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槍兵の襲撃
しおりを挟む第三騎士団にはある話が話題になっていた。
「マジかよ……っておい、来たぞ」
団員たちは話の根源である連中を見て、コソコソと何かを話している。
「なんか……目立ってないか?」
和也は周りの反応を見て呟く。
話の根源とは和也達だった。
「そりゃ~この間まで伝説の殺し屋と言われてた人を連れてたらそうなりますよ」
和也はナトリアを連れてきていた。というよりナトリアがついてきた。
もちろん、それを止めはしたし、来るときに逃げようとしたが、ナトリアには無駄だった。
なので、セシアの仲介の元、オストワルに話を通していたのである。そして、今に至る。
「あいつら、カズヤにあんな目を、向けるなんて」
「ナトリアさん? 顔が怖いですよ。頼むから威嚇しないでくれ。余計めんどくさくなる」
この数日で和也の騎士団での環境は随分と変わった。嫌がらせの中心だった二クスと和解したり、ナトリアを手なずけたりと、何かと話題に上がるようなことをしている。これが、団員にどう映っているかは和也に知る由もない。
「この調子だと、そのまま前線の騎士団に送り込まれたりして」
フランが冗談交じりに答える。
「それは当分ないだろうな。俺たちに大規模な集団戦は無理だ」
「それ、騎士団にいるには致命的じゃ……」
「大丈夫、カズヤは、私が守る」
「ありがたいけど、俺以外も守ってくれるようにならないと、前線には行けないな」
「それは難しい、カズヤ以外に、興味はない」
「凄い執着心ですね」
「ヤンデレルートに突入しなければいいけどな」
「ヤン……デレって何です?」
「いや、こっちの話」
和也たちが、そんな話をしているとオストワルが姿を現した。
「集まっているかー! ……よし!全員いるな」
オストワルは、団員の数を数え、喉の調子を整えてから指示を伝える。
「ついに前線がドルドの領地に進軍! そこで我々はルカリア陣地の防衛にあたる!」
前線とは違うが、戦闘の確立が高い任務。だが、この場にいる誰も臆していなかった。前の作戦での戦闘経験が利いているいるようだ。
「防衛作戦か……第三騎士団にもそんな任務が来るんだな」
「少しでも多く前線に人を集めたいんでしょうね」
「んじゃ、頑張りますか」
和也は気楽にしている。ナトリアが居るからだろう。
――ルカリア領土とドルド領土の境界線付近
「今頃、この先で壮絶な戦いが繰り広げられてるんですよね」
「だろうな。まぁ、そこを突破されたら俺たちがその立場になるわけだけど……」
「おーカズヤ、フラン、そこにいたのか」
和也たちの元に二クスがやってきた。二クスは普段は第三騎士団の中では別の班になっており、任務中は別行動が多い。
「……ん? ナトリアはどうしたんだ?」
「ナトリアなら……」
そう言って、和也はナトリアのいる方に指をさす。二クスはその指先の方を見ると、そこにはナトリアが団員たちに必死に押さえつけられている。
「ほんとにどうしたんだ?」
「あいつ、補給地の食料をつまもうとしたから止められてる」
「お前は止めなくていいのか?」
「そうだな。そろそろ止めるか」
和也はナトリアの元に向かい、耳元で何かを話すと、ナトリアの動きは完全に止まり、和也とともに配置に戻った。
「ほんとにカズヤさんの言うことなら聞くんですね」
「まぁな」
和也たちが戻ると、ナトリアはフランの肩に手を乗せ、
「楽しみに、してる」
フランはナトリアの言葉がよくわからなかった。
「カズヤさん、さっきナトリアさんに何を言ったんですか?」
「え? この任務が終わったら腹いっぱい食わせてやるってフランが言ってたぞって伝えた」
「なんで勝手にそんなこと言っちゃうんですか!?」
「ちなみにナトリアの食費は尋常じゃない。ガンバ!」
和也のフランに対する扱いが徐々に雑くなっていると二クスは思った。
ナトリアは和也が持ってきた非常食を食べている。あまりおいしいものとは言えないが、彼女はそれをとてもおいしそうに食べている。
「そういえば、ナトリアさんの食事はどうしてるんです?」
ナトリアは今も和也の家にいる。和也も最近慣れてきたのか、緊張せずに眠れるようになった。朝の目覚めが欠点だが。
「食費の方は国から支給されてる。俺が使うことはできないし、ナトリアの食費だけで完全に消えるからそんな余裕はないんだけど」
「カズヤさんが作ってるんですか?」
「いや、ナトリアが作ってる。ああ見えてかなりウマイ」
ナトリアはデービーとの暮らしで作ることも多かったため料理の腕はなかなかだ。最近はレパートリーを増やそうとリリの元を訪ねているぐらいだ。
「なんか羨ましいな。あんな美人の手料理を食べられるんだから」
「お? 二クスにもそんな感情あるんだな」
「俺も男だ。少しぐらい興味がある」
二クスの意外な顔が見れたところで、二クスの班が二クスを読んでおり、二クスは持ち場に戻る。
和也は二クスといきなり友好になったため、団員たちに仲間外れにされてるのではないかと心配していたが、そんなことはないようだ。これは、二クスの人柄もあるだろう。和也が団員たちに馴染もうと思うなら、二クスは重要になってくるだろう。
「さてと、なんか防衛任務って意外と暇だな」
「こんな時もあっていいんじゃないですか。 これも仕事です。気を抜かないようにしませんと」
「そうだな。……ん? あれはなんだ?」
和也が何かに気が付いた。フランも和也の見ている方向に見てやると、ひとりの男が近づいてきている。
遠くでよくわからないが、かなり大きい。二メートルはあるのではないだろうかと和也は推測する。
この二人につられるように、他の団員達も近づいてくる男の存在に気付き始めた。皆、その男をじっと見つめているが、何人かは別の行動をとっていた。オストワルや熟練騎士、ナトリアはすでに抜剣している。
「ナトリア、どうしたんだ?」
「この距離でも、わかる、あいつは、強い」
ナトリアがそういうのなら、近づいてくる男はかなり危険なのだろう。和也にはさっぱりわからないが。
和也は分析の力を使いたいが距離がかなり遠いため、まだ使うことはできない。
「何やら、不穏な空気になってきましたね」
「へへ……誰だよ暇とか言った奴は」
「緊張感が増して、数分前に言ったこと忘れちゃったんですか?」
その男は数十メートル先まで近づいたところで立ち止まった。
今の距離なら、分析の力の効果範囲だ。
和也は分析の力を発動――
「!?」
瞬間、和也の目の前にその男は現れた。右手には慎重に見合った長槍を手にしており、その先は和也の心臓に狙いを定めていた。
和也の胸部に長槍が刺さろうとするとき、その長槍は上に跳ね上がった。ナトリアが長槍を上に払ったのだ。
和也は長槍を払った衝撃により後ろに吹き飛ぶ。ナトリアは和也を庇うように前に立つ。
「イテテ……ったく、なんなんだ一体……」
和也はゆっくりと体を起こす。そこには、推測通り二メートル越えの男が立っていた。それほどガタイが良いわけではないが、無駄な筋肉はなく、いかにも武人の貫禄が出ていた。長い黒髪は後ろでまとめられ、ドルド兵の服装を身にまとっていた。
「なんでここにドルド兵がいるんだよ……前線の騎士団はどうしたんだ」
「前線の騎士団? あーめんどくさいんで他の奴らに任せてきたぜ」
金色の長槍を肩に乗せ、自信に満ちた笑みでそう答えた。
「で、わざわざ一人で乗り込んできたと? それはまたご苦労なこった」
和也も笑いながら挑発しているが、額には冷や汗をかいている。
対してその男は、周りは敵しかいないが、かなり落ち着いている。むしろ、この状況を楽しんでいるように見える。
「強い奴と戦えるってのは良いもんだ。だが、邪魔が入るのは好きじゃねぇ。前線は人が多すぎて思いっきり楽しめねぇからなー」
そして、その男は周りを見渡しだした。
「楽しめるのは二人……ぐらいか。いいねぇー気兼ねなくやれそうだ」
「その二人に俺は入ってねぇよな」
「当たり前だ。どこにお前が入る要素があるんだ?」
和也は膝に手を乗せ、立ち上がり、土汚れを払う。
「真っ先に狙われたんでな」
「お前を最初に狙ったのは気持ち悪かったからだ」
「まさかの外見!?」
「違ぇーよ。俺にはわかるんだよ。こいつがどれだけ強いかってな。そこの女と向こうのおっさんはかなり出来る。弱い奴は弱い奴でそういうオーラが出てる。だが、お前にはそれがない。何をするか分からない存在が一番恐ぇーんだよ」
相手の強さが分かる――これを長年の戦闘経験によるものか神通力によるものか気になるが、この状況で確かめる余裕はない。
「カズヤは、殺らせない!」
ナトリアは百月と赤陽を手に、その男に切りかかる。その男は俊敏な動きでナトリアの攻撃をかわした。
ホルスゲインとの戦いで、ナトリアはこの二刀を使いこなしている。前よりも動きは早くなっている。
それでも、笑いながらかわすあたり、実力はホルスゲイン同様、またはそれ以上ということになる。
「おー恐ぇ恐ぇ」
いまなら、ナトリアに注目してるため、分析の力を使えるのでは? と考えたが、ホルスゲインとの戦いで、かなりの実力者を相手にするときは近すぎると感ずかれることは学習している。無駄な行動はナトリアの邪魔になるため、ここは見守ることに徹底することにした。
その男はマグスと名乗り、長槍を構える。視線はナトリアに向けているが、オストワルへの警戒心は欠かさない。そして、ナトリアも本格的に戦闘態勢に入り、二人の間には誰も寄せ付けない緊迫感があった。そして、二人が一瞬にして消えた。ナトリアは、さっきまでマグスのいた場所に移動しており、マグスは後ろに吹き飛んでいる。だが、地に膝をつけることはなく、しっかりと立っている。何が起きたのか、和也には全く見えなかったが、二人の体勢や状態から、ナトリアが切りつけ、マグスはそれを受け止めた結果、今の状況なのだろう。
「そんな体でどこにそんなパワーがあるんだ? 嬢ちゃんの攻撃、結構痺れたぜぇ」
「あなたも、あれを受け止める、なんて」
お互い様子見が終わったのか、二人は再び構えた。そして、先ほどよりも激しい攻防が始まった――
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