虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたのでとりあえず復讐することにした

野良子猫

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茜色の泉 1

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 水の都アクアリウム――総面積約4千平方キロメートル。大陸一の川が都の中心を通り、水産業と温泉が魅力の都だ。川のせせらぎが心を落ち着かせ、硫黄の臭いがほのかに香る。噴水から噴き出る水は太陽の光に照らされ、真珠が集まったかのように輝く。その美しい光景に皐月は子供のようにはしゃいでいた。

「ジークさん! 早く早く!」

「はいはい……なんであんなにテンション高いの?」

「何せここは温泉が有名だからな。宿のボロくさい風呂にもこりごりだろう。特に女の子からしては」

「お前も楽しみなの?」

「それなりにな」

 やはりそういうものだろうかと、優希は手を振りながらこちらを見据える皐月を見ていた。
 帝国のように人は賑わっているが少し違う。帝国が東京なら、この都は大阪にいるように人が行き交う。
 整備された川には小舟が流れに身を任せて進んでいく。水晶のように透き通った川を見たのは初めてだ。
 この都は、外観こそ洋風だが、街の構造や文化は明らかに和風だった。
 そして、その都にいる大半の服装は、優希と皐月には懐かしいものだった。

「ジークさん、似合いますか?」

「どうだジーク? まぁ、似合っているだろうけど」

「あ、ああ……」

 皐月とメアリーはどこから調達したのか、周りの人々と同じような格好をしていた。
 風通しが良さそうな木綿の布を素肌の上から着用、腰回りを帯で止め、足には漆色の板に花模様の鼻緒を結んだ下駄が、整備された道に擦れてリズミカルな音を奏でる。
 水の都アクアリウムでは、浴衣がよく着られている。そして、皐月とメアリーもまた浴衣を着用している。帯によって胸の膨らみは強調され、メアリーに至っては襟から谷間が少し出ている。それを見て皐月は少し落ち込んでいた。
 優希はそんな二人を見ているととあることに気付いた。皐月の後ろにはわずかに布がはみ出ている。

「皐月、その後ろのやつ何?」

「あ、これですか?」

 皐月は優希の質問に答えるように体で隠していたものを優希に見せる。
 掌に乗せられているたたまれた布は、明らかに皐月たちが来ているものと材料が一致している。
 その布を見て一言。

「俺は着ないぞ」

「そ、そんなこと言わないで、ほら、ほ~ら」

 皐月は母親のように浴衣を優希に押し付ける。メアリーの表情から、彼女も期待しているとすぐわかった。皐月の圧に負け、優希は嫌々ながら浴衣を手に取ってしまった。



「似合ってますよジークさん!」

「あぁ、これはなかなか」

 藍色の浴衣は優希にとても似合っていた。ただ、優希はあまり好ましくく思っていない。

「動きづらい……」

「ジークさんは、すぐに戦闘方面で考えるんですから! もうちょっと雰囲気に身を任せるのもいいと思います」

 なぜか説教口調で迫る皐月。少し前かがみに上目遣いの皐月を優希の目線からでは、しっかりと女性特有の膨らみが目に入る。

「わかったから……その……見えてるぞ」

 優希の視線と発言で、何を言っているのかすぐに理解した皐月は、裾を内側に引き、数歩後ろに下がって優希を見ている。恥ずかしそうに赤面した顔と涙が少し浮かんだ目に、優希は少し男心をくすぐられる。
 そんなやり取りは周りの人から注目を集めていた。いや、注目を集めているのは二人だろう。

「見ろよ、めっちゃ美人だぜ」

「すげーかわいい。俺声かけようかな」

 抜群のスタイルでセクシーなメアリーと、和服の適性が高すぎる大和撫子の皐月に、周りの男たちの視線を集める。中には彼女がいるのに目がいき、ものすごい剣幕で迫られている者もいる。そんな、人たちに優希は内心ざまーみろと、リア充に対する恨みのようなものを発散した後、皐月とメアリーを連れその場を去っる。履きなれない下駄に苦戦しながら。


 そして、皐月とメアリーは名物の温泉を堪能しに気分を高揚させながら向かい、優希は一人で行動することになった。とはいえ、特にやることのない優希は、ただ単に道を歩いている。フードがない浴衣では、優希はどうにも目立つらしい。四方から多くの視線を集めている。その大半は女性だった。
 もともと、女性のように線の細い顔立ちの優希は、きれいな白髪と燃えるように輝く瞳が相まって、それなりの見た目になっていった。
 本来ならうれしいはずの状況が、今の優希にとってはマズい状況だ。
 もちろん、髪色瞳の色を変えることは出来るが、その状況で皐月たちに会えばややこしいことになり、それ以前の外見の変化はかなりの体力を使い、優希はこの姿以外は使いたくないのだ。
 多くの視線に迷惑しながらも優希は仕方なく街を歩き回る。ただ、気になることが一つ。集まる視線の中に一つだけ他とは違う視線が優希に向けられていた。
 羨望や威勢の視線ではないが、殺気や獣のような視線でもない。観察するような粘っこく異様な視線。どこからか探ることは出来ないが確かに感じていた。

 優希はその視線の主を探るべく、わざと人が少ない路地を歩く。徐々に減っていく視線の数々だが、まだその異様な視線は優希を捉えていた。
 そして、その視線の持ち主は優希の前に現れる。いや、見えているのは手だけだ。

「痛い! 放せよ兄ちゃん!」

「それ、お前が言う?」

 優希の裾に延ばされた手を優希はしっかりと掴む。細く小さな手は、優希の手にしっかりと収まり、思ったよりも強い力で振りほどこうとするその手を優希は逃がさないように掴む。
 
「手際が良いな。初めてじゃないだろ」

「あ~そうだよ、いい加減は~な~せ~」

 後ろから伸ばされた手の腕、肩へと辿って顔を見る。空色の短い髪に翠色の瞳が宿る釣り目。この都では珍しい動きやすく露出の高い野生児のような服装、小さな体は明らかに優希より年下なのを表し、手慣れた動きと力は日々過酷な鍛錬を連想させる少女だった。
 顔を確認した優希は締め付けるように握りしめられた手をゆっくりと開く。少女は、解放された手をもう片方の手でさすりながら、優希を睨みつける。

「なんで、俺が悪いみたいな目で見てんの? スリはお前の方だろ」

「兄ちゃんがバカ力で掴むからだろ。折れるかと思ったぜ」

「で、名前は? 迷子でちゅか~」

 無表情で煽る優希に少女はつりあがって目を活かすように睨みつける。

「迷子じゃねぇよ。ってか、迷子になってなんでスリに走るんだよ。もうちょっと頭使えよ」

 冗談の発言にマジスレで 返された優希は、はち切れたような音が脳内に響く。

「そうかごめんね、お兄ちゃん、バカ! だから。さぁ、近くの騎士団の元に行こうか」

「え? ちょ、冗談だって! 兄ちゃんは賢い、偉い、イケメン、天才! だから放せ~」

 連行するように腕を掴んで、地面に足裏をこすりながら引いていく優希に、少女は焦りながら自らの発言を訂正する。 
 そんな少女をジト目で見る優希は、掴んだ腕を放した。安堵のため息をつく少女は、古家のように自信に満ちた笑みを浮かべながら言った。

「兄ちゃん名前は?」 

「人に名前を尋ねるときは自分から言うもんだって学校で習わなかった?」

「がっ……こう? 兄ちゃんが何言ってるかはわからないけど、確かにそうだよな。アタシはリーナ」

「リーナね……俺はジークだ。よろしく」

 握手を求め差し出された手をリーナは無警戒に応じた。そして、しっかりとかわされた握手はなかなか外れず、リーナは冷や汗をかいてきた。

「じゃあ、自己紹介も終わったし、行こっか」

「行くって……どこに?」

 苦笑いしながら質問するリーナに、満面の笑みで答えた。

「騎士団屯所」

「は~な~せ~」



 ********************



「で、なんでこんなことになってんの?」

 優希はとある飲食店の中にて目の前の光景にそう呟く。テーブルに並べられた料理の数々はすさまじいスピードで皿の上から減っていき、その料理の数々は優希の目の前の口へと運ばれていた。

「なんでって……兄ちゃんが連れてきたんじゃん」

「いや、公衆の面前であんなにでかい腹の音を出されたらな……」

「いや~アタシ最近何にも食ってなかったからほんと助かったぜ、兄ちゃんが単純で」

「そうか、ゆっくり食えよ、俺は先に帰るから」

「ちょ、悪かったって、兄ちゃんがいなくなると誰がここの会計すますんだよ」

(このガキ……遠慮ってもんを知らねぇな)

「はいはい、ここは出すから代わりに事情を話せ。なんでスリなんかやってんの?」

「そんなの一つしかねぇだろ。生きるためだよ」

「生きる? その年でそんなに追い詰められてんの? 両親はどうしたよ?」

「親父も母親もずっと前に他界してる。今は兄と二人暮らししてる」

「で、その兄さんは?」

「まだ働いてるんじゃね? ラー兄は真面目だから、アタシがこんなことやってんのも知らないと思う」

「ふ~ん、リーナは働かないのか? まぁ、まだ子供だから雇ってもらえるかは知らないけど」

「子供って、もうアタシは15だよ。真昼間からあんな所うろついている兄ちゃんよりはまだまだ雇ってもらえるっつうんだよ」

「もういちいち相手にしないぞ、俺、大人だから」

「その対応が子供っぽいって気づけよな兄ちゃん」

 リーナの真っ当な指摘に優希は言い返す言葉もなく膠着。そして、そんなひと時も終わりを迎えた。

「リーナァアアア!!!!」

 突然の大声に、店の中にいる全員が入り口の扉へと目を向ける。そこにいたのは、まさしく侍のように風格のある一人の男が、凄まじい剣幕を周囲に向けながら息を切らして立っていた。

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