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消灯後の真っ暗な部屋で天井を見つめる。段々と目が慣れてきたからなのか暗くても何とか見えているし、月明かりがある為、まぁ怖くはない。
いや、怖かったとしてもそんな事より三葉の方が気になっているのだ。幽霊に怯えるくらいならば三葉のことを考えていたい。告白をどうやって突っぱねたのかや、彼女が出来てしまったらどうしようなど。正直こんなことを気にするのは俺だけなのだろうが仕方が無いだろう。入院するため、学校で何が起きているのか把握出来ないのだから。
告白を断るとして、三葉がやりそうな手は「好きな人がいるから」か「恋愛に興味無い」の二択だと思う。そもそも好きな人が居たとして男の俺はエントリー外な気もしなくはないが置いておく。心労が祟ってご臨終なんて嫌だ。そんなの情けなさすぎる。
前者で断ればしつこく攻め入る人もいないだろう。となれば後者の恋愛に興味無いがないと答えるのが現実的だ。執拗い人ばかりだし、恋愛に興味が無いという分にはまだ俺の入る余地はあるだろうから。そっちの方を考えていたいと言うのが本心である。
問題なのは彼女が出来た場合だ。はっきり言って他の人に三葉を取られるのは嫌だが、祝福しない訳には行かないだろう。受け入れる体制を作って置かなければきっと俺は祝福できない。今から少しずつ受け入れる体制を整えなければ。絶対に作って欲しくないけども。
悶々と考えていれば結局一睡も出来ずに朝を迎えた。三葉のせいで寝れなかったでは無いか。いや自業自得だし、三葉のせいなら大歓迎だ。
今日は一日来客の予定は無い。母親も実家の両親の様子を見に行くらしく、一日ゴロゴロしていても問題ないと言うのが不幸中の幸いだろう。元より俺が熟考しなければよかった話なのだが。
看護師さんが持ってきた朝ご飯をちまちまと口に含む。病院食というのは栄養を考えて作られているため味が薄く、美味しいとは言いずらい。長ったらしく咀嚼を繰り返し、結局最後には時間ギリギリでご飯を掻き込む羽目になったのは馬鹿だと思う。今日はついていない。ついていない分、恋愛運が上がっていればいいのだけども。
三葉の周りの状況を知れない虚しさを胸に布団へ体を沈め腕に刺さった点滴を見つめる。点滴が自分を縛る鎖のように見えてならない。点滴がある限り、俺は三葉を掴み取れない気がしてしまう。いや、あってもなくても俺が意気地無しだということは変わらないか。
ため息を漏らしてから頭まで布団を被る。襲いかかる睡魔に抗わず、睡眠を摂ることにした。今晩は必ず寝ようと誓う。
そんなこんなで昼前に目を覚ませば何の意地悪だろうか、本を読む三葉が居た。いつから居たのか、なんで居るのかなどすっぽ抜け、俺は自分が何をしたのか振り返る。思いつく限りでは神様の意地悪を受けるような悪いことはしていない。恋したのが行けなかったのか?
「……なんでいる訳?」
平静を装ってそう聞く。もしかしたら少し棘があったかもしれないが、正直それどころでは無い。三葉は本から俺に目を移した。口角を上げて「おはよう」と挨拶される。
「え? あ、おはよう」
いつも通りの三葉に思わず動揺してしまった。気まずさを感じているのは俺だけな為、いつも通りの三葉に動揺してしまうのはおかしな話だ。いつも通りで居られないのは俺だけなのだから。
三葉は本を閉じて椅子に座り直し「で? 居る理由だっけ?」と聞いてきた。聞かれるまで自分のせいで聞いたことを忘れて居たのは忘れよう。全て忘れてしまえば楽だ。
それよりも、今日人が来るなんて聞いていない。今日は一日誰も来ないと思っていたし、その予定もなかった筈だ。その証拠に俺は二度寝した。
「予定が空いてて暇だったからだよ。迷惑だった?」
「いや、別に。暇してたから気にしないでいいよ」
迷惑だった?と首を傾げるのは反則だと思う。これで落ちない人間は果たして居るのだろうか。居るのならぜひ聞いてみたい。その落ちない秘訣を。このままでは俺はガチでキュン死してしまうだろうから。
平静を保っていることに心の内で賛美しながらいつ来たのかを質問する。「三十分くらい前」と言った三葉に軽く絶望した。寝顔見られたかもしれない。
いや、さっき起きた時点で居たのだから寝顔は見られたのだろう。が、五分程度ならいいなという淡い期待を持っていたのだ。
誰でも好きな人に自分の寝顔を晒したくはないだろう。寝言でも聞かれたら恥ずかしさで昇天してしまうかもしれない。他人ならまだしも三葉には特に。寝ている間、自分がどうなっているのか分からないのだから。
「入院ってやっぱり暇?」
「まぁ、殆どの時間ベッドだし……。 暇ではあるかな」
「俺も暇。お前がいないし」
「え?」
思わず聞き返す。これは不可抗力だ。三葉は「だって気を遣わずに話せる奴ってお前だけだし」と続ける。なんだ、そういうことかと少し落胆してしまった。余計な勘違いはさせないで欲しい。いや、勝手に勘違いしてるのは俺なんだろうが。
勝手に勘違いして、期待して結局落ち込むのは自分だ。そろそろ学習しなければいけない。俺はきっと三葉の恋愛対象にすら入っていないのだから。心が痛んだ気がする。
「気を遣わずに済むなら俺のところにもっと来てもいいよ。俺も三葉には気を遣わずに済むから幾分か楽だし」
笑顔を取り繕いそう告げると三葉は驚いたように目を見開いた。予防線を張って自分が傷つかないようにしているだけで本当のところ俺は三葉にもっと来て欲しいだけだ。三葉の都合なんてこれっぽっちも考えてはいない。
せめて一緒にいたい。所詮俺はもっと来て欲しいとも言えない臆病者である。三葉は「んじゃ、毎日のように来る」と俺の心を守る返事をした。
楽だからと言う理由でも俺のところに来てくれるのは嬉しく、少しだけ心に余裕が出来た気がする。俺に気を向かせるチャンスはまだあるのだということは今後の余裕にもなるだろう。
嬉しさで心を埋めていれば心臓が痛む。まるで針が刺さるかのような痛みは心に来たものじゃない。これは本当に心臓に来ている。今までに無いほどの痛みに声も出ず、情けないことにベッドの上で倒れそのまま意識を失った。恥ずかしいところを見せてしまったとぼんやり思う。
最後に三葉が慌てたように俺の名前を呼んだ気がした。きっと痛みで聞こえた幻聴だろう。
いや、怖かったとしてもそんな事より三葉の方が気になっているのだ。幽霊に怯えるくらいならば三葉のことを考えていたい。告白をどうやって突っぱねたのかや、彼女が出来てしまったらどうしようなど。正直こんなことを気にするのは俺だけなのだろうが仕方が無いだろう。入院するため、学校で何が起きているのか把握出来ないのだから。
告白を断るとして、三葉がやりそうな手は「好きな人がいるから」か「恋愛に興味無い」の二択だと思う。そもそも好きな人が居たとして男の俺はエントリー外な気もしなくはないが置いておく。心労が祟ってご臨終なんて嫌だ。そんなの情けなさすぎる。
前者で断ればしつこく攻め入る人もいないだろう。となれば後者の恋愛に興味無いがないと答えるのが現実的だ。執拗い人ばかりだし、恋愛に興味が無いという分にはまだ俺の入る余地はあるだろうから。そっちの方を考えていたいと言うのが本心である。
問題なのは彼女が出来た場合だ。はっきり言って他の人に三葉を取られるのは嫌だが、祝福しない訳には行かないだろう。受け入れる体制を作って置かなければきっと俺は祝福できない。今から少しずつ受け入れる体制を整えなければ。絶対に作って欲しくないけども。
悶々と考えていれば結局一睡も出来ずに朝を迎えた。三葉のせいで寝れなかったでは無いか。いや自業自得だし、三葉のせいなら大歓迎だ。
今日は一日来客の予定は無い。母親も実家の両親の様子を見に行くらしく、一日ゴロゴロしていても問題ないと言うのが不幸中の幸いだろう。元より俺が熟考しなければよかった話なのだが。
看護師さんが持ってきた朝ご飯をちまちまと口に含む。病院食というのは栄養を考えて作られているため味が薄く、美味しいとは言いずらい。長ったらしく咀嚼を繰り返し、結局最後には時間ギリギリでご飯を掻き込む羽目になったのは馬鹿だと思う。今日はついていない。ついていない分、恋愛運が上がっていればいいのだけども。
三葉の周りの状況を知れない虚しさを胸に布団へ体を沈め腕に刺さった点滴を見つめる。点滴が自分を縛る鎖のように見えてならない。点滴がある限り、俺は三葉を掴み取れない気がしてしまう。いや、あってもなくても俺が意気地無しだということは変わらないか。
ため息を漏らしてから頭まで布団を被る。襲いかかる睡魔に抗わず、睡眠を摂ることにした。今晩は必ず寝ようと誓う。
そんなこんなで昼前に目を覚ませば何の意地悪だろうか、本を読む三葉が居た。いつから居たのか、なんで居るのかなどすっぽ抜け、俺は自分が何をしたのか振り返る。思いつく限りでは神様の意地悪を受けるような悪いことはしていない。恋したのが行けなかったのか?
「……なんでいる訳?」
平静を装ってそう聞く。もしかしたら少し棘があったかもしれないが、正直それどころでは無い。三葉は本から俺に目を移した。口角を上げて「おはよう」と挨拶される。
「え? あ、おはよう」
いつも通りの三葉に思わず動揺してしまった。気まずさを感じているのは俺だけな為、いつも通りの三葉に動揺してしまうのはおかしな話だ。いつも通りで居られないのは俺だけなのだから。
三葉は本を閉じて椅子に座り直し「で? 居る理由だっけ?」と聞いてきた。聞かれるまで自分のせいで聞いたことを忘れて居たのは忘れよう。全て忘れてしまえば楽だ。
それよりも、今日人が来るなんて聞いていない。今日は一日誰も来ないと思っていたし、その予定もなかった筈だ。その証拠に俺は二度寝した。
「予定が空いてて暇だったからだよ。迷惑だった?」
「いや、別に。暇してたから気にしないでいいよ」
迷惑だった?と首を傾げるのは反則だと思う。これで落ちない人間は果たして居るのだろうか。居るのならぜひ聞いてみたい。その落ちない秘訣を。このままでは俺はガチでキュン死してしまうだろうから。
平静を保っていることに心の内で賛美しながらいつ来たのかを質問する。「三十分くらい前」と言った三葉に軽く絶望した。寝顔見られたかもしれない。
いや、さっき起きた時点で居たのだから寝顔は見られたのだろう。が、五分程度ならいいなという淡い期待を持っていたのだ。
誰でも好きな人に自分の寝顔を晒したくはないだろう。寝言でも聞かれたら恥ずかしさで昇天してしまうかもしれない。他人ならまだしも三葉には特に。寝ている間、自分がどうなっているのか分からないのだから。
「入院ってやっぱり暇?」
「まぁ、殆どの時間ベッドだし……。 暇ではあるかな」
「俺も暇。お前がいないし」
「え?」
思わず聞き返す。これは不可抗力だ。三葉は「だって気を遣わずに話せる奴ってお前だけだし」と続ける。なんだ、そういうことかと少し落胆してしまった。余計な勘違いはさせないで欲しい。いや、勝手に勘違いしてるのは俺なんだろうが。
勝手に勘違いして、期待して結局落ち込むのは自分だ。そろそろ学習しなければいけない。俺はきっと三葉の恋愛対象にすら入っていないのだから。心が痛んだ気がする。
「気を遣わずに済むなら俺のところにもっと来てもいいよ。俺も三葉には気を遣わずに済むから幾分か楽だし」
笑顔を取り繕いそう告げると三葉は驚いたように目を見開いた。予防線を張って自分が傷つかないようにしているだけで本当のところ俺は三葉にもっと来て欲しいだけだ。三葉の都合なんてこれっぽっちも考えてはいない。
せめて一緒にいたい。所詮俺はもっと来て欲しいとも言えない臆病者である。三葉は「んじゃ、毎日のように来る」と俺の心を守る返事をした。
楽だからと言う理由でも俺のところに来てくれるのは嬉しく、少しだけ心に余裕が出来た気がする。俺に気を向かせるチャンスはまだあるのだということは今後の余裕にもなるだろう。
嬉しさで心を埋めていれば心臓が痛む。まるで針が刺さるかのような痛みは心に来たものじゃない。これは本当に心臓に来ている。今までに無いほどの痛みに声も出ず、情けないことにベッドの上で倒れそのまま意識を失った。恥ずかしいところを見せてしまったとぼんやり思う。
最後に三葉が慌てたように俺の名前を呼んだ気がした。きっと痛みで聞こえた幻聴だろう。
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