ある日、私の頭に耳が生えました

巻乃

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日本編

引っ越し前にはしなくてはならない事が一杯です

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 また、土曜日になった。今日は渡辺祥太郎さんが移住の相談に乗ってくれる筈。先週、そう話したのだ。

 100円ショップで画用紙、いわゆる、らくがき帳を買ってきた。これに、移住の手続きで必要な事をメモしておいて、手続きをしなくては。

 表にも裏にも書けて、千切っても折っても大丈夫ならくがき帳は、私の相棒です。まとめ買いしてしまったけど、日本みたいに紙が手に入りやすいかどうか分からないし、いいかなーって思ったのでね。

 待っている時は、なかなか現れませんね。らくがき帳に家の中にある物を書き出していた。そうしたら、いつの間にか夕方になってしまっていた。

「もう今日は来ないかもなー。」独り言を呟いて、スーパーにでも買い物に行こうと部屋を出て鍵を閉めようとしたら、アパートの階段を上って来る渡辺祥太郎さんが見えた。もう一人、男性を連れて。

 あちらも私に気付いたのか、声をかけてきた。
「大変遅くなりました。」
「もう今日は来ないのかと思っていました。」
「あの、話が長くなるので、部屋の中へお願いできませんか?」
「スーパーの特売を買いたいのですが…。」

 私が、食料品を買いたいので断ると、渡辺祥太郎さんの横にいた男性が話しかけてきた。
「遅くなったお詫びに、祥太郎が夕飯をおごりますし、コンビニで明日の朝食を買い込んでもいい様に会計を持ちますので、移住の話をさせてくれませんか?」

 うーむ、夕飯が無料おごりで、コンビニでも会計持ちしてくれるなら、いいか。

「給料が安いので、節約生活しないと生活出来ないんです。だから、特売を外したくなくて。食費を負担していただけるのでしたら、助かります。移住の話をしましょう。あんまり物がない部屋ですが、どうぞ、上がって下さい。」
「は、はい。おごりますので、移住の話をしましょう。連れの男性は移住に関連した話をする為に連れて来ました。身元は私が保証しますので。紹介は部屋の中でします。」
「分かりました。では、2人共、どうぞ。」

 一応、座布団を2枚出して、ちゃぶ台を囲んで座るようにした。
「何か飲みますか?」
「話が済んだら、夕食にでましょう。ですから、出さないで良いです。」

 それまでは渡辺祥太郎さんを肘でつついてニコニコしていた男性がキリっと真面目な顔をしました。

「先程、祥太郎から移住に関して話す為に一緒に来たと紹介されました、渡辺陽太郎と言います。弁護士をしています。」

 渡辺祥太郎さんが黒髪に黒目の真面目な感じなのに、弁護士の渡辺陽太郎さんは、茶髪の茶色い目の人懐っこい感じがする人です。

「先週、結衣子さんのお勤めしている会社名を聞いた時、節約生活をしなくても暮らせる程、給与を貰えるはずなのにと私が疑問に思い、調べていましたら、不正が発覚したんです。」
「そこで、弁護士の私と祥太郎が、あなたの代理人として会社に行きました。」

「そこからは、弁護士の陽太郎から話します。」
「会社では、あなたの代理人として抗議をしました。どうやら、あなたの入社時に頭の良くない役員の娘が同期入社したんです。その役員の娘の成績と、天涯孤独で成績の良かったあなたの成績を、役員が娘に良い結婚相手が見つかるように、良い結婚相手を捕まえられるようにと、入れ替えていました。」

「入れ替え…。」

「ええ、役員の娘はコネで入社出来た様なもので、入社前から子会社への出向が決まっていたそうなんです。で、あなたは出向前にあちこちに相談していたので、その履歴が残っていました。」

「あの相談も無駄じゃなかったんですね…。」

「先週、あなたが辞職すると告げたので、どのくらい有給休暇が残っているのかを会社の方で調べていたら、色々とつじつまが合わなかった事が出てきたそうです。あなたは入社以来、インフルエンザで出社停止をした事を除けば、皆勤、無遅刻ですね。」

「はい、そうです。休んだりしたら、生活していけなくなりますし。」

「ですが、子会社からの報告と、会社の方の履歴とで、食い違いがあったそうなんです。会社の方では、あなたの有給休暇は残っていなかった。役員の娘があなたの名前で休暇申請を繰り返していたからで、不審に思った者が子会社に確認すると、あなたは休んでいなかった。」

「有給休暇まで…って、酷過ぎる。」

 渡辺祥太郎さんの眉毛が八の字に下がって、私を見ている。目が合っちゃったな。

「仕事の方にも、色々と食い違いが見つかり、私達の要望で筆跡鑑定まで行いました。その結果、あなたの受けていた理不尽な差別や不正に対する慰謝料と迷惑料、もらい損ねていた資格手当、家賃補助、子会社での高評価で能力給、偽の有給休暇申請で受けていた差額分を金額として受け取れるようになりました。会社での名誉回復もお願いしましたし、役員の娘とその親である役員からも、名誉棄損と損害回復、その慰謝料等を請求しましたので、こちらと会社の分もまとめて、今月末には銀行口座に振り込まれます。」

「あなたの祖父母の残した遺産も回収してきました。その際、遺骨を移住先へ一足先に送りましたので。日本でのお墓も必要なくなったので、魂抜きをして、解体工事も致しました。墓地の永代使用権も返却しました。必要書類も既に揃え終えて、関係各所へ出しました。」

 弁護士の渡辺陽太郎さんの説明が終わったようだ。でも、でも、…。

「こんな急に沢山の事を言われても、頭も心もついていけません。待って下さい。」
「貴女の受けていた理不尽で、正当でない評価は払拭されました。もう、移住するのにあたって、気にする事はありません。」
「そうですか。私が気にする事、悩む事がなくなったのですね。…何だか、気持ちが軽くなった気がします。」
「では、移住にあたっての話をしましょう。」 
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