ある日、私の頭に耳が生えました

巻乃

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獅子国編

苑、バルバドスに会う

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 ミーファさんに案内をされて入った店の中は、明るくて活気があった。

 人が四六時中、出入りしているけれど、ガラの悪い者はいなく、体格の良い男も多いのが気にはなったが。
 それに、騒がし過ぎず、かと言って、静か過ぎず、過ごし易い感じの店内だった。

 一番奥のこじんまりとした席へ我と草は案内され、メニュー表を渡されたのだ。

「お茶をおごるお約束でしたので、好きな物をどうぞ。」と言われたので、我はアイスティーを、草はアイスコーヒーをミーファさんへ頼んだ。

 頼んだ茶の用意をするからとミーファさんが奥へ行ったのと同時に、入れ替わりのようにいかつい大きな男がやって来た。

 その男はバルバドスと名乗り、ミーファさんの夫だと言う。

 妻が世話になったお礼に茶をおごる約束をしたのを聞いたのだと話してきた。その上で、親切なご夫人とその従者の名を聞いてもいいだろうかと尋ねて来たのだ。

 獅子国では城下へお忍びで出掛けたが酒場には入った事が無かったので、物珍しく店の中を貴族らしくなく、キョロキョロと見ていた我に、ミーファさんの夫である者も気付いたのだろう。

 我もバルバドスと言う名に聞き覚えはあったのだが、引退した騎士、それも引退した後にも再就職をして、わざわざ国の裏稼業などをしている者に気を遣う必要はないと思い、話しかけられた内容には答えずにいたのだ。

 我がわざと答えなかったのだと、気付いたのか気付かなかったのか分からないが、只管ひたすらに好奇心丸出しで店の中を見ていた我の姿が珍しかったのだろうか、バルバドスが噴き出したのだった。

 ナーオ・ロウ国の元総騎士団長殿なぞ、我は怖くはない。聖獣である白獅子様に何度か殺されそうになった時に浴びた殺気と比べ、我からしたら、バルバドスの殺気など大したことではないのだ。だから、店の中を見ていた。

 ひとしきり笑った後に、バルバドスが真面目な顔をして我に言ったのだ。

「久しぶりに大いに笑わせて頂きました。私の殺気を浴びても動じない豪胆ごうたんさはさすがだと言えます。」

「国では暗殺者が暗躍しているので、殺気をあえて気付かない振りをして、逃げ出せる様にしているのですわ。でないと、この歳まで生き残れませんもの。」

「妻から名を聞いた時にはどこの国からいらしたのか分かったもので、試させて頂きました。」

、私の滞在している屋敷も御存じでしょう?私、屋敷に住んでいる方の隠されていた庶子で、なお且つ暗殺者も多かったものですから、結婚相手が亡くなったら、すぐに実家へ帰されてしまいましたの。」

「…そうですか。そこまでの事情は私共の所へ入って来ていませんでしたので、ご無礼致しました。」

「ふふっ、お忍びで街の中を歩く解放感を味わってしまうと、祖国へ戻る気に中々なれなくって。」

「貴族家業よりは気楽ですからね。」

「…実は、お慕いしていた方が再婚されたのを知って、幸せかどうかを見に来たのですけれど、お幸せそうだから諦めますわ。どうぞこれからもお幸せに。」

 ウインクをして、寂し気に微笑んだ。

 我が好きになったミュンは再婚して幸せそうだった。我の入る隙間もないほどに。我に見つからない様にと、擬態と改名までしていると、出会ってすぐに気付いたのだ。好きになった者の顔形が違っても、その人の性格や魂までは変わらないから、ミュンが改名してミーファになったのだと理解したのだ。

 少し位、その相手に意趣返しをしてもいいだろう?今の我は女性の外見なのだから。

 我が言った言葉に動揺していたバルバドスが、我を見つめて口から言葉を出した。

「はい。お気持ちは嬉しかったです。照れますね、綺麗な方に告白されるのは…。
 私の殺気にも動じない豪胆さは仕事柄、とても魅力的です。独身でしたらお付き合いする可能性も多分にあったかもしれません。でも、今はミーファと幸せになりました。」

「自分の目で確かめられて良かったです。お子さんまで産まれて、増々、お幸せそうで、見に来て良かったですわ。それに、真摯にお返事をして頂けたのですもの。ミーファさんと友人になるのを許可して頂けますか?」

「はははっ、ミーファの良き友人になりそうな方で良かったです。」

「バル?お茶を持ってきたのだけれど、どうしたの?」

「ミーファさんと友人になる許可をご主人からやっと頂けたの。私の身元で心配なされて、殺気までとばされましたのよ。」

「まぁ!バル!私の友人に酷いわ!」

「許可を出したんだ。許してくれ!」

「ぶはっ!」「草!」「す、済みません。可笑おかしくって我慢出来ずに笑ってしまいました。」

「ミーファ、子供達を見せてあげるって言っていたが、子供達は?」

「従業員の方達が連れて来るって言ってたわ。」

 我は失恋はしたが、噂に聞くバルバドスがミーファを幸せにしそうだと見て、ミーファの子供達を沢山抱かせてもらったのだった。
 4人いた子供達も皆、男の子であったので、女性の外見をしている我には愛想良くしてくれたし、その中の1人の子は、我の外見が好みで、帰る時に大声で泣き喚いて離れないと嫌々をしていたので、少しだけ留飲が下がったのであった。

「この子ったら美人さんでないと抱っこを嫌がるので、客商売なのにと、困っていたの。
 まさか、苑さん位の結構上位な美人さんが好みだったとは知らなかったわ。はぁ、何だか今まで美人でないと抱っこさせなかった理由が分かって、ガックリしてしまったわ。」と、ミーファさんは言っていたが、

「済まん。男は綺麗な女性が好きなモノだ。客商売をしていると目が肥えるから、美人が好きになっても仕方ないだろう。」と言う、バルバドスの足をミーファさんが力を込めて踏みつけていたが。

 いい気味だと内心で思っていたのだが、それを外には一切出さずに微笑みを崩さず、店を出たのだった。

 店から歩いて屋敷の滞在している部屋に戻ると、帰り道では黙っていた草が話し始めた。

「帰り道、バルバドスの放った騎士が付いて来ていましたが、気付いていましたか。」

「それは勿論。知らない振りをするのに苦労をした。」

「で、苑、失恋したけどいいの?いいの?」

「好きではあったけれど、幸せな姿を見たら何となく納得出来たから、もういいかと思えたのだ。」

「じゃあ、ここまで来たのは収穫があったって事なのかな?どう?どう?」

「人任せにしなかった分、結果はどうあれ、胸の痛みは誤魔化せないが、もういいのだ。」

「赤雪元皇妃は?」

「身代わりを買って出たアレの母親の為に、知らない振りをしておく事にしたと、父と話して決めたのだとナーオ・ロウの王太后に父の名で親書を出しておいた。」

 皇帝と元皇帝の間だけの公然の秘密と言うやつだ。その上で、王太后を保険とするべく、巻き込んでおいたのだ。我ではアレを幸せに出来なかったのだ。自分が死ぬのが怖くて、今代の白獅子様の言う通りにしか生きてこれなかったのだ。
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