虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたのでとりあえず復讐することにした

野良子猫

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復讐の狼煙 5

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  先ほどまでの激情が嘘のように落ち着いている。
 優希は全身の力が抜け落ち、眠りについているようにその場に倒れていた。
 優希は意識が覚醒しきる前に、ゆっくりと体を起こし、開ききっていない目であたりを見わたした。
 あたりは変わらず緑が茂っている。しかし、その場所は先ほどまでいた森とは違った。薄暗かった森は、光が所々射し、少し肌寒く、霧がかかっている。

 そして、意識が徐々に覚醒していくとともに、消えていた感情が戻ってくる。
 今までの記憶が優希の中をループし、呼吸を荒くしながら、初めての感情に困惑する。
 それは、どこからかする声に気付かないほどに。

「……い……おい……おい、お前」

 優希の意識は、呼びかける声に反応して現実に戻り、立ち上がって声のする方を向いた。

「ようやく気付いたか」

 落ち着いた声は、一人の少女から放たれていた。その少女は見上げるほどに大きな大樹に、優希の足にまとわりついていたのと同じツルで縛られていた。
 細い体だが、出るところは出ており、縛られることによってさらに強調され、モデルのように白い肌が服の所々から見えており、優希はとっさに目を逸らした。見た目は優希と変わらない年齢だろう。その少女の黒い瞳は優希を捉えていた。
 縛られているのになぜそんなに落ち着いているの? と思ったが、優希はそれ以上に気になったことがある。

「ここは……天国か?」 
 
「ほぉ、お前は死ぬようなことでもあったのか」

 軽く笑いながら少女は答える。優希はここに来るまでの最新の記憶から死んだと思っている。
 少女はすべてを見透かしたような目を向けながら優希の気になっているっことに答えた。

「お前がどこから来たかは知らないが、ここは天国じゃない。ここは……聖域だ」

「……え?」

 聖域――それは大陸の上空に存在する浮遊宮殿のことだ。神が住む場所と言われているが、実際に踏み込んだものはいないという。現に情報は外部から得られるものだけで、中の構造などは一切解明されていなかった。この森も宮殿の中の一部なのだろう。
 
「じゃあ、あなたは神……なのか?」

「元……だがな」

 相変わらず表情は変わらない。楽し気な笑みを浮かべている。

「で、ここで一体何を?」

「見てわからないか? 木に張り付けられている」

 それは見ればわかる。気になるのは何で張り付けられているのかということだ。
 優希は困った反応を見せると、少女は満足げな表情になった

「フフ……すまない。事情はあまり話すことは出来ないんだ」

「なら話さなくていいけど……で、どうやって出ればいいの?」

 これ以上はここにいても意味がないと判断した優希は少女に尋ねた。

「残念だが、ここからは出られない。というより入ることすらできないはずなんだが」

 少女の返答に優希は慌てるが、騒ぐ前に少女は言う。

「ただし、私と一緒なら出られるぞ」

 少女の言葉に優希は大きく反応した。

「じゃあ、それを解けばいいのか?」

「残念だが、今のお前にはこれは解くことは出来ない」

 少女の言葉に従い優希は前に出る。そして、少女と1メートルほどの距離まで近づくと、少女は黒い瞳でこちらを覗き、

「お前の望みはなんだ?」

 少女の言葉に、優希は拳を握り、歯をかみしめる。
 
「殺したい……奴らがいる」

 憎悪に満ちた瞳を少女に向ける。
 優希の中には負の感情で満たされたいった。

「力が欲しいか?」

 少女の問いかけに優希はうなずく。

「なら、私と契約しろ。その願いを叶える力を受け取るために、お前は何を差し出す?」

 優希は少女が何を言っているのか理解していた。
 この世界に来た後、優希もそれなりに情報を集めていた。その時に噂程度に耳に入れていたこと。

 ――契約術。それは鍛錬と経験によって上がる練度と違い、最も手っ取り早く力を手に入れることができる。支払った代償が大きければ大きいほど、莫大な力を得ることができる。大きい代償とは本人の中にある存在力だ。例えば、もともと怒らない者が怒りの感情を支払ったところで大した力にはならない。逆に優しさを支払えばかなり大きな力を得る。
 大きな力を得るには、自分が最も影響を与えているものを差し出さないといけないのだ。
 しかし、それは今の優希には好都合だった。
 優希を構成していた者は、目的を果たすためなら必要ないものだからだ。

「差し出すのは5つ……恐怖」

 恐怖――それは、優希の心のの大部分となるほど、心に染み込んでいた。
 しかし、それは目的のためには邪魔でしかない。臆病さは戦闘において判断を鈍らせる。

「痛み……」

 痛み――それは、優希の体には離れないほど、常に感じていた。
 しかし、それは目的のためなら鎖でしかない。痛覚は意識を分散させる。

「涙……」

 涙――もう何度流したか分からないほど、毎日のように泣いていた。
 しかし、それは目的のためなら弱点でしかない。涙は相手に弱みを見せる。

「命の尊さ……」        

 命の尊さ――それは、優希が人生を送るにあたって何度も感じたことだ。
 しかし、それは目的のためなら壁でしかない。命の尊さは相手に時間を与える。

「そして――」

 これは、優希の記憶において、生への執着を強め、挫けそうな心を何度も立ち直らせた。
 しかし、それは目的を達成するためには絶対に消さないといけないものだった。


「……家族の記憶」


「契約……完了だ」

 優希は神……いや、悪魔に魂を売った―― 



 ********************



「縛られたものから解放されるのはいい気分だな。お前もそう思うだろ?」

 優希はツルを引きちぎり、少女を解放した。

「あぁ、ほんと……とてもいい気分だ」

 優希は、自らの力を実感した。
 どこからか力が溢れてくる。体と心はとても軽い。

「で、どうやって脱出する気だ?」

「自由に出ていいぞ」

 少女の言っていることに、最初はわからなかったが、自分の力を実感すると言っている意味が理解できた。
 優希は大地を踏みしめて、上に飛び上がる。高さは10メートルを優に超えている。
 優希はあたりを確認し、地面に足をつけると、少女に行った。

「壁はすぐそこみたいだな」

「さすがだな」

 優希は壁を破壊して外に出る気なのだ。それほど優希は力を得た。
 ただし、これは優希の力の一部でしかないのだが。


「以外に硬いな」

 優希は壁をノック感覚で叩き、硬さを確認する。

「行けそうか?」

「問題ない」

 優希は腰を下げ、拳を握り、壁に向かって握った拳を投げるように放つ。
 すると、壁は爆発したような音を奏でて粉々になる。
 たった煙は外からの風ですぐに消え、優希は外を確認する。

「結構高いな」

 恐怖を消していなければ腰を抜かしていただろう。優希たちが召喚された町は、片手に収まりそうなほど小さく見える。
 
「さすがに、ここから飛び降りるのは危険だな」

「安心しろ。ここまでこれば私が何とかする」

 そう言うと、少女の周りの空気は流れを変え、纏うように風が吹く。そして、少女の体がふわっと浮き出し、少女は優希に手を差し伸べる。

「どうだ? 少しは驚いたか?」

「あぁ、最初に会った人とは思えないほどには」

 優希は差し出された手を掴み、少女と優希は外に飛び出した。
 パラシュートでもしているかのように、ゆっくりと地面との距離を詰める。
 そんな中、少女は話し出した。落下時に生じる大気の音は少女の力によって遮られていた。

「そういえば、まだ名前を言っていなかったな。私はパンドラだ。これからよろしく頼むぞ、少年」

「少年って……あんま年は変わんないだろ。桜木 優希だ。よろしく」

 そんなことをしていると、優希たちは地面に足を乗せた。
 
 町に戻った時には、クラスメイトの存在は確認できなかった。
 調べていると、どうやら召喚されてから1年経っていたらしい。
 気を失っていた優希には全く実感がないのだが。


 優希は衣服を買い、宿に向かおうとしていた。
 
「あーそういえば、パンドラって名前はこの世界では秘密な」

「何故だ?」

「何故って……この世界でお前って結構な有名人だぞ」

「ほぅ、それはいい気分だ。サインなんか求められたりしてな」

「誰もお前を本物とは思わねぇーよ」

 優希は、手を顎に当てて考え込み、

「じゃぁ……メアリー。お前がこの世界で生活する上での名前はメアリーだ」

「それはどこから来たんだ?」

「深い意味はない。ただ、好きだった本の登場人物から取った」

「適当だな」

「そんなにこだわらないだろ?」

「まぁそうだな。私も脱走者という立場上素性は隠さないといけないしな」

 そんな話をしていると、優希たちが住んでいた宿についた。おそらく荷物はかたずけられているだろう。
 優希は宿の前で立ち止まった。

「どうした? 中に入らないのか?」

 メアリーの言葉は優希には届いていない。
 優希は顔に手を当てる。すると、勇気の髪は徐々に白く染まっていき、瞳も真っ赤な宝石のようになっていった。
  
「何をしている?」

「目的を実行する上で、自分は死んでいると思ってもらった方が都合がいいからな。それに、これからは兄弟という設定で行くから」

「私が姉か?」

「どっちでもいい」

 優希たちは中に入った。
 膝辺りまである黒いフード付きコートを身にまとっている、白髪赤眼の少年と、誰をも魅了する美しい銀髪少女に中にいた人は注目している。

「い、いらっしゃいませ。何拍のご予定ですか?」
 
「とりあえず、二泊で頼む」

「畏まりました。お名前の方をお聞かせください」

「僕はサクラギ……いや、俺の名前はジークだ」

 桜木優希はジークという偽りの姿を手に入れた。
 彼の復讐はこれより始まったのだった。
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