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認めがたい現実
しおりを挟む「これは……あれだな。夢だな」
突然のことで頭が回らず、ここに来る前の経緯から、とりあえず夢ということで和也は自分に言い聞かせた。
「何をぶつぶつ言っている?」
槍を構えた衛兵が、敵意むき出しで和也をにらんでいる。この状況はまずいと思った和也は、とにかく衛兵の警戒を解くことに尽力した。
「ちょ、待って待って。俺は怪しいものじゃない。いや、いきなり出てきてこんな身なりじゃ証明しずらいんだが、俺はあれだ……難民なんだ」
――良い手……とは言えない。これは賭けだ。中の街並みから推測する時代と警備の厳しさから、この国は戦争中と踏んだ。もしそうなら、ここ以外でも戦争が行われていてもおかしくない。加えて、森の中を歩き回って服は多少ボロボロになって小汚いから信憑性は高いはず。
あとは、この国が難民を受け入れているかどうかだが……
「難民……来た方角からしてドルドとキスガスの戦争か。それは災難だったな。多少検査を受けてもらってから中に入れてやる。なに、すぐ終わるから安心しろ」
衛兵は難民と聞くと槍を戻し、同情するような表情を浮かべ、和也を案内する。
――ラッキーだ。ドルドとキスガスってのはどこの国か知らねえが、どうやらこの国は難民を受け入れているらしい
とりあえず目の前の問題を解決し、ほっとした和也は衛兵のつれられるまま検査室に向かう。
そこでボディチェックと身分調査をされ、何とか中に入れてもらえた。
和也はこれからどうするかを考えながら、街を歩き回っている。すれ違う人は皆、和也を不思議そうな目で見ている。ボロくさい見た目が注目を浴びているらしい。
しかし、和也は一切気にせず、状況の整理に集中している。
――とりあえず情報がほしい。見た感じ街並みは封建時代--中世のイギリスって感じだが、見たことのない文字、明らかに人ではない獣顔をした生物。馬もいるがそれに交じって馬車を引いている恐竜のようなものもいる。つまり――
「これは異世界ってやつなのでは?」
まさかと思っているが、それが一番納得がいった。
元の世界では、ゲームなどをやっていたこともあり、ここが夢ならこんな世界が舞台でもおかしくないと和也は思った。
「まあ、夢から覚めるまではここにいるんだから、何とか馴染まないとな。図書館でもあったらいいんだが」
夢と思いながらも、先に地盤を固めようとする和也。
どれだけ自分に言い聞かせても、ここまで鮮明な夢は見たことがなく、心のどこかでは現実ではないかという考えが浮かぶ。だが、それを認めると冷静さがかけてしまいそうになる。なので、夢と信じながら現実的な行動をすることにした。
「言葉はわかる。つまり違うのは文字だけか。この辺はすぐに解決しそうだな。
けど、文化の違いは大きい。そもそも、ここが異世界というものなら科学というものが存在しているかも定かではないしな。やっぱり図書館があるならそこに向かうのがベストか」
目的地が決まったところで和也は足を運ぶ。寝床の確保などもあるが、一文無しの和也にとって現状から寝床確保は難しいと判断し、最悪今日のところは徹夜も覚悟している。
闇雲に歩いても仕方がないので、通りにいた人に図書館の道のりを聞く。
図書館の存在と場所の確認を終えた和也はベンチにて一休みしていた。
「さっきまでの大通りと違って、ここは人が少ないな。路地裏だからか?」
先ほどまで賑やかだったために、今の静けさは不安感を搔き立てるものがあり、その不安は現実になった。
「おい、難民がこんなところで何してやがる」
「ここはオメ―みたいなやつが居ていいところじゃねぇんだよ。早く、自分の国に帰りな。おっと、もしかして帰る場所がねぇのか」
和也の前に筋肉質な赤髪の男と高身長な緑髪男が現れる。
彼らは和也を見るなり難民と判断し、赤紙の男は睨みつけ、緑髪の男はは挑発するように笑みを浮かべている。
――心配してくれてるってわけではないな。あれは完全に馬鹿にしている顔だ。難民を受け入れている以上、それを良くないと思っているやつらが居ても不思議じゃない
「あんたの言う通り、帰る場所がないんだ。言っとくけどなんか奪うつもりなら無駄だぜ。見ての通り金どころか手元にはなんも無いからな」
両手を見せ、何も持ってないことをアピールする和也。だが、彼らには無駄だった。
「そんなもんはどうでもいいんだよ。ただオメェらに俺らの税金が使われてると思うと鬱陶しくて仕方がねぇんだよ!」
赤髪の男が怒りのこもった声を上げ、こちらに向かってくる。さすがにやばいと感じた和也は逃げようとするが遅かった。赤髪の男は和也の肩をつかみ、ポケットにでも入れていたのか、小型のナイフを振り切る。
和也はナイフが頬を掠めながら、後ろに倒れこむ。そして、掠めた頬に手をやると、温かいものが流れているのを感じた。そのまま手を顔の前にやると赤く染まっているのが分かった。
「痛ぇ……マジかよ」
頬に感じる鋭い痛みと、視界に映る赤く染まった手が、和也にこれは夢ではないことを突き詰めていた。
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