城下町ガールズライフ

川端続子

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1・美少女、ウィステリア女学院に入学する

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(間に合った)

 そう思い、小早川こばやかわ|芙綺ふうきはほっと息を吐く。
 なにせここは、これまで過ごした周防すおう市ではなく、周防市からいくつも市をまたいで七十キロも離れた長州ちょうす市なのだ。

 土地勘が全くないので『まだ全然間に合うよ』と同じ寮の先輩達に教わっていても不安でつい早く来てしまった。

 それにしても確かに早すぎたかもな、とも思う。

(ま、いっか。ちょっと散歩でもしようかな)

 知っている人は誰も居ないので気を使う事もないし、あとは、この学校、芙綺が今日から通う私立ウィステリア女学院の制服を着て歩くのは楽しかった。

(本当にめちゃめちゃ可愛い!)

 私服でもこんなに可愛い服は着た事がない。
 そもそも芙綺は普段サッカーをやっていたので、スポーティーな格好が多かったので可愛い服にそこまで興味もなかった。

いく先輩の言う通りだ)

 可愛い制服だから、芙綺ちゃんに似合うよ、と言ってくれたけれど、実際よく似合っていると自分でも思う。

 ここの制服は変わっている。

 まず、一番上に羽織るのは詰襟のロングコート。

 女子の制服で詰襟というのも珍しいのだが、これは近年、制服が改定されてからの事だと言う。
 ロングコートは一見、真っ黒な生地に見えるのだが実は深い紫なのだという。

 そして胸にはダブルの大きな金ボタン。

 左肩下、腕のあたりには大きな刺繡のワッペンが縫い付けてある。
 布を被り手を合わせるマリア像に見えるのだが、実は尼僧の姿で、その尼僧を藤の花が囲んである。

 一瞬、どこかのブランドのデザインだろうかと思う程に派手である。

 ウェストは細いベルトで締められ、スカート部分はAライン。
 ロングコートの下は白いシャツにカマーベルトをつけるスカート。
 首元のタイは儀式の際は皆統一の学校の校花でもある「藤」色。

 一年生も前期の間は、全員がその藤色のリボンを着用する。
 それを過ぎると各クラス、選択科目のカラーに変わる。

 シャツの襟と袖は大きめ、袖にはカフスボタン。
 ボタンがついたカマーベルトを胸の下からお腹にかけてがっちり巻くのは、着物の帯をイメージしているのだという。

 ストイックな姿に見えるコートに比べ、中のスカート、カマーベルト、シャツにリボンはどう見ても女性らしさを意識した可愛い制服で、他校からも制服の人気は凄まじい。

 多少、窮屈には感じるが、サイズが変更できるようになぜか妙にホックは多いので自由度は高いらしい。

 新しい制服、新しい靴。はきなれない革靴、というよりブーツなのが少々気に入らないが、儀式の時だけでいいというから仕方ない。

 校内のあちこちにはいろんな樹木が植えてあったが、やはり桜もあり、満開に開いている場所があった。


「―――――素敵」

 木々がまとめて植えてある場所の向かいに、レンガ造りのお洒落な建物があった。
 なんか映えるな、と思ってスマホを取り出し、その風景を撮ってみた。

 うん、良い感じだ。

(ついでに自撮りでもしとこっかなあ。幾先輩なら絶対、可愛いって褒めてくれるし!)

 やっぱ自撮りしよっと、そう思って芙綺はスマホをインカメラにし、自分と桜、そして建物を背景にピースサインを決めた。

(よしよし、我ながら可愛くとれたぞ!)

 スマホの映像を見て満足していると、周りの人の視線に気づく。

(あれ?)

 あ、ヤバ、ひょっとしてここって新入生が入っちゃいけない場所かな?
 一瞬そう考えて思わず頭を軽く下げると、こちらを見ていた多分五十手前くらいの先生らしき女性が芙綺に声をかけた。

「あなた、木戸きどさんでしょう?」

 そう尋ねられ、「え?」と首を傾げた。

「今日、入学されるんでしょう?」
「あ、ハイ、そーですけど」

 すると女性はますます喜びの表情で驚いた。

「やっぱり木戸さんね?今年入学するって言う木戸、みやびさん!かつらさんの親戚の!」

 いえ、誰かと間違えてます、と芙綺が言う前に、その女性は興奮した様子で笑顔を見せた。

「あらあらあら、やっぱり!雅ってお名前にぴったりの和風美人!名は体を表すのねえ、本当に、桂さんとはまた違う美しさ!絶対にそうだと思ったわ!」

 いやマジで知らん。
 なんなんだこの人。

「いえ、私は……」
「あらー、職員室で早速自慢しなくちゃ!」
「ですから、あの」

 全く話を聞こうとしてないなこの人、と芙綺があっけに取られていると、背後から声がした。


「ちがーいまーす。その人は、木戸きどさんじゃありませーん」
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