虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたのでとりあえず復讐することにした

野良子猫

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茜色の泉 4

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 荒れた店内にて頭を抱えながら叫ぶ店主の声に反応し、周りにいた人たちも様子を見に集まって来た。
 優希たちも騒がしくなってきたので、ややこしいことになる前に移動した。
 場所は建物が囲うように立っており、中央には大きな噴水がある円形の広場。石畳のその平場を何台もの馬車が行き交う。その噴水に座るようにして優希たちも休んでいた。

「いや~にしても大変だったでござるな」

「いや、笑ってるけど原因お前だからね!?」

 ライガが他人ごとのようにわっはっはと高笑い。それに対して優希は突っ込まずにはいられなかった。
 
「ジークだっけ? そう言えばなんでライガに襲われてたの?」

 鬼一たちが来たのは、店内が廃墟へとなり果てた後で、何故優希が襲われていたのか把握していない。鬼一含めあの場にいなかった他三人も気になっていた。
 ライガはその屈託のない笑みを崩さずに事の成り行きを説明。そして、鬼一たちは腹を抱えながら笑い飛ばし、優希とリーナは苦笑いという反応を見せた。
 
「ラー兄はいい加減妹離れしろってんだよ、ったく」

「まぁまぁリーナのことが大切なのよ」

 布谷はそう言って、すました笑みでリーナの頭を撫でる。彼女は落ち着いた性格で少し高校生とは思えない大人びた雰囲気がある。実際、面倒臭がりの彼女だが、器用なことに大抵のことは何でもでき、そんな彼女が何故鬼一たちと一緒にいるのか甚だ疑問に思う優希だ。

 優希がこうして、彼らと一緒にいると避けられないことがある。

「ジークさ~ん……っあ!」

「ん? 西願寺? 西願寺じゃんか!」

 鬼一たちと西願寺が同じクラスメイトで顔見知りなのは言うまでもなく、出会うのは必然である。
 もちろん西願寺が優希にとって不利益になるようなら容赦なく排除するが、それは優希にとっても望ましくはない。優希が抱いているのは殺意だが、ただ単に殺せばいいというわけではない。もしそうなら、この場で全員の息の根を止めている。

「なんだ? 知り合いか?」

 西願寺の後ろを歩いていたメアリーは、のぞき込むかのように前のめりになって鬼一たちの顔を一人ずつ確認。そして、優希の顔色を伺い、すべてを察したかのように若干の笑みを浮かべた。
 そして、メアリーの疑問に答えるように西願寺は鬼一たちの紹介の後、久しい友人との再会を喜んだ。

「そういえば、古家たちはどうしたよ? 一緒だったんじゃ」

 鬼一たちは知らない。古家たちはもうこの世にいないことを。
 西願寺の脳裏にあの時の光景が蘇る。血と死体に視界のすべてを奪われた、残酷で惨いあの光景を。

「実は……ね……」

 西願寺は同じクラスメイトである鬼一たちにも情報を共有した方が良いと、胸に締め付けられるような痛みを感じながら話した。もちろん、鬼一たちもいい反応はしなかった。彼らにも人の死を悲しむ感性があるのかと内心関心しながら優希は事の成り行きを伺った。
 空気が重い。今すぐこの場を去りたい。そんなことを思いつつ、その空気を壊す救世主が登場するのを待った。
 
「なぁ~そんなことより腹減ったんだけど~」

「お前さっき散々食ったろ」

 こういう時のリーナの純粋さは有難い。場の重い雰囲気をその純粋な笑みが打ち壊す。

「そうだな、拙者も腹が減った。皆で食事でも行こうぞ」

 ライガもリーナに賛同するように皆に言う。やはり、皆もこの空気は嫌なようで、ライガの提案に乗るように立ち上がって移動した。

 

 ********************



 鬼一たちはギルドに所属している。名は威風堂々《いふうどうどう》。百三十人ほどで構成されたギルドだ。主な特徴としては、基本テイストが和であり、剣士の中でも侍をモデルとした服装が多い。ライガはもとより、鬼一もまた紺色の着物を若干はだけて身に着けている。花江は巫女服、日向は甲冑、布谷は上は白の着物だが、下はスカートと言う和洋折衷な服装だ。
 そのギルドの建物は、武家屋敷のような構造で、中には特殊な道場があり、そこで鍛錬をすると練度の上りが良いそうで、鬼一たちも日々鍛錬に励んでいるそうだ。ライガが武闘家でありながら剣の扱いに長けているのは、ここで鬼一とやりあうことにより、剣士の腕を目で盗んで、練度上げによる身体能力向上で第二の職業のようなものを手に入れている。剣士のスキルは使えないため正式な職業とは言えないが、

「それでも、そこまでのレベルに行くとなると相当努力がいるよな」

「あぁ、なんかラー兄は奮励の素質があるんだって」

 奮励の素質。リーナによると、それは困難を耐えれば耐えるほど実力に変わるものだ。努力が必ず報われるとは限らないが、ライガの場合は確実に報われるようになっている。

「なんか、腹立つなそれ」

「そう僻むな。お前の場合、何の努力もせずに力を手に入れたではないか」

「いや、ちゃんと代償は払ったよ?」

 鬼一たちが中に入って行き、メアリーと二人で周りに聞こえないようにそんな話をしていた時、悲鳴のようなものが優希の耳に入った。その声は幼く甲高い。
 優希とメアリーも大体状況を察しながら、中へと入って行った。

「丸《まっ》で、あしこ人様のものに手を出すなと言《ゆ》ただろ!!」
  
 広さ八百畳ほどのフローリングの部屋、壁の片側には『威風堂々』『破邪顕正』などを縦長半紙に達筆で書かれたものが飾られており、反対側には掛け軸が飾られて入る。そんな部屋の奥では、中年の男性が入り口に向かい合うように床几に座っており、その前でリーナが頭にたん瘤を作り涙目になりながら正座させられている。
 周りの鬼一たちも口から出る笑い声を顔を赤くしながら必死に手で押さえている。そして、日向は今にも飛び出しそうにしているライガを必死に羽交い絞め。花江も手伝っているが、二人がかりで何とか抑え込んでいる。そんな光景を布谷は横目にしながら、ため息をついていた。

「あ、ジークさん、実は……」 

 中に入った優希たちに皐月が心配そうな顔で事の成り行きを説明。それは優希の想像通りで、ギルドマスターにリーナの行いがバレたようで、この有様だ。つまり、奥でリーナを怒鳴り散らしているのが、威風堂々のギルドマスターということになる。

「昔からお前は悪戯ばっかいしよって!!」 
 
 癖の強いセリフを吐くその男は、青い着物を着たスポーツ刈りに肥満体、眉毛は太く、目は男らしい。足元にはそれなりに大きな犬が寝転んでいる。若干馬鹿にしているような目でリーナを見ながら。
 
「悪かったって! もうそんなに怒らなくてもいいじゃんか!」

「私じゃなく相手《えて》に謝らんかい!」 

 リーナの反論をその怒号が打ち消す。
 そして、その男は入り口付近で様子を見ていた優希たちに目をつけた。

「君《わい》か? リーナが掏《す》いを働こうとした男は」

「は、はぁ……」

 その男は腰を上げ、優希に近づいてくる。抵抗するリーナの腕を掴んで、引きずりながら。
 身長は優希よりも大きく、リーナがより小さく見える。
 そして、リーナを力づくで立たせ、その大きな手でリーナの小さな頭を掴み下に下げる。どこかで見た光景だ。

「うちのもんがすまんかった。こいにも言《ゆ》ておいたから、許してくるっと有難《あいが》て」

「い、いや、本人にももう謝ってもらったんで。それに、未遂ですし」

 深々と頭を下げる男に優希は手を振り、苦笑いを浮かべながらリーナを庇った。
 
「寛大な対応、感謝する。君《わい》名前は何ちゅう? 俺《おい》はアイゴウと言いもす」

「お、俺はジークと言いもうす」 

「ジークさん、うつってます」

 見た目と名前の近さ、話し方からアイゴウと優希が知っている偉人との差に違和感を感じながら、皐月のツッコミに表情を崩す。
 芯を通した、真っ直ぐなアイゴウの目は、優希を観察するように全身を見わたす。リーナは掴まれていた頭を押さえながらアイゴウを見ていた。
 その対応に優希の表情も若干警戒心を出していた。

「君《わい》……ま少《ちっ》と食《く》た方が良《よ》かぞ」

「そ、そうですか……」

 能力で人間離れした力を持っているが、それは能力で上げているため実際に筋肉がついているわけではない。もともと華奢な体の優希は着物姿ということもあり細さが目立っていた。
 
 掻いた冷や汗が入り口の風で冷たさを感じながら、優希は安堵のため息。なぜなら、リーナから素質の話を聞いた優希は、正体や力を見通す素質があるのではないかと思ったからだ。
 そんな様子をメアリーはただただ楽しむように見ている。

「そいでは、ゆっくいしていってくれ」

「あ、ありがとうございます」

 両肩を叩き、高らかに笑いながら優希を受け入れた。アクアリウムでの拠点が見つかったことは優希にとってもいい話で、アイゴウの言葉に甘えることにした。何より、ここで鬼一たちと離れて行動するのは優希にとっては面倒でしかない。

 
 
 ********************



 貸してもらった部屋は四畳半の和室。その部屋にあるのは木製の小さな化粧台が一つだけ。それ以上は必要ないといった感じの個室だ。
 優希は元のフード付きのロングコート姿に着替え、その部屋で今後の行動について思案する。壁に背を任せ、畳と言う久々の感覚を味わいながら。

 そんな中、一人の少女が部屋の障子を開け、銀色の長髪をなびかせながら入って来た。

「メアリーか、どうした?」

「なに、お前がこれからどうするのか知りたくてな。安心しろ、皐月は今、鬼一たちとギルド内を回っている」

 メアリーも元の服装、白のキトン姿に着替えている。おそらく皐月も胸元に防具をつけた藍色の魔導服に戻っているだろう。観光ならともかく、眷属として行動するなら着物は動き辛いからだ。
 メアリーは優希の前で仰向きで寝転ぶ。畳の感触が気に入ったようだ。
 
「今後か……今回は一人ずつになりそうだな」

「それはなぜだ?」

「古家たちの時は、主に古家がリーダーとなって行動してたし、一人一人も弱かった。何より全員一緒にしないと意味がなかったから、その状況を作ろうとしたけど、今回は全員それなりに強い」

 威風堂々にある道場のおかげで鬼一たちのプレートは銀ではあれど、金、召喚のアドバンテージを含めればそこらの金プレート持ちよりも普通に強い。加えて、威風堂々の仲間意識は高そうで、いきなり四人が死んだとなると、相当な言い分がない限り怪しまれる。

「まだ手札が足りないな……」

「その言い方からすると、少し時間がかかりそうだな」

 まずは利用できる状況を作る。
 優希の今後の行動方針が決まり、立ち上がって皐月たちの元に向かった。


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