虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたのでとりあえず復讐することにした

野良子猫

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茜色の泉 6

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 まるで鏡の中に入り込むように前のめりになって、鏡や、顔をその手で触る。動揺で瞳が小刻みに震え、冷や汗が額から出る。
 夢ではいことは確かだ。だが、状況が読み込めない。突然の体調不良から目が覚めると姿が完全に戻っていた。
 そして、そんな状態でも耳はしっかりと機能している。誰かが縁側を歩いて、こちらに近づいてきた。突然のことで、心臓が止まったのではないかと思えるくらいにドクッと鼓動する。
 優希は慌てて顔に手を当て、能力を使い、再びジークへと戻った。能力が使えなくなったわけではないことに安堵のため息をつきながら、障子越しに影だけ見えて立っている人物を迎えた。

「お! 目が覚めたか」

 日の光をその銀髪で反射しながら入って来た少女を、優希は額の汗を拭いながら睨みつける。

「そう睨むな。ちゃんと説明する」

「やっぱり原因を知ってるんだな?」

 メアリーは敷居をまたいで、優希と対面するように座る。そして、そのなめらかできれいな手で畳を撫でるように触りながら、彼女に宿る黒い瞳が優希の赤眼を打ち抜く。ロングコートを脱ぎ、涼し気な格好になった優希は、鏡台にもたれかかるように背を任せ、メアリーが若干の微笑を浮かべていることに、少々苛立ちを覚えながら、かすかに覚えている夜の記憶を脳内で整理し、こちらの様子を楽しんでいるかのように笑みを浮かべるメアリーを睨み続ける。

「急なことで驚くのはわかる。が、最初に言っておこう。私はお前の味方だ。それだけは勘違いするな」
 
 メアリーの前置きに、優希は少しだけその鋭い目つきを緩めた。

「まぁ簡単に言うと、活動限界だ」

「活動限界……どういうことだ? マナを使うようなことはしてないし、契約術にマナは使わないと言ってただろ」

 四畳半の部屋では、二人の距離は近く、お互いの仕草や表情の変化はよく見える。二人はお互いの心の内を探るかのように見つめあう。優希の疑問にメアリーが答えるまで、数秒の静寂が部屋を包んだ。

「うーん、何て言えばいいんだろうか。そうだな、例えば、人間が睡眠をとる時と、お前が今こうして地面に座っているときは同じということだ」
 
 散々悩んだ挙句出た説明は、あまり優希を納得させるものではなかった。それは、彼女も察したのか、再び頭を悩ませる。顎に指を当て、空間に文章をイメージするかのように明後日の方向を向きながら、

「そうだな……お前が普段寝るとき、容姿はその姿のままだろう? つまり、お前は能力を使い続けているということだ」

 その説明でふんわりではあるが、大体把握した。つまり、今の優希はパソコンのようなものだ。普段から容姿を戻さずに睡眠をとれば、機能は作動したままのスリープ状態だ。おそらく昨日の症状は強制シャットダウンのようなものだろう。その間は電源が切られているのと同義。能力は完全に消え、体の負荷を修復するため意識が完全に消えた状態。

「これがお前が言ってた“弱点”ってやつか?」

「そうだ」

 優希の確認に、メアリーは一言で返した。

「俺はどれくらい寝ていた?」

「いつ起きたかは知らんが、もう昼過ぎだ」

「十二時間以上か……結構長いな」

「まぁ、絶対にその時を待たなければならないというわけではない」

 弱点を踏まえ今後のことを考えて少々表情に曇りを見せた時、メアリーがその曇りを払拭するかのように、解決策を提示する。

「つまり、定期的に完全に能力を解いて体を休めればいい」

「どれくらいの時間だ?」

「そうだな、ざっと二時間ぐらいだ。その間はお前は身動きが取れない。たとえ刃物を持った強盗が殺気を漂わせながら近づこうと、私が顔に落書きしようとお前は気づくことすらできないだろう」

 つまり、完全に無防備。その間はただの肉塊になり果てるということ。

「お前、なんでそんな大事なことを言わなかった? 危うく正体がバレるとこだった」

 思い出したかのようにメアリーを睨みつけた。その反応に彼女は銀髪を指でいじりながら、まるで子犬でも見かけたかのように朗らかな笑みで返す。

「もちろん、その場合は対処はしたさ。ばれないように最善は尽くすし、例えバレたら全員皆殺しにすればいいのだろう?」

 異性を魅了するような完璧な笑みに似合わず、とてつもなく残酷で野蛮なことを口にする彼女に、さすがの優希も引き気味な表情を浮かべた。その対応に彼女は頬を赤らめて一回咳払い。

「それに、今後もその時間は必死にフォローするさ。今のお前なら二時間もあれば完全に体力は回復する。その間は誰にもお前に近づけさせはしない」

 そう宣言するメアリーに優希は疑いの目は向けなかった。彼女の秘密主義は面倒だが、味方であることは確かだ。そんな彼女を基本的に優希は信じる。

「で、力の弱点はこれだけか?」

「さぁ……どうだろうな」

 心の内を読ませない不敵な笑みに、まだあるな、と確信。無理に聞こうとしても時間の無駄だと判断した優希は、隣に適当に置かれたコートを手に取って、立ち上がり部屋を出る。昼過ぎということもあり、賑やかな声が聞こえ、太陽の暖かい光が優希を出迎える。そして、黒のロングコートを肩にかけ、メアリーを目の端で捉えながら、

「お前だけは裏切るなよ」

 思いを乗せ、若干トーンを下げたその言葉は、メアリーの心に浸透した。そして、メアリーも優希の赤い瞳をのぞき込むように凝視して、空気が抜けたような薄い声で、

「お前もな」

 彼女の言葉が優希に聞こえたかは知らないが、メアリーが日常で頻繁にみられる楽し気な笑みを浮かべ、優希は部屋の外、メアリーが歩いてきたであろう廊下を歩いていった。
 
 先ほどまで話していた和室の部屋に一人、銀髪の少女は残された。静寂に包まれた空間に外からの子供のはしゃぎ声や店の呼び込みなどの声が引き立つ。そして、彼女は横座りの体勢から、美しい銀髪を、華奢でありながら、出るところはしっかりと出ている体と、イグサの香りを出すまだ新しい綺麗な畳で挟むかのように寝転ぶ。目に見えるのは、木造の屋根と、電灯代わりである光の魔石。しかし、彼女にはまた別のものが見えてるかのように瞳を震わせながら、ポツリと誰にも聞こえないほど、かすれた小さな声で一言、

「お前だけは……絶対に裏切るなよ」

 あたりの音でかき消されたその声を、彼女以外に耳にしたものはいない。



 ********************



 優希は風呂場で汗を流し、ギルド内を歩き回ると、道場の方から声が聞こえた。男女数人の声が入り混じり、少々賑やかだ。その中でも一際目立つ勇ましい大声で誰がいるのか大方の予想はついた。

「ライガ……声でけぇな」

 優希はある程度離れているのに、まるで近くにいるかのようなライガの気合いの入った大声に呆れ笑いしながら、道場へと足を進めた。

 
 道場から聞こえるのは、ライガの鬼気迫る大声や、それに打ち消されつつある、鬼一たちの声だけではない。金属がぶつかる甲高い音が響いている。

「真剣でやってんのか?」
 
 おそらく稽古しているのだろう。だが、面鳴りではなく剣撃だ。実践を意識しての稽古だろう。優希が道場の戸を開けた途端、銀色の物体が銃弾のように顔に迫った。
 優希は体を動かすことなく、頭を傾けてその飛来物を回避。白い髪が数本切れ、しっかりと雑巾がけされた道場の床に落ちる。
 優希が視認したその飛来物は、乱れ刃紋を宿し、鏡のように光を反射させた、一度見たことがある上物の刀だ。
 優希は、後ろへと過ぎ去ったその刀から、飛んできた方向にジト目を向ける。その視線の先には、頭を掻きながら、失態を誤魔化すように笑うライガと、顔を青くしている花江と悪戯がバレた子供のように口を開けている鬼一と日向、リーナの視界を奪うように目を手で覆う布谷と、突然視界を奪われ動揺しているリーナ。そして、顔を手で覆い、現実から目を背けるようにしている皐月がいた。

「アハ、アハハ、アハハハハいや~すまん! 手元がくるってしまったでござる」

「笑いごとじゃありません! 当たってたら痛いじゃすまないんですよ!!」

 笑ってごまかすライガに皐月は詰め寄って呵責する。何事もなかったことに道場にいた一同は安堵。急とはいえ、優希にとってはかわせない速度ではない。皐月がそこまで怒ることではないのだが、止めるのもめんどくさいと感じ、放置することにした。

「そ、そうだ! ジークも入るか?」

 場を転換するように鬼一が提案。道場の効果が興味があり、断る理由はない。それに、彼の実力を知るいい機会だ。
 ジークは、道場の敷居をまたぐ前に一礼。そして、中へと入った。さっきまで訓練に励んでいたのだろう、床には汗が落ちており、熱気が充満している。窓は空いているが風通しが良いとは思えない。コートを脱ぎ半袖の黒シャツ姿ではあるが、すでに少し汗をかいていた。

「で、そうしたらいいんだ?」

「別に特別なことはしねぇよ」

 セリフを吐くと同時に腰に納刀しているまま構える。姿勢は低く、左腰に携えた刀をジークから隠すように引き、左手親指で鍔を押し、わずかに刀身を鞘から出す。右手は柄に乗せるように置き、獲物を見つけた野獣のように鋭くも自然な穏やかさを宿した視線で優希を捉えた。優希は普段通りの戦闘スタイル。構えることなく相手の出方を伺う。

「鬼一君、手にしてるの真剣だから、本気で行っちゃ……」

「大丈夫だよ。なんかあったら西願寺の治癒魔法で何とかなんだろ」

 殺しては元も子もないのだが、その辺は優希も心配していない。皐月はそれなりに練度は上がっており、生きてさえいれば回復可能だが、おそらくそんな必要もないだろう。

 二人の鋭い視線が絡み合う。緊張感が増し、リーナは手をぐっと握りしめ、思わず唾をのむ。そして、数秒、お互いの脳内で仮戦闘を終えた後、鬼一の足、優希に向けるように置いてあった右足を数センチずらした途端、

「――!?」

 優希が気付いた時、鬼一の刀は鞘から弧を描くように抜刀、そのまま白銀の輝きを乗せて、優希の首に迫った。初期位置で二人の間は五メートルほど離れていたが、鬼一はその距離を一瞬で詰めた。そして、空を切りながら迫る刀が、優希の首に数センチまで迫る。

 ――行動命令《アクションプログラム》・自動起動《オートスタート》

 空に銀閃を反射しゃせる刀は、当然常人では弾丸のように早く見える。今の二人はコンマ何秒の世界で繰り広げられる戦闘だ。だが、驚きと関心に後れを取るも、迫りくる刀を体を逸らして回避。これは、理性ではなく本能でかわした。
 ライガとの一件で店主にした能力と同じだ。優希の情報改変の力は他者にも干渉できる。それは自分自身にも適応され、あらかじめ事象に対して取る行動パターンを仕込むことができる。
 あらかじめプログラムされたそれは、攻撃を感じ取れば理解が追い付かなくても、まるで体がその攻撃を覚えているかのように勝手に動く。反射と呼ばれるものだ。大体の攻撃は仕込んでおり、優希から初手の攻撃を当てるのは難しいだろう。

 そして、逸らした勢いを床に手をついて側転し反動を軽減。優希の超反射に鬼一は驚きで目を見開き、そのまま優希の後を追うように、またしても素早い踏込と消えるように移動、その間に出した刀はすでに鞘に収まり、先ほどと同じように優希の頸椎を分断するかのように一振り。当然それすらも腰を低くし回避するが、一撃目よりも早くなっており、二撃目は紙一重で回避する。髪が切れ、刀の勢いで生じた風の流れに乗って白髪が流れる。

 その後も、加速していく鬼一の抜刀術は体力切れと言うことを知らず、優希も後手に回ったまま、戦況は変わらない。しかし、それは優希が攻撃に回れないわけではない。ただ、鬼一の実力を把握しておきたいだけだ。刀を振る時の癖やパターン、身体能力の程度とできればスキルも見てみたい。

「どうした? スキルを使ってもいいぞ」

 攻撃をかわしながら、煽るように言う優希の言葉にまんまと乗せられた鬼一は、不敵な笑みを浮かべ、連続して移動していた足を止めた。

「なら、やってやるぜ」

 鬼一の刀は、さっきまでと違い、納刀されず刀身は優希にも見えたままだ。青い光を出しながら光る刀に、優希は目を離さないように注意しながら出方を伺う。
 そして、その青い発光が消えた時、道場の床を削り、黒い焦げ跡を刻みながら青い光の斬撃が優希に迫った。

 
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