虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたのでとりあえず復讐することにした

野良子猫

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茜色の泉 2

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 アクアリウム名物である新鮮な海鮮料理などを堪能している家族や、軽食を楽しんでいるカップル。そんな平和だった店内が一人の男の登場で空気が変わる。多人数の会話が飛び交っていた店内は一瞬にして静寂へと包まれ、四方八方に向けられていた人々の視線は一か所へと集中した。

 息を切らし、汗が額から頬へと伝わり、その目つきは獣のように鋭く険しい。その視線は、店内を見渡したのち、ある場所にて静止、その視線を動かすことなく歩き出した。力強い足運びで、腰に携えていた刀がカタカタと音を立てる。
 
 優希も嫌な予感を感じ、後ろから迫りくる男を見る。目を合わせないよう、視界の端でとらえながら様子を伺っていた。ただ、もう一か所、ある少女の反応から大体察してはいるが。

「あいつ……お前の知り合い、ていうか兄貴だろ?」

 小刻みに震えながら、テーブルの下へと移動しているリーナ。怯えるように頭を押さえて顔色を悪くしている、まるで子ウサギだ。
 ただ、テーブルの下に隠れたのは無駄だったようで、スムーズな動きで男は近づき、優希たちのいる席のところで止まった。
 ここまでは優希も予想していた。しかし、彼が喰うような剣幕を向けている理由は優希の予想とはかけ離れていた。

「貴様が拙者の可愛い妹をナンパしたっていう不届きものか?」

「……は? おい、ちょっと待て、一体何の……」

 てっきり悪事を働いていたリーナに喝でも入れに来たのかと思っていた優希は思わず力の抜けた声を出す。事情の説明を試みようとするが、どうやら聞く耳を持とうとはしていないようだ。もうすでに腰の刀を半分ほど抜刀している。
 
「貴様が……リーナを……たぶらかした……」

 優希は、ほんの数分で彼について分かったことがある。

「こいつ、人の話を聞かないタイプだな」

「天誅!!!!」

「どわっ!?」

 リーナがラー兄と呼んでいた彼は、完全に刀を抜刀すると、そのまま優希に向けて縦に振りきる。優希はそれを両手で挿むようにして防いだ。

「兄ちゃんすげぇー真剣白羽どり初めて見た」

 関心してないでこいつをどうにかしろ! と、内心思いながら、目の前にて迫りくる刃を凝視する。強化された優希ですらも若干押され気味になる彼の力は、怒りからくるものではなく本来の力なのだろう。
 互いの力がぶつかり合い、刀は小刻みに震えだす。

「拙者の一撃を受け止めるとはなかなか……しかし、我が妹をたぶらかした罪は重いぞ!」

 突然剣を引き、均衡状態から解放されたと思えば、休む暇なく二撃目を繰り出す。横からの一振り、常人では視認できるかも怪しいその剣戟は、空を切り優希に迫る。しかし、優希はその常人ではない。迫る剣の刃紋までもしっかりと確認、そのまま最小限の動きでかわす。
 気付けば周りの客は大騒ぎしながら出て行った。まぁそうなるだろう。もはやここは戦場になったのだから。

「おい、人の、話を、聞けって!」

「問答無用でござる!」

 次々と迫りくる剣戟を優希はかわす。一太刀は空だけではなく、あたりの壁や椅子に深い傷を刻みつける。一撃でも食らえば一瞬で体が切断されるであろうその剣戟を、優希はなれない着物姿で動き辛さを感じながらも軽い身のこなしでかわし続ける。だが、それだけではこの状況を打開できないと考えた優希は暴れてちらかった食器の中からナイフを手に取った。

「はっ! そんなもので我が剣を止められるとお思いでござるか?」

「別にこんなもんで、お前の剣を止められるとは思ってねぇよ。だが、動きは止められる」

「それは何の冗談でござるか?」

 今手にしているナイフで刀を受けたとしても、ナイフ事腕を持ってかれるだろう。しかし、最近知ったことなのだが、食用のシルバーナイフでも、剣士としての力は発揮されるようだ。そうなれば話が変わる。

「ヘヴィワールド!」

 ナイフをゆっくりと振ると、途端、男は膝をついて身動きが取れなくなった。上からの重圧で床にはひびが入り、少し陥没しだした。

「こ、これは!?」

 ガドルフからもらった剣士の職業によるオリジナルスキル。ナイフのようなものでも使えるそれは、今後も便利なものと優希は考えている。
 動きも止まり、ようやくゆっくりと話が出来る状況を作った優希は、オリジナルスキルの効果が切れる前に一言。

「お前、なんか勘違いしてないか?」

「……は?」

 次の瞬間、血走った眼は正気に戻り、優希はスキルの効果を切った。




「誠に申し訳ない!」

「ちょ、ラー兄痛いって!」

 リーナの小さな頭を、ハンドボールのように掴んで力づくで下に下げるとともに、ラー兄ことライガも、深々と頭を下げた。

「拙者は昔からリーナのことになると怒りに身を任してしまい……」

「うん、それはさっきまでのやり取りで十分わかった」

 もし彼で人の話を聞く方なら、この世に人の話を聞かない奴は存在しないだろう。

「しかし、お主なかなかやりおる。拙者相手にやりあうどころか押される羽目になるとは、久しぶりでござった。お主、眷属であろう。さっきの剣技からして職は剣士と言ったところか?」

「剣技? あぁ、スキルのことか。そうだ。そういうお前も剣士だろ?」

 優希は自らのプレートを見せ、反対に聞く。優希が見せたのは偽プレート、それも、古家たちに見せたものとは違い、今度は職業欄を剣士にしたものだ。あらかじめすべてのプレートを持っている。いつどのような状況でどの職業が必要になるか分からないためだ。
 ライガももちろん剣士……と、思っていたのだが、

「いや、拙者は武闘家でござるが」

 ライガも懐にしまってあったプレートを見せた。黒く輝くそのプレートに多少驚きはしたが、そのプレートを自らの手に持った時、それ以上に驚愕した。
 間違いなく本物。しかし、武闘家が剣士並みに剣を扱えることに優希は内心動揺している。

「けどお前その剣……」

 口に出た疑問に、横で見ていたリーナが優希を見上げながら答えた。

「ラー兄は武闘家なんだけど、ホントは剣士を望んでて必死に鍛え上げたんだよ」

 リーナが言っていることが本当なら、さっきまでの戦いは眷属の身体能力と努力で鍛え抜いた剣により誕生した偽りの職となる。もし、武闘家として戦えば、優希も勝てなかったかもしれない。
 その可能性に優希は笑いがこみ上げる。恐怖という感情を失って以降、その感情を抱く場面に遭遇したとき、優希は狂人のような笑いをするようになっていた。もちろん、あくまで心の中だけだが。

「そうなんだ。その黒プレートは伊達じゃないんだな」

「おう、ラー兄はパーティで、最も頼られてんだぜ」

 自分のことのように胸を張るリーナ。そこには兄妹のつながりをわずかに感じた。

 それに、優希もその辺は特に怒っていない。時間的にそろそろメアリーたちも観光を終える頃だろう。厄介ごとは早く終わらせてトンずらしたいのだが……

「ちょっとあんたら? これどうするつもり?」

 店主が先ほどのライガのような目でこちらを見る。優希たちがあたりを見わたすと、割れた食器の数々と、傷だらけになった壁と床。いきなり殴りかからない分店主は優しい方なのだろう。
 ただ、この修理費を優希たちが持ってるわけもなく、借りてくる当てもないし時間もない。
 優希は疲労感からため息をつき、今にでもはち切れそうな店主の頭を掴んだ。

「おい、何をっ――」

 ――思考命令《マインドプログラム》・送信《ダウンロード》

 今から一時間前までのことを忘れろ!


「……っは! 一体……うあぁ! なんじゃこりゃぁああ!」

「「へ?」」

「さ、戻ろ」

 頭を抱えて絶望へと浸る店主。その光景を見て、きょとんとしているリーナとライガ。当たり前のように立ち去ろうとする優希。不思議な光景が出来上がった。
 そして、店の扉を開こうとしたとき、誰かが店に入ってきた。走って入ってきた二人の青年と二人の少女を優希はすれ違いざまに見る。彼の鼓動が早くなったのはその時だった。

「き……いち……」

 出席5番 鬼一 翠人《きいち あきと》。元の世界では剣道部の主将を務め、全国大会の出場者だ。もちろん、それはこの世界でもアドバンテージとなる。それは、竜崎が証明している。
 
「ライガ、いきなりいなくなるとかマジ無いわ~」

「おかげでクエスト失敗じゃんか」

「それは悪いでござった。何分妹が心配で……」

 鬼一を含め、花江 哀《はなえ あい》、日向 一夏《ひゅうが いちか》、布谷 瑠奈《ぬのたに るな》も、ライガに駆け寄る。雰囲気から察するに彼らはパーティメンバーなのだろう。

「これは……ラッキーだな……」

 自らの耳にだけ聞こえるように呟く。この状況を利用しない手はないからだ。
 無意識に頬が緩むと同時に、嫌な記憶がよみがえる。現状の幸運と避けられない憎悪で自分でも今どんな顔をしているのか分からなくなっていた。
 それでも、優希がやることは変わらない。足を進めたのは外へとつながる扉の反対、リーナたちの元に一歩一歩足を進めた。早くなる鼓動を押さえ、湧き上がる激情を沈め、復讐の、修羅の道を一歩一歩力強く歩く。

「あ、あそこにいるのが例の……そういえば、まだ名前を聞いてなかったでござったな」

「俺か? 俺は……」

 鬼一たちの背後に立つ白髪の少年。その笑みは、一切の思考を読み取らせず、その仕草は一切の素性を明かさず、それでも、安心感を与えるように親密で、友好的な笑みで、

「ジークだ。よろしく!」

 今後の人生を狂わす彼の笑顔の裏は、現時点では誰も読むことは出来なかった。

 
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