ある日、私の頭に耳が生えました

巻乃

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ナーオ・ロウ国編Ⅰ

騎士達は仕事中2

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 個室へ入ったけど、空気がちごおってたわ。陽さんの殺気も凄いんやけど、こん、お人のはもっと凄いんや。わいも実戦で鍛えられてるけどな、それでもちごおてはるわ。どえらい人んとこへ連れて来られたわ。

 やっぱりこの人は違うな。俺の憧れだったのに、「妻が病気で余命があまりないんだ。側にいてやりたいから、皆を信頼しているから任せられるわ。後は皆で頼むな。」と、サクッと総騎士団長を辞職した強者だ。

 その奥さんを亡くした後に、何度か復職の打診をされているが、「後を皆に頼んだと言って信じて辞めたんだ。今でもその後輩達を信頼しているし、私が戻れば職を奪ってしまう事になる。だから私は復職はしない。」と断っているそうだ。

 そうか、ロートは知らないんだっけ。
「こん、お人は?」
「元総騎士団長バルバドス様。」
「あははは!様付けで呼ばれる程じゃない。妻の病気に気付けずにいた詫びにな、看病の為に仕事を辞めてしまった大馬鹿者さ。で、妻亡き後、ここのマスターをしてくれと頼まれた、何処にでもいる中年オヤジだ。」

「で、今朝、仕入れたばかりのって言うのは?」
「せっかちだな。まずは座れ。そっちの連れは?」
「ああ、王太子妃専属護衛のロートだ。」
「初めまして。ロートです。」

 バルバドスがロートを繁々しげしげと見回してから、言った。

「そうか、おまえはジャンヌ王妃様の元護衛か。良いヤツを紹介してもらえたんだな。よっ!自由自在の猫。」
「そん二つ名で呼ぶんは、止めて欲しいんやけどな。」
「ま、それなら話をしても大丈夫なようだ。すぐ死なれちゃ困るからな。陽太ぐらいに使えそうだし、丈夫そうだ。」

「陽さん、あんさんの周りには普通の人は、いてへんのですか。」
「ん?意識した事はないかな。皆、普通じゃねーの?」
「気ままな黒猫を相手にしたって、話が出来やしないぞ、自在猫。」
「勘弁して下さい。ロトって呼んでもらえますか。」

「気ままな黒猫って聞いた事あるだろ。それが、この陽だよ。」
「うえっ!あんさん自体が普通やないやないか!」
「え?俺?騎士になる前に修行の旅に出たら、気ままって言われただけだと思うけど。」

「な。自覚がないんだよ。気まま過ぎて。」
「こないな事になるとは思わんかったわ…。お嬢はんの料理で癒されたいわ。その前に、わいの癒しを助けにゃならんのかい!」
「で、バル、新鮮なヤツを頼むわ。」
「おーい!飲み物と新鮮なヤツな!」

「はーい。」店の更に奥から、バルの声に答える声が聞こえた。

 すぐに、「お待たせしましたー!」と、若い娘が紙の束と、コーヒーを3つ持ってきた。

「では、ごゆっくりー!」

 給仕をした娘の足音が遠ざかっていったのを確認した後に、バルが話し始めた。

「まずは、その報告書を2人で読んでくれたら、詳細を話す。」
「読む。」「拝見させて頂きます。」

 その報告書には、王妃との茶会で女神の力を悪用して、毒を分からなくした飲み物を王太子妃へ飲ませる。毎日少しずつ飲ませて、8日目に死亡するように毒を使う。

 王妃の実家は商売をしている貴族だが、金遣いが荒いせいで、いつも金策に走っているという噂がある。実家が密輸入した新しい毒を使って王太子妃を殺せれば、毒の有用性を証明出来る上に、自分の地位を脅かす小娘を処分出来ると王妃が毒殺を率先して計画している。と書いてあった。

 王妃の実家の貴族が密輸入を隠す為、王弟派の色々な貴族に便宜を図ったり、裏金で作った金を賄賂で渡していたので、その相手、場所、年月日までが詳しく書いてある報告書の束もあった。

「明日、ユーイの為にと祥が親切心で、王妃との茶会を行うように手配をしていたんだが、それが裏目に出たな。」
「何で、お茶会なんてしはるんでっか。」

「ユーイが女神の力の事を聞きたがっているだろうと、王妃との茶会を手配したんだ。ふぅ、祥に教えないと、暴走しそうだしな。ああ、実に面倒な事になるな。一兄と宰相も巻き込むか。カーナさんは妊婦だから、遠ざけないとな。でも、事情を話してないと、あの人も暴走するか。」

「王にも報告しておけよ、陽。」
「解ってるって、バルは心配性だな。」
「いや、報告し忘れて、騎士団に騒ぎを起こした事があるから言ってるんだ。」
「って事は、祥の専属になってからは起こしてないぞ。」

「肝心な事はまだ話さへんですね。」
「まぁな。」
「バルに誤魔化される所だったか。」

「その新しい毒は、魔物から生み出されたもの。効能が毒だという事以外は全く分かっていない。だが、その毒を取り込むと、治癒魔法も効かないらしい。」
「治癒魔法が効かないんじゃ、この世界に魔法を与えた女神でも困る代物だな。」
「そうだ。だから、女神の加護がある王太子妃様でも危ないんだ。分かるよな、2人共。」

 陽太郎の目が鋭く光った。ロートの目付きも妖しい光を湛えている。

「その裏にいるのは?」
「獅子国皇妃、赤雪だ。前王妃リュン様と会談で会って以来、何年も側妃に寄越せと白炎皇帝がナーオ・ロウへ密書を送ってきていたのは、王や宰相、総騎士団長の私だけが知る話だから、おまえらは知らなかっただろうがな。
 その上、攫って側妃にする為だけに戦争を起こそうとしていた程、横恋慕で惚れこんでいた。だが、そのせいで女神からの罰として、皇帝が不能になったようで、な、その事でも皇妃はずっと嫉妬していたようだな。」

「陸蛇(毒蛇のような生き物)並みに執念深いわ!」「凄まじい。」

「で、どうして今回と繋がるのかと聞きたいんだろう?」

「そりゃあ、わいの主人やさかい。」「祥がまともでいれる為だから、な。」

「それなんだが、皇妃がミュン王妃をそそのかしたんだ。その逆もあったって事だ。」
「よう分からん。そこんとこを詳しく頼んます。」
「???」

「お前らに分かり易く言うとだな、皇妃はリュン前王妃が邪魔だったが、勝手に死なれたせいで、皇帝が執着しているんだ。手に入らなかったからこその執着ってヤツだな。
 皇帝の中で、この先ずっと1番はリュン前王妃で、皇妃は2番目以降の女にされたんだ。

 その嫉妬が消えないうちに、死んだリュン前王妃そっくりなミュン王妃が現れた。でも、皇帝は見かけが同じでもミュン王妃を歯牙にかけなかった。

 ミュン王妃の周りを獅子国の密偵が探っていた時期があったが、中身がダメダメなのが皇帝にも知れたんだろうな。だから、食指が動かなかったんだと思う。実際、王も、ミュン王妃には指一本触れていない。清い関係だ。
 ミュン王妃も、清いままでいないと女神からの加護が消えると、婚姻前に女神本人から釘を刺されているしな。破ったら、加護もなくなり、王妃でいる資格もなくなるから、な。

 そのリュン前王妃そっくりなミュン王妃を、リュン前王妃を殺せなかった赤雪皇妃が、ミュン王妃を破滅させたいと思ったんだろうな。王妃の実家を通して、便宜を図って散々、甘い汁を吸わせてから逃げられない様にして、毒を使わせる事を計画させた。

 だがな、ミュン王妃も未だに王妃でいられる程の腹悪なんだ。皇妃の計画には乗ったが、裏では皇帝と接触して、この国から追放されても、清い身であるのを活かして、皇帝の愛人として獅子国で過ごせる様に手を打っている。王太子妃を殺したら、国で処刑されるって現実を忘れて、都合の良い事を考えていやがるから、反吐が出るがな。

 赤雪皇妃をそそのかして、皇太子が王太子妃に興味を持ち、攫うよう計画させた裏にいたのは、ミュン王妃なんだよ。

 王太子妃を邪魔で消そうとしているのはミュン王妃。皇帝が王太子妃を側妃に欲するのではないかと嫉妬で一杯で、消そうとしているのは赤雪皇妃。分かったか?」

「うわ!怖っ!」
「複雑でんな。でも、ユーイお嬢はんのせいじゃない事で、お嬢はんの命が狙われるのは理不尽ですやん。」

「で、王妃が皇帝と接触していた証拠と、その毒を見つけて回収するのが2人の仕事だと思うんだが。」
「陽さん、明日の茶会は何時から?」
「ん、王や皇太子も呼んでいたから、夕方から。晩餐を大幅にズラすって言っていたな。」

「待て!陽!王も王太子も参加するのか?」
「そうだけど。」
「馬鹿か!8日後には、王も王太子もその毒で殺されてしまい、国ごと獅子国に乗っ取られるかもしれないんだぞ!!」

「!!」
「時間があらへん!」
「こっちも、伝手つてもコネも総動員するからな!すぐ動け!」
「王妃の実家を秘密裏に捕縛、探索すると同時に、王妃を探る!」

「こっちは王国民への被害がない様に、獅子国の密偵を端から捕まえる!」
「じゃ、バルの指揮で、裏隠密部隊を動かして頂けるんですか。」

「国の根底を揺らされているからな!動かす!」
「では、こっちは表を動かします!」
「わいはユーイお嬢はん、改め、ユーイ姫さんを守りますわ!」

「店は全店、午後から研修旅行で臨時休みにすると通達しておくから、騎士の皆にも伝えておけよ。」
「分かった。行くぞ!ロート!」
「あいよ!陽さん!行きまっせ!」

 店から早足で出た3人は、色々と急ぐのであった。
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