虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたのでとりあえず復讐することにした

野良子猫

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茜色の泉 7

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 朝から清掃された床を、その青い剣閃が黒焦げた跡を刻んで迫りくる。鼓膜に強く響く床が削れる音は、宙を舞う木片、木粉で確かなものと化し、優希を青白く照らす。
 鬼一の剣速は、音速に近く、そんな彼がスキルを使えば、突然衝撃が生まれたように見える。

「見たか!」

 このスキルにかなりの自信があるのだろう。確かに、威力はなかなかだろう。当たれば優希でも大怪我だろう。しかし、対モンスター用のスキルのため、威力は相当高いが、

「いや、その……」

「え、ちょっと、冗談で、がぎゃああああ!」
 
「ライガさん!? ヒ、ヒール!」

 優希は申し訳なさそうに、横に移動。その剣閃は優希の横を通り過ぎ、後ろに足を組んで戦いを見ていたライガに迫り、焦りで組んでいた足が縺れ見事に直撃。黒煙を出しながら倒れるライガに、皐月は急いでで治癒魔法をかけた。
 鬼一の使ったスキルは、威力こそ高いが、それ以前に遅かった。早いのは鬼一の剣速のみで、生まれた衝撃波は皐月ですら軌道が見えるほどの速さだ。鬼一の居合をかわした優希にとっては止まっているのと同じほどに。

「それ、対人戦の時は意味ないぞ、ほぼ確実に避けられるからマナの無駄使い」

 人差し指を鬼一に向け、簡単にアドバイス。他にも武器にしているスキルはあるだろうが、一旦手の内を探るのは終了だ。
 
「酷いでござるよ!」

「マジですまん」

 ライガが本心ではそこまで怒ってないであろう表情で鬼一に迫った。鬼一も苦笑いで軽く謝罪。しかし、治癒魔法をかけてもらったとは言え、対モンスター用のスキルを生身で受けたというのに早すぎることに優希は少し感心している。

 その後、アイゴウが道場に入り、削られボロボロになり果てた床に仰天と共に、二時間に及ぶ説教が行われた。



 ********************



「あ~疲れた」

「お疲れ様、そんなに疲れてるんだったら膝枕でもしてやろうか? 」

 再び部屋へと戻った優希を、あれからずっといたのだろうか、メアリーが迎えた。正座でひざ元をポンポンと誘導。優希は白けた目で彼女を見たまま、一呼吸ついて畳の上に寝転んだ。

「で、どうだ? 今後の方針は決まったか?」

「そうだな。実力派なかなかだが、脅威と思えるほどじゃない」

 実際、今気にしているのはライガだ。彼の潜在能力は計り知れず、行動パターンが読めない。あまり敵にしたくないタイプだ。

「まぁ、その分馬鹿だから、敵にしない限り難易度は低いけど」

「フフフ……」

 見下すような笑みと共に呟く優希に、メアリーも笑みがこぼれた。

「鬼一の目的は五大迷宮の攻略。なら、挑戦させてやろうじゃないか」

 優希の悪い笑みの裏でどんなことを考えているのかは分からないが、メアリーは楽しみなのに変わりはなく、優希に同調するように笑いかける。
 
「この近くだと、オーシャンがそうだな」

 オーシャン――アクアリウムの近く、北東に存在する五大迷宮の一つだ。行き方は解明されてるが帰り方は不明とされている。それは他四つの迷宮すべてに適応される。伝説では海の中に存在し、最深部には、黒プレートが五十人がかりでも倒せないモンスターが存在するらしい。あくまでも易者の占いや噂話が混同してできた確証の無い話だが。
 
「つまり、一緒に行ったら俺も戻れないかもしれないのか……」

 それだけは避けたい優希は、頭の中で練られた作戦を再び考え直すかのように、体を起こして顎に手をやる。
 そして、数分間その状態を維持すると、ちらりとメアリーに目をやった。

「なんだ?」

「お前ってさ、五大迷宮のことどれくらい知ってる?」

 メアリーは元女神ということもあり、優希はもしかしたら何か情報を持ってるんじゃと考えている。
 優希の質問に、メアリーは銀髪をいじりながら、

「お前なら出られるさ」

「相変わらず、質問には最低限しか返さねぇのな。ま、それだけ聞けたら十分だ」

 メアリーがそういうのなら大丈夫だろう。
 そう思った優希は畳から背を離し、部屋を出て行った。今回はメアリーも後ろを歩いている。
 時間的にはもう夕方だ。夕日が縁側を照らし、メアリーの銀髪が若干赤みを帯びている。
 
「どこに行く気だ?」

 背後から聞こえたメアリーの声に、優希は足を止めることなく、赤い片眼をメアリーに向けるように振り向いた。

「まずはアイゴウの所だ」

「眉毛の所か?」

 それが誰を指してるか一人しか思い当たらなかった。

「そうそう。さすがに鬼一のメンバーだけでオーシャンに行くわけねぇだろ。そんなにあいつらが単純だったらこの世界に来る前にいろいろ仕返してる」

 最も、その時にそんな勇気があったかは疑問だが。
 五大迷宮ともなると、パーティで攻略するのは無理がある。三百年前に勇者一行がそれを成し遂げたという伝説があるが、それを実際に見た者はもう存在せず、すべては夢物語になり果てたわけだ。
 本来なら、有名な戦闘系ギルドを五つほど集めて挑戦するようなところなのだが。

「それをどうやって威風堂々に挑ませるかだが……」

 優希は着実に進めていた足を止めた。張り替えられたばかりの真っ白な障子を開け、数秒間を置くと中へと入った。メアリーはのぞき込むように中を見ると、そこには紫色の座布団の上で膝を組み腕を組んで、そのごく太い眉を上げているアイゴウがいた。普段のおしとやかな感じではなく、どこか険しい表情だ。

「まぁ、そけ座れ」

 アイゴウは自らの前に敷かれている座布団に誘導し、優希もその返事を待っていたかのようにスムーズな足取りで、座布団の上で正座。そして、振り向きざまに、障子から顔を出しているメアリーを見つめる。その赤い瞳から発せられる無言のメッセージを受け取ったのか、メアリーも優希の後ろにて正座する。銀色の長髪をなびかせて座る彼女の姿はとても絵になる。ただ、その姿に反応するものはこの場にはいない。

「で、何《ない》の話だ?」

 彼の怒る姿は何度か見た。しかし、いま彼が浮かべている表情は明らかに敵意をむき出しにしていた。

「鬼一の目標はご存知ですか?」

 アイゴウは瞳を閉じ、瞼の裏で記憶の再生を行っているのか、少し表情を崩した。

「ま、あしこ言《ゆ》ていればな」

「なら話が早い」

 片目を閉じ、若干の笑みを返した優希に、アイゴウは崩した表情を建て直した。
 時間は夕刻と言うこともあり、外から聞こえていた声はだいぶ減っている。カラスの鳴き声が反響するように聞こえ、鈴虫の声が心を落ちつかせる。だが、そんなしんみりするような場所でも、二人の間には緊張が走っていた。この自然的な音を楽しんでいるのは、銀髪の少女ただ一人。

「威風堂々で、オーシャンを攻略しませんか?」

 アイゴウはいい表情はしない。それもそのはず、優希が提案したのはただの自殺行為だ。
 だが、その表情は予想通り。逆に乗り気だと困ったぐらいに。

「もちろん、何も考えずに言っているわけではありません」

「何《ない》か考《かん》げでもあっとか?」

 アイゴウが食いついたことに、優希は笑顔を崩さずに人差し指を立てて、

「一つは鬼一たちが召喚組ということ。ここの道場を使えばすぐに実力は上がる」

 すかさずに優希は中指も立て、

「二つ目は、威風堂々のほかに協力してもらえそうなギルドに当てがあること」

「ほぅ、そんギルドの名は?」 

覇王の道ロード・オブ・キング

 突然上がったギルド名に、アイゴウの渋い目が見開いた。驚きを隠せない様子に、優希は三本目の薬指を立てた。

「三つ目は彼女です」

「彼女がどげんした?」

 優希は後ろにいるメアリーを親指で指す。
 疑問に満ちた表情。先ほどからころころと表情が変わるアイゴウを楽しみながら、

「彼女が持っている情報はオーシャン攻略に役に立つ」

 これにはメアリーも驚いていた。彼女が優希の味方だというのなら、秘密主義な彼女から情報を引き出す手段として、言わざるを得ない状況を作る。優希が得意げな表情をすると、メアリーはムスッとしていた。だが、そんな状況でも彼女は協力してくれるようで、

「私は、オーシャン、いや、五大迷宮について知っている」

 普通なら信じられるわけもないことだが、妙に自信に満ちた彼女の表情が言葉の信憑性を上げていた。
 最初は何かに縛られて情報の開示を制限されていたのかと思っていたが、今回で彼女はただ単に秘密にして楽しんでいたということが分かった。もちろん、言い逃れするなら出来なくもない状況だ。しかし、優希の目的を尊重する彼女は、優希の唯一の味方であると見せつけているようだった。

「何が知りたい? 帰り方か? 中の構造か?」

 さっきまで黙り込んでいたのが嘘のように交渉の場に出てくるメアリー。案外乗り気なようだ。
 そして、アイゴウは深く再考。あくまでもこれは提案だ。覇王の道ロード・オブ・キングとの交渉もしておらず、メアリーが言うことが本当だと確認できたわけではない。すべてはこれから準備するのだ。ただ、その前に彼が、威風堂々が動かなければ意味がない。
 
「なら、まずはギルドと交渉を成立させっみろ。そしたら、こちらも動こう」

 アイゴウの返事に満足したのか、優希はすぐさま立ち上がり、

「それじゃ、許可は下りたってことで」

 部屋を出る優希と、後を追うメアリー。
 アイゴウの視界から外れると、優希は交渉時には到底出せようもない不敵な悪人面の笑みを浮かべた。

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