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二件目『ガーディニアス:木の聖域』
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しおりを挟む『ところでナツはヒト化していないのか』
「きゅ?」
ヒト化。初めて聞く単語に私は首を傾げた。その仕草に相変わらず弱いハイネさんが頭上で呻いている。人間がやったらあざとい仕草なのだろうけど、犬なのだから致し方ない。話せない分、仕草で表さなければならないのだから。
「ヒト化というのは、言葉通り神獣が人の姿になる事。ヒト化って言ってもイフリクトみたいに小さくなったりする事も含まれてるけどね。ようは姿を変える事をヒト化って言うんだ」
私の尻尾をくにくに弄りながら教えてくれるハイネさん。そこはこそばゆいから止めて欲しい…。
気を取り直して、成る程だ。ヒト化か…。私がヒト化したら前世の姿なのだろうか。どうせなら絶世の美女にして欲しい。前世の姿は余りにも平凡過ぎる。褒め言葉は素朴で優しそう。陰口は田舎っぺ処女だ。まぁ、その通りなんだけどね。
出来る事なら経験はしたかったかもしれない。これでも女性ですからね。多少は欲くらいありますよ。
大好きな俳優さん。大好きなバンドマン。大好きな二次元。大好きなハイネさ…ちょっと待て。後半は無し。無し無し!
一人で暴れる私を不思議そうに見つめる二人。本当に良かった。ハイネさんが私の心が読めなくて。
一瞬。ほんの一瞬想像してしまった。前世の私とハイネさんが…うぅん、はい。
「ナツ?」
「きゅっ!?」
いきなりのどアップに私の遙か彼方まで心臓が飛んで行った。きっと今の私の表情は大層間抜けな表情を浮かべているだろう。吃驚しすぎて耳が垂れているのが分かる。
ハイネさんの口角が上がる。まるで悪い事を考えている時の表情だ。少しだけ、否。とてもドキッとしてしまった。ニヒルな笑みが凄く似合う。
何でこんなにもドキドキするのだろうか。一瞬だけ妄想したせいだろうか。そう思いたい。
「ナーツ」
「きゅ?」
ハイネさんに呼ばれ、視線を逸らしていた私は再度ハイネさんの方へと顔を向ければ、プニッと唇に唇が触れた。
「……?――――!!!!?」
「あは、かわいーの」
初めての感触に私は一瞬思考が宇宙に飛んだ。そして理解する行為。キス、だ。垂れていた耳がぴん!と元気になる。
驚きのあまり、言葉にならなかった。
「初めてだね、ココは」
そう言って、私の唇に触れるハイネさん。何だか色気が…ありませんかね。気のせいですかね。
「ナツはヒト化、出来るよ」
「きゅ!?」
ちゅ、とおでこに唇を落としながらハイネさんがサラッと言う。バッとハイネさんに視線を向ければ難しそうな表情を浮かべていた。
「唯――…前世の魂が融合しちゃってるから、どういう影響が出るか分からないんだ」
「きゅ?」
「んー…ナツ。僕の手を離さないでね」
そう言ったハイネさんがトン、と私のおでこを小突く。すると、世界が回るかのようにグルグルと渦巻いた何かが私の体内で暴れ回る。
小さい身体では抱えられない程の激流に流されてしまいそう。そんな感覚だった。
必死に前足を踏ん張る。けれど、次から次へと押し寄せてくるモノに私は呑まれてしまいそうになった。
けれど、思い出す。先程のハイネさんの言葉に。
「きゅ…きゅ!!」
溺れかけた私に光が差し込む。そしてその光は形となり、私を包み込んだ。私は知っている。この温もりは――…
「は、いねさん…」
「ん、お帰り、ナツ」
膨大な汗をかきながら薄らと目を開けば、甘い笑みを浮かべたハイネさんが私を見つめていた。
「はいね、さん」
「なぁに、ナツ」
短い手を必死に伸ばし、ハイネさんの頬に触れる。暖かい温もりに私は安堵の息を吐いた。
…
……
…………?
ん?
んん?
「え?」
あれ。ハイネさんに触れてる?いや、触れられるんだけど、何というか、何時も見上げるハイネさんの大きさが違う。ハイネさんが小さくなったと言うよりも…
「私が、おおきくなった…?」
あれれ?私、喋れてない?普通に言葉にしてるよね?
「うん。喋ってるね」
そう言ったハイネさんが手を翳し、私の目の前にミラーのようなものを出す。そしてそれを覗き込めば――…
「はあああああああ!!!?えええええええ!!?」
そこにはきょとんとした表情を浮かべた前世の私が、居た。
間違い無い。死ぬ程見てきた顔だ。間違える訳も無い。この真っ黒の瞳、長い髪。困ったような表情も全部私、だ。
「な、な…な、んで…?」
「やっぱり前世の魂が干渉したか」
「…え?」
ハイネさんがそう呟きながら私の瞳を覗き込む。真っ赤な瞳に覗かれ、ドクドクと鼓動が跳ねる。銀色の美しい髪がサラリと揺れ、私の頬を擽った。
「…やっぱりかぁわいい。…今のナツは前世と同じ状況なんだ。ようは、唯の人間。神獣のナツの力は今の魂の裏で眠ってる」
「は、はぁ…」
「やっぱり…魂は融合しているようでしていないね。前世の魂が強すぎて今の状況だと神獣の魂は出る事が出来ない。けれど、神獣の姿だと前世の魂が強いが故に邪魔をして力が出せない、って感じかなぁ」
私を覗き込みながらすらすらと現状を述べるハイネさんに、私は呆けた返事しか出来ないでいた。
『…取りあえず』
暫く黙っていたガー様が言いにくそうに口を挟む。
『ナツに何か着るモノを…』
そう言うガー様の言葉に、私は自身の状況を見やれば、産まれたばかりの状況でハイネさんの膝の上に乗っていた。
「あれ。言っちゃうの?眼福だったのに」
「――――!!!」
真っ赤になった私は必死に両手で前を隠し、ハイネさんの視界から逃れようと目の前の広い胸に縋り付いた。
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