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二件目『ガーディニアス:木の聖域』

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ハイネさんから上着を借り、羽織った私はハイネさんから距離を置く。だが、ハイネさんが許してくれる訳も無く、膝の上に戻された。

「あ、あの…」
「うん?なぁに、ナツ」

私のウエストをがっちりとホールドしたハイネさんがヒューマンキラースマイルを浮かべながら私の行為をスルーする。先程から攻防戦だ。抱きしめたいハイネさんバーサス離れたい私。勿論、勝者はハイネさんだ。男性の腕力に勝てっこないに決まっているが、めげない私は必死に抜け出そうと藻掻く。

そんな私達のやり取りに慣れたガー様が私をマジマジと見つめる。

『ハイネの言う通り紛うこと無き人間だ、な。目を凝らさないと神獣の魂が見えん』
「ええ…私の魂ってそんなに強いんですか…?」

強欲にも程がある。もしも私の魂がへっぽこで神獣の魂が強ければ今頃無双出来ていたかも知れない。何だか悔しい。

『それにしても…どうやって?』
「ああ、ナツに僕の神力を送って、本来の神獣の力を呼び覚まそうとしたんだけど…」

そう言ったハイネさんが私を見、ニヤける。形相を崩してもイケメンだな!

「まさか前世の魂が僕の神力を食べるとは思ってもみなくてさ!僕を食べた勢いで前世の魂が起きちゃったみたい」

僕を食べたって…語弊があるような。間違いでは無いけど!
ニタニタするハイネさんの視線を交わしながら私はふと過った疑問を打つける。

「じゃあ私、犬…じゃなくて神獣の姿に戻れないんですか?」
「いや…戻れるよ?戻れるけど…」

ハイネさんは少し言い淀みながら私のおでこに手を翳す。するとぽぉ、と温もりが伝わり――…

「ひゃぅっ!?」
「うん。やっぱり…前世の魂が拒否反応起こしてるね」
「ゃ、なぁに…今、の…っ…」
「え、可愛い」

即座に手を離したハイネさんが頬を赤く染めながら私を見つめるがそれどころでは無い。何だ、今の。恐らく神力を送ったのだろうけど、神獣の時とは全く違う感覚だった。
私の知らない何かを刺激するような、感じ。

ビクビクと震える身体を抱きしめる。優しい掌が私の背中を撫でてくれて、荒かった呼吸も徐々に治まりつつあった。

「あ、りがとうございます、ハイネさん…」
「ん…」

逞しい腕に手を置き、笑顔を作って礼を言えばハイネさんの手が私の頬に触れた。
どうしよう。凄く、ドキドキする。そうだ。だって私今人間だもん。そりゃあドキドキするさ!

何とも言えない空気の中、ガー様が言葉を掛ける。少し気まずくて何を言って良いのか分からなかったからありがたい。

『取りあえず今日は休んだらどうだ?』

そう言ったガー様が私達の為に部屋を用意してくれた。お言葉に甘えて今日は休む事にした。

ぽつりと佇む扉に手を掛け、ドアノブを開けば広めの客室が私達を出迎えてくれた。
行儀悪い、とは思いつつも何時ものようにぼふん、とベッドへ身を沈める。ふかふかだ。凄く気持ちが良い。
そんな私にハイネさんは小さく笑みを零しながら私が沈むベッドの縁に腰掛けた。

「ナーツ」
「う?」

呼ばれて横を向けば、ハイネさんの太腿が視界に入る。私は何時ものように膝に顔を乗せ、すりすりと強請る。そうすればハイネさんが私の身体を撫でてくれる事を知っているから。

ハイネさんの大きな掌が私の身体を撫でる。暖かくて優しい、大好きな掌だ。何時もよりも生々しい感覚にぴくり、と身体が反応する。

「ん…きもちぃ…」
「…そう?もっと撫でてあげる、ね」

そう言ったハイネさんの声が僅かに歪む。けれど、うとうとと眠気が襲ってきている私が気付く筈も無く、何時ものように身体を丸めながらハイネさんに身を預けた。




*****




んんんんん!
誰か私が叫び出さなかった事を褒めて欲しい。

夜中にフと目を醒ました私は目を擦りながら身を捩ろうとした。だが、何かが私の邪魔をしているようで動く事が叶わなかった。
唯一動ける頭だけをぐるり、と動かせば、美しい顔が真横にあった。そしてんんんんん!に戻るんだけれど。

私は記憶を巻き戻し、眠ってしまうまでの事を思い出す。

そうだ、私はハイネさんの力によってヒト化されたんだ。そして前世の魂が強欲の余り――という話だ。

それにしても…就寝前、余りに眠すぎて自分がヒト化していること、すっかり忘れてたよね?うわぁ、うわぁぁ、うわぁぁあ!キモいっ!気持ち悪すぎるぞ、私…!
まだ可愛らしい犬がするなら分かるさ。けれど、今の私は唯の冴えない人間だ。そんな人間が甘えるような素振りで擦り寄るだなんて、吐血レベルだ。

「ん…」

おっと、私がもぞもぞするあまりハイネさんを起こすところだった。私の身体に乗る腕をソッと外し、距離を取る。
流石に恥ずかしいさ。広いベッドで助かった。私はハイネさんの様子を見ながらジリジリと後ずさり、彼が目を醒まさない事を確認した私はベッドから降りようと身を起こそうとした。

――その時だった。

長い腕が私の身体に絡みつき、元いた場所へと引き戻された。一瞬の出来事に私は声すら出ず、ぽかんと口を開けたままだった。

「…どこ、行くの?駄目だよ。僕から離れたら」

何時もと違う、低い声が私の耳朶を擽る。

「あ、の…」

ぴたり、と密着する肌が火傷しそうな程に熱い。私は必死に腕から逃れようと身を捩るが、抵抗すれば抵抗する程ハイネさんの腕の力が増していく。

私が羽織っていた衣類はいつの間にか無く、再度産まれ姿。そしてハイネさんはいつも通り上半身裸だった。神獣の時は気にならなかったけれど、人間である今、話は別だ。

「抵抗、しないで。僕を拒まないで」

そう言ったハイネさんがぐるりと体勢を変え、私を押し倒すような形となる。その際、両手を頭上にまとめ上げられ、逃げる事は出来なくて。

あられのない姿がハイネさんの眼下に晒される。恥ずかしくて、でもどうしようも無くて。私はハイネさんから視界を逸らす事しか出来なかった。



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