高杉も判ってはいたけれど、高杉自身もそうなっていたので、あまり気を使ってやれなかった。
 最近、幾久とうまくやれているようだったので、大丈夫だと油断もしていた。
「いっくんが御堀君を見つけたか、確認してからの方がいいんじゃないの?」
 久坂の問いに高杉が笑った。
「抜かせ。どうせそんな心配しちょらんくせに」
「まあね」
「……三十分したら連絡する」
 高杉と久坂はキッチンへ向かう。
 麗子に夕食を一人分、増やしてくれと伝えるために。


 幾久は小走りで海岸へ最短の道を向かった。
 この前御堀と通った道でなく、ウィステリアのテニスコート裏を抜ける、一番近い通りだ。
 駐車場があり、そこに自販機があるので幾久はあたたかいお茶を二つ買ってジャージのポケットに入れる。
 そして暗い中、ころばないように歩いていく。
 坂道を抜け、階段を歩き、そして御堀と過ごした海岸へと。


 真っ暗な中、じゃり、という自分の靴音と、迫りくる波の音が響いていて、階段に誰かが座っていた。
 ほっとした。
 どうやら、三吉にも高杉にも電話をする必要がなさそうだったからだ。
 人影に近づき、声をかけた。
「……誉」
 人影は振り返らず、膝をかかえ海を見つめたまま、返事をした。
「なに?」
 幾久は誉の隣に腰を下ろし、ジャージのポケットからお茶を出した。
「お茶飲む?あったかいよ」
「ありがとう」
 幾久からお茶を受け取ると、御堀は両手でそれを包んだ。
 やはり寒いのだろう、幾久は持ってきたジャージを御堀に渡した。
「けっこう寒いと思って持ってきた。着る?」
「うん」
 御堀は素直にジャージを羽織り、お茶を啜った。
「ここさ、入る前に自販機あんの。知ってた?」
「知らない」
 御堀は首を横に振る。
「あと、おやつ。オレのだけど食う?腹減ってるだろうと思って」
「食べる」
 幾久は袋を開けて広げ、御堀に渡した。
 お煎餅を御堀はぼりぼり音を立てて食べ、二人は無言で煎餅を食べながら、海を眺めていた。
 ざぶん、ざぶん、と迫る波の間隔は早い。
 夜の海は誰もおらず、波も暗闇の中で光を反射して、真っ暗な色の流れしか見えなかった。
 暫くして御堀が口を開いた。
「連絡があったの?」
「普からね。心配してた」
「そっか」
 そうして御堀は煎餅を食べ続けた。
 よっぽど空腹だったのだろうか。
 御堀は暫くして手を軽く叩いてかけらを落とし、ジャージのポケットに手を入れた。
「……なんでここが判ったの」
「誉、すごく気に入ってたみたいだし」
 それにね、と幾久は軽く笑って言った。
「ハル先輩と瑞祥先輩が、よく散歩でここ来るんだ。昔から、話とか頭の中整理したいときとか、二人でずっと居るんだって」
「そうなんだ」
 御堀は足を延ばし、ため息をついた。
「僕の事、連絡しなくていいの?」
「見つかんなかったら連絡するって言ってある。見つかったからしなくて大丈夫」
 そういって幾久も足を延ばす。暗い中、波がざぶん、ざぶん、と音を立てている。
 向かいの岸の港に明かりがいくつも灯っていて、時折ちかちかと点滅した。
「見つける自信あったんだ」
「なんとなく」
「いい加減だなあ」
「いいじゃん、見つかったんだし、実際居たし」
 そういって幾久はお茶を飲む。
 さっきまで温かかったのに、もうぬるくなりはじめていた。
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