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2章『転生×オメガ=当て馬になる』

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「だから?だとしても興味ねぇんだよ」

見せつけるように真緒ちゃんの寝顔に唇を落とす在昌は分かっている。恋に溺れた女の弱点はこういう事だ、と。
在昌が真緒ちゃんに愛を与えれば与える程、女の表情が絶望に塗れてくる。ふるふると震えながら、視線を逸らそうとする。

けど、俺は優しいからね!手袋を嵌めて、がっしりと女の顔を掴んでやる。え?顔が変形してるって?ごめんごめん。力の加減が難しくて。え?何で手袋するかって?汚いじゃん。

「ほいほーい、目を逸らさなぁい!めっ!」

…これでも俺だって怒ってる。真緒ちゃんは友達として好きだから。そんな子に酷い事する人は、ね。

「ほらぁ、見なよ。どう?どんな気分?お前が一番だと思っていたら実は真逆で嫌われて…いや、興味すら無い存在だったってさ。嬉しい?悲しい?あは、ぶっさいくな顔」
「あ、あんたは…誰よ!」
「えぇ、あの子はわかってくれたのにねぇ。あれじゃん、おめみつの愛が足りないからこんな目に遭ったんじゃないのー?自分しか好きじゃないもんね、あんた」
「っ!うっさい!私はこの世界のヒロインなの!!皆に好かれるヒロインなの!」

キャンキャン煩いなぁ。こんな煩いのがヒロイン?笑わせないで欲しいよ。ヒロインだったら真緒ちゃんで良いじゃん。おっぱいは足りないけど、可愛いし。ミニブタみたいで。…あ、太っているって意味じゃないよ。愛嬌的に、ね。

「煩いなぁ」
「ぎゃっ」
「俺ね、これでも怒ってるんだよ?」

桃ちゃんの前髪を思い切り掴みながらにっこりと笑みを向ける。ぶちぶち、と嫌な音がしたけれど、俺の髪じゃないから構わない。はげろはげろ。

「お前さ、現実見ろよ。お前が仕掛けた事、普通に犯罪なんだけど?ねぇ、ファンタジーの世界だから何をしても許されると思った?ヒロインだから?いやいや、お前が当て馬だよ」

そう。俺からしたら桃ちゃんこそ当て馬なのだ。見てよ。もう興味が失せた在昌の様子を。更にアチチになってるじゃん。
それは桃ちゃんにも気付いたようで、見苦しい程に嫉妬に溺れている。まぁ、そのまま溺死したらいいさ。

君には俺達の実験体になってもらうんだから。特にオメガは、ね。色々と未確認なところも多いから、高く売れ…非常に世の為になりそうだ。

「例え、ね。君が違う世界から転生したとしても、この世界は俺達にとって現実なの。異物はお前だよ。異物で当て馬って救われないね。まぁ、ザマァってジャンルになるのかな?」
「っ……」

真緒ちゃんに出逢ってから、転生とやらの本を読んでみた。店頭で買うには恥ずかしかったから、電子書籍で買ったさ。
普通に面白かった。特にザマァってやつは良かったね。スッキリする。人気ジャンルなのも頷ける。

「じゃあね。君はここで退場だ」

前髪を掴みながらぶすり、と首に注射する。先程用意した超々々々強力抑制剤だ。興奮していればしている程、効きやすい代物。…合法と、言わせて欲しい。こう言った強力過ぎる物は悪い方向にも使われるからね。気を付けてね。

ほら、この女。刺したと同時に、目をぐるんと回転させて気絶したでしょ?あ、気絶じゃなくて寝た、ね。

お、気付いたら男が在昌にボコボコにされてる。あいつ、足技凶器だからね。死なない程度にお願いしたい。あのアルファと、このクソオメガ。面白い実験になりそうだねぇ。

「…在昌、殺しちゃ駄目だよ」
「殺さないさ」

無表情で鳩尾に爪先を入れると同時に、胃液を吐き出しながら失禁する男。ああ、こんな女に捕まらなければこんな目に遭わなかったのにね。まぁ、馬鹿なオメガも居るなら馬鹿なアルファも居るよね。

「ちょっと山田さんに声掛けてくる」
「連絡くれた人?」
「ああ、山田さんが連絡くれなかったらどうなってたか分からなかった」

思い出したのか、ぎりぎり、と歯軋りしながら拳に怒りを収める在昌。きっと在昌も真緒ちゃんもこれからが大変だろう。今は混乱やら怒りやらの感情で冷静になれていないけれど、いざ冷静になれば状況は変わってくる。

真緒ちゃんの心の傷は深いだろう。見たところ、男のブツが貫通していた訳だし。俺は男だし、性事情は緩いから余り分からないけれど…真緒ちゃんみたいな純粋で、健気な子は自分を責めるだろう。

けど、在昌ならきっと大丈夫だと思う。…多分。
残念ながらこの話は俺が介入出来る事じゃない。真緒ちゃんと在昌の問題だ。俺はこうやって汚物を掃除してあげる事しか出来ないのだ。

まぁ、今回は良い拾いものをしたけどね!

「真緒ちゃん預かろうか?」

近くに止めていた車に荷物二つを押し込めながら、在昌に進言すればきっぱりと断られる。

「いや、傍に居るって真緒と約束したから」
「そっか。じゃあ回収したから俺は戻るわ。何かあったら連絡してちょ」
「…さんきゅ、迷惑掛けたな」
「いやいや、ごちそうさまって言いたいよ。色々とね?」

にっこりと意味深に笑ってやれば、硬かった在昌の表情が和らぐ。

「今度奢る」
「んー、焼き肉が良いなー」
「わかった。連絡するな。本当、助かった」

真緒ちゃんを抱いたまま工場へと足を向けた在昌を背に、俺は携帯を取り出して電話を掛ける。
何コール目かしたら出た相手は先程の後輩クンだ。

『せんぱーい!直ぐに戻ってきてくださいよぉ!上の人、カンカンですよ!』
「え、うんこって言った?」
『言いましたけど、そんなの直ぐバレるに決まってるじゃないですか!』

言ったんかい。

「今戻る。面白いアルファとオメガ連れて帰るから許してちょって言っといて」
『え?先輩、攫ったんすか』
「いやいや、犯罪者よ。けど、アルファとオメガの揉め事は事件扱いされないからね、前もあったでしょ?」
『…――。
…早く帰ってこいとの事です。ついでに人数分、珈琲とお茶請けを宜しく、と』
「甘党じじぃ共め」

何やら騒がしい声が聞こえたが、気付かない振りをして電話を切る。

運転席に乗り込み、静かに車を発進させる。
コンビニで良いかな。なんて思いながら、後ろで気を失っている彼等の未来に心躍らせるのであった。




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