野良錬金術師ネモの異世界転生放浪録(旧題:野良錬金術師は頭のネジを投げ捨てた!)

悠十

文字の大きさ
13 / 57
野良錬金術師

第十二話 第七王子2

しおりを挟む
 それからネモは焚火の中の焼きリンゴを枝でつつき、転がしながら言う。

「まあ、取りあえず食事を持っているなら心配ないわね。食事をしながらこれからのことを話しましょう」
「これからのこと?」

 不思議そうに首を傾げるアルスに、ネモは呆れる。

「いや、貴方のことよ? 貴方が護衛して来た商人のご夫婦がそれはもう心配して、村では大騒ぎになってたわ。捜索隊を組まれてると思うわよ」
「えっ、あ、そうか。そうだよな……」

 善良な夫婦に心配をかけてしまったとアルスは悄然と肩を落とす。

「今はもう夜だからここで一晩明かすとして、明日には村に帰った方が良いわ。村への道……、というか、方角は分かる?」
「ああ、それなら大丈夫だ」

 現在位置は道から大きく逸れた森の中だ。いざとなればネモが村へ案内しようと思っていたが、それはしなくても良いようだ。
 それなら安心ね、と頷き、ネモはマジックバックを探る。
 あっくんが焼きリンゴはまだか、と熱心にリンゴを見つめるその横に、ドン、とマジックバックから取り出した鍋を下ろした。

「あっくん、シチューはどれくらい食べる?」
「きゅっきゅい!」

 ネモの問いに、手を大きく広げ、いっぱい、とジェスチャーで伝えてくるあっくに頷き、大きなシチュー皿をマジックバックから取り出す。
 そんな遣り取りを見て、「えっ、その小動物がそんなに食べるのか」とアルスは目を丸くしていた。
 時間停止のマジックバックに入れていたため、出来立てのアツアツ状態のシチューを皿によそうと、辺りにクリームシチューの良い匂いが漂う。
 それと同時に、グー、と大きな音が聞こえた。
 ネモとあっくんは目を見合わせ、パチパチと瞬く。
ハラペコと言えばあっくんだが、流石に彼の腹の虫はあんなに大きく鳴かない。――と、いうことは?
 一人と一匹は焚火の向こうのアルスへ視線を向ける。
 アルスは腹を押さえ、顔を赤くしながら気まずそうに視線を明後日の方向へ飛ばしていた。



   ***



「まさか森の中で温かいシチューが食べられるなんてなぁ」

 幸せそうにアルスがそう呟き、シチューを口に運ぶ。
 アルスは時間停止のマジックバックを持ってはいたが、その食料はサンドイッチ系ばかりで、温かい食べ物は無かった。どうやら、熱々の出来立てを仕舞うという発想は無かったようだ。
 そんなことから、アルスが持つサンドイッチとネモのシチューをトレードした。お陰で双方サンドイッチとシチューというメニューの野営としては豪華な夕食となった。

「このサンドイッチも美味しいわよ。さすが宮廷料理人ね」

 ただのBLTとハムサンドの筈なのだが、やたらと美味しい。ネモの隣ではさっさと食べ終わったあっくんが、アチアチと言わんばかりにデザートの焼きリンゴをつつきながら、冷めるのを待っている。
 そうやって食事をしながら、アルスが不意に尋ねる。

「そういえば、ネモは村から来たということは、このまま森を抜けてワイス王国へ行くんだよな?」
「ええ、そうよ」

 頷くネモに、アルスが難しそうな顔で言う。

「それはちょっと止めておいた方が良いな」
「え、どうして?」

 もしや噂のアースドラゴンが出たのかと問えば、そうじゃないと否定される。

「ほら、俺は罪の気配を感じられると言っただろう?」
「そういえば、そうね」

 アルスは鋭い目つきで視線を暗闇の向こうへ飛ばす。

「詳しい距離は分からないが、ワイス王国へ向かう方角から濃い罪の気配を感じるんだ」

 距離がある筈なのに首筋がチリチリする、と言う彼に、ネモは目を見開く。

「これは、かなりまずい。危険だから別ルートで大きく迂回してくれ」

 そもそも、薬草を採りに森へ入ったアルスが何故こんな所に居るかと言うと、その気配が気になったからだと言う。巡回商人夫妻への配慮が頭から吹っ飛ぶくらいのよろしくない気配に、アルスは少しでも状況を確認したかったそうだ。
 ネモはその言葉を聞き、神妙な顔をして頷いた。
 アルスはネモが素直に了承したことにほっとした顔をして、話題を変える。せっかくの美味しい料理が味気なくなりそうだったからだ。

「そういえば、ネモは旅をしているんだよな? ネモのアイテムは強力みたいだが、一人と一匹じゃ危険じゃないか?」

 若い女の子と小動物では甘く見られるだろう、と言われ、ネモは軽やかに笑う。

「大丈夫よ。まあ、確かに私たちみたいのじゃ絡まれやすいし盗賊にはカモに見えるみたいだけど、全部撃退してきたわ」

 実際にネモはつい最近盗賊達を突き出して、褒賞を貰っている。
 少し得意げなネモに、アルスはあることを思い出した。

「ああ、もしかして、君……」

 大きく破顔して言う。

「あの噂の『山姥ネモ』か!」

 瞬時に般若顔になったネモの手から、アルスの顔面めがけてスプーンが飛んだ。



   ***



 翌朝、少し赤くなった額をさすりながらアルスが言う。

「いやぁ、流石の力強さだな」

 痛くは無いが赤みが引かないと笑うアルスに、ネモは気まずげに視線を泳がせた。
 夜が明けて辺りが明るくなり、朝食を終えて一行は村へ向かうことにした。
 
「村に戻ってからはどうするの? やっぱり、他の騎士達を呼びに町へ戻るの?」
「ああ、そのつもりだ」

 アルスは町に戻り、一団を率いて調査をするつもりらしい。なにせ神の加護がガンガン警鐘を鳴らす気配だ。一人でどうにかするのは無謀だろう。

「ネモはどの迂回ルートを使うんだ?」
「そうねぇ、北へ向かってぐるっと大回りして行こうかしら。そっちからならワイス王国のトーワの町を通るし。あそこはあまり有名じゃないけど、良いチーズを作るのよ」
「きゅきゅっ」

 どこまでも食欲まみれの旅である。
 今にも涎をたらさんばかりのあっくんの様子を見て、そんなにか、とアルスが興味を持つ。

「そこから南下して、サイラの村で美味しいウイスキーを買って、コウェンの町のカフェで焼きプリンを食べて……」

 次々に挙げられる隣国のグルメ情報に、アルスは隣の国のことなのにナニソレ知らない、とそわそわする。この件が終わったらせめてウイスキーは買いたい。できればチーズも。
 そうして、腹が鳴りそうな話題は、一行が村に着くまで途切れることは無かった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...