ある日、私の頭に耳が生えました

巻乃

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ラーン・ビット国編

ショウの思い出

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 私がユーイに初めて会ったのは、ユーイが攫われる前の3才になるかならないかであった。

 その頃の私は、僕と自分の事を言っていたし、髪が一部でも黒くして生まれた者が自分の番かどうかを判定する為に、王太子としての勉学をする合間に、貴族の子女のいる屋敷へ訪問するのが当たり前になっていた。

 その日も、またハズレだろうと思いながら、本当は会わせたくないのだとごねる公爵を父である王が説き伏せて、渋々、その末のご息女と会わせてもらえる事になったのだとは聞いていたのだ。

 人見知りをしているので、その末のご息女の庭園のお気に入りの場所を教えてもらい、その場に僕が会いに行くという手段を取ったのだった。

 面倒だと思いながら、庭園の片隅に薄紅色の花が咲いている木の下を目指した。

 たしか、梅と言う名の木だ。甘くて良い香りのする花が咲いている。

 目当ての木の根元で、その木に向かって話しかけている子供がいた。その子を見た途端、吸い寄せられる様にその子の隣へ立っていた。

「お兄ちゃま、だぁれ?」

 その声をずっと聞いていたい気になった。

「だぁれでしゅか?」

 ああ、僕に話しかけているんだ。答えないと。

「僕はショウ。今日は君に会いに来たんだ。」

 梅の花の香りよりも、その子の匂いを嗅いでいたい。頭の芯がぼおっとする程、この子からい匂いがする。

「ふーん。じゃあ、わたちも!

 わたちはユーイでしゅ。お兄ちゃまとお姉ちゃまがいるの。」

 ユーイって言うんだ、ユーイと手を繋ぎたい。抱きしめたい。

「ショウお兄ちゃま?」

「お兄ちゃんじゃないよ、ユーイの結婚する相手が僕なんだよー。」

「んーと、ちゅがいなの?」

「そう!番だ!ユーイはショウの!僕の番だ!」

「じゃあ、手、ちゅなご!」

「手を繋ぐのは大歓迎だ!嬉しい!」

「きねぇんちゃちん、撮るっちぇ、おとーちゃまが王ちゃまに言われちゃって言っちぇたー!」

「僕の持っているカメラで記念写真を撮ろう!」

 ブレスレットに入れずに、首からかけていたカメラのストラップを外して、ユーイとの手を繋いだ写真を何枚も撮った。ユーイだけの写真も何枚も何枚も撮った。

 気付くと、誰か、この場所へ近付いて来る者がいる。悪意はなさそうだが、酷く困惑した様な感じの者と、嬉しそうな者の気配がした。

 成人男性2人がこの場所へやって来た。

「おとーちゃま!」

 ユーイが駆け寄っていったのはチタント公爵家当主、ケイン・チタント公爵だ。ああ、困惑していたのは公爵なんだ。

「父上もですか!」

 そして、嬉しそうにしていたのはこの国の王であり、僕の父のリンクス陛下だったんだ…。

「番であったのであろう?」

「はい!番でした!」

 嬉しくって元気よく答えたら、低い声で公爵が呟いた。

「…だから、会わせない様にしていたのに…。」と。

「小声で愚痴を言っても仕方ないだろうに、チタント公爵殿。」

 父上が仕方ないなと言う様な表情をして、公爵を慰めた?!

「末の娘だからと、ユーイは婚約をせず、家で一生を過ごしてもいいとさえ思っていたんだ。生まれる前からな。

 …それが生まれた直後に、ユーイを見たら、真っ黒な子猫だったので、隠したんだが、な、陛下には優秀な影がいて、バレていたようだ。

 それも、ユーイが3才になるまで王子との面会を延ばしていたのだが、今回ばかりは無理だったようだ。はぁー。」

 ユーイを抱きしめている侯爵へ、ユーイが服を引っ張って、話しかけた。

「ユーイね、ショウのお嫁ちゃまににゃるんだよー!」

 止めを刺されたように動きを止めた公爵を見て、父上がにやけている。

 嬉しそうに公爵へ報告するユーイを見て、僕は笑いが込み上げて来た。

 この子を王妃に迎えられるように努力するのだったら、僕は頑張れると思った。

「ショウ、番と会えて良かっただろう?」

 嬉しそうに笑いかけてくれる父上に、僕は答える。

「はい!父上!張り合いが出来ました!」って。

「ははっ、ショウにとっては良い刺激になったようだ。ま、公爵は萎れているようだがな。」

 チラリと公爵を見た父上の言いたい事を理解はしたのだが、公爵が呟いた言葉で、公爵が可哀想に思った。

「父上と結婚するって言ってくれた上の娘の様に、ユーイも私へ言ってくれると期待していたのに、それよりも早く、ユーイは王子と結婚するって言う方が早かった…。」

「仕方がない。ケイン殿も番である夫人と結婚したのだから。」

「理性では分かってはいるのだが、感情が追い付かないのだ…。」

 この日、ユーイと出会えた事を感謝して、次はいつ会えるのかと楽しみにしていたその時の私は、ユーイが実の祖父によって攫われ、日本へ異界渡りをした事を知らされ、絶望した。

 父上に説得され、その誘拐事件の後から、私がユーイを取り戻す力をつけるためにと、血反吐を吐く思いで、努力してきたのだ。それをたった1年だけしか努力していないベルナールなんかに横取り出来る訳がないだろうに。

 ユーイとの番のきずなも繋がりもない者に。

 ただ、私と再会したユーイが小さい頃に私と出会った思い出を何一つ覚えていない事には打ちのめされたのだけれども。

 今となっては、それも関係はない。今、私の隣にはユーイがいるのだから。

 だからこそ、あのベルナールには大いに見せる、見せしめになってもらわないとな。

 他国の、愛し子であるユーイを手に入れようとする一部の馬鹿で、けしからん者達への牽制が出来るだろう。
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