野良錬金術師ネモの異世界転生放浪録(旧題:野良錬金術師は頭のネジを投げ捨てた!)

悠十

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野良錬金術師

第十三話 二次被害

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 村に着いたのは、日が沈み始めた頃だった。
 時間的に人々は仕事を終え、家路につく頃だからなのか、人はまばらで静かだった。しかし、分かりやすく騎士服に身を包むアルスを見て、外に出ていた村人が数人寄って来て、青年が一人「ベンさんを呼んで来る!」と言って走って行った。
 村人達は口々に無事で良かった、怪我はないか、とアルスを心配し、彼の無事を喜んだ。お陰様でアルスの良心はタコ殴り状態である。

「貴方の単独行動は貴方の周りではよくあることで済ませられることかもしれないけど、普通はこうやって心配されるものなの。だいたい、騎士団でだって慣れているとはいえ心配していないわけじゃないと思うわ。反省しなさいよ」
「はい……」

 アルスは胸を押さえて神妙な顔で頷いた。
 実際、騎士の上役っぽい人が冒険者ギルドでギルドマスターと意味深な会話をしていた。あれはアルスのことだろう。確実に探されている。
 それでいいのか王族よ、と思いつつ、ある人物が視界の端に映り、アルスの腕をつついて知らせる。
 ネモの視線の先には、こちらに走って来る巡回商人のベンと、その奥方が居た。

「騎士様!」
「ああ、ご主人。申し訳ない、心配をかけてしまったようで……」

 頭を下げるアルスに、ベンは「そんな、頭をお上げ下さい!」と慌てる。
 走ってきたせいで上がった息を整えながら、奥方が涙の滲む瞳で「騎士様はご無事で良かった」と言う。
 ネモはその言葉に引っかかりを覚えた。

「騎士様は?」

 その言い方では、無事では無かったものが居るように聞こえる。
 妙な胸騒ぎを覚え、何かあったのかと尋ねれば、村人達は一様に暗い顔をし、言った。

「実は……、リリィさんが帰ってこないんです……」

 それにネモは目を剥き、アルスは真剣な顔つきになる。
 リリィの行方が分からなくなったのは、昨日のことだと言う。まず、アルスを捜そうと森に詳しい者を中心として森に入り、それには下級神官であり、精霊使いでもあるリリィも加わったそうだ。
 そして、結局アルスの行方はつかめず、あらかじめ決めていた刻限に広場へ戻って来たのだが、その中にリリィの姿はなかった。

「リリィちゃんは精霊使いで、弓の腕も達者だ。この村じゃぁ、一番の腕利きと言っていい。そんなリリィちゃんが戻ってこないとなると、森の中になにか居るとしか考えられん」

 それに最近では大きな町や村では神官などの聖職者が行方不明になっているというのだから、もしかしてそれではないかと話し合っていたそうだ。

「一応、この近くの町には鳩を飛ばして報せを出したんだが、リリィちゃん一人の為にこんな小さな村に誰か寄越してくれるとも思えん……」

 二次被害を恐れ、彼等は森へ入れなかったらしい。何せ村一番の腕利きが消えたのだ。それもまた仕方のないことだろう。
 暗い顔をする村人達を前に、アルスが何かを決意したかのような顔をして言う。

「俺が行こう」
「えっ」
「騎士様……!」
「ちょっ、待て待て待てーい!」

 村人たちの顔が明るくなるが、ネモは慌ててそれを止める。
 アルスの腕をひっつかんでその場から離れ、声を落として言う。

「貴方は王子様でしょうが! せめて町に戻って、騎士団を率いて行きなさいよ!」
「いや、それだと手遅れになるかもしれない。なに、鳩を貸してもらって、それで報せるさ。大丈夫、俺は先行して調べるだけだ」

 無茶はしない、と言うが、それを信用できるわけがない。こいつは放っておけば絶対に死地へ飛び込むとネモは半ば確信していた。
 そもそも、神の加護を持つ者とはそういう人間が多い。そして、誰かのために無茶をして死ぬのだ。

「加護持ちって、本当に厄介よね……」

 溜息と共に零れた言葉に、アルスは首を傾げる。その言葉は、まるで他の加護持ちの人間を知っているかのようだった。
 ネモは改めてアルスと目を合わせて言う。

「OK、分かったわ。それじゃあ、貴方は依頼をしなさい。今、ここで」
「依頼?」

 ネモは懐から冒険者カードを取り出し、言う。

「冒険者ネモフィラ・ペンタスに、貴方の護衛依頼を出しなさい。緊急事態による冒険者ギルドを通さない依頼になるから、文書を作って契約するわよ。依頼達成後は私がギルドに行って処理するから、請求が行ったら冒険者ギルドに依頼料を払ってちょうだい」

 そうまくし立てるネモに、アルスは目を白黒とさせる。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。君を巻き込むつもりは――」
「お黙り!」

 慌ててネモと止めようとするアルスに、ビシッと人差し指を突き付ける。

「貴方は王子様なのよ? 村の人達は知らないけど、王族を一人で死地に送り込んだとなれば、印象は最悪。悪くすれば何らかの責任を問われるかもしれないでしょうが!」

 それは絶対にないとは言えず、アルスは返答に詰まる。

「貴方はこの村の関係者に勧められて冒険者を雇うの。一人では危ないと心配されてね」
「村の関係者?」

 冒険者のネモを雇えと言ったのは、彼女自身だ。どういうことだ、と首を傾げるアルスに、ネモはハン、と鼻で笑う。

「村の教会に一晩泊まったことのある関係者よ」
「それは関係者と言わないのでは……?」
「嘘は言ってないわよ? 前半部分を言わなかっただけで」

 「それって屁理屈では?」と首をひねるアルスに、ネモは「いいから私が言ったとおりに書いて鳩を飛ばせ」とどついた。
 アルスはだんだん容赦がなくなってきたネモにタジタジになりながら、言われるままに護衛依頼の契約を交わし、彼女の指示通りの文を作成して鳩につけて飛ばした。
 そしてアルスは直ぐにでも捜索に繰り出そうとしたが、日は既に沈みかけている。ネモはアルスの首根っこをひっつかみ、泊めてくれると言う商人夫妻の家へ向かった。
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