ある日、私の頭に耳が生えました

巻乃

文字の大きさ
107 / 207
獅子国編

苑、バルバドスに会う

しおりを挟む
 ミーファさんに案内をされて入った店の中は、明るくて活気があった。

 人が四六時中、出入りしているけれど、ガラの悪い者はいなく、体格の良い男も多いのが気にはなったが。
 それに、騒がし過ぎず、かと言って、静か過ぎず、過ごし易い感じの店内だった。

 一番奥のこじんまりとした席へ我と草は案内され、メニュー表を渡されたのだ。

「お茶をおごるお約束でしたので、好きな物をどうぞ。」と言われたので、我はアイスティーを、草はアイスコーヒーをミーファさんへ頼んだ。

 頼んだ茶の用意をするからとミーファさんが奥へ行ったのと同時に、入れ替わりのようにいかつい大きな男がやって来た。

 その男はバルバドスと名乗り、ミーファさんの夫だと言う。

 妻が世話になったお礼に茶をおごる約束をしたのを聞いたのだと話してきた。その上で、親切なご夫人とその従者の名を聞いてもいいだろうかと尋ねて来たのだ。

 獅子国では城下へお忍びで出掛けたが酒場には入った事が無かったので、物珍しく店の中を貴族らしくなく、キョロキョロと見ていた我に、ミーファさんの夫である者も気付いたのだろう。

 我もバルバドスと言う名に聞き覚えはあったのだが、引退した騎士、それも引退した後にも再就職をして、わざわざ国の裏稼業などをしている者に気を遣う必要はないと思い、話しかけられた内容には答えずにいたのだ。

 我がわざと答えなかったのだと、気付いたのか気付かなかったのか分からないが、只管ひたすらに好奇心丸出しで店の中を見ていた我の姿が珍しかったのだろうか、バルバドスが噴き出したのだった。

 ナーオ・ロウ国の元総騎士団長殿なぞ、我は怖くはない。聖獣である白獅子様に何度か殺されそうになった時に浴びた殺気と比べ、我からしたら、バルバドスの殺気など大したことではないのだ。だから、店の中を見ていた。

 ひとしきり笑った後に、バルバドスが真面目な顔をして我に言ったのだ。

「久しぶりに大いに笑わせて頂きました。私の殺気を浴びても動じない豪胆ごうたんさはさすがだと言えます。」

「国では暗殺者が暗躍しているので、殺気をあえて気付かない振りをして、逃げ出せる様にしているのですわ。でないと、この歳まで生き残れませんもの。」

「妻から名を聞いた時にはどこの国からいらしたのか分かったもので、試させて頂きました。」

、私の滞在している屋敷も御存じでしょう?私、屋敷に住んでいる方の隠されていた庶子で、なお且つ暗殺者も多かったものですから、結婚相手が亡くなったら、すぐに実家へ帰されてしまいましたの。」

「…そうですか。そこまでの事情は私共の所へ入って来ていませんでしたので、ご無礼致しました。」

「ふふっ、お忍びで街の中を歩く解放感を味わってしまうと、祖国へ戻る気に中々なれなくって。」

「貴族家業よりは気楽ですからね。」

「…実は、お慕いしていた方が再婚されたのを知って、幸せかどうかを見に来たのですけれど、お幸せそうだから諦めますわ。どうぞこれからもお幸せに。」

 ウインクをして、寂し気に微笑んだ。

 我が好きになったミュンは再婚して幸せそうだった。我の入る隙間もないほどに。我に見つからない様にと、擬態と改名までしていると、出会ってすぐに気付いたのだ。好きになった者の顔形が違っても、その人の性格や魂までは変わらないから、ミュンが改名してミーファになったのだと理解したのだ。

 少し位、その相手に意趣返しをしてもいいだろう?今の我は女性の外見なのだから。

 我が言った言葉に動揺していたバルバドスが、我を見つめて口から言葉を出した。

「はい。お気持ちは嬉しかったです。照れますね、綺麗な方に告白されるのは…。
 私の殺気にも動じない豪胆さは仕事柄、とても魅力的です。独身でしたらお付き合いする可能性も多分にあったかもしれません。でも、今はミーファと幸せになりました。」

「自分の目で確かめられて良かったです。お子さんまで産まれて、増々、お幸せそうで、見に来て良かったですわ。それに、真摯にお返事をして頂けたのですもの。ミーファさんと友人になるのを許可して頂けますか?」

「はははっ、ミーファの良き友人になりそうな方で良かったです。」

「バル?お茶を持ってきたのだけれど、どうしたの?」

「ミーファさんと友人になる許可をご主人からやっと頂けたの。私の身元で心配なされて、殺気までとばされましたのよ。」

「まぁ!バル!私の友人に酷いわ!」

「許可を出したんだ。許してくれ!」

「ぶはっ!」「草!」「す、済みません。可笑おかしくって我慢出来ずに笑ってしまいました。」

「ミーファ、子供達を見せてあげるって言っていたが、子供達は?」

「従業員の方達が連れて来るって言ってたわ。」

 我は失恋はしたが、噂に聞くバルバドスがミーファを幸せにしそうだと見て、ミーファの子供達を沢山抱かせてもらったのだった。
 4人いた子供達も皆、男の子であったので、女性の外見をしている我には愛想良くしてくれたし、その中の1人の子は、我の外見が好みで、帰る時に大声で泣き喚いて離れないと嫌々をしていたので、少しだけ留飲が下がったのであった。

「この子ったら美人さんでないと抱っこを嫌がるので、客商売なのにと、困っていたの。
 まさか、苑さん位の結構上位な美人さんが好みだったとは知らなかったわ。はぁ、何だか今まで美人でないと抱っこさせなかった理由が分かって、ガックリしてしまったわ。」と、ミーファさんは言っていたが、

「済まん。男は綺麗な女性が好きなモノだ。客商売をしていると目が肥えるから、美人が好きになっても仕方ないだろう。」と言う、バルバドスの足をミーファさんが力を込めて踏みつけていたが。

 いい気味だと内心で思っていたのだが、それを外には一切出さずに微笑みを崩さず、店を出たのだった。

 店から歩いて屋敷の滞在している部屋に戻ると、帰り道では黙っていた草が話し始めた。

「帰り道、バルバドスの放った騎士が付いて来ていましたが、気付いていましたか。」

「それは勿論。知らない振りをするのに苦労をした。」

「で、苑、失恋したけどいいの?いいの?」

「好きではあったけれど、幸せな姿を見たら何となく納得出来たから、もういいかと思えたのだ。」

「じゃあ、ここまで来たのは収穫があったって事なのかな?どう?どう?」

「人任せにしなかった分、結果はどうあれ、胸の痛みは誤魔化せないが、もういいのだ。」

「赤雪元皇妃は?」

「身代わりを買って出たアレの母親の為に、知らない振りをしておく事にしたと、父と話して決めたのだとナーオ・ロウの王太后に父の名で親書を出しておいた。」

 皇帝と元皇帝の間だけの公然の秘密と言うやつだ。その上で、王太后を保険とするべく、巻き込んでおいたのだ。我ではアレを幸せに出来なかったのだ。自分が死ぬのが怖くて、今代の白獅子様の言う通りにしか生きてこれなかったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

処理中です...